117 ヘール洞窟到着
周りの景色が青々とした草原から殺風景な荒野へと変わって数日後、俺達を乗せた馬車は百を軽く超える数のゾンビやらスケルトンやらに襲われていた。
その一体一体はさほど強くはない。むしろ弱いと言っていいだろう。何せ見た目がグロテスクであるとはいえ、結局その力は人の領域を出ないのだ。
魔法を扱うような知性を持ち合わせている様子もなく、ただただ突進してくる彼らはしかし、それでも厄介なことこの上ない。
というのも、アンデッドというのは如何に強力攻撃を受けたとて、体のどこかにある核を壊されない限り損傷をすぐに直してしまうのである。
そんな嫌にしぶとい奴らが、尚も地中から次々と這い出て来るんだから堪らない。
「くそっ、キリがないな。シーラ、アンデッドは死体がないと湧かないんだよな?……ハンマーッ!ここら辺で集団虐殺でもあったのか?」
進行方向上空に黒い円柱を作り上げては、ボタボタと体の一部をこぼしながら走ってくるゾンビ共の頭に勢い良く落としてその身体ごと叩き潰してやりつつ、御者台の中央に片足を乗せて馬車から身を乗り出したまま、“核ごと潰す”というアンデッドの対処法を教えてくれたシーラに尋ねる。
「そんなこと知らない!そもそもどうやってアンデッドができるかなんてまだ分かってないし!でも出てくるんだから仕方ないでしょ?……ストーンスマッシャー!」
しかし、俺のすぐ左に座り、地面から生やした複数の壁で動く死体を次々と押し潰す彼女は、首を振って投げやりにそう言った。
ていうか、アンデッドの発生原因って分かってないのか。……まぁ少なくとも魔法じゃないよな。何らかの魔術だろうか?
「ロックブラスト!ちょっと、ボーッとしてないでもっと貢献しなさいよ!」
少し考えを巡らせていると、シーラの反対側――御者台の右側に腰掛け、岩の砲弾をバラ撒いているユイがそう言ってこちらを睨んできた。
「大丈夫、僕がその分頑張るよ。ユイちゃん、危なくなったら僕の後ろに……」
「もう!今はフェルをお仕置きする余裕はないの!」
ユイに俺が答えるより先に、馬車の後方でアンデッド達の足を氷の矢で地面に縫い付けていっているフェリルが軽薄な声を上げ、しかしシーラの怒気にすぐに言葉を切った。
「アンデッド達、無限に沸いてくれないかなぁ。……フッ!」
かと思ってたら最後にとんでもない願いを口にしやがった。
「シーラ、あとで思いっ切り殴ってやれ。」
「ええ、元からそのつもりよ。」
これが良い薬なれば……ならないか。フェリルだし。
「ご主人様!行けるわ!」
と、荷台に座って休んでいたルナがそう言って立ち上がった。
「よし、手に終えなくなってるところはあるか!」
「僕のところをお願い。やっぱり一度に一体しか止められないのは効率が悪いや。」
「フェル!さっきはユイちゃんにあんなこと言ったじゃないの。今は適当なこと言わないで!」
「アハハ、ユイちゃん相手だとね、つい癖で。」
「……フェル?」
「はぁ……、ルナ、頼んだぞ。」
相変わらずのやり取りに思わずため息をつき、ルナに目を向けて頷く。
「ええ、任せて。」
彼女そう返事をして本日何発目かのドラゴンロアを放つため、フェリルの元へ移動していった。
「何度も悪いね。」
「いえ、ご主人様のためですから。ふぅ……、龍の威を我に「待って。もう少し引き付けて……よし、今!」万象皆灰と化せ!ドラゴンロア!」
フェリルの合図と共にルナが朗々と歌い上げ、凄まじい光と熱気が馬車の後方から放たれた。
このように、ルナには危なくなったところの処理を担当して貰っている。
というのも、生半可な炎ではアンデッドの動きは止められず、かと言って一体一体を丁寧に消炭にするのは効率が悪すぎるのだ。
「はぁはぁ。」
「よし、これでまだ行ける!コテツ助かった!」
「礼ならルナにやってくれ、ぅおらぁぁ、ハンマー!」
「君の奴隷じゃないのかい?」
「……いや、何でもない。さっきのは聞き流してくれ。ルナ、良くやった!」
「……はい……ふぅ。」
ルナの消耗が激しい。
まぁ奥の手を何度も使わせているから当然の結果か……。でもこのままじゃ持たないのは確かだ。
爺さん、ヘール洞窟はまだか?
『あと少しじゃ。お主の目ならばそろそろ前方に見えてくるのではないかの?』
言われて前方に目を凝らすと、なるほど、確かにそれらしき物はあった。
ちょっとした丘の斜面に空いた大穴、おそらくあれが件の洞窟だろう。外から見ると、神器が隠されているにしてはかなりちゃちな物に見えるけれども、あれで合ってるのか?
『何を思ってあそこに隠されたかは知らぬが、神器があるのは確かじゃよ。』
了解。
「シーラ、真っ直ぐ前に洞窟が見えるか?」
「え……ええ、見えるわ。……ブリザード!」
「よし、じゃあもう洞窟に向かわなくて良いから洞窟との距離を保って走るよう馬に命令してくれ。あと、ルナがアンデッドをもう一度一掃した後はどこか安全な場所で待機しておくようにとも。」
「頼む、ね?」
どっちでも良いだろ?
「ああ、頼んでくれ。ルナ!最後にあと1発頼めるか?」
「ご主人様のためなら、いつでも!」
それが一番困る。
「本当に撃てるのか?失敗したらここから先は徒歩の旅になるぞ!?」
「大丈夫よ。撃ったらもう指一本動かせなくなるけれど。」
「すまん、無理をさせる。後でおんぶしてやるから。」
「ええ、任されたわ。」
シーラが馬2頭の背中に手を乗せ、目を閉じる。
会話を始めたらしい。
「ユイ、フェリル!状況は?まだ耐えられるか?冗談は抜きで、正直に答えろ。」
「私の方は大丈夫よ。」
「僕の方にも余裕はまだあるよ!」
爺さん、上からみてどっちの方向にアンデッドが多い?
『後方じゃよ。いかに使い手が優秀であろうとやはり弓はアンデッドに対して相性が悪い。』
「ルナ!後ろに向けて打ってくれ!フェリルは御者台の方に来い!」
「分かった。」
「ご主人様、やっぱり抱っこ……「おんぶな。」……うぅ。」
少し肩を落として、ルナはフェリルの方へと歩いていった。
ったく、抱っこなんてしたら前が見えないだろうが。
「ふぅ、はてさて、5人持ち上げられるかね?……いや、持ち上げるぞ。」
自身に気合いを入れ、広めの足場を自分の足元に作りあげる。
「二人とも、乗ってくれ。」
「分かったわ。」
勝手が分かっているユイは素早くそれに飛び乗り、
「えっと、これは?」
分かっていないシーラは戸惑いながらも俺の指示に従ってくれた。
「後で分かるさ。馬への指示は終わったか?」
「ええ、頼み事をきいてくれたわ。」
「そいつは良かっ……「ドラゴンロア!」……フェリル!早く来い!」
「いや、でもルナちゃんが……」
焦りのあまり怒鳴りながら後方を見ると、フェリルがそう言って、脱力したルナを支えているところだった。
……指一本動かせなくなるとは、比喩でも何でも無かったらしい。
「ユイ、ルナ、二人ともしっかり抱き合え、乱暴になるかもしれんが落ちないようにな。」
「分かったわ。シーラさん、もっと中心に寄ってくれないかしら?」
「え、ええ。」
「よし、まずは二人!」
「え?きゃぁぁぁっ!?」
足場を縮小させながらそこから降り、ユイとシーラを乗せた足場を上昇させる。
なんかものすごい悲鳴が聞こえたな。……まぁ対処はユイに任せよう。
ルナとフェリルの方へと歩きだそうとすると、馬車が大きく旋回。俺は肩から荷台に突っ込んだ。
「ルナ、大丈夫か!」
「大丈夫だよ、しっかり捕まえておいたからね。ていうか、僕は心配してくれないのかい、リーダー?」
「お前はたとえ落ちてもアンデッドの女性に求婚しそうだからな。括れが美しいとか細見で綺麗だとか言って。」
「僕は女性の一瞬の輝きが好きだって言わなかったっけ?」
「試しに火を付けてみろ、乾いてるからきっと綺麗に輝くさ。とにかく、さっさと飛び降りるぞ。」
言いながらフェリルの元へ駆け寄り、足場を作り上げる。
「了解。リーダー、この子は?」
「約束したからな、俺に任せろ。さっさと乗ってくれ。」
「分かった。……よっと。」
フェリルが肩を支えていたルナを肩に担ぎ、フェリルに続いて馬車から飛び降りて足場に移動。
「……この持ち方は嫌です。」
ルナの抗議は無視させてもらい、俺はアンデッド達がまた寄ってくる前に上空へと逃げた。
「「「便利ね。」」」
ユイ達と合流し、ルナを足元に下ろすと、ルナ以外の三人がハモった。
「便利言うな。……にしても、なんとかなったな。」
「でもこうして上から見ると、アンデッドはあそこの中にもたくさんいそうね?」
数十メートル下で蠢く動く死体共を眺めて安堵の息をつくと、ユイがそう言ってヘール洞窟の口を指差した。
「まぁ、だろうな。」
わざわざ言われずとも、ヘール洞窟に近づけば近づくほど死体の密度が高くなっているのは一目瞭然だ。
「ユイちゃんは僕が守るから安心して良いよ。」
「矢はアンデッドに効果が薄いし、フェルの方が守られそうだけど……。」
「フッ、甘いねシーラ、僕の攻撃手段は別に矢だけじゃないよ。これでも狩人だから、短剣の扱いも中々の物だよ?核を確実に貫いてみせるよ。」
「ん?フェリルお前、短剣なんてどこに……ああ、なるほど。」
質問しかけたところで、フェリルが手元で短めの〝エルフの矢〟をクルクル回してユイに見せているのが目に入った。
「しっかし、エルフの矢って長さも思いのままなんだな。」
「だからって、矢だけで戦おうと思ったのはフェルぐらいだけどね。最初の内は馬鹿じゃないのって思っていたけど、今のフェルは短剣使いと名乗って良いぐらいにはなってるわ。」
「そうか……取り合えず全員ちゃんと戦えるって事で良いんだな?」
ヘール洞窟の真上にたどり着いたところでパーティーの面々を見回すと、それぞれしっかりと頷いてくれた。
「よし、じゃあルナが回復し次第突入するぞ。たぶんアンデッドの巣窟になってるから、武器を構えておくなり使う魔法を決めておくこと。良いな?」
「ごめんなさい。……迷惑を、かけてしまって。」
「はは、一番活躍してる奴が何言ってんだ。」
正座を横に崩したような姿勢でルナが息を整えながら謝ったのに対し、すぐ横にしゃがみこんで、気にするな、と彼女の頭を強めに撫でてやる。
「どうせ外で待機とか言ったら猛反対するんだろ?」
「うっ。」
図星か。
「自分の奴隷に反対されることが当然なのかい?」
「ふふ、そこまで優しいとルナちゃんが戸惑うのも無理ないわね。」
「奴隷扱いしたくないだけだよ。そもそもルナは、奴隷商に感謝な印だってことで譲られただけだし。」
「へぇ、それならどうして断らなかったんだい?」
「一応最初は断ったんだぞ?でも話に流されたというか……。あんまり強く勧めてくるから、まぁ、別に良いか、って思ってな?」
それに、断ったら断ったでカイルの気分を害するだけだったろうし。
『押しに弱いだけじゃろ。』
そうとも言う。
「後悔はさせません。」
「したことないぞ。」
俺のコートの袖を掴んだルナの、強い言葉に笑って返す。
「ま、取り合えず今は一旦休憩だ。お前らも座って良いんだぞ?」
黒い足場に腰を下ろしながら言うと、ユイはサササとルナの隣に陣取り、エルフ二人は、初めて黒魔法で浮いているのもあって、恐る恐るその場に座り込んだ。
で、爺さん、洞窟の中の案内は頼めるか?
『のう、わしができないと答えたらお主はどうするつもりじゃったのか教えてくれんか?』
一応セオリー通りマッピングをして行こうと思っていたぞ?でもその言い方からしてそんな必要はないってことで良いんだな?
『感謝するんじゃな。』
おう、助かる。
ちなみに洞窟の中はやっぱりアンデッドが……
『うむ、ひしめいておるの。』
……やっぱりかぁ。
一縷の希望を踏みにじられて嘆息しつつ、チラ、とルナの方を確認すると、目を閉じて深呼吸を繰り返していた。まだ万全の体調になるには時間が必要らしい。
……あ、そういえば爺さん、核って、いや、アンデッドってどうやってできるんだ?やっぱりなんかの魔術とかか?
『知りたいのならば……わしが与えた完全鑑定の出番じゃな!』
なぁ、そこで喜ぶ時点で完全鑑定は普段は全くもって使えない、残念なスキルだって言っているような物だからな?
『やかましいわ!完全鑑定は優秀なスキルじゃ。お主がなんと言おうとの!……そもそもアンデッドの成因なんぞわしも知らんし……。』
いや知らないのかよ!最高神だろ!?
『お飾りじゃとお主も重々分かっておろうが!……まぁ、少なくとも何らかの神の仕業じゃろうな。あのような不自然な物が神の力なくしてできるものか。』
あーそうかい。
もういいや、やめよう。洞窟に入る前に疲れてしまう。
「ご主人様、いつでも。」
と、元気を取り戻した様子のルナがやる気十分に言ってきた。
「さっきからまだあんまり時間がたってないぞ?本当に大丈夫か?」
空元気はやめてくれよ?
「ええ、ちゃんと瞑想したわ。」
「そ、そうか。」
瞑想することで魔力の回復が早くなったりするんだろうか?
たぶんなるんだろうな。じゃないとあれだけ疲弊していたルナがこんなに早く復帰できる筈がない。
「それじゃあ早速、合図をしたら入り口に一発頼めるか?」
「はい、お任せください。」
洞窟の口に集まるアンデッドを指差して聞くと、ルナは自身の胸を叩いて頷いてくれた。
「よし、他の奴らも準備は良いな?行くぞ。……ルナ!」
「はい!……はぁぁぁ、ドラゴンロア!」
合図をした直後、火葬場と化したヘール洞窟へと俺はパーティーを乗せた足場を突っ込ませた。
幸い、洞窟内のアンデッドの密度は、かなりの数が入り口に集まっていたのか、入り口を突破してしまえば想像していたほど高くはなかった。
むしろ一番の問題は暗さで、ユイとルナに魔法で明かりを灯して貰いはしたものの、やはり視界が限られることに変わりはない。
そんな状態で、爺さんの示した道を阻むアンデッドはもちろん、無数にある横穴から散発的に現れる彼らへの対処を――後々面倒になるので――確実にしなければならないので、危険極まりないお化け屋敷にでもいる気分だ。
それでも外の荒野の至るところから、ゾンビやらスケルトンやらがポンポン出てきていたときに比べれば、心的余裕を考えるとこちらの方が遥かにマシだ。
「やっぱり信じられないわ。アンデッドがこんなにいるなんて。」
「はは、外のアレを見てもか?」
だから、洞窟に入ってしばらく経ってからシーラがポツリと漏らした言葉には思わず笑ってしまった。
何を今更。
「アレも含めて、よ。普通は50体いるだけでも大量発生だって大騒ぎになるのに……そこッ!」
笑われたことに気分を害したか、少し不機嫌に返したシーラは、突如素早い手の振りで人の頭ぐらいある氷塊を飛ばし、数歩先の壁に空いた横穴から現れた頭蓋骨を一撃で粉砕した。
しかし、核は頭部には無かったようで、飛び散った破片は、映像が巻き戻ったいくかのように、すぐその形を取り戻してしまう。
「ああもう、面倒臭い!」
その光景に悪態をついたシーラが今度は腕を振り下ろせば、太い石の柱が天井から勢い良く伸びてスケルトンを叩き潰した。
核が体のどこにあろうと、ああなったらどうしようもない。
「はは、心強いな。」
「随分呑気ね。そもそも道はこれで会っているの?さっきからどの別れ道でも悩む様子が全くないけど……。」
「なんだ、悩んだ方が良いのか?」
「別にそうは言わないわ。でも、あんまり自信があり過ぎるのも問題でしょう?」
「ま、そうだな。……おっと待った。」
肩をすくめ、直後頭の中で掛かった指示通りにシーラの肩を掴んで止める。
「な、なに?」
「ハァッ!」
彼女の怪訝な声にはすぐ横の壁を蹴り砕き、薄い石壁に隠された道を顕にすることで答えた。
周囲の真ん丸な目が気恥ずかしい。
「ま、この通り、道順に関しては任せてくれ。」
胸を叩いて見せ、さっさと新しく空いた横穴に入る。
「元々は斥候だったりしたのかい?」
「ああ、まぁそんなとこだ。」
「……嘘つき。」
背後から掛かったフェリルの声に答えると、俺のすぐ後ろに付いて明かりを維持してくれているユイが小さな囁きを漏らした。
……今は無視させてもらおう。
「ふぅ、ちょっと休憩するか?」
視界内にいた最後のスケルトンの右肩にあった赤紫の宝石に投げナイフを命中させ、戦闘不能にしてから背後へ呼び掛けた瞬間、Sランクパーティー“ブレイブ”のメンバーはその場に崩れ落ちた。
休憩を挟むというのは英断だったらしい。
「ご主人様、少し瞑想させて貰うわ。」
「今は力を抜いて良いんだぞ?」
「瞑想は体力や魔力の自然回復を促進するから力を抜くよりも疲れが取れるのよ?ご主人様も一緒にやってみない?」
へぇ、そうなのか。
「姿勢正しく座って目を閉じれば良いのか?」
「場所が場所だからそれで良いけど……後でご主人様に手取り足取り教えるわ。じゃあご主人様、私の真似をして。……すぅぅ、ふぅぅ。」
目を閉じ、半信半疑でルナの瞑想の真似事をやってみる。
すると、自然、他のパーティーメンバーの声が耳に入ってきた。
「怪我をしている人はいない?今のうちに治すわよ?……いないわね。良かった……。」
「ユイちゃんは凄いのね、前衛と後衛、それに回復魔法までできるなんて。私はただ……」
「ただ魔法をバカスカ撃ってるだけだからね。」
ゴン、と鈍い音が聞こえる。
「イテテ……ユイちゃん、頭を怪我したから、治してくれないかい?」
「ユイちゃんはフェルに構わないで良いの。女の敵だと思って。」
「そこまで言う必要あるかい?」
「ユイちゃんのためよ。」
「でも怪我は本当だから、治してくれないかな?」
「え、ええ、分かったわ。」
フェルがここまで計算ずくで行動してる気がするのは俺だけだろうか?どうしてもユイに回復魔法を掛けてもらうためにわざとシーラをからかった気がする。
「ご主人様、無心よ。無心を心掛けるの。」
どうも俺が別の事を考えていたことがルナには分かったらしい。
俺は再度、瞑想を行った。
そうこうして進んでいる内に、アンデッドがこれまでとは段違いに密に徘徊している広場を、5メートル程下に見下ろせる位置に辿り着いた。
彼らの放つ強い腐臭が高台にいるこちらまで漂ってきていて、それに顔をしかめながら広場を見渡せば、あまりに密集し過ぎているからか、近くのスケルトンどうしであばら骨が引っ掛かり、一体となってしまっている滑稽な個体まで数体見受けられた。
「ここに、入るの?」
「ああ、そうらしい。」
残念ながら。
絶対に嫌だ、と言外に伝えてくるシーラに苦笑いして答えると、彼女は怪訝な目をこちらに向けた。
「らしい?」
おっとしまった。
「まぁそのほら、俺も具体的に中がどうなってるかは知らなかったから、な?」
慌てて取り繕うと、彼女はふーん、と納得したようなしてないような顔をし、それでも一応頷いてはくれた。
一方で鋭さを増したユイの視線は無視だ。
「ところで聞き忘れてたけど、目的のお宝って、いったいどんなものなんだい?」
「ん?そういやまだ言ってなかったか。俺達の目的は神器、神の作った武器だよ。……まぁここにあるのが武器かどうかは分からないけどな。」
「「神様が!?」」
フェリルの問いに答えた途端、エルフ二人が揃って驚愕の声を上げた。
「ああ、ちょっと集める必要が出てきてな。あ、用が済んだら故郷の奪還に役立ててくれても良いぞ。」
「そこまでしてくれるの?」
「おう、そんな訳だから二人とも、ここで引き返すなんてことはしないでくれよ?」
特にシーラ。
片眉を上げて言えば、さっき顔を引きつらせていた自分を思い出したか、彼女は楽しそうに笑って頷いた。
「ふふ、それなら文句なんか言えないわね。フェリルもそうでしょ?」
「ああ、俄然やる気が出てきたよ。」
そいつは良かった。