2 職業:無職②
え、なに?勇者ってそんな軽いのか?辞めるって思うだけで辞められるとかどういうことだ?
おい、爺さん答えろ。
『いや、儂もはじめてで驚いておる。まあ、普通は勇者を辞めたいとは思わんからの。設定ミスかもしれん。いやはやしかし召喚早々無職になってしかも魔色が黒と無色とはひどいもんじゃのう。ぷぷ』
っとカイト君が話しかけてきた。
変な顔になっていたのだろうか。
「どうかしたんですか、おじさん?」
おじさんじゃない。30行ったら認めてやる。
「あーいや、なんでもない。」
「ごほん。では、そろそろ能力と魔色を教えてくれないだろうか。」
そうだった。
短髪高校生が両手を上げながら
「はいはーい。じゃあまず私、アイから。えっとねー」
と、元気な声で言いながら前に出た。
短髪高校生はアイって名前か。
「能力はハイジャンプと、魔力操作。魔色は白と黄色と緑だね。じゃ、次はユイね。」
え、3つ?
と、長髪のユイが出てきた。
「もう、勝手に順番なんかつけて。私の能力はオーバーパワーと魔力視よ。そして魔色は白と赤と茶色ね。」
あれ?3つがデフォルト?そ、そんな。いや、まだあと一人いる。うん、大丈夫。
「じゃあ次は僕だね。能力は限界突破と召喚魔術で、魔色は白と赤と青と黄色です。」
四つかぁ。分かってたさ気休めだって。ああもう、自分の能力を言いたくない。
「さっすがカイト。魔色が四つもあるなんて。」
「魔色がそれに能力の限界突破も何か、凄そうじゃない。」
「ありがとう。でもアイもユイも十分すごいと思うよ。僕は魔力に関するスキルがないしね」
ちょっと待てよ?おい、爺さん。もし俺がなんの文句も言わずにそのまま来てたらとんでもないことになったんじゃないか?
『ソ、ソンナコトナイワイ。』
なんだよ完全鑑定って。他のやつらはオーバーなんちゃらとか召喚魔術ってよぉ。
『いやー手こずらされたからのう。少し意地悪してしまったんじゃわい。しかし与えた物はかなり有用なスキルに変わりないんじゃぞ?完全鑑定などは特におすすめじゃ。使ってみてはどうじゃ?念じるだけで良いぞ。』
そうなのか?
とりあえずカイトの方を見る。
鑑定!
name:カイト
job:勇者 職業補正:聖武具使用可
info:おとめ座銀河団、局部銀河郡、天の川銀河のオリオン腕に位置する太陽系の内の惑星の一つである地球の北半球、ユーラシア大陸の東部に存在する島国、日本の(以下どこかの住所)で生まれ、同じ地球の(以下どこかの住所)で育ったサル目ヒト科ヒト属の父と、おとめ座銀河団局部銀河郡、天の川銀河のオリオン腕に位置する太陽系の内の惑星の一つである地球の北半球、ユーラシア大陸の東部に存在する島国、日本の(以下どこかの住所)で生まれ、同じ地球の(以下どこかの住所)で育ったサル目ヒト科ヒト属の母を持つ、おとめ座銀河団、局部銀河郡、天の川銀河のオリオン腕に位置する太陽系の内の惑星の一つである地球の北半球、ユーラシア大陸の東部に存在する島国、日本の(以下どこかの住所)で生まれた、サル目ヒト科ヒト属の雄。育った場所は同じ地球の(以下どこかの住所)で3年4ヶ月と2日3時間23分11秒、次に同じ地球の(以下どこかの住所)で……(ずっと続く。)
俺は説明を読むのをやめた。そうだよな、人間って矮小な生き物だよな。うんうん。
使えねー!この上なく使えねーよ!
ていうか長いわ!
『生き物というのはたくさんの要因で成り立っておるものじゃ。流石は完全鑑定。』
どうして満足してるんだ!明らかに欠陥品だろうが!
『なんじゃと!?お主は長いと言うたがの、元々は人の起源から表示されていた物を調整し、一等親からに直したんじゃぞ!?感謝せい!』
できるかぁッ!
「あ、あのーおじさん、まだですか?……怒ってます?」
おじさんじゃねー。しかし口には出さない。絶対バカにされるだろうし。
「いや、ああ、すまん。ちょっと気になることがあってな、俺はどうやら勇者じゃないんだ。魔色も黒と無色の二つだし。」
これでスキルは誤魔化せるかな?さすがに成長率50倍がバレたらやばいだろ。
おっと、今まで三人の自己紹介をうんうん頷くだけだった周りが急に騒がしくなったぞ?
「そ、それは誠か!誰か鑑定のオーブを!」
王まで慌ててる。ん?そのオーブとやらを使われたらスキル隠した意味無くならないか?
っと、なんか持ってきた。黒い石?光沢があって黒曜石みたいだ。
『鑑定を使え。』
今度は大丈夫なんだろうな?
まぁいい。鑑定!
name:鑑定のオーブ
info:対象者一人の名前、職業、magic colorを使用者に伝える。
物とかは大丈夫なんだな。
構成された原子とか表示されたらたまったもんじゃない。
しっかしあの石、使いやすそうだな。何と比べてかは言わない。
ったく、魔色を教えてくれる分、オーブの方が優秀じゃないか?何ていうスキルと比べてかは言わないが!
はぁ……とにかくスキルは見られないらしい、良かった。
王がオーブを持ち、掲げ、そこから光が俺に照射される。
照らされること数秒、ついに光が収まると、見えたのは使用者である王の焦った顔だった。
「そんな、バカな。しかし……ああ、仕方がない!」
王は途方に暮れたような顔を浮かべたものの一瞬で消し、決意したような顔で言った。
「申し訳ない。どうやらこちらの不手際であなたをこちらに喚んでしまったようだ。しかし、貴族でなく勇者でさえない者にあまり長い間王城にいられるわけにはいかんのだ。だから何か1つ願いを聞こう。何なりと言ってくれ。本当にこのようなことになってすまない。」
また急だな。でもまぁ、俺も目の前で見殺しにしてしまった人達と一緒にずっといるのは居心地が悪い。
都合が良いと考えるべきか。
「では、貴方の口利きで、俺を優れた剣士の弟子にしてもらえるよう、取り計らってください。」
俺の成長率50倍を活かすにはこれが一番だと判断した。
戦争があるなら戦い方を習って損はあるまい。もちろんすすんで参加したい訳ではないけれども。
「分かった、私の知る最も強い剣士に師事できるよう、取り計らおう。それまではここに滞在してくれても構わない。」
にしても、これじゃあ、厄介払いみたいで気分が悪い。何か見返す、というかアッと言わせることはできないかね?
「それまでは魔法の使い方を学ばせてくれないか?」
魔法なんて凄そうな物、教えたくないだろう?
すると、王は笑みを浮かべた。それも嘲笑するような笑みだ。
なんだ?何を間違えたんだ?分からん。
「いいだろう。願いはしかと聞き届けた。加えて支度金として150シルバー渡そう。」
なんだ?よく見たら王の隣の王女も、周りで見ている連中も小さく笑ってやがる。
「……ありがとうございます。」
事情を知らない俺はそう言うしかなかった。
なんなんだ?
「では、皆様こちらに。」
王女はそう言うとカイトの手を取って歩いていった。
残されたアイとユイはそれに走って追い付き、カイトの肩にそれぞれ手を掛け、そのまま歩く。
その一連の動きにそれまでのイライラは吹き飛び、俺はニヤけるのを必死に堪えながら彼らに付いていった。
「では、アイ様、ユイ様はこちらの部屋を、そして……「コテツだ。」コテツ様はあちらの部屋をお使いください。カイト様は私とともに来て下さい。」
そう言えば名乗っていなかった。にしても王女様攻めるねえ。アイとユイの顔が引きつってるぞ。
俺はいよいよニヤニヤを我慢しきれなくなり、いそいそと宛がわれた部屋にはいった。
ホテルのスイートってこういう感じなのだろうかと思いながら部屋を一頻り見回した後、天蓋付きのベッドに背中から沈んで俺は体から力を抜いた。
さて爺さん、俺が魔法を習うって言ったときに王が笑ったのは何でだ?
『ふぉっふぉっふぉっ、お主の魔色が黒と無色だからじゃよ。』
……どういうことだ?
『そうじゃの、まず、ぷぷ、この世界には、ヒャッヒャッ、目に見えない、魔素と呼ばれる物質があるのじゃ。ぶふぉぉっほっほっ……
要約するとこういうことだ。
この世界において魔素という物は空中にたくさん存在し、計八種類ある。魔色というのは一個人の扱える魔素の種類、魔色適性のことで、魔力というのは扱える魔素の量に関係する。
そこで魔素だが、これは全ての魔色が空気中に等濃度にあるわけではない。存在する濃度の高い順に並べると、
無 白 赤=青=黄 緑=茶 黒 の順となる。また、それぞれに特性がある。
まず、無色の魔素はなにも起こさず、安定。
白は傷や病気などの回復を行える。これにより、白の魔素には聖なる力が宿っていると言われるらしい。
赤は炎 、青は水や氷、黄は雷、緑は風、茶は土、をそれぞれ集めると発生、かつそれを操作できるようになる。自然物として存在するそれらも該当する魔素による誘導で操作する事ができるんだとか。
最後に黒は、集めるとイメージ通りの物質を作成できる。また、武器防具に通すことでその強度を高められるそう。
つまり、この世界において魔法使いというのは特定の魔色の魔素を集めて何らかの形をなし、相手に飛ばすなり叩きつけるなりして攻撃する輩の事であるとのこと。
さて、ここで俺が王や他のお貴族様方に笑われた訳を説明しよう。
俺の使える魔色は無色と黒だ。
まず無色だが、これを使った魔法には全く攻撃力がない。しかし濃度が高いので魔素を集める工程は他のどの色よりも速く終えられる。これを利用し、相手が魔素を集めきる前にぶつけることで、相手の集まりかけの魔素を吹き飛ばし、魔法を不発にする技術もあるらしい。だがしかし、それは上級の魔法使いが敵の不意を突くために使う小手先の技術のようなもので、完全な無色のみの魔法使いというのは存在しない。ていうか、いたとしても何の役にも立たない。
次に黒だが、これは空気中の濃度があまりにも低すぎるのである。他の魔素から見て濃度が低めの緑や茶と比べても圧倒的に。よって何かを速く形作るのにはとてつもなく強い魔力が必要となる。そもそも必要量を集めるのでさえ、かなりの魔力が必要になるらしい。
だから黒魔法使いには理論上なれないのだ。というより、そうなろうと思うような奴すらいない。
それというのも武器の形に固めて戦うよりも武器を買って黒の魔素で強化した方が楽だからである。
ちなみに俺の超魔力を持ってしてもサバイバルナイフぐらいしか作れないからお笑い物だ。
ここまで言えば何故王が笑っていたか分かるだろう。俺はバカにされたのだ。
無駄な努力だが、頑張れよ、と。
なぜわざわざ説明を要約したかって?爺さんが一言話すたびに笑い始めるからだッ!
なあ、爺さん。
『なんじゃ?』
俺、お前に文句言ってて良かったと心の底から思うわ。完全鑑定は使いにくいし、超魔力は俺の無色の適性ではそこまで大した役にはたたない。
ひどいもんだ。
『そうじゃの。わしもまさかお主の魔色が黒と無だとは思わなかったわい。』
なんかアドバイスはないのか?
『ふむ、まあ取りあえず剣士の修行までは超魔力による魔素操作のスピードと精度を上げる練習をしたらどうじゃろうか?そうすれば、片手間で相手の魔法使いを弱体化できるじゃろ。』
ま、そうだな。
俺はそのまま無色魔素の扱いを練習しようと意気込んだ。が、魔素の扱いの感覚自体を知らなかったことに気づき、寝た。