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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第四章:出世しやすい職業
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123 キャラバンでの日々①


 「……これからギガンテ雪山に着くまでの間ですが、よろしくお願いします。」

 団長のテントの中、持参した椅子や箱に座った他のパーティーのリーダー達の前に立ち、俺は簡単に自己紹介と簡単な挨拶を行った。

 つまりは顔合わせという奴である。あと、キャラバンについての簡単な説明もしてくれるらしい。

 ちなみに、座るものを用意していなかった俺は立ちっぱなしだ。

 「と、いうわけで、反対する人は、いるかな?」

 司会は団長のベンがしている。

 「団長、キャラバンの食料は足りるのか?」

 「余裕は、あるから、問題ない。」

 「そいつらの馬車は何処に?」

 「恒例通り、最後尾、だね。」

 「実力はあんのか?足手まといはごめんだぜ?」

 「さぁ、少なくとも、彼は、セラの、奇襲には、しっかりと、反応していたね。危うく、セラが、殺される所、だった。」

 ほぉ、と感心したように全員が息を吐く。どうやらセラはここにいるほとんど全員に出会い頭の奇襲攻撃を行ったらしい。

 ……危なっかしいにも程がある。

 「手に入れた物の分け方はどうなるんだ?」

 幾つかの質問がなされ、ベンがそれに一つ一つ答えて相手を納得させる作業が続いていたが、最後の質問で空気が変わった。

 ベンがこちらを見てる。

 ……俺が言え、ということらしい。

 「食料だけを十分に回してくれれば、それで良い。その他の素材とかはいらないから、好きにしてくれ。」

 フェリルとシーラが何か文句を言ってくるかもしれないが、どうせ後で神器を譲るんだから、とでも言って納得してもらおう。

 俺の言葉に、周りがホッと息をつく。

 中には馬鹿を見るような目で俺を見る奴もいるが、無視させてもらおう。

 「大丈夫、みたいだね。他には、何か、あるかな?」

 ベンが問いかけ、懸念事項が解決したからかもう質問は飛んでこない。

 「よし、今日の、集まりは、ここまでに、しようか。明日、日が出る頃に、出発するから、準備しておくこと、じゃあ、解散。」

 「「「「「うぃーす。」」」」」

 リーダー達がそれぞれ返事をし、持ってきていた椅子や箱を持ってテントから出ていく。

 後で話があるとあらかじめ言われていた俺はその場に残った。

 ベンは渋るセラをテントから文字通り押し出した後、俺に向き直って真剣な顔で口を開いた。

 「それで、コテツ君、だったね。聞いていたと、思うけど、移動のとき、君達の、馬車には、最後尾を、走ってもらう。」

 「ああ、確かにそう言ってたな。」

 「それで、このキャラバンにおける、ルールを、知っておいて、ほしい。」

 「分け前の事なら、さっき言った通り、食料だけで十分だぞ?」

 ベンの言葉を予想してそう言うと、そうじゃないと首を振られた。

 「この、キャラバンには、序列制度のような、物があるんだ。そして、すまないけれど、君達の、パーティーは、底辺として、扱われることになる。」

 「……だから最後尾なのか?」

 「ああ。序列を、分かりやすくするには、馬車の場所を、決めた方が、分かりやすいから、ね。すまない。」

 首肯し、ベンは申し訳なさそうな笑顔を見せた。

 ベン本人はこの序列制度にあまり賛成はしていないらしい。

 だが荒くれ者の冒険者を纏めるにはそれが手っ取り早いのだろうから、部外者の俺からは文句はあまり言えない。

 「はぁ、別に俺は構わないさ。確実にギガンテ雪山に辿り着けるんならな。」

 「それは、保証する。」

 「それなら文句はない。むしろ食料がしっかり貰えるだけありがたい。」

 「話が早くて、助かるよ。外側の馬車は、移動中は、見張り役だから、それも、頼む。」

 「了ー解。」

 ベンの言葉に頷き、俺はテントの外へ出た。

 そして素早く屈み、襲ってきた剣の軌道から逃れる。

 剣の持ち主は、やはりというかなんというか、ベンの護衛騎士、セラだった。

 「俺、何かしたか!?そりゃまぁ昨日は王族と知らずに握手をしてしまったけれども、敬語を使わないことは向こうも了承してるんだぞ?殺す必要はないだろうが!」

 「別に殺すつもりはなかった。……貴様は、気配察知スキルを持っているのだな?」

 どうやら本当に俺の首を切り飛ばすつもりは無かったらしく、見るとその剣は俺の首があった位置の少し手前で止められていた。

 フン、と鼻息を荒くし、セラが剣を腰の鞘に収めたのを確認してから立ち上がる。

 「まぁほら、一応、な。」

 「そうか……分かった。ただ気になっただけだ。貴様は最後尾のパーティーだったな、ベン様のために、励め。」

 俺を睨み付けて言い、セラはテントの中へ入っていった。

 何が分かったんだろうか?……まぁそれは今考えても仕方がない。

 俺は、昨日疲れていたせいでしなかった、キャラバンの探検をしながら自分の馬車へと歩いて帰った。



 「あ、リーダーお帰り。集会ってどうだった?」

 馬車に辿り着くと、フェリルが迎えてくれた。

 両手両足を縛られて転がされた状態で。

 ……やっぱりバレたか。

 そもそも昨日の夜の間に帰ってこなかった時点でこいつはアホだと俺の中での評価は固まっている。

 まぁ、昨日の夜、帰ってこなかったおかげで助かった部分は結構あるが……。

 「昨夜はどうだった?」

 「素晴らしかったよ。やっぱり人間の子って良いね。」

 ……どう〝良い〟のかは聞かないでおこう。

 「そうか。まぁ出発は明日の朝早くらしいから、夜更かしはやめておけよ。」

 「了解。それでさ、リーダー。この縄をほどいてくれないかい?」

 「置いていきはしないから安心しろ。」

 「リーダーァァ!」

 俺は懇願の声を無視。自由に休憩している馬達の背を撫でて、御者台から馬車に乗り込んだ。


 「シーラ、フェリルは……」

 「何で貴方はフェルを止めなかったの!」

 馬車に入り、一応、という感じで聞くと、シーラに半泣きで怒鳴られた。

 「いや、俺が気付いたときにはもういなくてな……。」

 俺は咄嗟に保身に走る。

 「あなたは気配察知スキルを持っているのでしょう?」

 「いやぁ、久しぶりに安心して寝れると思ってな、ついつい熟睡してしまったんだ。」

 「そう、なら良いのだけれど……。」

 言葉では納得してくれたが、顔は猜疑心でいっぱいだ。

 本当に、俺の信用はいったいいつ、どこで、ここまで失墜してしまったのかね?

 『日頃の行いじゃ。』

 へいへい。

 その場に胡座をかいて頬杖をつく。

 「えっと、それで連絡だが、出発は明日になった。それで、キャラバンの一番外側にいる俺達は移動の際に見張りをすることになってるらしい。あと、ここには序列制度みたいな物があるらしくてな、俺達は一番下だ。ちょっと理不尽な目に会うかもしれないが、数週間の辛抱だ。できれば耐えてくれ。まぁ、さすがに酷ければキャラバンを抜けるから。」

 朝の集会での一通りの事を話し終え、他のパーティーメンバーを見る。

 「ひくっ、フェルのばかぁ、あほぉ。」

 シーラは泣きながらここにいないフェリルを罵倒していて、俺の話を聞いていない。一見するとフェリルが戦死でもしたみたいだ。

 『美化が過ぎるじゃろ。』

 いやもう、全く。

 はぁ、とため息をついて視線を巡らすと、ルナと目が会った。

 ルナの顔が少し紅潮し、そして見る人を見蕩れさせるような微笑が浮かぶ。

 つい目を逸らしてしまう。

 いかんな、意識しすぎてしまってる。ったく、あれだけで気にしてしまうとは、子供か俺は。……落ち着け。

 「ご主人様、どうかしましたか?ふふ。」

 俺の背中から寄りかかり、わざもらしくそう聞いてくるルナ。

 このやろう。

 「あーいや、何でもない。」

 素っ気なく言うと、耳元にむぅ、と不満そうな声が聞こえてきた。

 「どうかしたか?」

 「いいえ?何でもありませんよ?」

 「そうか……ユイは今の説明で何か気になるところはあるか?」

 「序列制度がある、というところかしら?でも新人が地位的に下に見られるのは珍しいことではないわ。ただ、具体的にどういう扱いを受けるのかが気になるわね。」

 「ま、そうだな。そんな扱いを受けることなく、なるべく安全に、穏便にギガンテ雪山に辿り着きたいしな。」

 「ええ、そうね。……それは無理なようだけれど。」

 「は?」

 聞き返すと、ユイが外を指差すシーラを指差した。

 「うぇぇ、フェルなんて縛られたまま、あのコボルトの群れに投げ込んじゃえぇ。」

 え?

 見ると、ゆるやかな坂の上で遠目に土煙が見えた。目を凝らすと、顔が犬の人型の魔物が走ってきているのが分かる。

 流石は遠距離職、目が良いな。

 ……フラグ回収って奴ですかい?

 「ユイ、キャラバンの先頭に団長のテントがあるから、コボルトが襲ってきたって言っておいてくれ。テントは一番大きいやつだ。すぐ分かる。あ、あと行き掛けにフェリルの縄はほどいてやっておいてくれ。」

 「はぁ、あなたといると大変ね。分かったわ。」

 もうこういうことに慣れたのか、ユイはため息をはいて苦笑し、御者台から飛び降りた。

 ……別に俺のせいじゃ無いとは思うんだが。

 「ルナ……」

 「ええ、分かっているわ。狙いは足ね?」

 「その通り、頼んだ。……シーラ、ほらもう泣くなって。」

 早速馬車の後方に降りてフレイムアローを撃ち始めたルナに感謝しつつ、泣きべそをかいているシーラの肩を揺らす。

 「だってフェルがぁ……」

 「だぁーもう、あいつが好きだってのはよく分かったから。」

 「なっ、何のことか……。」

 「お前が何も言わないからフェリルは娼婦を買うんだぞ?だから個人的に、俺はフェリルが悪いとは思ってない。あとほら、そんなことで泣くなよ。」

 「「そんなことじゃない!」」

 「あ、ハイ。」

 ルナにまで怒られた。

 「とにかくシーラ、早く泣き止んでルナに協力してやってくれ。」

 「……分かった。ぐずっ。フェルなんて死んじゃえ!」

 顔を纏ったローブでゴシゴシと拭き、シーラはルナの隣に立って、鬼気迫る表情で魔法を放ち始めた。

 「よいしょ、あ、やってるやってる。」

 フェリルが入ってきたのでフェリルの弓を投げて渡す。

 「フェリル、今まで活躍が無かった分、頼むぞ。」

 「あ、酷いなぁ。僕がこれまであまり活躍出来てなかったのは、敵がどれも弓じゃ相性が悪かったからだよ。それにこのキャラバンまで逃げていたときはそれなりに活躍してなかったかい?」

 「はいはい、分かった分かった。」

 適当に返し、弓を作り上げる。

 「……リーダー、それは僕への挑戦ととっても良いかい?」

 「フッ、無謀な挑戦はやめておけ。」

 「ほほぉ。」

 全くの誤解でしかないが、ちょっと面白そうなので挑発すると、フェリルはしっかりのってくれた。

 馬車の後ろの左端に立ち、矢をつがえる。

 「よぉし、分かった。人には見せたことないけど、僕の底力を見せてやる。」

 「はいはい、まずは一匹。」

 言いながら矢を放ち、コボルトの眉間を貫いたのを確認しながら2本目をつがえる。

 同時に右端に立ったフェリルが矢を放ち、蒼白い尾を引いて、その矢はコボルトの頭を貫いたあと、その背後にいたコボルトの首に刺さった。

 ……スキルかよ。

 「あれ、リーダー、何匹って言ったっけ?」

 放った2本目を空中で二つに裂き、無理矢理コボルトの心臓と首に刺す。

 「三匹だが何か?」

 「あ、ズッル!」

 「何がズルいだ!弓術をスキルに昇華してるなんて聞いてないぞ!」

 「それくらい良いじゃん!リーダーだって剣術をスキルに昇華して……」

 「……はい五匹。」

 「……リーダー、良い性格してるね。」

 「おう、俺の数少ない誇れる部分だ。」

 ジトッとした目を向けてきたフェリルを見下したように嘲笑って見せ、次の矢をつがえる。

 「剣士なんかに負けて堪るか!フッ!」

 流れるような動作で矢が放たれ、着弾点に氷の柱が四方八方に向かってそそりたつ。

 そこに密集していたコボルトは氷に打ち上げられ、もしくは突き刺される。

 「リーダーごめん、何匹やったか分からなくなっちゃった。」

 「お前、魔法だけを使っている奴に固有魔法とスキルだけじゃ飽きたらず、普通の魔法まで使って勝って嬉しいか?」

 「それは僕の勝ちってことで良いかい?」

 「あぁ!?」

 「どうしたんだいリーダー、変な声を出して?」

 凄んでみるも、フェリルの飄々とした態度に流される。

 それも、俺がさっきしていたよりも絶対に酷いであろう嘲笑のおまけ付きで。

 『大して変わらんわい。』

 そうか?

 弓を霧散させ、黒龍と陰龍を両手に作り上げる。

 「……突撃してくる。」

 「「「却下!」」」

 呟くと、そこにいは三人全員に猛反発を食らった。

 「ご主人様は敵の数が見えないの!?」

 「ここで突撃するなんて馬鹿なことは言わないで!」

 「リーダーを行かせたらまたユイちゃんに怒られるから、突撃するならせめてユイちゃんに一言言ってね?」

 「またって……。そんなに嫌なのか?」

 「「「(コクッ)」」」

 さいですか……。

 俺は弓を作り直して矢をつがえた。


 しばらくすると俺達の周りの馬車の冒険者達もコボルト達に気付き、それぞれ魔法を放ち始める。

 たった四人ではコボルトの進行を阻むことは無理に等しいが、これなら何とかなるかと思ったのも束の間、コボルトの軍勢が坂を端から端まで覆い尽くしたのが見えた。

 「多すぎるだろチクショウ!」

 「ご主人様、ドラゴンロアを……」

 「待て、この様子だとまだまだコボルトがいる可能性がある。そしてその場合、ここでお前に戦線離脱をされたら困る。」

 ユイはまだなのか!?

 コボルト達は坂という地形の効果で段々勢い付き、矢や魔法で倒れた仲間をそのまま踏みつけて走ってきている。

 「ルナ、これはもう仕方ない、迎え撃つぞ。」

 「ええ、分かったわ。」

 馬車から飛び降り、つがえていた矢を放つ。もう狙いなんぞ付けなくても矢は当たる。

 「二人は俺達の援護を頼む。ユイには、まぁ説明しておいてくれ。」

 「それは自分でやってくれないかい?」

 「無茶言うな。」

 ユイの奴、分かってくれるかね?

 「……なぁフェリル、あいつもこの状況なら分かってくれるよな?」

 「ユイちゃんは誰かが傷つくのを極端に嫌うっていうか、怖がってるみたいだから、無傷で帰って来れば大丈夫じゃないかな?」

 「……じゃあ行ってく……グエェ!?」

 コボルトに向き直った次の瞬間、俺は呼吸困難に陥った。

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