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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第二章:一攫千金な職業
23/346

23 職業:冒険者⑰

 「じゃ、行ってくる。お前らも町で好きなものを買ったらどうだ?毒竜の売却額が丸々余ることになるだろうし、余裕はあるぞ?」

 翌朝、一足先に朝食を食べ終えた俺は、アリシアから受け取った金を入れた小いさめの袋をポケットに突っ込み、満腹亭の出入り口に手を掛けながらそう言った。

 前にアリシアに連れ立った時、俺はへとへとに疲れきってしまったが、ネルとならきっと楽しめるだろう。女性どうし、“二人”で。

 俺は二度とあの苦行をしたくない。

 「はい、お気をつけて。」

 「心配しなくたってアリシアの事は任せて良いよ。じゃ、行ってらっしゃーい。」

 「うぅ、ネルさん、私は子供じゃありませんよ?」

 「もちろん、アリシアはもう立派な大人だもんねー。」

 「はい!」

 ネルのテキトーな受け答えに、まるで元気な子供のように嬉しがるアリシア。

 「はは、じゃあな。」

 思わず笑ってしまいながらも、俺は手を掛けていたドアを開けた。


 街を出、周りに他の冒険者も誰もいない所まで歩き、一度周りを確認して、俺は足の下に随時足場を作りながら天空へ駆け上がる。

 そして下から目撃されないような位置まで上昇し、広めの板をつくって俺はそこに胡座をかいて座った。

 満腹亭から借りた水筒を取り出し、口許を湿らせる。

 さてと、報告しますか。



 両親への報告は昼までに終わってしまった。長いからと色々要約したり省略したりしていたら、予想以上に早く終わってしまったのだ。

 そう、こんなに早く終わったのはきっと要約し過ぎたからだ。俺の2年間が薄っぺらい訳じゃない……と信じたい。

 それでも気にかかっていたことを1つできて、スッキリした気持ちで満腹亭に戻ってみれば、客の姿は一つもなく、アルバートは厨房で料理の下準備にはいっていて、ローズは机や椅子の掃除に精を出していた。

 「なぁローズ、アリシア達は?」

 「あの二人ならコテツさんが出てってからすぐに出掛けたけど、まだ帰ってきてないよ。」

 「そうか。あ、そういや今日は珍しくしっかりと仕事をしてるな?」

 「珍しくは余計だもん!私は影でいつも仕事しているんですぅ。」

 唇をとんがらせてローズが言う。しかしそれは嘘だと俺は自信を持って言い切れる。

 「今日、仕事を真面目にやれば自由時間をやると俺が言った結果だ。」

 すふとと、アルバートが厨房から出てきて種明かしをし、俺の予想を裏付けた。

 「今日何かあるのか?」

 聞いた瞬間、ローズがパッと目を輝かせた。

 「オークションがあるんだよ!あれは見てるだけでもドキドキするの!凄いお金がバーッて舞ってね!ピカピカキラキラした人達もいてすっごく面白いよ!」

 あー、そういやオークションがあるとか言われてたな。

 「そういえば俺も出品してるものがあるんだった。一人じゃ危ないだろうし、一緒に見に行くか?」

 「悪いな、わざわざ。」

 「一人でも行けるよ!」

 聞くとアルバートが答え、それにローズが反発する。

 「ローズ、あまり我が儘を言うな。」

 「いや、いいさ。じゃあ代わりにゲイルに護衛を頼もう。俺は一人で行くよ。」

 「ホントに!?あ……えっと、うん。」

 やっぱりゲイルに恋心を抱いているらしい。

 くく、微笑ましい。

 「ゲイル?」

 「ああ、ローズの想いび…むごっ。」

 「あーーー!オークションが始まる!早くゲイルさんのところに行こうよ!ね!」

 俺の口を塞ぎ、ローズは大声で言うなり俺の腕をぐいぐい引いて出口に引っ張っていった。

 「コテツ、礼代わりの弁当だ。」

 と、そう言ってアルバートは弁当箱を2つ投げて寄越してきた。俺が居なければ自分が行くつもりだったのだろう。

 引っ張られながらもそれらをしっかりキャッチして、礼でも言おうとアルバートを見ると、

 「(知ってた。)」

 声を出さず、口だけを動かして彼はそう教えてくれた。

 ったく、いい性格してる。

 苦笑いした俺は、そのままローズにゲイルの店へと引っ張られて行った。


 「おう、いいぞ。」

 「やったー!」

 事情を話すとゲイルは即、快諾してくれた。

 ローズも嬉しそうだ。

 「じゃあ、二人で行ってこい。ほれ、満腹亭からの弁当だ。二人で分けろよ。足りないなら一緒に買えばいい。」

 そう言ってローズに弁当を1つ渡す。お互いにあーんでもし合っとけ。

 「お前はどうするんだ、コテツ?」

 「ちょいと急用を思い出してな、別行動だ。」

 どうだローズ、気が利くだろう。

 「じゃあゲイルさん、行こっか。」

 言うなり、ローズはゲイルと連れ立ってオークション会場へ向けて歩いていく。

 さて、急用急用っと。

 足下に板を作って座り、上昇させる。隠密スキルを発動させれば体の回りを一瞬蒼白い粒子が包んだ。

 これで集中して見られでもしない限り、誰の目にも止まらなくなる。

 では尾行いきますか。

 俺の急用とはズバリ、ローズの恋路の観戦である。

 弁当を開ければサンドイッチ。実に都合がいい。

 ランチショーを見ている気分で俺は色とりどりの具が入ったそれらを食べ始めた。

 たくさんの人が行き来する大通りをローズはゲイルの少し後ろに付いて歩いている。

 顔が赤い。

 さっきからゲイルのぶらぶらと動く手をじっと見つめているのが上から見ていて分かる。

 と、彼女は歩きを少し速め、あたかも偶然当たったように装いつつ、手をゲイルのそれに当てた。

 ゲイルが首を少し回して、ローズを見る。

 途端、ローズはすごい勢いで頭を何回も下げ始めた。

 急なことにゲイルは驚いたものの、両手で何とか彼女を宥め、再び前を向いて歩き出す。

 ローズ、ナイスガッツ!

 内心で叫び、次のサンドイッチへ手を伸ばす。

 しかし、ローズはまだまだ諦めていなかった。

 またしばらくの間、ゲイルとも何気ない世間話をぎこちない笑顔でこなしつつ、悶々とした表情で歩いていたローズは、もう一度えい、とばかりにゲイルの手を今度は掴んだ。

 ゲイルが驚いたようにローズを見る。が、顔を赤くしたローズが手を離さないまま固まっているのを見ると、すぐににっこりと笑いかけて彼女の手を握り返した。

 ホッと息をつき、ローズが胸を撫で下ろした。

 うんうん、良かったなぁ。

 ほっこりした気持ちで次のサンドイッチを取り出し、くわえて、視線を初々しい二人に戻す。

 手を繋いだまま、ときたま笑い合いながら、彼らは仲良く歩いている。

 と、そんな彼らを見て殺気をバンバン放っている奴等がいることに気が付いた。

 きっとローズのファンか何かだろう。まぁそれだけなら微笑ましかったものの、何人かがそれぞれ路地裏に回って剣を抜いたのが見、俺はそうも言ってられなくなった。

 挟み撃ちで逃げ場をなくす算段だろうか。ローズ達に気付かれない距離で二人を男達が囲む。

 即座に弓を作り、いつでも放てる体勢で構える。弓の練習をしていて良かった。

 そして、四方八方から敵が駆け出した。接敵まで約20秒、かな?

 敵の数は6人。こちらで4人倒し、あとの二人をゲイルの見せ場に使うとしよう。Bランクだし、それぐらいはできるだろう。

 先端を粘着質の黒い塊にした矢を作成。弓につがえて連続して放つ。

 「チッ。」

 やはり動く物体と的は違う、当たるものよりギリギリで軌道が逸れてしまう物が多い。

 苦肉の策で、魔力で無理矢理外れた矢の軌道を調整、襲撃者達の目付近に当て、目隠しとした。

 矢の柄は即座に消してしまい、射られた彼らは公衆の面前でアイマスクを付けて地に転がる、どこからどう見ても完全な不審者と化す。

 「ふぅ。」

 息をつき、弓を下ろす。

 ……魔力なしでこういう狙撃ができるようになれば随分と楽になるだろうなぁ。

 矢が命中し、倒れた4人は急に視界が暗転したことに動揺してか、全員が全員上手く立ち上がる事ができず、例外無く倒れたままだ。

 周りの通行人は変人でも見るような目をして、彼らから距離をとって歩いて行く。

 残り2人はそんなことが起こっていることに全く気付かず、ゲイルの前に現れた。

 恐喝する2人。しかし、話し続けるにつれて他の仲間が加勢に来ないことに気付き、目がキョロキョロし始める。

 ゲイルが一歩前に出て、2人の胸ぐらを掴み、何事か一喝するなり後ろへ投げ飛ばした。

 そのあとローズのもとに戻り、二人でまた手を繋いで歩き出す。

 ローズはこれを期にゲイルの腕を両腕で抱え込むようにして抱きつき、頭を預けた。

 端から見れば完璧なカップルである。

 しかしさっきまでのローズからは考えられないその大胆な行動に、俺は驚いてい食べかけのサンドイッチを落としてしまった。

 ヤバイ。

 こちらに気付いた奴がいたら即座に昏倒させられるよう、弓を構えて素早く下を見る。

 そこにはアルバートがいた。

 やはり娘が男と一緒にいることが不安だったらしい。

 彼は頭に綺麗に着地した食べかけのサンドイッチを手に取り、眺め、こちらを見上げ、そして俺に気付くと苦笑いを浮かべつつ、身振り手振りで自分も乗せるよう伝えてきた。

 俺は苦笑いを返しながら素直に一番近くの路地裏に入った。



 「お前は娘が他の男と一緒にいて平気なのか?」

 後ろにアルバートを乗せ、一緒にローズを見守りながら聞くと、彼は腕組みしながら頷いた。

 「ゲイルはよく知っている。あいつにならローズを安心して任せられる。」

 ……尾行してるくせによく言うわ。

 「にしてもお前が元冒険者だったとはな。結構意外だ。」

 アルバートは冒険者時代につちかった隠密スキルで俺と同じようにローズを見守っていたらしい。

 「こういうことはそう珍しいことじゃあない。冒険者の相手は冒険者の方がしやすいしな。それよりもお前が未確認生物の正体だったとは。それこそ驚きだ。」

 「全く、勘が良すぎだろ。」

 一言もそんなことを言っていないのにアルバートは即座に当ててきやがった。

 元冒険者の勘というやつだと思う。

 「しかし、敵が多いな。」

 「ああ、これで15は行ったんじゃないか?」

 そう言ってまた矢を放つ。ローズ達が手を繋ぎ初めてからというもの、ひっきりなしに変な輩が二人を襲おうとしている。

 おかげでそこら中に黒いアイマスクをして倒れている奴等がわんさかおり、ついでに俺の弓の熟練度もかなり上がってきたと思う。

 アルバートを乗せる直前に矢筒を作り、魔法の道具だと言っておいたので黒魔法だとはバレてはいないはずだ。まあ、この板のことを当てたことからほぼバレてはいるんだろうが。

 「お前は弓も剣も使えるのか。」

 「剣がメインだけどな。」

 「ほぉ、サブの弓でここまでの技量を出すとはな。」

 誉められっぱなしで居心地が悪い。

 「……魔法のことは言うまでもない、か。」

 アルバートが呟くのが聞こえる。

 やっぱりバレているようだ。

 ローズ達には早くオークション会場に到着してほしい。

 その願いが通じたのか、やっと会場が見えてきた。色は大理石を使ってあるのか、きれいな白。ギルドと同じくらいかそれ以上に大きく、装飾も多い。貴族を迎えることもあるからだろう。

 「オークション会場にここまで近いと暴漢はすぐ取り押さえられるだろうな。あそこで降りよう。」

 「そうだな。」

 アルバートの言葉に従い、共に人気の無い場所で地面に降り立つ。

 「ここからは別行動でいいか?」

 「ああ。」

 「じゃ、またな。」

 彼に別れを告げ、俺はさっさとオークションハウスへ向かった。


 「おぉ……。」

 そこは、はっきり言って別世界だった。

 建物の中に1歩足を踏み入れた瞬間、思わず感嘆の息が漏れたほどだ。

 高い天井と広い床を繋ぐ石造りの柱や壁にはガラスケースを嵌め込む形で展示された宝石類や彫刻、左右の壁沿いのカーブを描いて2階へと向かう階段とその先の壁には様々な絵画と、何処へ目を移しても鮮やかな光景が目に飛び込んでくる。美術館か高級宝石店かと一瞬見まごうものの、それぞれの品に添えられた説明書と共に書かれた法外な値段がここの本来の用途を教えてくれる。

 さらに上の階へと向かえばまた別のきらびやかな競売品の数々が並べられているのか、ここに来た客の半分程は入り口の宝石類を見た後、絵画のある2階へと流れている。

 しかし1階のさらに奥へと進めばまたガラリと展示の様相は変わり、珍しいまたは強力な魔物の素材、そして磨き上げられた武具の数々が姿を見せる。

 そして、言ってみれば冒険者用の博物館のようなその通路を抜けた先にこそ、オークションハウスの最も熱気のある場所はあった。

 「次の品はこれだ!冒険者パーティー青の翼より、魔剣ジーン!」

 ステージの上で扇情的な衣装を着た女性が大声を張り上げる。言わずもがな、彼女が今回のオークションの司会である。

 そのオークションが執り行われているのは、劇場のように、大きなステージの手前から奥へと上り坂になっている広い空間。

 そこを敷き詰めるように並べられた椅子に座っているのはオークションの参加者達で、俺のような見物人は壁から生えるように作られたブースの中に座って金の暴力を観賞中だ。

 俺のもう一つの見物対象たるローズとゲイルの姿はブースの一番前。ローズはオークションそっちのけでゲイルに体を預けて座っていて、ゲイルも満更ではなさそうだ。

 今後の進展がとても楽しみだ。

 しかし、魔剣ねぇ。どんなものなんだろうか。

 鑑定!



 name:魔剣ジーン

 info:量産型の魔剣。各魔色の玉を簡単に集め、飛ばし、纏う事が出来る、力の足りない子供でも戦力になれるように作られた補助兵器。



 魔剣は魔剣でも、あまり凶悪な性能じゃないな。作成理由はかなり酷いけれども。

 性能が低めなのは量産品だからかね?師匠のは凄かった、というかただただ悪質で厄介だったな。

 魔剣ジーンは量産型なだけあってあまり希少性がないのか、金額の伸びが芳しくない。

 最終的に500シルバーで売れていった。

 うっすらとした拍手のあと、布をかけられた巨大な物体が台に乗せられてくる。

 「さぁ次が大本命!こちらを狙っていた方は実に多い事でしょう。Cランクパーティーより昨日入荷されました、毒竜ヴァイパー!」

 会場がどよめく。

 よく聞くと、本当か?とかCに出来るわけがない。とか言っている。

 失敬な。

 「ええ、信じられないでしょう、私も半信半疑でした。たしかにこちらを出品したのはCランクパーティーではありますが、しかし!そんなことはどうでも良い!これは紛れもなく本物の毒竜なのですから!どうぞッ!」

 掛け声と共に司会者が腕を振り、大きな布が一気に取り払われる。現れたのは、もちろん、俺が殴り殺した毒竜。

 どうやら損傷部分は直したらしく、そいつは生きていたときのままの姿で台に堂々と横たわっていた。

 ワァッ!と会場が沸く。

 次々に上がる手。

 「500!600!850!900!950!」

 司会の女性が大変そうだ。900を越えた辺りから特に豪華に着飾った数人の参加者の戦いになっている。ちなみに単位は当然ゴールド。

 いいぞいいぞ、もっとやれ。

 「1000!1100!さあ、1100、1100ゴールドです。他にいませんか!おっと1200、1200です!」

 段々勢いが収まってきた。

 ……1200ゴールドかぁ。初っ端から毒竜を倒しに行けば良かったかね?

 「ふはははは!甘いわぁ!1500!」

 と、初老の爺さん叫んだ。

 「カイダル卿に負けてたまるものか!1800!」

 対して言ったのも、髭を綺麗に整えた老人。

 「ふ、サイゼル卿、儂の勝ちじゃな!2000!」

 そんな貴族2人が喧嘩をし始めたのだ。

 もっとやれ。その分こっちに金が入るから。

 他の参加者や見物人も見ていて面白いので、わあわあ騒いでいる。

 「くっ、2050!いや、2500!」

 「苦しそうじゃぞサイゼル!3000!」

 「まだまだ、3010。」

 「ふぁっはっはっ!5000!」

 「ぐはっ。」

 暴力はなにもされていないのにサイゼル卿は椅子に倒れ込む。なんか、カードゲームのアニメみたいだ。

 と、ここで全く別のところから

 「8000。」

 という声があがる。

 シン、と静まる会場。

 「……お前は、ハ、ハイドンの、御曹子。」

 カイダル卿は絶句している。

 「聞こえなかったか司会者。8000ゴールドだ。そしてカイダル、私はハイドン卿だ。もう御曹司ではない。代替わりだよ。祝いに竜を飾るというのも良いとは思わんか?」

 低い声がよく響く。声の主は18か19歳ぐらいの青年だ。代替わりとか言っていたし、ここの文化は勇者が広めたらしいから18もしくは20なのだろう。艶のある金髪に碧眼。目鼻立ちはくっきりとしていて、とても凛々しい印象を与える。

 ……俺の知ってる20歳じゃない。

 「失礼しました!は、8000!8000です!いらっしゃいますか!」

 「させませぬぞハイドン卿、9000!」

 カイダル卿がどうだ!というような得意気な顔をハイドン卿に向ける。

 「はっはっは、では20000!さあどうだ!」

 そして飛び出たあまりの金額に、場が騒然となった。

 「お、お静かにお願いします!に、20000、20000です!他に入札される方は、い、いらっしゃいますか!?」

 さすがの司会者も動揺している。かくいう俺もだ。身を乗り出し過ぎてブースから落ちかけた。

 誰も動かない。

 静寂が場を覆い、司会者は目の前の台の木槌を打ち付ける。

 「そ、それでは、に、20000ゴールドで毒竜ヴァイパーの剥製はハイドン様の物となりました!」

 ワァッ!と歓声が上がる。

 「では、次へ参りましょう!」

 その余韻が収まるのを待ち、司会者はそう言って、次の商品へ進んでいった。

 20000か、オークションやギルドが合わせて100分の1を手数料でとるから俺達に転がり込むのは19800、てところか。

 うっひっひ、ボロ儲けじゃあ。

 それからオークションは淡々と進んでいき、何事もなく(?)オークションは終わった。



 帰り道、再びアルバートと合流し、ローズの観戦を行った。

 もう2人は完全に恋人のような形で歩いていて、お互いに色々と話している。きっとオークションのことだろう。にしても、お互いの顔が近いこと近いこと。

 流石にここまで見せ付けられると誰も邪魔しようとしない。まぁ険悪な目で見ているやつはいるけれども。

 「そういえばゲイルとローズって何歳なんだ?」

 「ローズは15でゲイルは、たしか20かそこらだな。」

 ゲイルが20だとぉぉ!?マジかよ。タメかわ若くても一年ぐらいしか変わらないと思ってた。

 「ちなみにアルバート、お前は?」

 「35だ。」

 ……やっぱりこの世界じゃ25はもうおっさんって呼ばれる年なのかもしれない。

 おっと急展開。場所はゲイルの家の真ん前。

 ローズが石ころを踏んで滑り、背中から転けた。

 慌てて背を支えるゲイル。2人が向かい合う姿勢になる。

 ローズはゲイルの顔を見つめ、顔を赤らめながら何事か呟く。ありがとうだと思ったが、そうじゃない。なにせ途端にゲイルの顔も赤くなったのだから。

 ローズが目を閉じる。ゲイルが少しずつ顔をローズに近づけていく。

 この世界の人はかなり手が早いな。手を出したことのない俺としては判断の仕様がないが。

 まぁ何にせよ、来た!来たぁ!

 だがしかし、あと少しのところで俺は何者かに横から突き飛ばされ、地面に落ちた。

 その何者かというのはアルバート。俺を押し退けた彼は、続いて板から地面に飛び下りた。

 「いきなり何しやがる!」

 語気を荒らげるも、もちろん小声だ。今は見えないあの二人を邪魔するつもりは毛頭ない。

 「帰るぞ。」

 「なに言ってんだ。こっから……」

 「帰るんだ。」

 良いところだろう、と言いかけたところを遮られる。

 見るとアルバートは手を握り込んでいた。

 「……そう、だな。」

 「ありがとう。」

 言いながら、アルバートはそっと自身の目元を押さえる。

 「泣いているのか?」

 「高いところから飛び降りて足が痛いんだ。」

 「そうか。」

 察しの良い俺はそういうことにしておいた。

 二人して肩を組み、満腹亭へとぼとぼと戻っていく。

 お前らぁ、幸せになぁぁ!

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