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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第四章:出世しやすい職業
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120 復活の指輪


 「ヘルブレイズ!」

 微動だにできないエルダーリッチの叫び声が地底の空洞をこだまする。

 その側で胡座をかき、リッチを包み込むように無色魔素を送り続けている俺は、大して驚くことなく無色魔素の維持を続ける。

 「無駄なのはもう分かっているでしょう?さっさと核の場所を教えなさい。」

 ユイが怒りを含んだ声を出し、頭蓋骨を踏みつける。

 死体を粗末に扱うなと言いたいが、リッチは俺に拘束されてから何十回と同じことを繰り返しているので誰も文句を言いやしない。

 「はぁ、じゃあ核はいい、神の作った物の場所を教えてくれ。他の物はいらない、そのまま残しておくから。」

 「駄目だ。口が裂けても言うものか。墓を守るのが我が使命、今は亡き主に示された唯一の存在意義だ。」

 ……もう裂ける頬も何もないだろうが。精々骨が砕けるぐらいか?

 「ねぇ、どうしても尋問する必要はあるのかしら?」

 「この空間の隅っこに埋められてる可能性だってあるんだぞ?」

 業を煮やして聞いてきたユイに素っ気なく答える。

 「そう……それを探すのは遠慮したいわね。」

 分かってくれたようで何より。

 で、爺さん、ヒント。

 『こうなれば地道に探すしかないじゃろうな。』

 おいおい、それは勘弁してくれ。

 「はぁ……ルナ、フェリル、シーラ、こいつの核は見つかったか?」

 ため息をつき、地に縛り付けられて身ぐるみを剥がされ、骸骨を隅々までを、俺の作ったハンマーを片手に調べている三人に声をかける。

 流石に命を危険にさらされれば口を割るだろうと思い、脅迫材料として持たせたのだが、結果は芳しくない。

 ちなみに俺とユイの役回りは尋問班である。

 「すみません、まだです。少なくとも左足にはありませんでした。」

 「胴体には無いよ。」

 「右足にも核はないわね。」

 核の大きさはアンデッドの能力に関わらず完全にランダムであるため、かなりの神経を使いながら、時間をかけて行った作業の成果を三人が報告する。、

 じゃあ残りは腕か……。

 「ほら、早く吐かないと死……?まぁいいや、死ぬぞ?お前が守ってた墓ってたぶんあの柱だろ?お前が死んだら俺達は迷いなくあの柱を壊して中を見るぞ?良いのかそれで?」

 「良いわけ無いだろう!この墓荒らし共が!」

 「俺達の目的は神器だけだ。さっきも言ったが、他は何もいらない、手をつけないと約束しよう。」

 「随分と甘いのね……。はぁ……、それで、あなたは今の自分の状況が分かっているのかしら?ここが誰の墓なのかは知らないけれど、あなたはそれを守るように言われていたにも関わらず守れなかったのよ?この墓は実質的に私達の自由だと言うことを忘れていないかしら?それでも、圧倒的優位にいるのは私達なのに、私達はあなたと取引してあげようとしているの。取引に応じればあなたはこれから先もこの墓を守れるわ。そして応じなければこの墓は荒らさせてもらうわよ?つまり、あなたはその唯一の存在意義すらも貫けない低能ということになるわ。……さて、どこまで上から目線でいるつもりなのかしらね?」

 グリグリと足で頭蓋骨を地に押し付け、どちらの立場が上なのかを明らかにさせるユイ。

 「……」

 「まだ答えないのね?……フェリルさん。」

 「何だい?」

 「右肩を粉々に砕いてくれないかしら?」

 「了解。」

 そして、リッチの肩が形を無くした。

 本当に粉砕されるとは思わなかったのか、身震いするのがワイヤーで感じ取れた。

 「次は肩から肘まで、そして二の腕、次に手首、最後に指を砕くわ。さぁ、答えなさい。」

 凄み、髑髏を踏みつけ直すユイ。

 「……」

 返事がない、まるで屍のようだ。あ、屍か。

 「フェリルさん、シーラさん、ルナさん、こいつの右腕を一度に全部、粉々に破壊して。」

 「なっ!?」

 「分かりました。」

 「容赦ないね。そんなところも僕は……」

 「フェル?早くして、私の手が滑っても知らないから。」

 そして、リッチが漏らした声は完全に無視され、右腕は跡形もなくなった。

 「次は……」

 「分かった!分かった……。貴様らを、信じよう。」

 今更信じるもなにも無いだろうに……。

 「フフン。」

 おいユイ、得意気にこっち見て笑うな。俺が基本的に誰に対しても強く出られないってことは自分でもよく分かってるから。

 「おそらく、お前たちの探しているのは私の左手の中指に嵌めてある指輪だ。」

 観念したリッチは、寝たままそう言った。

 「……墓に入ってないじゃないか。」

 何が墓荒らしだ。ていうか、武器じゃないのかよ……。まぁ、無いよりはマシか?

 「考えていることは分かる。これは今は亡き我が主に貰った物で、我はこれも守るべき対照して……」

 「取引成立ね。ほら、あなたが本物かどうか判断するのでしょう?」

 ユイはが会話に割って入り、指輪を回収、俺へと放り投げる。

 「最後まで聞いてやれよ……どれどれ。」

 片手で指輪をキャッチ、眺めてみる。

 指輪は青みがかった黒色をしており、表面には赤く細い線がスッと一本通っている、シンプルなデザインが施されていた。

 さて、鑑定!



 name:復活の指輪

 info:冥府神ハーデースの加護を受けた指輪。疑似の魂を内部で精製しており、指輪で死体に触れることで指輪の保持者に従順なアンデッドとして蘇らせられる。どのような種類のアンデッドになるかは死体の状況及び生前の能力で左右される。指示は指輪を通しても行われる。



 復活、ねぇ……。これは果たして復活なんて言って良いのかね?

 「どう?」

 「ああ、問題ない、本物だ。なぁリッチ、ここでアンデッドが大量発生してたのもこいつのせいだったんだな。」

 言いながら、右の中指に手袋の上から指輪を嵌める。

 サイズは自動で調節された。魔法の力ってスゲー。

 「主の命を守るためだ。」

 立派な忠誠心だこと。

 「あ、核があったわ。指輪で隠していたのね。」

 「望みの物は渡したはずだ!」

 「分かってるさ、約束は守る。指輪は俺が貰うが、その状態でここを守り続けられるのか?指輪が無くなればあのアンデッドを制御できなくなるんだろ?」

 「我はリッチ、偉大なるエルダーリッチだ。ならばこそ、魔法を使えるのならば十分。……我が新たなる主よ、どうか、引き続き我にここを守らせてくれまいか。」

 あ、そうか、俺はこいつの主人ってことになるんだな。

 ……良いこと思い付いた。

 爺さん、……



 爺さんに転移魔法陣の作製を指導してもらい、俺としては全く意味不明な幾何学模様を墓所の壁面と指輪の側面に刻み込んだ。

 『お主は魔法陣自体の才能は皆無なくせして魔力の強さとその器用さは他の追随を許さんのう……。魔法陣の才能は皆無じゃが。』

 うっせぇよ、一言余計だ!

 「よし、お前は引き続きここを守れ。そして俺が呼んだらこの魔法陣を通して助けに来ること。」

 せっかくのエルダーリッチだ。作ったアンデッドがどのような物になるかはほぼランダムらしいし、有効活用しない手は無いだろう。

 『さっき死体を粗末に扱うななどと言っていた者とは思えんのう。』

 「承った。ここの守りを続けられるのならば異論はない。感謝する、我が主よ。」

 言葉は立派だが、発しているのはガリバー旅行記を彷彿とさせるように地べたに縫い付けられたリッチなものだから、見た目結構シュールである。

 もう少し早く放してやるんだった、と後悔しながらもリッチの拘束を解き、無色魔素の操作をやめる。

 むくりと起き上がった片腕のリッチは、そのまま俺に一礼すると、中央の柱へと歩いていった。



 「あなたは魔法陣には疎いと思っていたのだけれど、転移魔法陣を描けるなんて驚いたわ。いつの間に習得したの?」

 ヘール洞窟から出てフェリルが指笛で呼んだ馬車に乗りこんで開口一番、ユイが聞いてきた。

 不思議なことにパーティーは皆、来たときと全く同じ場所に座っていて、既にそこが自分の場所だと暗黙の了解をお互いにしている。

 「いや、そんなことよりも聞くべきことがあるだろ?神器の効果とかなんとか。」

 仮にも神と念話ができるなんて知られたら面倒になるのは目に見えてるので話題を逸らそうと試みる。

 「その神器の効果はおそらくアンデッドの支配ってところでしょう?洞窟から出るときはアンデッドに襲われなかった上に、あのリッチがあなたにお辞儀をしていたじゃない。合ってるかしら?」

 「……ご立派な推理力で。まぁ魔法陣はほら、便利そうだなぁって思ったからな。」

 よし、嘘じゃない。

 「そう……。」

 「そういえば今回がこのパーティーでの初めての戦闘だったろ?何か反省点があれば直していこう。」

 ユイが何かを言い淀んだ隙に別の話題を提示すると、御者台に腰掛けたフェリルがパッと手を挙げた。

 「シーラが相変わらず破天荒でハラハラしたよ。いやー、まさかエルダーリッチに魔法戦を挑もうって本気に考えるとはねー。」

 「うっ、フェルだって……」

 「ん?僕はリーダーのピンチを救ったりカバーをしたり、アンデッドに対して弓を使ったにしては結構活躍したと思うよ?シーラは何したっけ?」

 ニヤッニヤしながらフェリルがからかう。

 「わ、私だって、あのリッチを氷柱に閉じ込めて……「そしてあっさり溶かされて、逆に僕の矢に対する盾に使われたね。あ、あと切札を使わせるきっかけにもなったよね。阻止してくれたユイちゃんには感謝するしかないよ。」……うっ。」

 「ああ、まさかシーラにあんな側面があるとは思いもよらなかった。いつも冷静で、フェリルを率いて戦うイメージがあったのにな。」

 楽しそうなので俺もからかってみる。

 「そんな、そんなイメージを持ってくれてたの?それなのに、私は……」

 「まぁまぁ、俺は元々エルフには物静かで神秘的なイメージを持っていたんだがな、フェリルを見たときは特殊な例外かなと思ったが、今のシーラを見て完全に瓦解したよ。」

 半笑いをしながらどうどう、と半泣きのシーラを両手で落ち着かせると見せかけてさら茶化す。

 「あ、でもシーラさんがああしてなければ私はあんなに簡単にリッチに接近できなかったと思うわ。」

 「ええ、見やすい場所だったので迎撃もしやすかったですよ。」

 流石に可哀想だとでも思ったのか、ユイとルナがそう言い、シーラはユイの方へとすり寄る。

 普段の様子からは信じられない程の変わりようにユイが少したじろぐ。

 「なぁフェリル、シーラは本当にいつも戦闘中とその後はあんななのか?」

 「そうだよ、やっぱり本番は緊張しちゃうんだろうねー。」

 「お前らエルフって人間よりは遥かに長命だろ?冒険者をいったい何年やってるんだ?」

 「うーん、10、20年ぐらいじゃないかな?」

 10年と20年じゃ結構な違いがあると思うんだが、長命種故かね?

 「それなのにシーラはまだ緊張してるのか?」

 「不思議だよねぇ。でも戦いでスイッチを切り換えるのは大切なことだよ。」

 なるほど、ルナにもそんなところがあるしな。

 しっかし、物凄く嬉しそうにしゃべっているな、フェリルは。たぶんこの状況を一番楽しんでいるのはこいつだろう。

 「ご主人様、提案があります。」

 「おう、なんだ。」

 「ご主人様は戦闘が始まって10秒間はなにもしないでください。」

 隣で俺に寄りかかっているルナがいきなり俺の心を攻撃してきた。

 「俺、そんなに邪魔だったか?結構頑張って……うん、まぁドラゴンロアって対象に味方が近すぎると撃ちにくいよな。すまん。」

 反論しようとしてへたれ、素直に謝ると、ルナは慌てたように頭を横に振る。

 その勢いで耳が目に入り、痛みに思わず目を抑える。

 「違います!いつもご主人様は先陣を切って一番危ない戦いをするので、それをもう少し控えて欲しいと、せめて奴隷の私よりも危ない綱を渡らないで欲しいんです!」

 「そんなの、いつもの事だろ?アタタ……」

 俺の様子に全く気付かず、ルナは尚も主張してくる。

 「だからこれを機に自粛して欲しいと!」

 「へぇ、奴隷ちゃんはそんなにリーダーの事が心配なんだ。恋心があったりする?」

 フェリルが今度はからかいの矛先をルナに向けてきた。

 同時に、抜き放たれた二本の刀がその喉元の手前で交差し、フェリルの首に添えられる。

 刀二本ってところで分かったと思うが、フェリルのからかい文句に怒り心頭といった様子なのはからかわれた張本人のルナと、何故か知らないがユイである。

 ユイは本当に何で怒っているのだろう?ルナも含めて、恋愛関係のからかいは許せないタチなのかね?

 「ごめんなさい!」

 「フェリル、一つアドバイスをやろう。……恋する乙女はからかうと怖い。あ、まんまだな……ってギャア!」

 俺が言うと、ユイが俺の首すじに刀を添え直した。

 「誰が恋する乙女よ!」

 「大丈夫だ、まだ行ける!おまえはまだ乙女って言っても誰にも文句を言われないぐらい若いから!」

 実際そうだし。

 「言われるまで事じゃないでしょうそんなこと!」

 じゃあ何なんだよ!?ていうか言われるまでの事じゃないって図々しいなぁおい!事実だけれども!

 「え、ユイちゃんって想い人がいたのかい?」

 「おう、いるぞ。俺はこいつがそいつに再会するまでのお守りも請け負ってるんだ。」

 「斬るわよ?」

 「これぐらい言っても良いだろ?好きなのは本当なんだし。それにフェリルにつきまとわられるのを防げる。」

 「いやいや、そんなことはないよ。むしろ俄然燃えてきたね。何としてもユイちゃんを振り向かせて見せるよ。」

 本人の前で堂々とそう言えるとはさすがとしか言いようがない。

 「ほら、こうなってしまったじゃない。」

 「あー、はは、すまん。まぁほら、嫌になったらシーラに泣きつけば良いだろ?」

 だから刀を戻してください、と目で語りながら刀身をつまんで首筋から引き離す。

 「……まぁ良いわ。」

 刀が鞘に戻される。

 ……ビックリしたぁ、危うく指が切り落とされるところだった。

 「えっと奴隷ちゃん、僕の方も解放して欲しいなぁ、なんて。」

 「分かりました。あとはお任せします、シーラさん。」

 「ええ、任された。フェル、最後に言い残したいことはある?」

 「ユイちゃん、大好きだよ?」

 「コロス!」

 俺、ユイに、ルナはエルフの矢を逆手に持って今にも降り下ろそうとするシーラに飛びかかった。

 嘘も方便って言葉を知らないのかこいつらは!

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