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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第五章:賃金の出るはずの無い職業
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尋問

 「うわぁぁぁ、おばさぁぁぁぁん!……ブギィ!?」

 鼻っ面をキック、からのハンマー投げ!

 「覚えてろォォォ……」

 そしていつの間にか俺の背よりかなり大きく成長した子豚(デイジーなのかポーラなのか分からんが)は空へと消えた。

 「ふぅ、しかしあいつも毎日しつこいなぁ。成長も嫌に早いし、そろそろハンマー投げも限界か?」

 一人言をブツブツと言いながら、今日も今日とて仕留めたグレートボアの下に板を作り、宙に浮かせる。

 と、木の上からフェリルが降りてきた。

 「リーダー、もしかしてあの若いグレートボアも今までリーダーに突っかかってきた奴も同じものだって言うつもりかい?この広い山で中々無いよ、そんなことは。」

 あれ?フェリルには識別できてないのか?

 『お主が段々とグレートボアでさえも人のように認識しておることの現れじゃの。ま、わしのおかげじゃが。』

 言葉が分かるぐらいで物の見方がそこまで変わることってあるのかね?

 「そうか、じゃあ気のせいかもな。今はさっさと戻ろうや。」

 手をヒラヒラと振って何でも無いと伝え、移動を開始する。

 グレートボアの見方なんてどうでも良いことだしな。美味しいから狩る、それだけだ。

 「そういえばリーダー、毎日の食事がこればっかりで飽きてきてないかい?」

 ……それは言えてる。

 実際、ルナの実家に来てからこの方、俺達奴隷はこのグレートボアの切れ端(とは言っても獣人の基準だから量は十分ある。)を与えられ続けている。そんな生活、数日続いただけでも飽きが来ない筈がない。いくら味付けの微妙な違いがその日毎にあるとはいえ、それが一週間だ、結構堪えてきている。

 「まぁ我慢するしかないだろうな。一応、俺達は奴隷だぞ?」

 「そこの木の実も食べてみたいけど……」

 「見つかったらこの土地から無断で奪ったって事になるだろうな。」

 「やっぱりそうかい?」

 「そりゃぁ……なぁ?」

 苦笑混じりに返すと、フェリルは深々とため息をついた。

 「奴隷生活も慣れれば大して悪くないと思ってたけど、まさかこんな形で苦しむとは……。」

 「ここを出たらさらに苦しくなるだろうから、覚悟しておけよ?」

 逃亡生活を過ごすことになるかもしれんしな。

 ちなみに、ルナの頼みを完璧に遂行する手立ては一つだけ考えてあるが、あまり心が進まない。だが逃げる方法自体は簡単だ。……全部投げ捨てれば良い。

 ルナにどうあっても巫女にはならないと宣言させるか、奴隷だと告白させて、全力で逃げる。ルナの地位も名誉もルナが大事にしようとしていた家族との絆も全て断ち切って。それだけだ。

 ……ま、やるとしたら前者だな。密入国がバレるのだけは何としてでも避けたい。

 ?

 「リーダー……。」

 違和感を感じ、辺りを見回そうとする前にフェリルに小声で声を掛けられた。

 「……やっぱり何かいるのか?」

 俺も倣って小さく返し、歩くペースを変えずにいながら警戒を行う。

 かなり小さかったから確信は無かったが、グレートボアみたいな魔物とはまた違った気配を感じたのは気のせいでは無かったらしい。

 「……二人、かな?たぶん隠密スキル持ちだね。」

 爺さん!

 『分かっておる。……三人、じゃな。お主らに距離を保って付いてきておるぞ。』

 移動しているのか?

 『見れば分かるわい。ほれ、木の上じゃ。』

 目だけ動かして見ると、二人ほどが俺達の頭上の木を飛び回っているのが見えた。

 なぁるほど。……厄介な。

 「もう一人の場所は分からんが、気配は三人分だ。」

 伝えると、フェリルは極々自然な風を装って辺りを見回した。

 「……くっ、僕にももう一人は何処にいるのか分からない。……どうする?向こうが僕達に気付かれたことに気付いてない今なら先手を取れるよ?」

 今がチャンスってことか。

 社に表から堂々と入って行っていないから、社への客って訳でもないだろうし……一応捕まえて尋問するか。

 「動き回ってるが、狙えるか?なるべくなら捕まえたい。」

 「それは僕がリーダーに聞くべきじゃないかい?」

 おちょくるように言ってくるが、実際そうなので反論できない。軽く肩をすくめ、俺は指示を出す。

 「……よーし、12の3で俺が右側にいる奴を片付ける、お前がもう片方だ。」

 「了解。」

 歩みを全く淀ませることなく、お互いの顔を一瞥もせずに会話をし、俺は早速数を数える。

 「1……2の…………」

 俺は黒色魔素を少しずつ集めていき、フェリルはゆっくりと背中に手を伸ばす。

 「……3!」

 魔素の収束を一気に加速。作成しながら、照準と矢をつがえるのを同時に行う。素早い動きで放たれた俺とフェリルの矢は、それぞれ木の上にいた二人をいとも簡単に撃ち落とした。

  向こうは本当に俺達を侮っていたか気づいてなかったらしい。対応のたの字も見えなかった。

 さて、あと一人はどこだ?

 『もう逃げたわい。』

 「チッ……まぁいっか。」

 取り合えず落ちた二人を尋問しよう。

 「リーダー、三人目はどうするんだい?」

 「もう逃げられたよ。」

 「……リーダーの索敵能力はたまに驚くほどずば抜けてるね。気配察知をそこまで熟練させているのかい?」

 結構悔しそうだが、爺さんの力だなんて言えないし、そもそも信じてもらえないだろう。

 「ま、そんなとこだな。……でどうする?連れて帰るか?」

 適当に誤魔化し、別の話題に飛ぶ。

 「……ここで用は済ませておきたいね。」

 「だな。よし、じゃああの二人を俺が運んでくるから、フェリル、このバケツに魔法で水を満たしておいてくれ。」

 大きめのバケツを二つ作って投げ渡す。

 「……っと、何をするのか想像は付くけど、下手したら死ぬよ?」

 「どうせ殺す。差し障りはない。」

 もし明確な敵なら当然として、敵じゃないとしても、こうして攻撃を仕掛けたことで俺達の立場が危うくなるような奴(何の罪もない獣人族等)だったら抹殺して死体を隠さないといけない。

 「そうかい……でも仕方ないか。」

 不服そうだが、フェリルも俺と同じようなリスク計算をしてくれたらしい。

 「すまんな。」

 「いいさ謝らなくて。さっさと済ませよう。」

 フェリルはそう言って、バケツに水を生み出し始めた。


 「ぷはぁっ!う、おぶぇぇぇ……ぜぇぜぇ……」

 「さぁ答えろ。お前はここに何をしに来た!?」

 バケツの水に力任せに突っ込んでいた頭を無理矢理バケツから引き揚げ、質問をしながらそいつの腹を爪先で蹴り付ける。

 「グハッ!?誰が……言うもんか。さっさと、っうげぇぇ、はぁはぁ、もう一人のように、殺、せ。」

 「お前らがヴリトラ教徒だってことは分かってるんだ。死ぬことにに全く恐怖を抱いて無いこともな。」

 何故分かったのかと言っても至って簡単。取り合えず確認だけでもと思って、昏睡していた二人の衣類を剥いだらヴリトラ教徒の刺青が彫ってあるのを見つけたのだ。

 ちなみに片方が獣人、片方が人間で、今拷問を受けているのは人間の方。若く、俺よりも確実に年下だ。……まぁだからと言って何というわけでもないが。

 あと、魔力が弱かったのかもしくは俺が加減を間違えたのか、獣人の侵入者は口から水を吐き出しながら、おそらく窒息死した。体は今拷問している青年の隣に転がっている。

 拷問に消極的だったフェリルには長くなりそうだから、と仕留めたグレートボアを先に社へ運んで貰っていて、今ここにはいない。

 「それなら拷問に意味は無いって分かるはずだ!」

 「なぁに、殺してくれって言われるまで痛め付けるだけ、だ!」

 ヴリトラ教徒の頭を右手で掴み、顔をバケツの水面に叩き付けて上から抑え込む。

 苦しさから、ヴリトラ教徒は身をよじり、バケツを倒そうとしているのか、その縁を体で叩き始めるが、俺の膂力と黒魔法の縄の両方に勝てず、そのまま段々と抵抗する力が弱くなっていく。

 ここで一気に顔を引き揚げ、呼吸を行わせる。

 「ぶばぁっ!……ぜはぁ、ぜぇぜぇ……ほぶろろぉぉ!?」

 多少の息継ぎの後またその顔を水に押し込み、少しして引き揚げて再び質問。

 「目的はなんだ?」

 「うげっ……ぐうぇぇ……」

 「おい、聞こえてるだろ?侵入した理由は何なん、だ!」

 左手でボディブロー。

 「ぐぼぉぁ!?……うげっけほっ、早く殺せよ。時間の無駄だぞ?僕がヴリトラ様を裏切ることなんてない!」

 「ったくお前らヴリトラ教徒は何でそう死にたがるんだ……狂信も大概にしろ。」

 吐き気がする。

 「ふん、この刺青は、ヴリトラ様が僕達をその、血肉として、くださった証……僕達に死は、無い……うげぇぇ。」

 弱り、息を所々で切らしながらも、侮蔑の混じった目で俺を睨む狂信者。

 あの刺青は魔法陣なのか?それにラヴァルの話じゃ、確か基本は円の筈だ。

 ……こいつら、ヴリトラに騙されてるのか?

 『いや、あれも魔法陣の一種じゃよ。魔法陣の円の周りに装飾が付けられておるだけじゃ。奴隷紋も同じようなものじゃな。』

 それでも円の中に複雑な模様は無いぞ?

 『魔法陣が干渉する対象はそこに既におる。何処に複雑さがある?』

 魔術の原理はよく分からないが、特殊な術とかではないらしい。

 「どうした?永遠を約束してくださったヴリトラ様の力を恐れたか?僕達の決意に驚愕したか?」

 「やかましい。」

 「ぶぉぉ!?」

 ヴリトラ教徒をもう一度バケツに頭から突っ込ませる。

 それで、血肉になるってどういう事だ?俺が今まで殺した奴らは体がどこかに飛んでいったり無くなったりしてないぞ?少なくとも俺は見てない。

 『血肉、というのは誇張じゃろうな。あの魔法陣はヴリトラが彼らの感覚を任意に共有できるようにする物じゃ。その上で彼らを自らの一部だと宣言なり何なりした、というところかの?』

 何のために?

 『感覚を共有できるからのう……うーむ、何と言うべきか……ふむ、情報収集、じゃな。』

 じゃあ俺の存在は向こうにバレてるのか?

 『ヴリトラ教徒は何千単位でおるし、お主がヴリトラ教徒と敵対したのは数える程しかないからの、まだ見つかっておらん……と言いたいところじゃが、こうして拷問しておるからのう……。』

 あー、そりゃバレるな。はぁ、迂闊なことは言わないようにしないとな。

 ……さて、そろそろフェリルとの距離は十分離れたかね?

 体のあちこちが内出血で変色している青年の頭を引き揚げ、咳き込むのを無視して無理矢理顔を上げさせる。

 「……良く見ておけ。」

 「うげぇぇ……ごほっごほっ、何、を…………っ!」

 右手でそっと獣人の死体に触れ、ヴリトラに見られていることを警戒して、モゴモゴと無意味な言葉を呟く。そして獣人の体がギクシャクと起き上がってくる様子を見せつけた。

 「このまま話さないのなら、お前をこいつと同じような目に合わせる。あー、俺はヴリトラと敵対してるからな?つまり、お前は晴れてヴリトラに真っ向から反逆する一団の仲間入りができるって訳だ。」

 ギガンテ雪山でこの指輪の効果を確かめたとき、ヴリトラ教徒はヴリトラに敵対さそられることをかなり恐れていた。あのときは自分の意思じゃないとか何とか言って平静を装おうとしていたが、本心は顔に十分出ていた。

 要はヴリトラ教徒にとって、この方法からかなり効く筈なのだ。

 「う、嘘だ。そ、そんなことができるなら、初めから僕達をアンデッドにして聞けば良いはずだ。お、お前の言うことなんて聞かないに決まってる!僕達のヴリトラ様への忠誠は絶対に揺らがないんだ!」

 「おい、自害しろ。」

 何やら喚き始めた狂信者の希望を壊すため、そしてアンデッドを作った証拠隠滅のために命令を下す。

 「主の観心のままに……。」

 獣人のゾンビは一言言い、自分の胸に手を突き刺し、一瞬後、そこに崩れ落ちた。

 どうやら核は心臓付近にあったらしい。

 ていうかこいつ、話したよな?つまり知性持ちだったってことか?

 試しにもう一度触るが、起き上がる様子はない。やっぱり核は一つなのか……くぅぅ、勿体なかった。

 「はぁ、答える気になったか?」

 ため息混じりに青年を見る。

 「そんな、嘘だ。嫌だ!ヴリトラ様へ反逆させられる?ふざけるな!こんなことがあってたまるか!こんなことあっちゃいけないんだ……。僕達はヴリトラ様の一部なんじゃ無かったの?」

 いやぁ、ここまで来ると快感だ。まさかこんなに恐れてくれるとは。

 前にフェリルが魂と体は分けられないって言ってたが、その考え方はこの世界では一般的なのかもしれん。まぁ、そうじゃないとここまで怖がりはしないだろう。

 「まぁ、落ち着けよ。」

 努めて優しい口調を使い、ヴリトラ教徒の肩に手をそっと置く。

 「嫌だ、こんなの……」

 こっちが恐ろしくなってくるほどの取り乱しようだ。時間をかけてやった拷問で精神を磨り減らしている成果もあるのかもしれないない。

 「別にお前をアンデッドにしようだなんて思っちゃいない。」

 「……え?」

 青ざめているのかどうか分からない、あちこちが黒ずんだ顔の泣き出しそうな目がこちらをすがるように見てくる。

 「お前は俺に一瞬で戦闘不能にされただろ?何でそんな奴をわざわざアンデッドにする必要がある?」

 「あ、ああ、そう、そうなんだ、僕は弱いからアンデッドにしたって意味なんてない。」

 実力(腕っぷし)主義のはずのヴリトラ教徒が良く言うわ。

 「そうだ、だが一つだけ、お前をアンデッドにする理由がある。……お前に俺の質問に答えさせるためだ。……そのためだけに、やる度にかなり疲れるし、それに代償も大きいこのアンデッド化の儀式をわざわざお前に施さないといけないって訳だ。ま、下っぱの雑兵にはなるかね?」

 肩を回しながら腰を伸ばし、疲れで体のあちこちが痛い風を装う。

 「そ、その必要は、ない!」

 良かった、俺の演技力もまだ捨てた物じゃなかったか。

 「そうなのか?」

 「そうだ、僕の目的はここにある神の武器をヴリトラ様に献上することだ!これで良いだろう!?」

 必死だなぁ……笑ってしまいそうだ。

 「何のために?」

 「そ、そんなことは知らない。だがヴリトラ様の崇高なるお考えは誰にも……カヒュッ!」

 肩から取り出したナイフで首もとを切り付け、その頭から手を放す。死体はそのまま頭部をバケツの水に突っ込み、中を鮮やかに染めていった。

 「知らないんなら用は無い。ま、約束通りアンデッドにはしないでおいてやるさ。」

 ルナに怒られるからな。

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