14 職業:冒険者⑧
ネルを仲間に引き入れる日がやって来た。
昨日、魔法の練習を頑張ったアリシアはまだぐっすりと眠っている。
起こさないでおくか。昨日は機嫌が悪そうだったし、しっかり寝させてイライラを解消させた方がいいだろう。
眠り姫を起こさないように、俺は静かに部屋を出ていった。
今回、ネルとは体術メインで戦うつもりだ。町中で襲われたときの練習にもなる。
『何を想定しておるんじゃお主は……。』
……放っておいてくれ。
階段を降りると、満腹亭の一階は珍しくたくさんの冒険者らしき人達で賑わっていた。
「あ、おい、来たぞ。」
「閃光に喧嘩を売るってんだからどんなやつかとおもったが、こりゃ結果は決まったな。」
「おいおいあいつに賭けたってのか、おまえは?」
「そんなことする訳ねぇだろ。金がもったいない。」
失礼なやつらだ。陰口なら陰口らしく本人の聞こえないところでやってくれよ。まぁ、こっちの方が清々しくて逆に気持ちいいところもあるが。
「ローちゃん、この前こいつに賭けたんだが、やっぱり変えて良いか?」
と、そんな言葉が聞こえてきた。
見れば少し腹の出た男が頭を掻きながらローズに――決まりが悪くてか――ぎこちない笑みを向けていた。
ていうか本当にローちゃんって呼ぶ奴がいるのな。
「んー、どうなんだろう?」
困ったようにこっちを見るローズに俺は肩をすくめて返した。
「勝手にさせてやれ。俺の貰える金額が増えるだけだ。」
「そう?だって、おじさん。」
「わっはっは、ありがとよ坊主。」
途端、男が上機嫌に笑い出す。
「おいおい、それだけじゃないだろ?賭ける相手を変えたんだ、よほど勝つ自信があるんだよな?」
「ふん、当たり前だ。」
「なら飯を奢ってくれ。ああ、金は今出しとけよ。夜には何もないかも知れないんだから。」
「いいぜ、なんなら俺がやけ酒に付き合ってやるよ。俺が飲むのは勝利の美酒って奴だがなぁ!」
勝利を確信し、彼が腹を抱えて笑うのに、俺は笑みを崩さずに口を開く。
「ハッ!やめておくよ。男の泣き言なんざ聞きたくもない。」
「わっはっは、威勢がいいね。ローちゃんお代だ。奮発して200シルバーやるよ。」
ジャラ、と小袋を2枚カウンターに置き、身も心も太っ腹なそいつはガハハとさらに笑い出した。
「はーい、確かにー!」
そんな彼の気が変わる前にということか、ローズは素早く銀貨の袋を持ったかと思うと早足で厨房に引っ込んでいった。
流石は宿屋の子。ちゃっかりしてるなぁ。
「はは……。ありがとよ、後で文句いっても知らんからな。」
「言っとけ!」
「ローズ、さっきの200シルバーから俺の朝飯を頼む。」
「はーい。」
カウンター越しに厨房へ言い、俺は料理が出てくるまで他の冒険者たちにも金をせびり、満腹亭に払ってもらった。
ただ飯って旨い。
人の金で朝食を腹に入れ、満腹亭を出る。
しばらくは満腹亭で無銭飲食できそうだ。
「うし、いくか。」
「どこにですか?」
「うおっ!?」
いざギルドへ、と自分に気合を入れたところでいつの間にか側にいたアリシアに腰を抜かされた。
この頃気配察知を疎かにしがちだ。このままじゃあ暗殺者が襲ってきても対応できんぞ。今度から常に発動しておこう。
『じゃから……。』
ほっとけ!
それに、気配の方向だけでも分かるようにしておけば警戒していても楽に寝られるだろ?
……まぁそもそも暗殺者なんかに目を付けられるようにはなりたくないけどな。
『では何故あのような……。』
うるさい!
「ギ、ギルドだよ、ほら、ネルを仲間に引き入れるために、な?」
爺さんの言葉を努めて無視し、不機嫌気味なアリシアに笑いかける。
まさか昨日みたく、ギルドまでおんぶしろ、とか言わないよな?
「……コテツさん、私はもう、用済みですか?」
そして震え声で為された予想の埒外からの問いに、俺は一瞬固まってしまった。
「……は?な、なんのことだ?」
「分かってるんですよ。ネルさんとパーティーを組んだら私は要りませんもんね。」
よーし、ちょっと待て。
アリシアの方に体を向ける。
「いや、なんでそうなる?アリシアにはいつも助けられてるじゃないか。」
「私にできて、コテツさんに出来ないことなんてありませんよ。」
「そんなことはない。俺に神の空間のスキルは使えないだろ?」
爺さんを信仰する気はさらさらない。
「コテツさんの魔法なら板の上に倒した魔物を乗せて持ち運びできるじゃないですか。それにお金だってギルドに預ければ問題ないでしょう?」
倒した魔物を浮かべる?なるほど、その発想は無かった。
「それは、まぁ。でも遠距離攻撃は俺にもネルにも出来ないぞ。俺の黒魔法は近距離が基本だし、投げナイフだって魔法ほど遠くへは飛ばない。ネルはどうか知らないけどな、斥候だって言うくらいだから遠距離の攻撃方法はあまりないだろうよ。」
俺一人じゃあ一瞬でゴブリン村を壊滅させるなんて事は到底無理だ。
しかし目の前の少女に納得した様子はなく、むしろ泣きそうな表情になりながら唇を引き結び、両手に小さな拳を握った。
「嘘を言わないで下さい!この前私が魔法の訓練をしてる間に弓を練習していたの、見ていたんですからね!最終的には私が魔法で狙っていた距離より遠い場所の、より小さい的に命中させていたじゃないですか!あれって私がいなくなっても困らないって暗に言っていたんでしょう!?」
「いや、あれは、その……。」
剣幕に押され、上手く返答できない。
……暇だったから、なんて言えないしな。
しかし、確かに今までの俺の行動はそれを暗に示しているようにも取られるか……。アリシアはきっと俺に役立とうと思って魔法の練習をあんなに頑張ってたのに、はからずも傷付けてしまっていたらしい。
「い、要らないのなら、今言ってください。私、素直にいなくなります。引き留めたりなんて、しません、から。」
アリシアがしゃくりあげる。
ったく、俺は何をやってるんだか。
「そうか、俺のこれから言うことに従ってくれるんだな。」
「……はい。」
頷いたアリシアの頭に手を置き、俺はそのまま明るい金髪をくしゃくしゃにしてやった。
ったく、馬鹿な事で悩むなよな。
「ひゃ!」
身じろぎするアリシアに言い聞かせるように、ゆっくりと話しかける。
「付いてきてくれ。俺にはお前が必要なんだよ。まだ短い付き合いだけどな、アリシア、俺はお前のことを本当に頼りにしているんだぞ?お前が要らなくなることなんて無い。何があってもだ。」
最後の方は恥ずかしくて耳元に囁くようになってしまった。何だよこれ、愛の告白か何かか?
「本当に?私、なにもしてあげられませんよ?」
「何を言ってるんだ。俺には火をおこすことも傷を癒すことも何も出来ないんだぞ?」
「この頃、回復ポーションの前でよく立ち止まっていましたよ?」
やべ。
「……気のせいだ。」
「気のせいなんてあぅ……。」
なおも反論しようとするアリシアの頭を抑える力を少し強くして無理矢理止める。
……ポーション用に作ったベルトは消しておこう。
「なぁ、アリシア。俺はお前と出会えて幸運だと思っているんだ。俺の方からお前にパーティーを抜けてほしいなんて思うことは絶対にない。はは、むしろ俺の方がお前に追い出されるんじゃないかとヒヤヒヤしてるよ。」
「そんなことはしませんけど、本当に、本当に私は要らない子じゃありませんか?」
アリシアはぐいっとこちらを見上げてくる。
「ああ、当たり前だ。」
そう言って笑って見せ、そして照れ臭さに頭をさらにワシャワシャと強く撫でた。
「だから安心しろ。少なくとも俺がお前を見限ることなんてない。むしろ俺はお前にいつまでもついてきて欲しい。いいか?」
「はい。」
すると、アリシアは憑き物がとれたような顔で笑ってくれた。
どうやら無事に疑念は晴れたらしい。
良かった、本当に。
「よし、じゃあ俺は今からネルを俺達のパーティーに引き入れに行く。一緒に来るか?」
聞くも、アリシアはうんともすんとも言ってくれない。
「アリシア?」
まだ怒ってらっしゃるので?
「付いてこいって言ったのはコテツさんですよ?」
「はは、そうだったな。ほら行くぞ、アリシア。」
「はい!」
良い返事だ。少し目が赤いがそれは見なかったことにしよう。
「で、朝ご飯は食べたのか?さっきまで寝てただろ?あと、すごい寝癖が付いてるぞ。」
「あ、後で勝利のお祝いにたくさん食べさせてください!あと、これはコテツさんのせいです!」
軽くちゃかすと、慌てたように自身の頭を両手で抑え、早口で捲し立てられた。
「はは、任せとけ。」
賭けに負けた冒険者を尻目にたらふく食ってやる。
「遅い!」
ギルドに入ってすぐ、いつもの受付嬢の制服ではなく、マントに身を包んだネルに怒鳴られた。
「いや、すまん。アリシアがイタタ……。」
満腹亭前での顛末を言いかけたところでアリシアに手をつねられた。
はいはい、分かったから。とその手を優しく外させる。
「……アリシアがネルをパーティーに入れるのに反対してな。」
「コテツさん!」
いや、泣いたこととか言ってないだろ?
「え、そうなの?」
するとネルが見るからに落ち込んだ。
こいつ……もう正直にパーティーに入りたいって言えよ!
「いえ!そんなことありません。」
「ああ、心配要らない。俺が説得した。」
「コテツさん、後で話があります。」
慌てて言ったアリシアに同調して言うと、またもや手をつねられた。
「はは、勝負のあとにしてくれ。」
咄嗟に言い訳が出てこなかったんだよ。
「そうそう、勝負だ勝負!ボクはまだパーティーに入るとは決まってないんだからね!」
「「はいはい。」」
どうせネルの目的は先輩風吹かせて、しょうがないなぁとか言いながら加入する事だろう。
アリシアもそれは既に察してしまっているらしい。
「くっ、もう二人して……。」
「で、闘技場はどこだ?」
「あのドアの向こうだよ。じゃあ先に行っておくね。」
聞くと、ネルはそう言って身を翻し、さっさと自分が指し示した部屋へ行ってしまった。
「あら、あなたがネルを引き入れようって人?」
「大丈夫?あなたってこの前登録した人でしょ?」
「ネルは強い。生半可な覚悟だと、痛い目見る。」
そんなネルの後に続こうとすると、彼女以外の受付嬢3人がやって来た。
誰一人として、勝敗に関して直接的なことを言わないのは、流石受付嬢ってところかもしれない。
それでも、雰囲気で、彼らがネルの勝利を信じているのが何となく伝わってくる。
「ネルが勝つと思うなら満腹亭で賭けてきたらどうだ?全員大損させてやるよ。」
「ふふ、威勢がいいのね。」
「まぁ頑張ってねー。」
「賭けてくる。」
「「ちょっ!」」
そして一人を二人が追う形で三人は走り去っていった。
さて、気合いも入ったし、頑張るとしますか。
「来たね。」
扉の向こうには広い石畳の舞台と小さな観客席が設置されていた。
にしてもギルドって広いなぁ……。ここもしっかり屋根までついてるし。
「こっちだよ!ほら、早く!」
そして自分の実力を見せ付けたくてうずうずしているネルはそんな舞台の真ん中に立っていた。
装備は黒いマントのせいで見えず、手には短剣。細い腰にベルトをつけているのが辛うじてわかる。
「じゃあ、行くよっ!」
そして舞台に上がって数歩進んだだけの俺に向け、ネルは不意打ち気味に駆け出した。
おいおい、そこはこのコインが地面に落ちたらとか、そういうのはないのか?
俺の内心の声が聞こえるはずもなく、ネルは数歩先でベルトに手をあてたかと思うと、そのまま投げナイフを2本飛ばしてきた。
すかさず仰け反り、それらをかわす。
……マトリ○クスを思い出すな。まぁ、今回は銃弾じゃあないけれども。
ていうかこの闘技場、師匠達と戦ったときに使った、致命傷を受けると転移するあの結界のような物は施してあるんだろうな!?
そんな事を考えている内に、俺を間合いに入れたネルは短剣を逆手に握って振り上げた。
その顔に浮かんでいるのは失望の表情。
ったく、舐めすぎだろ。
仰け反ったまま手を地面につけ、降り下ろされる短剣のつかを蹴って攻撃を防ぎ、もう片方の足の裏でネルの腹をとらえ、強く押すように蹴飛ばした。
勢いに逆らわず、彼女はそのまま距離をとる。
「あれで決まったと思ったのか?舐めすぎにも程がある。」
相手を蹴った勢いで姿勢を直し、小馬鹿にするように首を振ってみせる。
「ただの小手調べだよ。ほら、君も剣を出していいよ。」
ネルは左手で懐から短剣を懐からもう一本取り出しながら言い、
「ハンデだよ。俺を殺せそうだったら使ってやる。」
対する俺は笑い、挑発した。
相手の顔が微かに歪む。
「すぐ使うことになる、よ!」
そう言って彼女が右手を振ると、俺が蹴飛ばした短剣が右手に吸い寄せられ、掴まれた。
どうやら彼女は短剣の二刀使いだったらしい。
「あまり迂闊なことを言わない方がいいぞ。後で弄られるから。」
主に俺に。
「このっ!」
さらなる俺の挑発に、ネルが地を蹴って走り出した。
さっきとは違い、短剣を始めから逆手に持ち、その軌道はジグザグ。
黄色の魔素を纏わせているのか、短剣の刃がバチバチと音を立てて刃が明滅しているのが分かる。
稲妻の軌道で接近し、彼女は真横から俺に襲ってきた。
狙いは喉。
……実際の攻撃は一瞬、流石は閃光ってところだろうか?
素直に感心しながら、首もとへの剣を、ほんの少し仰け反って避ける。
「よっと。」
「え、あ!?」
同時に通り過ぎるマントを掴み、進行方向とは逆に引っ張った。
マントが引っかかってネルの上半身は後ろへ、下半身は前へ進もうとし、結果、ネルの上体が上を向く。
すかさず彼女の踵を蹴飛ばし、上半身を左手で下に軽く押す事で、俺はネルを背中から石畳に落とした。
もちろん、危ないので後頭部には足を置いてクッションに。
「かはっ!」
背中から落ちた衝撃で肺から空気が一気に吐き出したネルを見下ろし、笑って聞く。
「で、納得したか?」
勝負ありだとは思う。
それでも、これで終わると本人は納得しないだろうし、俺としてもネルの実力を測れなくて不都合だ。
「ゴホッ、まだまだっ!」
ネルが足を振り上げ、俺は身を逸らす。
そのまま首はねとびで距離をとると、ネルはマントを脱ぎ捨てた。
長く、白い手足が露になる。
マントの下は動きやすさ重視のためか胸当てとホットパンツ型の下衣に長めのブーツという出で立ちで、へそ周りや足の大部分を外に晒していた。
「はは、目に毒だな。ったく、美人なのも武器ってか?」
正直言って眩しい。目のやり場に困る。
それにこれじゃあ剣を封じられたも同然じゃないか。
「う、う、うるさい!その手には乗らないからね!この装備……性能はいいんだよ?ただ、ちょっと見た目がアレなだけでろ……。うぅ、だからマントを脱ぎたくなかったんだよ……。」
手に乗るも何も普通に綺麗なだけだぞ?
「まぁ、いいか。ほら、いつでもいいぞ、来い。」
「疾駆!」
ネルの足が蒼白い光を纏い、先程までとは比べ物にならないスピードで接近。
その両手の得物を閃かせた。
どうやらネルは自身のギアを段階的に上げて、俺の力量を図ろうとしていたよう。
そしてこの様子だとこれが全力のようだ。俺の力量が高い部類であることを察してくれたらしい。
不規則に閃く幾つもの剣線はしかし、師匠のそれとはやはり見劣りする。……まぁもしもこの世界があんな剣士ばかりだ溢れかえってたら、それはそれで恐ろしい物がある。
電撃を纏う刃を危なげなく避け、時には後退、さらには牽制に踏み込みながら、ネルの攻勢に付け入る隙を待つ。
「はっ!」
短剣が俺の体の中心を狙って突き出され、俺は後退してその切っ先から素早く逃げる。
そして短剣の勢いが減衰しきった瞬間、ネルの伸びきった右手首を掴みにいく。
しかしすらりと長い腕は素早く戻されてしまい、ネルは反対の手の短剣をフック気味に俺の顔へ大振り。
よし、ここだ!
「っと。」
疲労からか、大雑把に振られるネルの左腕。その二の腕に俺のそれをあてがい、内側から押し、肘を支点にくるりと回して腕を絡める。
そしてそのまま彼女の肘を掴むことでその腕を完全に固めた。
「しまッ!?」
ネルは即座に引こうとするも、もう遅い。
掴んだ肘を強引に下へと引っ張れば、彼女の肩甲骨辺りが相対する俺へと向けられる。
「うッ、くぅぅ!」
「俺の勝ちだな?」
完全に動きを極められ、しかしそれでも何とか脱出しようともがくネルの喉元に手を添えてそう言うと、彼女はフッと抵抗を止めた。
「……。」
降参とか、負けましたとか、言えばいいのになかなか言ってくれない。
不貞腐れてるのか?
「俺の力量は確かめられたか?」
「……そりゃ、まぁ。」
なるほど、不貞腐れてるのか。
「そういや、剣はすぐ使うことになるんだっけ?」
「うるさいなぁ!もう、負けました、はいこれで良いでしょ?」
「はは、とにかく約束だ。パーティーに入ってくれるよな?」
不機嫌な声音に笑いながら、俺はさっさと手を放してやり、一番肝心な事を聞く。
「う……うん。」
消え入るような声。まぁ、良しとしよう。
「じゃあこれからよろしくな。おねーさん?」
茶化し、握手しようと手を差し出す。
「くっ、この……」
しかしネルは握り返してくれない。
そのまま片手を出した体勢で立つこと数秒、もしかしてこの世界に握手の文化が無いのだろうかと思い始めた頃、
「……このままやられっなしでたまるかぁッ!」
ネルは手ではなく足を、大きく振り上げた。見事なスピードとキレのハイキック。
「うおっ!?」
意表を付かれたものの、俺の体は案外冷静だった。
迫る長い脚をヒョイとしゃがんでかわしてしまい、地に着いているネルのもう片足を払う。
「え?ひゃあ!?」
そして支えを失った彼女が背中から落ちてくるところを片腕で支え、後から落ちてきた足をもう片腕で受け止めた。
俗に言う、お姫様抱っこというやつの完成である。
ふぅ、鍛えていて良かった。ここで失敗してたら恥ずかしいことこの上ない。
「ちょ!?ちょっと!?」
真下からの抗議は無視。
「おーいアリシアー、帰るぞー。」
「はい、お疲れさまでした!」
観客席の一番前で見ていたアリシアに声をかけ、腕の中で慌てふためくネルはそのままに、俺はギルドの中央広場へと歩いていった。