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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第五章:賃金の出るはずの無い職業
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龍の塔

 「危ない事はしないでくださいと何度、何度言えば分かってくれるのですか!?」

 到着した街の中心にあり、その街を一望できる程高い塔。その天辺、平たい円形の台にて、強めの風が吹く中、ただいま絶賛正座中の俺はルナからのキツイ叱責を受けている。

 「いや、あれはれっきとした遊びで……」

 れっきとした遊びって何だろう?

 「尚更です!あんな危険な事を、それもただ楽しむためにするなんて、信じられません!ユイからも言ってやってください!」

 俺の言葉を封殺し、ユイに助力を求めるルナ。

 「え、ええ、まぁ、危ないには危ないのかしらね……。」

 しかし当のユイは歯切れが悪い。これがスカイダイビングという概念の有る無しで出てくる違いなのかもしれない。……予想外の発見だ、面白い。

 「えっと、と、とにかく!もうこんなことは……」

 「決め付けはいけないわ!ど、主人ちゃん、そういうことは貴方も一度やってみてから言うべきよ!」

 俺の援護をしてくれたのは言わずもがな、シーラである。スカイダイビングが余程お気に召したらしい。強靭なゴムさえあれば、バンジージャンプも紹介してみたいところだ。

 ここに、俺にお姫様抱っこをされたまま着地したとき、フェリルが飛んできて真っ先に自身を俺から奪って心配してくれたという事が嬉しかったのもあるかもしれん。

 「でも、危ない事は……しない方が、良いでしょう?」

 ユイの援軍が期待できず、言葉尻が濁り、ルナの口調が最後には疑問形になる。

 「古龍と戦って生還したようなしぶとい、生き汚い人よ?そう簡単に死ぬ訳無いじゃない。」

 生き汚いて……そんなイメージなのか?

 でもま、ルナの叱責が止むなら良いか。

 よっ、と立ち上がり、ルナの頭を撫でる。

 「今度は俺達二人でやろうな?」

 「あう……でも……。」

 まだ心配そうだな。

 「見てたろ?俺とお前は体をくっつける事になる。運命共同体って奴だ。お前が助かれば俺も助かる。そして俺は何があろうとルナ、お前だけは守ってみせるから、大丈夫だ。」

 「……そのときは、えと、よろしく、お願いします……。」

 俺の言葉に、ルナは頬を染めて小さく頷いた。……言ってる俺が恥ずかしくなってくる。

 「ハッハッハ!そろそろ良いか!?」

 「ひゃうッ!?」

 信仰する相手の大笑いに、ルナが変な声を出して俺の影に瞬間移動。

 「あ、ああ。あ、そういやここって何処なんだ?」

 「ハッハッハーッ!良くぞ聞いてくれた!ここは獣人の国ラダンの首都にして中心……「ええ!?フレメアから聖都ドランまで数時間で着いたのですか!?ああ、流石はバハムート様……。」……む。」

 締めを取られ、しかし最後に讃えられたことで怒ることも喜ぶこともできず、押し黙るバハムート。

 聖都ドラン、ラダンの中心、か……。ていうかルナの家名、フレメアって土地名でもあったんだな。

 確かティファニアから北端のギガンテ山まで二ヶ月弱だったから……ラダンって案外小さいのかね?

 『ラダンは三体国で一番大きい国じゃ。対するスレインは一番小さいの。』

 なるほど、つまり今回はバハムート様々って訳だ。はぁ……そろそろここの世界地図を探さないとな。ある程度の地理は把握しておきたい。

 「それで、ここが古龍の集会所ってことでいいか?」

 バハムートに向かって聞くと、隣のルナが捲し立てた。

 「はい!そのため、ここは有名な観光名所の1つで、一生に一度は行ってみたいと誰だって思う場所です!また……」

 興奮してるなぁ……。

 「ルナベイン、そろそろ良いか?」

 「え、あ、はい!申し訳ありません……。」

 バハムートにも呆れた目をされ、ルナは恥ずかしそうに俺の影に体の半分をまた隠した。

 「うむ!俺が言いたかったのは、龍が集まるのは明日の昼頃になるって事だ!」

 「つまり俺達はこの街で宿を探せば良いんだな?」

 「いや、その必要はない!俺がここの管理者に部屋を貸すよう話を付けてやるからな!だから俺が言いたいのは存分に楽しめってことだ!ハーッハッハッハ!」

 そう言って、バハムートは消えた。

 驚いて駆け寄ると、まるで落とし穴のようになっている、石造りの階段があった。

 ここから下りていったらしい。

 「……さてと、どうする?」

 聞くと、皆一斉にルナを見た。

 「わ、私ですか!?」

 「一応、ここじゃあお前が主人だからな、と言うよりむしろ俺達はお前の周りにしかいられない。それに、詳しいんだろ?」

 「……家族から話を聞いたことがあるだけですよ?」

 「良いから良いから。」

 ルナの両肩を持って優しく階段へと押して先導させ、後に続いて階段を下りていく。

 「……行くべきなのはあそこと、あそこと……あと他には……」

 歩きながらブツブツ話す様子からして、本人も乗り気になってきたようだ。

 と、ユイに肩を叩かれた。

 「どうした?」

 「私はここの部屋で待ってる訳にはいかないかしら?」

 「疲れたか?」

 バハムートの背中ではずっと立ってたしな。

 「……少し、だけれど。」

 しかしそれではせっかくの機会が台無しだ。

 「肩車でもしてやろうか?」

 「どうしてそこで肩車なのか聞いてもいいかしら?」

 「おんぶか抱っこをしてやろうかって聞いても断るだろ?」

 「ユイちゃん、じゃあ僕が肩を貸してあげよう……アイテテテ!?」

 「フェールゥー?」

 「ユイちゃんが困ってるのを見て黙っていられるはずが……イタイイタイイタイ!」

 フェリルはそのうち、エルフ界一耳の長い……いや、右耳の長いエルフになるかもしれん。

 「はぁ、肩車はなおさらに決まってるじゃない。」

 フェリルはもう無視してしまうのか……。

 「もう、フェルは……わぁ、中はこうなっているのね!」

 横に3人並べるかどうかというぐらいの幅しかない窮屈な通路を抜けると、塔の中の大空洞に出た。

 階段はその空洞の壁沿いに螺旋状に伸びており、ここから反対側の階段はかろうじてしか見ることができない。

 自然、皆が壁よりに一列で歩く形となる。ちなみに先頭からルナ、ユイ、そして俺を挟んでフェリル、シーラの順だ。

 「飛び降りないからな?」

 「あ、う、そう……残念。」

 俺に話し掛けようとする気配を感じ、未然に言うと、シーラはすごすごと引き下がった。

 「リーダー、シーラにあまり変な事を教えないでくれるかい?ただでさえ好奇心旺盛なのに、リーダーとがそういう好奇心を満足させてくれるって分かったら歯止めが聞かなくなるんだから。」

 「ちょっとフェル!?お父さんみたいな事言わないで!」

 「ここから飛び降りようとするような子が大人だとでも言うのかい?」

 「……楽しいわよ?」

 フェリルがこっちを恨ましげに見てくる。

 俺のせいなのか?……シーラはなんだか嬉しそうだけどな。

 「ねぇ……か、肩車の話は、まだ有効かしら?」

 と、前を歩くユイが弱々しく聞いてきた。

 体調が悪いのかね?

 「お姫様抱っこなら良いぞ?」

 試しにからかう。

 「……もうそれで良いわ。」

 これはかなり体調を崩しているらしい。さっさと横にさせてやるべきだな。

 「ほら、乗れ。」

 背を向け、屈む。

 「あら、おんぶ?」

 「ありがたがってもいいぞ?」

 「……ありがとう。」

 ユイは素直に俺にしがみついた。 

 ……本当に気分が優れないらしい。

 左手で支え、少し揺すってしっかり捕まってくれていることを確認。次の段へと足を運んでいく。

 「フェリル、ユイに熱はあるか?」

 「……どれどれ、いや、そうでもないね。」

 単なる風邪って訳じゃないのか……変な病気でだけはあってくれるなよ?

 「なぁユイ、白魔法を使っても治らないのか?」

 もしもただの疲労なら、それで回復するはずだ。

 「いいえ、効かなかったわ。病気に白魔法は効かないのよ。」

 マジか。

 『いや、おそらく疲労じゃろうな。白魔法は体の免疫力、自然治癒力を促進、強化する物じゃからの、対象はかなりの体力を使う。疲労体に使えば逆効果じゃな。自身に使えば魔力も使うことになる、なおさらじゃ。』

 ……前、白魔法のおかげでこの世界に過労死は無いって言われた気がするけどな?それも爺さん自身に。ガセネタか?

 『過労による、身体の抵抗力の低下はそのまま、実際の体の変調を元に戻すだけじゃよ。つまり疲労そのものは続くんじゃ。』

 はぁ……、そっちの方がキツいような気がしないでもない。

 でも病気かもしれない可能性はあるんだよな?

 『あるが、疲労しているのは確実じゃろ?』

 ま、そうだな。

 「ふふ、そんなに真剣に考え込まなくても良いわ。ただ、無性に、眠たいだけ、だか、ら……」

 「そうか、じゃああと少しだけ頑張ってくれよ?」

 「……くー。」

 ……はぁ。


 バハムートが用意した部屋にユイを寝かせた後、ルナ主導のの観光ツアーと洒落込んだ。

 一つ目の見所は、俺達が着陸した塔、その名も龍の塔……まぁそのままだ。巨大な分銅のような形で、採光のためか小さめの窓が側面に散りばめられている。装飾の少ない外壁の色は純白。くすみはなく、掃除の行き届いているのが伺えた。

 前述した通り、ここには五柱の古龍が集う事があるからこそ、とても神聖な場所とされているようだ。


 見所二つ目、場所はドランの正面大門から龍の塔まで伸びる、石畳の大通り。その片側全て占める、武器防具類の店である。

 ラダンの物流の中心地でもあるドランだからこそ、各地の様々なブランドが集まってくるらしい。

 俺もそこにあった鎧兜を色々と見て回ったが、どれもがドワーフの熟練の腕で生み出された作品であるってだけで、ゲイルが作ったような、デザインのみで体の動きの補助を実現するような代物はなかった。

 ネルとアリシアへのお土産にどうかとは思ったが、アリシアは絶対においしいお菓子の方が良いと言うだろうと思い、ネルには――戦利品とはいえ――もうマントを渡した事があるので、別方面の物品が良いだろうと判断した。

 さて、三つ目の見所は、その通りを挟んで反対側。やはりドランの流通における特性故に集まった、子供のおもちゃから服やアクセサリー、ポーション等の冒険御用達品まで、各地の選りすぐりが揃った選り取り見取りの店々。

 俺はそこで回復用ポーションをニダース、ルナに買わさせられた。余程俺の危険行為が目に余ったと見える。

 シーラの強い薦め(ほぼ強制)で、フェリルはシーラがどこからか持ってきたお揃いのネックレスを買った。

 こっそり鑑定した結果はこちら



 name:夫婦の首飾り

 info:愛の証にと、ある細工士が夫に付けさせた首飾り。お互いの首飾りの位置を、水晶に彫ってある魔法陣により確認できる。



 いやぁ、女って怖い!シーラにアイの面影をほんの少しだけだが感じたのは仕方のない事だろう。……まぁフェリルの日頃の行いが悪いせいもあるがな。

 ルナはと言うと、俺にポーションを買わせたあとはずっと服屋の前で悩んでいた。俺が近寄れば否応なく中を連れ回されるような気がしたので、あまり近付かないようにしておいた。

 そして最後にあと一つだけ買い物をし、俺はそこを離れた。


 最後に見所4つ目、というかルナが一度は行ってみたかったという、地竜を扱う事で有名らしい焼肉店に入った。

 入る前、焼肉店なんてどこも一緒だろうと舐めてかかっていたが、ルナの注文で大きな一抱えの肉塊が来たから驚いた。

 それを食べやすい大きさに切っている間のエルフ二人の目は渋いものだったが、一度肉を口に入れると、二人はもっともっととせがんできた。俺もそこで人生初めて、肉が口の中で溶けるというのを体験した。

 しかしそこで面白い事に気付いた。俺やエルフ二人はサシの入った肉を好んだのに対し、ルナは徹底して赤身を欲していたのである。まぁ俺としては競争相手が減るだけ嬉しかったが。たぶんエルフ達もそうだろう。



 その後もルナはあっちへ行きたいこっちへ行きたいと言っていたが、日も落ちてしまっていたし、ユイをあまり長い間一人にさせておくのは可哀想だという事で、俺達は龍の塔への帰路についた。



 「よし、良いぞ、感覚が掴めてきたな!」

 「……ぜぇぜぇ、ありがとうございます。ああ!やっと帰ってきた!」

 龍の塔で唯一、五柱の龍をかたどったという金色の装飾がなされた、白い巨大な両開きの扉を開いて中に入ると、バハムートとユイが刀で切り結んでいる所だった。

 そしてこっちに気付くなり、ユイは気が抜けたように座り込んだ。

 「……回復したのか?」

 「見て分かるでしょう。」

 一応聞いてみたが、ユイの頭はまだ少しふらふらしているし、顔色も悪い。復調してない事など一目で分かる。

 「ユイちゃん大丈夫かい?」

 フェリルが駆け寄っていて、ユイに肩を貸して立ち上がらせた。

 「じゃあリーダー、僕はユイちゃんをこのまま……「私も連れて行くわ。フェリル一人じゃ何をするか分からないし。」……信用ないなぁ。」

 言い合いながら歩き去るエルフ二人と人間一人を尻目に、バハムートに向き直る。

 「何をしてたのか聞いても?」

 「ハッハッハ!そんなもの、修行に決まってるだろう!」

 まぁ、半ば予想はしていた。

 「あの状態でか?」

 「極度の疲労ぐらいで戦えなくなるような奴に俺の刀をやるつもりはない!だがまぁ安心しろ。あの人間、ユイだったか?は十分な動きを見せた!」

 俺達が帰ってきたときは死にそうな顔をしてたけどな。余程頑張ったらしい。

 ……それだけ必死って事でもある。

 「ふふ、懐かしいです。あ!つまりユイは私の弟……妹弟子になりますね!」

 「ルナもバハムートから刀を?」

 「はい、これでも巫女を務めていたので。」

 じゃあステラも色々仕込まれるのか。

 「うむ!懐かしいな!ルナベインは組手の方はからっきしだったが、どうだ?」

 「確か……俺の体術の先生に片手で楽々といなされてたような……。」

 「人間か?」

 「おう、もちろん。」

 「ご主人様ァッ!?」

 目をつむり、数ヶ月前の事を頑張って思い出しながら呟くと、ルナが悲鳴を上げた。

 何だ?と思って目を開ければ、ルナがバハムートに片手を引っ張られて連れて行かれているのが見えた。

 「組手が苦手なのは分かっていたが……俺の教え子だというのに情けない!鍛え直してやる!」

 「うぅ……はい。」

 「返事が小さい!」

 「もう、よろしくお願いしますぅッ!」

 あ、ルナが投げやりになった。

 にしても、バハムートは案外こういう教育を楽しんでいる節があるな。……まぁ楽しくなけりゃやらないだろう。

 しかし、うん、ルナ、すまん。

 心の中で謝罪し、聞こえてくる悲鳴は無視、俺はエルフ二人の後を追って、ユイの様子を見に行った。

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