雷龍クエスト➂
「この数、一体どこから……リーダー、何か心当たりは?」
「知らん。後でバハムートにでも聞くさ。……ほらユイ、そろそろ起きろ。」
久し振りに健康的な時間に寝て過ごすという予定は、古龍達がどこかに潜んでいた者達を暴いた事で、敢え無く潰えた。
そして今、外を何十人もの人が外を走り回っており、俺達は今さっきまで寝床にしていた家の窓枠の下や横に隠れている。
一人、未だに就寝中の奴もいるが。
ユイの肩を抱えてやり、一応外から見られないようにしてはいるが、正直早く起きて欲しい。
揺すってみるも……
「うふふ、モフモフ、フワフワ……。」
……この調子である。はぁ……駄目だこりゃ。
と、声が聞こえてきた。
「北より通達、敵影、ありません!」
「北東より通達、敵影、ありません!」
「北北東より通達、敵影、ありません!」
「東北東より通達、敵影、ありません!」
くぐもった、反響しているような声のする方を窓の端から覗き見る。
すぐそこ、俺達の潜んでいる家の目の前の通りにその声の主達はいた。
体を鎧兜で包み込んだ彼らは、青い宝石の嵌まった杖を片手に携えた、これまた重装備の人に報告を行っているところだった。
……くぅーっ、近いなぁ。これじゃあこの家から迂闊に逃げ出すこともできん。
「なんだと?他の区域の方はどうなっている?」
「はっ、覚醒したのは我々のみのようであります!」
「どういう事だ……。」
それはこっちが聞きたい。覚醒って事は、こいつらずっと寝てたのか?
「将軍!怪しい二人組が。」
「なに?」
さっきまで兵士の報告を受けていた重装兵、将軍が振り返り、俺もそちらに目を移し、頭を抱えたくなった。
「リーダー……あれ……」
「いや、まぁそうなるよな。おそらく敵さんを覚醒させた張本人だしな。……はぁ。」
額に掌を押し付け、ため息をついて再び外の様子を見る。
「凄い……バハムート様方が潜んでいた敵を見つけてくれたのですね。」
悠々と将軍の元へ歩いてくる二人に対する感嘆の声が背後からした。
……ルナ、そこは感激するところじゃないぞ。
「ハッハッハ!なんだなんだ?こんなにいたのか!おい、こいつらがお前の言ってた奴らで良いんだよな!?」
「おう、間違いねぇ。どこにいるかと思えば、だ。ハハッ!探す手間が省けたってヤツだな!」
お互いの背を叩き合い、いつも通りご機嫌な様子で笑い合う古龍二柱。
自分達の周りを囲んでいる兵士達に槍の穂先を向けられている事に気付いていないんだろうか?
……ん?探す手間が省けた?勝手に潜伏場所を暴いた訳じゃないのか?
「ふん、なかなか豪胆だな。それとも単なる命知らずか?」
いや、気にしてないだけだろうな。あの杖で血を流させる事ができるかどうかも怪しいし。
「お前達、その出で立ち、従軍者ではないな。ここを我ら海人の領地と知っての……「おい!早く出てこい!敵はここにいるぞ!」「ハハ!そうだな、これぐらい一捻りだろ!?」……敵だと!?いや、まだいるのか!?」
本当に敵が目の前にいる事を気にしてないな!?あいつら……手伝いはできない癖に、いらん難題を吹っ掛けてくるなよな……。
「なぁフェリル……」
「……はぁ、なんだい?」
半ば放心した表情のフェリルと顔を見合わせる。
「指輪、使っていいか?」
「うん、駄目。」
即答かい……。
「じゃあユイを任せる。」
「喜んで。」
「私が預かるわ。」
言いながら、俺の腕からユイを奪い取るシーラ。
「探せ!ここの近くにいるはずだ!」
外が騒がしくなってきた。
「ふぅぅ、よし。」
窓は、人一人が屈んで入れるような、通りに面している二つ、そして両隣の家屋を向いた方向に一つずつの計4つ。そして入り口の扉は目の前の通りに面している一つのみ。
天井、床そして壁には補修の跡も、補修の必要そうな箇所もなし。気になるのは木製だって事ぐらい。
他の部屋がどうなってるかは知らないが……
「十分、だな。」
一通り眺め、頷く。
「俺とルナは外に出る。フェリル、シーラは窓から援護。ユイが起きたら、たぶんジッとしてるのは嫌だとか言うから、俺の側に来るように言ってくれ。……良いな?」
方針を決め、全員を見回す。
ユイ以外が頷いたの確認し、黒魔法で他の部屋に繋がる扉の前に壁を張り、両隣の見える窓を塞ぐ。
扉の左横に付き、よし、やるぞ、と号令を掛ける前に、誰かがこの家の前に来た。
「いるなら出てこい!」
「投降するなら危害は加えない!」
兜を被っているためにくぐもった声で言い、家の中に踏み込んでくる兵士。
数は二人。真横で屈んでいるとは思っていないのだろう。こちらにはまだ気付いていない。
黒銀を発動、飛び掛かる。
「そこにいたか!」
一人が気付いた。が、もう遅い。
黒く染まった右手でそいつの兜を握りながら部屋から飛び出し、その後ろにいた兵士の首を左手で鷲掴み。
そのまま三人揃って、家の外に倒れ込んだ。
「ルナ!」
右手に握った兜を無理矢理その頭から取り去るなり脇に捨て、そう叫びながら右手に作り上げた黒龍を、左手で掴んだままの兵士の兜と鎧の隙間に射し込む。
「ハァッ!」
兜を脱がされた方は、ルナの刀に顔を貫かれた。
立ち上がり、背後の扉をちゃんと閉める。戸締まりは大事。
「さてと……まずは二人。」
まだたったの二人である。先は長いなぁ……。
「はぁ……。」
「うふふ、落ち込む必要はないわ。まだまだたくさんいるもの。フレア!」
それを喜べないんだよ、こっちは。
ルナの牽制の魔法に敵が怯む間に背後の扉を閉める。
いやしかし、凄い視線の数だ。気恥ずかしくなってくるまである。
「か……掛かれぇっ!」
「「「「ウォぉぉぉ!」」」」
将軍が杖を掲げて号令を掛け、あちこちを探していた、同じ鎧兜を着込んだ兵士達が雄叫びを上げて襲い掛かってきた。
「飛び出すんじゃないぞ、ルナ。」
「ええ、いつだってご主人様の側に。」
「ったく、ここじゃあコテツだ。」
少し照れ隠し気味に言いながら、振り下ろされる剣を左手で掴み取り、その手首を黒龍の柄で強打。剣を叩き落とす。
モフれる状況ではないのが悔やまれる。
怯んだ相手を、その後ろから来る敵に向けて蹴飛ばし、俺は黒龍の切っ先を目の高さに上げて構え直した。
やっぱり鎧を着られると面倒だ。狙いがそのつなぎ目とか関節部に限られてくる。それに加えて数も相当な物だから実にイヤになってくる。
「っと、まぁ頑張るしかないかね。」
俺とルナへ向けて飛んでくる色とりどりの魔法の雨を、無色の魔法で掻き消しながら自分に言い聞かせる。
「シネェ!」
次の奴は両手剣。
蒼白い光を帯びて振り下ろされるそれを、黒龍一本、腕力と魔力のみを用いて弾き、左足を踏み込んで腹部を強打。砕けはせずとも、その衝撃は鎧の中まで伝えきった。
「オゴッ!?」
くの字に折り曲がったそいつの顔を右膝で蹴り上げ、
「ヴォゥッ!?」
上を向いたために少し覗いたその喉に、黒龍を刺そうとしたがものの、背中に回る敵を視野に捉え、敢え無く中断。左足軸に反時計回りをしながら俺の背中へ突き出された槍を左手で逸らす。
そのまま体の回転に巻き込むように槍を引っ張り、槍の持ち主を目の前まで無理矢理引き寄せ、見つけたそいつの兜の継ぎ目に黒龍を刺す。そして即座ににその剣から手を放して背後にいる両手剣の兵士の兜を右肘で打ち据える。
「グヴッ!?」
そいつはフクロウのように首をぐるりと半回転させ、その場にパタリと崩れ落ちた。
「「「ヴァァァ!」」」
今度はくぐもった雄叫びが三つ。
手札を一枚見せようか。
フェリル達の潜む後ろの家に背中がつきそうになるくらいまで後退して両手に双龍を作成、背後の家を蹴って一気に加速し、両手の武器より蒼白い尾を引きながら、武器を上から振り下ろそうとする三人の、真ん中の奴に突っ込む。
右肩から体当たりでその鎧を押し退け、左から振り下ろされる斧と右からの長剣に両龍を合わせながら重心を左の踵に戻しつつ、上半身を左に捻る事でそれらの力を受け流す。
長剣使いが俺の右、斧使いが左側につんのめり、肌色のうなじをチラリと見せる。
それを見逃す理由も余裕も少なくとも俺にはない。
屈みながら体の前で腕を交差させ、俺はそれぞれの命を黒い刃で貫いた。
「「「「ヴォォォッ!」」」」
さらに三人、加えてさっきタックルした奴の計四人が、それぞれの武器を振りかぶる。
……もう一枚切るか?
「切り払え!」
屈んだまま、魔力で体を上手く操って四人の囲いから抜け出そうと、両龍を動かしだす直前、自身の武器を硬い物に弾かれたように敵が仰け反った。
「燃えつきろ!」
そして直後、猛る炎に包まれた。
「ルナ!?」
炎の出どころを見ると、ルナがこちらに手を向けたまま、片手で重装兵一人をあしらっていた。
「あ、えっと、出過ぎた真似だった……?」
「いや、助かった、ありがとな。」
言うと、ルナは笑みを浮かべた。
そして光の矢で片足を凍結させられた目の前の兵士の兜に左手で触れ、その中身を炎で満たす。
向こうは随分と余裕らしい。これが魔法の有無って奴かね……俺も使いたかった。
「ふん、一々感謝の言葉なんて言ってられなくなるわよ。」
背後からユイが歩いてきた。
携える刀はバハムートの神器、草薙の剣。敵の4つの武器全てを、斬撃一つ飛ばして弾いたらしい。
……屈んだままでいて良かった。
「やっと起きたか。いい夢見れたか?」
「ええ、お陰様で。」
だろうな、あんなに幸せそうな寝顔は早々見ないぞ。
「その神器、具合はどうだ?使えそうか?」
「ええ、もちろん。文句はないわ、」
「つまり問題は持ち主の技量、と。」
「……見てなさい。」
挑発に対してムッとした表情で一言だけ呟き、ユイは刀を中段に構えた。
「敵はたったの5人だ、隠れているとしてもそれほど多くはない!何をもたついている!囲め囲め!」
敵将が指示し、敵兵がテキパキと動き出す。
ユイが少し心配そうにこちらを見るが、なに、気にかける必要はない。俺達を完全に囲う事なぞできやしない。
「何のために家で俺達自身の逃げ道をなくしたと思ってるんだ?ほら、集中しろ。」
背中を叩き、前を向かせる。
半円のように囲まれてはいるが、いざとなればハンマーで家屋を壊して逃げれば良い。後は体力が持つかどうか……。
囲みの後ろを見て、分かっていた事ながら、人数差を強く思い知った。
だが、まだ耐えられる。ルナにアレを頼む必要はまだ、ない……よな?
「ヴゥァァ!」
と、一人がユイの方へ突出した。
相対したユイが向かってくる敵の剣に刀を合わせ、身を引いて見切った後、摺り足で足りない距離を素早く縮め、敵の手を斬り付ける。
小手か……そこなら刃が通るか。そうだよな、柔軟性があるくせにある程度までなら防刃、それに魔法殺しの俺の手袋が異常なんだよなぁ。
……って考えたてる場合じゃない!ユイは敵にとどめが刺せなかった!
少々焦って地を蹴り、武器を取り落とした相手の兜を左手でもぎ取る、ないし首を外界に晒しにいく。
が、その前に光の矢が、視界の確保のために開けられている兜の細い隙間に深々と突き立ち、兜の首元から赤い液体が流れ出る。
「……そんなに必死にならなくて大丈夫よ。とどめはフェリルさんに頼んであるわ。」
目の前で死んだ兵士を気分悪そうに見ながらユイが言う。
にしてもフェリルの奴、俺が戦ってるときは援護の一つもしてなかったよな?てっきりルナの方を助けてると思ってたんだが……あの野郎!
「……そう、か、なら助言を一つだけ。やらなかったら、お前の方がっ!死んで、た!……よっ!」
突出した奴に続くように襲ってきた敵の武器を叩き落とし、陰龍の柄で上を向かせ、顕になった喉元を黒龍で薙ぐ。それを素早く二回ばかり繰り返した。
ったく、隙を見せたとでも思ったのかね?
「……説得力が皆無ね。」
「そうか?」
ユイの不服そうな言葉に首をひねりつつ、俺は両龍を構え直した。
陽が登ったのか、街の城壁を超えた光線が次第に降りてくるのが見える。
あれからも敵の数は減りを見せず、むしろこの通りは稀に見る賑わいを見せていた。
枯れ木も山の賑わいというが、この場合、死体もカウントされるのかね?
思いながら、枯れ木を三本量産する。
「ふぅぅ。」
「あら、もう疲れたのかしら?あなたがへばって休んでも私は構わないのだけれど。」
憎まれ口を叩くユイに苦笑しながら朝日の光線が段々と降りてくるのを見、そこでふとこの街に来る直前、ドワーフに言われたことを思い出した。
……不味いな。
「流石、誰よりも睡眠を取っただけの事はある。ならここは任せるぞ。……フェリル!ユイの心を射止められるかもしれんぞ、頑張れ!」
「あなた何をっ!?」
フェリルを鼓舞し、黒銀を発動、身体を補助する鎧の骨組みも忘れずに。
そして俺は反転の囲いに突っ込んだ。
「「「「「ヴォォォ!?」」」」」
いきなりで驚いたのか、敵の初動が遅れている。まぁやる事に大した違いはないが。
槍が俺に届く前に跳び上がり、目の前の重装兵の頭に手を掛け、自身の体を半回転させることでその首を捻りながらその上に逆立ち。まだあまりある上方向への勢いに逆らわず、むしろそいつの頭を両手で押す事で跳躍距離を更に伸ばす。
空中で目的の奴を見つけ、ワイヤーを用い、そいつの胸元に跳び膝蹴りする要領で着地した。
「ヴアァッ!?」
そのまま、そいつは俺の下敷きとなる。
「おっと動くなよ将軍さん……ん?将軍ちゃん、かな?」
上に乗った俺を退かそうと体を捩る、他の重装兵に将軍と呼ばれていた大杖持ち、その動きを制し、兜の面を上にずらして黒龍を突き付けた後、顔付きが明らかに若い女性のそれであることに気付いた。
「黙れ!」
「はいはい、俺にも時間がないしな。……死にたくなければ兵士を止めろ。」
「ふん、殺してみろ。お前らがこの数に圧殺されるだけだ。どうせそちらも余裕がないのだろう?取引ならば応じよう。」
ま、そう思うよな。
「ルナ!やってくれ!俺は良いから、くれぐれもユイを巻き込むなよ!」
「はい!」
指示を叫ぶ。
「お!やっぱりやるのか!ハッハッハ!良いぞぉ、やれやれ!ぶちかませ!」
そういえば姿が見えなかったな、と野次のした方向に目を向ければ、バハムートとカンナカムイが屋根の上でくつろいでいた。それぞれ、どこから持ってきたのか、煎餅みたいな物をバリバリやっている。
……まぁあいつらは他に何もすることがないしなぁ。全く持って納得いかないが。
「何を!?」
「ん?まぁ見とけ。」
ルナの方へ向け、安全のため、3層の障壁を張る。
そして炎が辺り一面を呑み込んだ。
外界に晒している肌を熱気が襲い、体は熱いのにさらに服を着込みたくなってくる。
「……ギャァァ……」
ゴウゴウと燃え盛る中、微かに聞こえてくる叫び声。
……着込むとは言ってもあの鉄鎧はお断りだなぁ。
的外れな事を思いつつ、意識は障壁と下の将軍様にちゃんと向けられている。
将軍が割りと大人しく、落ち着き払っているのには驚いたし、今現在も驚いている。
「助け、て……」
と、炎の中から兵士が這い出て来た。鎧を脱げる所だけでも脱いだのか、顔と肘から先には生々しく爛れた生身の肌が見える。
苦悶の表情を隠しもせず、いや、隠せず、癒着してしまっているであろう鎧と体の激痛を耐え、しかしそれでも何とかしてこの安全地帯に辿り着いたらしい。その根性と運には敬服するが、胴体を覆う赤熱した鎧のまま近寄ってくるのはいただけない。ったく、こっちが火傷してしまうだろうが。
「はぁ……ま、ここまで来たんだ。楽にはしてやるさ。」
俺は鬼ではないのでそこまで言いはしないが。
「あ、ああ……それで良い……助けて、くれ。」
「お、おい、やめろ。」
将軍は案外そう落ち着き払ってはいなかったらしい。むしろ呆然としていたという方が的確なのかもしれん。
「ちょいと剣を拝借……じゃあな。」
将軍の腰に刺さった剣を抜き、瀕死の兵士が最後の力を使って俺に晒した、その焼け爛れた首筋を剣。
将軍の物だけあっていい剣だ。この兵士も痛みはあまり……いや、もう炎に巻かれてそれどころじゃなかったか。
「この……うぐ!」
「動くんじゃない。あとで話があるんだ、俺も殺したくはない。」
将軍が大杖を握り直して振るよりも早く、黒龍の切っ先を軽く当てることでジワリと血を滲ませることで牽制。……ヴリトラ教徒じゃないだけでこんなに楽なのか。
火の勢いが衰え、黒い障壁を押す力が収まる。
背後に建っていた家々は煤だけ残して消え去り、まだチラチラと火の残っている土の通りには高熱の釜と化した鎧の群が転がっている。
……威力が数段上がってないか?ま、良い事なのかもしれんが。
すぐ側に敵のいない事を見て取り、俺は障壁を消し、下に敷いてた将軍の手から、その右手の大杖を奪って降りる。
「立て。」
「くっ、殺せ。」
「後で、な!」
まだ残っていた反抗する意思を削るべく、死なない程度に顔を蹴る。
「ブッ!?」
直接先導させるつもりだったが、時間が惜しい。再びマウントポジションを取ってその首を締め上げる。
「立たないんならそれで良い……答えろ!他の区域と言ってたな?そいつらはどこに隠れている!?」
敵の作戦はおそらく俺達が騙されたように、外で出撃を待ちわびている軍隊を騙し、こいつらみたいな伏兵で壊滅させるという物。
そしてあのドワーフは、外の軍隊がここを昼に攻めると言っていた。
ここにいた奴等は俺達が粗方片付けたが、まだ他の部隊が残っているのは盗み聞いた会話で明らか。
要はまぁ、急がないとヤバい。
「無駄だ、私は話さん!うぅっ!?」
「死ねば楽になるとでも思ってるのか?救われるとでも?ヴリトラ教徒じゃあるまいし、さぁ話せ!」
強情な将軍の手を黒龍で刺し、地に縫い付けて催促する。
何ならそれぞれの区域にいる兵達を叩き起こし、外の軍隊と真っ向勝負をさせるだけでも良いのだ。
とにかく、街中に入った軍に、寝て起きたら敵に囲まれてるなんて洒落にならない状況に陥られるのは避けたい。
「この程度で…………っ何を!?」
話にならん。
俺は右手で顔を掴み、いつかのように握り込んでいく。
「顔を剥ぎとられるってのはなかなか無い経験だぞ?」
「ハッ!人間風情にそんなこと!」
いつまでそう言ってられるかね?
しかし、吐くなら早くそうして欲しい。
別に所属した事もない軍隊に愛着がある訳ではない。別に軍隊の方に負けてしまわれても俺は構わない。
だがしかし、数を倒すには数しかない。現代兵器があったとしても、一部隊で国を相手取るのは馬鹿げてる。……細菌兵器とかそこら辺があれば話は別かね?
一面を焼き払える奥の手を持つルナだが、それだけの威力を保ったままドラゴンロアの連発はできない。隙も多い。
だから外の軍隊には是非とも、敵の数を減らして貰わないと困るのである。
「く……ぅ……。」
と、敵将が顔を歪めた。
「話せ。」
質問を重ねながら、俺はもう一度両足で立つ。
「誰、が……ァァァアア!」
右の腕力のみで、顔の左右、合わせて5点にのみ力を加えて姿勢を上げさせると、ついに将軍は悲鳴を上げた。
「なんだ、人間にはこんな事ができないと高を括ってたのか?」
「放し……「まだ余裕あるみたいだなぁ?」アアアアアアア!」
叫びながら俺の右腕を両手で握り、涙と涎を顔から搾り出される女将軍は、その足を激しくバタつかせる。
……もう一捻りってところかね?
全身鎧ごと高く持ち上げている指がさらに食い込み、肉に埋まった指先から、既に滲み出ていた温かい血がついにドクドクと溢れ、流れ出る。
腕から俺の手の指へと自身の両手を動かし、何とか抜け出そうと頑張るが、その力も次第に弱まっていき、最後にはブラリと左右に腕を垂れる。
ようやく観念したかと思いきや、
「嫌……ア……アア…………ァ……。」
女将軍はまだ微かな抵抗を見せてきていた。
「まだ答えないのかッ!?」
詰問した直後、誰かが俺の腕に触れ、心を荒ぶらせていた俺は思わずそちらを睨む。
「ッ…………お、お願い、も、もう十分でしょう?それに、あなたの声はもう、その人には聞こえていないわ。」
何かを怖がるように言ったのはユイだった。
改めて見てみれば、目の前の女は白目を剥いて気を失い、うわ言を呟いているだけ。
チッ、やり過ぎたか。
右手から力を抜く。
女はユイに受け止められ、フェリル達のいる建物へ抱えられていった。