表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第五章:賃金の出るはずの無い職業
163/346

海龍クエスト③

 神官の居場所を絞り込み切ったらしいリヴァイアサンが足早に進むその後を、ゲーゲー水を吐いている、具合の明らかに悪い二人の首根っこを掴んだまま追う。

 「おいそこの二人、ここは立入禁止だ。そのまま引き返せ!」

 向かう先にいた男が俺達を見つけるなり睨みつけ、犬を追い払うような仕草をした。ドスの効いた声に似合うがっしりした体躯、短い背丈と長い髭、そういえばあまり見ることのなかったドワーフだ。

 リヴァイアサンの感覚が正しく導いてくれていた事の証明かね?

 「そなたが彼らの雇い主で?」

 人なんぞに臆する訳がなく、リヴァイアサンが質問する。

 「ぁあ!?」

 「私は彼らの具合が悪そうだから連れてきただけでしてよ?」

 リヴァイアサンが俺の方を指し示し、俺はまだ苦しそうな男女を連れたまま前に進み出る。

 「彼ら?……ああ、テメェらか。……分かった、いきなり怒鳴って悪かったな。そいつらは俺が引き受ける。ほら、要は済んだろ?さっさと出てってくれ。」

 俺の手元の二人を見、ドワーフは口調を少しだが和らげてそう言った。

 「どうぞ。」

 二人を前に出し、その背中をドワーフへと押しやる。

 「確かに受け取った。ほら、出てけ出……ガッ……何、を……?」

 二人の肩に手を置き、顎をしゃくって俺達に引き返すよう言った瞬間、そうしながら目を瞑った隙を逃さず、距離を詰めた俺は黒龍でその胴体を貫いた。

 ドワーフは俺を自身から押し退けようと、両手を俺の脇腹に掛けるが、それには力が足りず、少し震るに留まり、その体から力が完全に抜けていく。

 黒龍を消し、ドワーフを海に掛かる桟橋の下に投げて隠す。

 「あら、まだ敵かも分からぬ内に、手の早いこと。」

 「お前の神官が囚われてる場所に人を来させないようにしてるんだ。敵と見てほぼ間違いないだろ?それにどちらにせよ、こいつらの本当の容態に気付かれるのは不味い。」

 ドワーフの死体が漂っているだろう場所から目を離せないまま、まだその場に水を吐いている二人の首根っこを掴み直す。

 「お前らは信心の浅い俺とは違って、ヴリトラの一部になるだけなんだろ?」

 「「っ!」」

 言うと、二人は同時にこちらを振り向き、睨んできた。

 「違うのか?」

 「……どうして。うぷ、教えは、神聖なものの、は、ずぅぇぇぇ……」

 「お前、ヴリトラ様をう、裏切ったな!あうぇ……。」

 息も絶え絶えに言い、二人はまた体内の青の魔素を吐き出しに掛かる。本当、青の魔色適性がなかったおかげで制御がしやすい。

 さて、これでこいつらがヴリトラ教徒だと言うのは確定だ。あと、どうやらフレメアの社で拷問したあの人間は随分と口が軽かったらしい。拷問の成果だとも思えるが。

 「どうとでも思え。リヴァイアサン、進もう。」

 「よろしくてよ。」

 リヴァイアサンは再び歩き出した。


 同じような事を二、三繰り返した後、辿り着いたのは、木製の、少し古びた一階建ての造船所。海の方を向いた、おそらく船を出し入れするための出入り口は固くしまっており、造船所としての機能はおそらく無くなっている。しかし、何かの倉庫に転用するために残っているのかもしれない。

 「……この中か。」

 気配察知を行い、中にいる人の数を確認しながらリヴァイアサンに確かめる。

 「そのようでしてよ。んふ、私はこちらで待たせてもらいますわ、後ほど、きっと朗報を持ってきてくださいな。」

 答えたリヴァイアサンは、海の中から突き出、デッキを支えている木の柱に腰を下ろしていた。

 「お前も来た方が神官は喜ぶと思うぞ?」

 「ルールはルール、分かってくださいな。」

 破ったらこの世界が滅びるかもしれないようなルールだからなぁ。納得する他ない。

 リヴァイアサンに背を向け、元造船所の人用であろう、木製の扉を軽く押してみる。……珍しく運がいいな、鍵が掛かってない。

 軽く蹴ると、ギィィ、と耳障りな音をさせて扉が開く。

 中では5人の黒ずくめもといヴリトラ教徒が思い思いの座り方で椅子や箱に座っていて、その奥では天井から伸びた鎖で、ギリギリ地に足が付くようにして両手を拘束されているボロボロな男の姿。

 「誰だ!?」

 ヴリトラ教徒の一人が言い、俺は手元の二人を前に差し出し、

 「この二人の具合が悪そうでしたので、雇い主であるあなた方に世話を頼みに来ました。」

 もう使い古した文言を口にした。

 「他の奴らは!?巡回してたはずだろう!?」

 「そうですか?会いませんでしたが?」

 すっとぼけ、何回もやってきたように二人の背中を前へ押し、俺は先程開けた扉の取っ手を掴んで外に出ていくように見せかける。

 ……あとは別れの挨拶を告げて、目の前のこいつをこの世から旅立たせるだけだ。動揺する間に残りの四人の内少なくとも一人は弓で射殺、そして……

 等と考えてる内に、腹を抑えて苦しむ二人は目の前のヴリトラ教徒の背後へと投げ捨てられた。

 魔法の水で散々苦しんでいた二人は為すすべもなく地面に転がる。

 「あれを見られて生かして帰す訳には行かないなぁ!死んでおけ人間ッ!」

 言い放った男は腰のベルトに吊るされた複数の金槌の一つを抜き取り、殴り掛かってきた。

 後方に飛び、素早く扉を閉める。

 すると、目の前に金槌とそれを持った腕 扉を破って突き出、少し遅れて扉がこちら側へたわむ。

 あー、びっくりした。敵を前にして考え事に耽ってる暇なんてそりゃ無いわな。……しかし、「あれ」っていうのは鎖に吊るされた奴の事だよな?ならやっぱり間違いない訳だ。

 室内に戻っていくたくましい腕を横目に、考えを巡らせる。

 「あら随分とお早いこと。黒槍の人、もう終わらせたので?」

 と、リヴァイアサンがさっきと全く同じ場所から話し掛けてきた。

 「え、あ、いや、もう少し待っててください。」

 「口調を崩してくださいなと言った……」

 「はいはい、分かったから!もう少し待っててくれ!……すぅ、はぁぁ。」

 返し、大穴の空いた扉の取っ手を握ったまま深呼吸。

 ……ヒットアンドアウェイ、よし、これで行こう。

 無色魔素を集め、圧縮し、扉を勢い良く蹴り開けると同時に室内で開放。

 見ると、俺の開けた扉へ、金槌を片手に持ったやつも含め、室内の全員が魔法を用意していたらしく、手のひらを向けていた。

 ……ラダン国民は魔力が弱い筈だよな?

 なんにせよ、その全てが不発に終わり、全員が固まってる隙を突いて囲みを無理やり駆け抜け、雑巾と化している男の元へ辿りつく。

 「おい、助けに来たぞ。歩けるか?」

 鎖を持ち、少し揺らして聞いてみる。

 「……話さぬ。決して。」

 「助けに来たんだ!」

 まだ朦朧としている意識を覚醒させようと、強く揺らす。

 「うぅ……何も、話さぬ……。」

 苦しそうにうめく獣人。

 はぁ、担いで連れて行くしかない、か。

 「あいつを逃がす気よ!」

 声に反応し、チラリと出入り口を見る。

 ……殺気立ってる奴らがそこで俺を待ち構えていた。

 あの出入り口、大の大人二人分ぐらいしか幅がないんだよなぁ……。この狭い中で混戦、それも手負いを庇いながら、というのは避けたい。

 ヴリトラ教徒達に見えないよう、短弓を作り上げる。

 「こっちは5人、魔法を打ち消せるったってどうせお前らぁ、魔法は苦手だろぉ!?押し潰……っ!?」

 背後を振り向き、支持を出していた男の腕に、首の後ろを射抜く筈だった黒い矢が刺さる。

 クソッ、やっぱり危機感知スキル持ちか?

 『便利じゃからの、それに無意識でも行える点では気配察知より優秀じゃ。』

 全く持って面倒な。

 「矢かぁ?面倒臭いなぁ!」

 お互い様だったらしい。

 何にせよ、俺にとって何よりも手が掛かるのは鎖の破壊だ。考えられるのはヤスリぐらいだが時間がかかり過ぎる。

 「……仕方ない、か。」

 別にあれを作り出す訳じゃないから約束を破ることにはならないよなぁ、でも怒られるだろうなぁ、と思いながら右拳を口元に近付ける。

 同時にヴリトラ教徒達が駆け出した。

 左手一本では矢は放てないとでも思ったのだろう。……もちろんその通りだ。

 「サイ!手駒十人連れて来い!」

 焦って叫び、双龍を両手に握る。

 いつもならワイヤーでも使って天井に逃げ、登ってくる敵を一人ずつ殺すところだが、生憎守るべき者がいる。

 「我が主よ、参上仕りました。命令……は要りませぬ、おまかせを。行け!」

 俺が5人を相手にする直前、隣にサイが現れ、指示通りに連れてきた手勢をヴリトラ教徒達に差し向ける。

 時間稼ぎ用の捨て駒で構わなかったのだが、サイが連れてきた彼らは風化すらしていない、しっかりした武器を持っていた。

 「「「「「ァァアアァア!」」」」」

 人の体で出すことができるとは知らなかった、おそらく雄叫びを上げ、アンデッド十人が襲い掛かる。

 「あ、アンデッド!?」

 「どこから現れた!?」

 さて、まぁ一対五からニ対一が五組の出来上がりだ。時間は十分稼げるだろう。

 くぅぅ、便利。

 「我が主よ、状況から鑑み、ここは敵地でよろしいか?さらば我が魔法で焼き払おう。」

 冥府神ハーデースとやらに感謝の念を覚えていると、サイが聞いてきた。

 「まずはこの鎖を切っ……」

 「承知。」

 切ってから、と言おうとすると、黒い熱線の一薙ぎで、その鎖はあっさり断ち切られた。

 ……俺もあんな魔法を使いたい。

 どうにもならない事を嘆きつつ、地面へと倒れる獣人を体で支え、肩に担ぐ。

 見た感じだと歳を食ってるようだが、獣人なんだ、大丈夫だろう。

 「何モタモタしてるぅ!?たかがアンデッドォ!核を壊せぇ!」

 ヴリトラ教徒の一人が早々にアンデッド二体を撃破、こちらへ向かってくる。武器は金槌、出会い頭に扉をぶち抜いてきた奴だ。

 「我が兵の不始末、お許しください。……死ね。」

 俺に謝罪し、サイは指先を金槌使いに向ける。

 放たれた熱線は、しかし5メートルあるかないかの距離だったというのに、体の捻りでかわされた。危機感知か、だとしても獣人の身体能力のなせる技か……。

 まぁ良い、目的は達した。後は離脱するだけだ。

 「サイ、焼き払えるか?」

 「少し時間を……「早くしろよ?」……承知。」

 サイの前に出、獣人を右肩に担いだまま、左半身を獣人に向ける。

 「舐めるなぁ!」

 挑発に見えたらしく、獣人は両手に金槌をそれぞれ持つ。……まぁ挑発ではあるが。

 ナイフを左肩から取り出し、投げる。狙いは顔面、一直線。ついでに両膝を軽く曲げておく。

 熱線を躱したのだ、これを躱せない筈が無い。

 「その程度か!ネクロマンサー!」

 ……うーむ、どうやら魔法陣による情報共有はされていたらしい。

 首を傾けてナイフを避け、胸を張って両方の金槌を振りかぶる獣人。

 こっちが片手しか使えない、しかも手負いを抱えているから咄嗟の動きができないとでも踏んだだろう。……まぁ前者はともかく、後者が間違いだ。

 鉄塊を発動、体がスキルの輝きを灯す。

 地を蹴る。金槌が振り下ろされるのを待たず、俺の肘は獣人の喉を捉えた。

 「っっっっ!?」

 その獣人は声にならない声を上げるが、金槌の勢いは止まらない。

 このまま行けば俺の両頬の直撃コースだが、しゃがめば避けられる。しかし肩の神官を身代わりとして、だ。

 ……急所なんか狙わず、普通に蹴り飛ばせば良かった。

 その場で飛び上がり、黒銀を使う。

 金槌に脇の下を打ち据えられた。

 「う、ぐっ……」

 経験したことのない場所の痛みにうめき声が漏れる。だがヒビはともかく、肋骨が折れた様子はない。

 「固ぇなぁ……ぅん!?」

 文句を言うその顎を爪先で蹴り上げる。

 喉を強打されて、怯まないどころかすぐに声を出せる程回復する奴に固いなんて言われたくない。

 「我が主よ!」

 背後から声が掛かる。

 ……お、もう準備ができたのか。仕事が早いのはいいことだ。

 肩からナイフを取り出そうとしたのを中断、左手からワイヤーを背後に射出、引っ張ることで後退する。

 ……後は仕事の質だな。

 「よし、やれ!」

 指示し、俺はサイの後ろにスススと隠れる。

 「ふぅぅ……浄化の炎………笑わせる!地獄を見よ!……」

 どうやら完全に元通りになったらしい骨の右腕を上げ、その手の平が、俺がさっきまで足止めしていた金槌使いの方向、出入り口の方を向く。

 「させるかぁ!」

 「……フラマ・インゲロス!」

 金槌使いにとって、こちらへ駆けてきたのが仇となった。

 直視できない程眩しい訳ではない、だが凄まじい勢いで放出される赤黒い炎の直撃を受け、大質量の物にぶつかられたかのように飛んでいったのだ。

 天井、壁、木製のそれらを舐め、口付けし、元造船所のあちこちをついばむように食い破った後、炎の濁流がそれらを呑み込む。

 ヴリトラ教徒の悲鳴どころか、建物の倒壊音すら聞こえない。ただただ燃え盛る大火がそこにあった。

 「……グルァァァァァ……」

 そして微かに、聞き覚えのある雄叫びが聞こえてきた気がした。

 サイが炎を放った方向を鑑みても間違いない。……こんなに火の近くにいるというのに、ゾッと寒気が走る。

 「サイ!もういい!」

 「はっ。我が新たなる魔法、満足頂け……「ご苦労!戻れ!」」

 魔力を通した指輪の魔法陣をサイに押し付けることで彼を強制的にヘール洞窟へ帰還させ、ついでに意識のない神官もあちらへ送る。

 ……万が一あっちで起きたら仰天するよなぁ。ま、しょうがない。

 体全体に黒銀。地面に這いつくばり、右腕を地面に杭のように打ち込む事で来たる衝撃に備える。

 そして、極太の水柱が凄まじい勢いを伴って襲いかかってくる。

 間違っても水を飲まないように息を止め、その上で鼻と口を左手で抑えた。

 ……全てを凍らせるようなヤツじゃなくて助かった。

 目を閉じ、彼女の気まぐれに心の底から感謝しながら、水勢の弱まるのを待つ。

 そしてある程度収まったところで立ち上がり、半分が焼失していた造船所の跡形もなく吹き飛ばされている姿を見て苦笑い。まだスネまで水位のある中を、ジャブジャブとかつて造船所の出入り口のあった方へと歩いていく。

 視線の先では、リヴァイアサンが仁王立ちで立っている。

 「サイ、そこにいる獣人を連れて来い。」

 歩きながら指輪に話し掛け、数秒後、サイが右隣に現れる。

 「参上仕り……これは……?」

 「お前が魔法を放った先にな、リヴァイアサンがいたんだ。」

 「リヴァッ!な、なんと……」

 珍しく口をあんぐりと開けたため、見た目が骸骨でもサイの驚きが伝わってくる。

 「ほら、渡せ。」

 「は、はっ。」

 命令されて我に帰ったサイの肩に担がれてた神官を俺の肩に担ぎ直す。

 「ご苦労、帰っていいぞ。」

 「では……また我が力をご所望のときまで。」

 濡れるのも構わず跪いて俺の指輪に触れ、禍々しい姿のリッチは姿を消した。

 ……よし、神官が起きた様子はない。アンデッドだなんだと騒がれない分、運ぶのが楽になる。

 「あの炎、そなたの力のお一つで?」

 普段の声が届く距離になると、リヴァイアサンが聞いてきた。

 「そんなところです……だ。何故ブレスを?」

 敬語を崩し直し、聞き返す。

 「バハムートの悪戯と勘違いしただけのこと。他意はなくてよ?そう怒らないでくださいな。」

 「はぁ……取り敢えずまぁ、依頼達成ってことで?」

 肩の神官を軽く揺すってみせる。

 「んふ、よろしくてよ?しかし報酬は、まずあの子達と話した後、これでいかが?」

 「あの子達?」

 この村の大きな市のある方向をリヴァイアサンが指差し、その先に視線を向けるとルナ達が見えた。

 ……豪炎やらブレスやらで、まぁそりゃバレるわな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ