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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第二章:一攫千金な職業
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12 職業:冒険者⑥

 おっさんが昼飯を持ってきた。ローズはまだ寝ている。

 「ビッグボアの味噌焼きと豚汁だ。」

 出てきたのは元の世界の匂いがぷんぷんする料理。しかも白いご飯付きで。

 「わあ、いつもいつも美味しそうですよね。」

 アリシアはなんの疑問も抱いていないよう。

 ……この世界、料理に関しては元の世界と似たような発展の仕方をしてきたのかね?

 『勇者の影響じゃ。スレインの王が言っておったろう?数年後の戦争に参加してほしいと。この戦争は数百年前から数年ごとに行われておっての、その都度勇者を呼ぶものじゃから。こうして文化が浸透しておるのじゃ。』

 戦争か……。そういやそれについてはあのとき爺さんに聞こうとして忘れていたんだった。

 ざっくりでいいから歴史を教えてくれないか?

 『ざっくり、のう……。やろうと思えばどこまでも簡単になるぞ?』

 爺さんに任せる。俺が歴史学者になることはないだろうし。

 『良いじゃろう。……まずこの世界では数百年前まで、多くの小国が本当に戦争ばかりしておっての、それで紆余曲折の後、今の三大国ができたのじゃ。それぞれヘカルト、ラダン、そしてここスレインじゃな。位置関係は三竦みみたいなものになっておって、そのせいで迂闊に動けなくなってしまったんじゃ。……そこで終われば良かったんじゃが、それぞれの国が統一を目指そうとし、今では領土の一部を賭けて散発的に他の一国と不可侵の条約結び、戦争しておる。』

 合意の上での領土をかけたギャンブルってところか。

 それぞれの国の特色ってあるのか?

 『まず、種族が違うのう。スレインは人間とエルフ、ラダンはドワーフと獣人、ヘカルトは総称で魔族と呼ばれる少数民族たちじゃな。国ごとの特色は……そうじゃの、数年ごとの戦争の度に勇者召喚を繰り返していたスレインの文化はお主の世界のそれに最も近いやもしれぬの。』

 ん?じゃあ元勇者とかいるのか?

 『いや、勇者は全員、戦争の後は勇者送還という魔術で送り返されておる。そして彼らは元の世界で報酬でもらった財宝でスローライフを送っておるはずじゃ。』

 俺は報酬なしでもいいからその場で帰せばよかったのに。

 『言ったじゃろ?魔法の名は勇者送還じゃと。』

 ?

 『勇者でないものは送ることができん。勇者という職業に元の世界へ帰るという機能があるんじゃよ。じゃからあの王はああも慌てておったのじゃ。』

 あー……、そういう事か。

 ていうかそれが分かるってことは俺みたいなのの前例が前にいたのな。

 『ふぉっふぉっ、お主のように勇者を辞めた間抜けな者などおらんわい。わしが間違えて殺し過ぎて勇者に初めからなれなかった者なら数人、大昔におったがの。』

 あーそうかい。

 ったく……でも、無理なら仕方ない、か。うん、ここも結構楽しいし……住めば都だ。

 そう思おう。

 「はぁ……。」

 思わず重いため息が漏れ、アリシアかこちらに気遣わし気な目を向けてきたのに、何でもないと首を振って返す。

 『それで、他の二か国じゃが、ラダンはとにかく熱いと言えばよいのかの?文化は豪快の一言。調理法も焼くか塩をかけるかしかない。』

 なんだその適当な説明は。

 『ざっくりでいいと言うたのはお主じゃ。』

 じゃあせめて獣人やドワーフの特徴を教えろ。戦い方とか。

 『戦い方は殴る蹴るが主流じゃな。しかしドワーフは巨大な武器を振り回す。要は種族的な筋力の優位を前面に押し出した感じじゃな。魔色は2つが希にでるくらいじゃ。戦闘を補助するドワーフ製の武具は一級品で、戦争では猪突猛進を体現する。生半可な策は力業で突破するほどじゃな。』

 なんか楽しそうだな。

 『ヘカルトはそれに比べて、穏やかなイメージがあるのう。文化はスレインと同じくらい、魔法が最も盛んじゃから場合によっては越えることもあるかの?魔族というのは魔力がとても強く、魔色も三色はザラじゃ。』

 うわ、勇者スペックがザラとかおかしいだろ。

 『いや、魔法関係は強くとも、身体能力は人間の平均を下回るくらいじゃ。もちろん種族にはよるがの。』

 一長一短があるわけか。

 「どうしたんですか?ボーっとして?」

 と、アリシアがこっちを首を傾げて見ていた。

 「ああ、すまん。いい匂いだったもんでな。」

 そう言って誤魔化し、俺はまず味噌焼きから手をつけた。

 甘辛い味が一口目から口内に広がる。即座にご飯を食べる。濃い目の味付けがご飯とよく合う。二口、三口。

 そして遂に脂身が来る。他の人はどうか知らないが、味噌焼きに関してだけは脂身こそ至高だというのが俺の持論だ。

 ねっとりした食感に味噌味というダブルコンボで俺の口の中が味噌味で一杯になったところに残ったご飯を掻き込む。

 これが本当によく合う。ご飯が味噌を絡めとり、新たな味を創造するのだ。

 そして最後に豚汁である。

 まずは豚のダシがよく聞いた具材を1つずつ食べる。

 大根、人参、こんにゃく。

 今度は豚肉と一緒にそれら残りを全てを食べる。

 後は汁だ。

 器を両手で持ち、一気に飲む。

 ぷはっ。

 ああ、豚の味が染み渡っていながらも、落ち着かせてくれる。美味い。

 まだ入りはする。しかしこれ位が丁度いい、腹八分ってやつだろう。ふぅ。

 ごちそうさまでした。

 「これからどうします?まだ昼ですけど。」

 「そうだな、足の防具を何か探すか。ズボンも一枚駄目になったし。」

 この前はふくらはぎを刺されたせいでピンチに陥りかけたからな。

 ちなみにズボンは黒魔法でも確かに作れる。しかし俺はパンツ一丁でその上に黒魔法という変態スタイルをしようとは思えない。

 「はい、良い物が見つかると良いですね。」

 ニコニコしたままアリシアが言う。しかしさすがに俺のためだけに連れ回すのは気が引けるな……。

 「アリシアは魔法の杖でも買ったらどうだ?」

 魔法の杖ってあるのかね?

 「魔法の杖?」

 「なんか魔法の発動速度とか命中率とかを上げたり、効果を増幅させたりするものはないのか?」

 「ああ、魔法発動体のことですね。」

 「それそれ。」

 「じゃあ防具屋のあとに見てみましょうか。」

 「暇だし、そうするか。おっさん!ここらで良い防具屋はないか?あと魔法発動体を売ってる店も。」

 「ああ、ローズに案内させる。ほら。」

 「はーい。」

 ローズはやっと起きたようだ。

 「起こしてくれても良かったのに。コテツもアリシアも大好きだから文句なんて言わないよ。」

 「へぇ、そりゃうれしいな。ちなみにおっさんのことは?」

 「どうでも良いかな。」

 説得力の無さよ……。

 ローズの後ろでおっさんもにやけてる。

 「ってコテツ、忘れたの?お父さんはアルバートって名前なの。」

 「アルバートって呼んでいいのか?」

 「ああ、もちろんだ。よろしくな二人とも。」

 「おう。じゃあローズ、案内を頼む。」

 「うん!着いてきて!」

 ローズは満腹亭から飛び出していき、俺達はそれを追った。



 「この人が町一番の防具職人だよ。」

 「わはは、ローズはお世辞が上手いな。」

 連れてこられたのは路地裏の薄暗い一角にある鍛冶屋だった。

 「おいローズ、いつもこんな所を歩き回っているのか?止めとけ、危ないぞ。」

 「大丈夫だ。俺が目の黒い内はローズに手出しなんかさせねぇよ。」

 「はは、そうか。にしても3日ぶりだな、ゲイル。」

 そう、この男、盗賊と仲間アリシアの魔法の挟み撃ちで苦戦していたゲイルなのである。

 「そうだな、お前らは調子はどうだ?命中率は上がったか、お嬢ちゃん?」

 アリシアはさっきから俺の後ろに隠れて出てこない。

 「あーあ、怖がらせちゃった。」

 「お嬢ちゃん、あのときは気が立っていたんだ。さすがに言い過ぎた。許してくれ。」

 そう言ってゲイルが頭を下げる。

 結構気持ちの良い性格だと俺は思う。俺は割と好きだ。

 と、アリシアは俺の影に隠れたまま、コクン、と頷いた。

 「許すってさ。」

 「何でお前が言うんだ。俺はお嬢ちゃんに謝っているんだ。」

 ゲイルに指差され、アリシアがさらに縮こまった。

 あーあ、そうやって凄むから。

 と、ゲイルをジト目で見ると、

 「うぐ、すまん。」

 彼はそう言ってまた頭を下げた。

 さて、このままだとなかなか話が進まないので、無理矢理話を変えさせてもらおう。

 「ゲイルお前、自分で自分の武具を作ってたのか?」

 「ああ、普通の店の防具は小細工や手抜きがされているかもしれないと思って安心できなくてな。自分で作ることにしたんだ。最初の頃はなかなかうまくできずに店の物を使おうかとも思った。それでもどうしても怖くてな、だがまあ、おかげでこうしてランクBになった訳だ。」

 「慎重だな。」

 「何とでも言え。俺はそれで生きてきた。今更やり方を変えようとは思わんねぇよ。」

 「いや、貶すつもりじゃなかったんだ。すまん。実はお前の腕を見込んで、防具を作ってもらいたいんだ。」

 「お安いご用だ。お前ら二人分か?」

 「ああ、そうだ。」

 「え?」

 アリシアが不思議そうな顔をして見上げている。神官服に加護があるから要らないとでも思っているのだろう。

 俺もそれが本当ならなにも言わない。しかし幸運アップじゃ限界があるだろう。そもそも爺さんの加護じゃあなぁ……。

 『何か言うたか!?』

 「その神官服と合わせて着れば防御力を上げられるだろう?」

 「ええ、まぁ。」

 「大切な回復職だ。用心に越したことはない。」

 「そうですか……。分かりました。ありがとうございます。」

 「それで、何が欲しい?今までに作ってきた物を手直しすれば明日からでも使えるぞ。品質はもちろん俺が保証してやる。」

 「頼もしい限りだ。アリシアには鎖帷子かライトメイルを頼む。動きやすさ重視だ。」

 選ぶ防具の種類は来る途中で爺さんとしっかり相談してある。

 「分かった。お前はなんだ?」

 「俺の足を守れて、なるべく動きを阻害しないものはあるか?」

 「んん、そうだな。いくつか候補があるが、まずは入ってくれ。」

 そう言って、ゲイルは鍛冶屋の中に入っていった。ローズは彼に付き添うようにして入っていく。

 「ローズってゲイルが好きなのかね?」

 「さあ、でも随分慕っているようには見えますね。」

 そう話しながら、俺達も後に続く。

 中は様々な武具が綺麗に並べられていた。ゲイルは結構整頓好きらしい。

 「これなんかどうだ?お嬢ちゃん。」

 そう言ってゲイルが取り出したのは鎖帷子。

 俺が受け取り、相変わらずゲイルを恐がっているアリシアに見せてやる。

 思っていたよりも軽い。手の中で小さく剣を作り刺してみたが、鎖帷子がしっかりと刃を受けとめ、刃が通らなかった。

 「へぇ、良い仕事するじゃないか。」

 これは他の物にも期待できそうだ。

 「当たり前だ。俺は防具でランクBになったに等しいんだからな。」

 2回も言われた。ゲイルにとっては大事な事らしい。

 「おう、他の物にも期待している。」

 「じゃあライトメイルはこれでどうだ。」

 そう言ってゲイルが取り出したのは鈍い銀色を放つライトメイルだった。

 「その胸で足りるか?」

 「足りますよ!貸してください!」

 アリシアはライトメイルをゲイルから奪い、着ようとした。が、案の定小さすぎて入らなかった。

 「まあ、品は良いんだ。打ち直してくれるか?」

 「ああ、分かった。さて、お前の分だ、こいつなんてのはどうだ?」

 とりだしたのは真っ黒なズボン。俺の今着ているものと大して変わりはない。膝や足の曲げ伸ばしに支障のないところにベルトがあり、サイズを調整して足に張り付かせられるようになっている。

 「これはなんだ?ただ細かくサイズ調節できるだけのズボンにしか見えないぞ?」

 「そうだろうな。だがそいつは龍の革を使ったせいか面白い能力を持っていてな、傷つかないんだよ。どうやったって傷がつかない。分かるか?つまりナイフで足を刺されようが火で焼かれようがそのズボンのお陰で無傷ですむんだ。まあ、衝撃はそのまま伝わるがな。」

 凄い防刃チョッキみたいなものか。

 「お前はそんな物をどうやって加工したんだ?」

 「神殿の治癒魔法で龍の革を融合させていく、いわゆるパッチワークの要領だな。」

 「へぇ、でもお高いんだろう?」

 「まあな、1ゴールドだ。」

 「よし買おう。」

 「お、本当か!合計で1ゴールドと500シルバーだが大丈夫か?」

 俺はしっかりと頷く。

 「わははは、羽振りが良いなおまえら。羨ましい。」

 「お前は使わないのか?太ってズボンが入らないって訳じゃないだろ?」

 「俺の戦い方に合わないんだよ、衝撃をそのまま伝えてきちまうこいつはな。俺が上手く使えなかった分、しっかり役立ててくれ。」

 「おう、任せろ。」


 俺とアリシアは早速それらに着替えた。

 ちゃんとそのときにズボンは鑑定させてもらった。

 結果はこれだ。



 name:古龍皮の下衣(黒)

 info:熟練の職人が巨龍ヨルムンガンドの脱け殻の一部から作った下衣。ヨルムンガンドの最大の特徴である無傷の守りを実現した。


 

 ちなみに穴の空いたズボンはアリシアに渡した。

 爺さん、賽銭代わりだ。

 『いらんわッ!』

 「ありがとな、助かった。」

 「ありがとうございましたゲイルさん。」

 「またねぇ!」

 「おう、またこいよ。」

 俺、アリシア、ローズの順に鍛冶屋を出、装備を新たにした俺とアリシアはまたもやローズに連れられて魔法発動体を売ってる店へと向かった。



 「ここだよ。」

 それは大通りにある大きな店だった。

 店内に入ると様々な色、形、大きさのアクセサリーがずらっと壁や棚を覆い尽くしている。

 入った途端、いやーな予感がしたため、俺は外で待とうとしたものの、目を輝かせたアリシアが腕をつかんで離してくれなかった。

 ちなみにローズはちゃっかり逃げていた。流石は接客業、こういう危険の回避はお手の物らしい。

 それからは長かった。

 あちこちをうろうろするアリシアに腕を引っ張られて店の中を歩き回り、たまに彼女に意見を求められたものの、面倒になって常に右を選ぶようになるのにはそう時間はかからなかった。

 そしてアリシアの買い物が済んだのはもう日が沈みかけてた頃。

 俺はもうくたくたで、翻ってアリシアはむしろ元気がまだ有り余っていた。


 宿に帰った俺は、夕飯も食わずに泥のように寝た。

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