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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第四章:出世しやすい職業
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113 ランクS昇格レイド③

 「さて、どうやって攻めようか。……はぅぁあ!?」

 火口の縁に着地するなりルナを肩から下ろしてやり、溶岩に半分ぐらい満たされた特大お椀を振り返って呟いて今後の方針を考え始めた直後、背中を激痛が駆け抜けた。

 「おぉぉ……。」

 情けない声を上げながら崩れ落ち、膝を付いたまま背中に手を当て……ようとするのを走るだろう痛みを想像してやめ、かざすに留める。

 「はぁ、ルナさんから聞いたわよ。背中の傷を放っといて無茶をしたそうね?あなた死にたいのかしら?」

 少し涙目になりながら首だけ振り向くと、お怒り気味のユイと、ユイの行動に驚いておろおろしているルナの姿が目に入った。

 「……今、死にそうなくらいの痛みに教われてるけどな。そこら辺はどうなんだ?」

 「死ぬよりはマシよ。このレイドで回復役を含めて、班を分けようとしたのはあなたでしょう?それなら回復役としての仕事をさせなさい。」

 別にその方針を決めたのは俺だけではない、と反論したい。まぁそんなことをしたところで無駄なんだろうけれども。

 それにまぁ、ユイの言い分はもっともだ。

 「悪かった。」

 「本当よ。良い年して。」

 「まだ若いわ!」

 そこは聞き捨てならん。

 「はぁ、ほら背中を見せて。治療するわ。考え事はその間もできるでしょう?」

 「了ー解。あ、エスナをかけてからな?」

 間延びした返事をしてその場に胡座をかき、背中の裂傷を隠していたロングコートを消す。

 標高の高さから来る冷たい風が熱っぽい背中に心地良い。

 「ええ、分かってるわ。……まったく、これでよくあれだけ動けたわね。ハイエスナ!そして、キュアー!」

 背後で白い光が輝いたかと思うと、それまで堪えていたヒリヒリとした痛みがあっという間に引いていく。魔法ってすごい。

 「よし、ありがとうなユイ。「まだよ。」あ、はい。」

 しかし礼を言い、立ち上がろうとすると、肩が強く押さえ付けられた。完治するまでは何があっても俺を動かさないという、背後から感じる強い決意はちょっとやそっとじゃ変わりそうにない。

 そんな訳で仕方ないので、地べたに尻餅付いたままこれからのことに思考を巡らせる。

 さて、ボルカニカは再び地下へ潜っていったけれども、まだこの火山にいることは気配察知で確認できる。

 おそらく休憩を取っているだろうから、ボルカニカが体力を回復させて出てくるまで悠長に待っているわけには行かない。

 ……ファーレンでアリシアの指輪を海の中に潜って探したときみたいにダイビングスーツを使うか?

 いや、俺にはサングラスみたいな物を作ることができないから視界の確保ができないか。それにそもそもの話、溶岩の熱を黒魔法が防ぎきれる保証はない。

 釣るか?

 駄目だな。有効な餌が分からないし、引っ張りあげる力も足りない。

 ……何も思い付かない。

 「はぁ。」

 「どうしたんだい、切り込み隊長?」

 眉間に指を押し当ててため息をつくと、後ろからそう声を掛けられた。

 振り向くと、屈んだユイとルナの後ろにフェリルの姿があった。

 「じっとして。」

 途端にユイに怒られ、姿勢を戻す。

 「ああ、すまん。それでフェリル、その、何たら隊長ってなんのことだ?」

 俺は軍隊にいた覚えはないぞ?

 「君の二つ名だよ。〝切り込み隊長〟ってことで一致したんだ。喜んで良いんじゃないかい?普通はSランクになってから呼ばれるようになる物だし。」

 切り込み隊長て……。

 「捨て駒じゃねぇか。」

 「あら、妥当な評価じゃないかしら?ふぅ、終わったわ。」

 そう言って俺の背中を叩き、ユイがようやく立ち上がったので、俺も肩を回しながら腰を上げる。

 どうも思っていた以上にダメージを受けていたらしく、つい笑ってしまいたくなるほどに体が軽い。

 「ありがとなユイ。ま、二つ名は付いた物は仕方ないとして……それより、ボルカニカを溶岩の下から引っ張り出すにはどうすれば良いと思う?」

 首を回しながら三人に聞くと、フェリルは笑って肩をすくめ、

 「……申し訳ありません。」

 ルナは目を伏せ、

 「んー、駄目ね、思い付かないわ。」

 ユイは少し上を向いて考えた末、頭を振った。

 「そういうあなたは何か考えがあるのかしら?」

 「はは、ンなもんあったら聞いてないさ。」

 聞き返してきたユイに笑って返す。

 ったく、四人もいるってのになぁ……文珠の知恵って大したこと無いのかもしれない。

 「そう言えばフェリルさん、シーラさんはどこ?」

 「あ、シーラなら向こうで遠距離担当の人達と作戦会議をしてるよ。」

 ユイに聞かれ、フェリルはそう遠くはない場所で集まっている冒険者達を指差して答えた。

 ん?

 「お前は何で参加してないんだ?」

 「ジルちゃんと話が盛り上がってね、作戦会議の邪魔だからって僕だけ追い出されたんだ。あ、ジルちゃんっていうのは蜂蜜色の髪の可愛い女の子でね、笑うときにできるちっちゃなえくぼも……」

 「あーうん、なるほどそりゃ魅力的だな。」

 長くなりそうだったので適当に返事をしてそれ以上を手で制す。

 「分かってくれるかい!?」

 分かってたまるか。ルナとユイがお前に向けてる絶対零度の視線がこっちに向いてしまうだろうが。

 まぁ何にせよ、作戦会議は俺達もしないとだな。

 「すぅ……、近接担当の冒険者、集合ッ!」



 「餌で釣るってのは……」

 「餌はお前で良いかしら?」

 「……そうだった。」

 どこからか上がった声がどこからか上がった別の声に断じられて萎れ、消え、俺の周りに集まって座った冒険者達の間に何度目かの沈黙が舞い降りる。

 「挑発でおびきだすってのはどうだい!」

 すると、誰かにそんな天啓が舞い降りた。

 ボルカニカがかなり短気なのは分かっているし、(数を減らしてそうと、徹頭徹尾俺を狙うなど、)結構考え無しだ。

 集まって話してみるもんだ。

 「よし!それで行こう。」

 「で、どうやって挑発するんすか?向こうからこっちは見えないし、声だってここからじゃ届かないっすよ。それにあのワイヤーで近付いたとしてもそこから攻勢に出られないんじゃないすか?」

 俺が賛成の意思を示すと、即座に別の場所から問題点が指摘された。

 「……そう、だな。」

 黒魔法である程度近付くことはできるかもしれないし、声は誰かの通信用イヤリングを使えばなんとかなる。ただ、黒魔法でここにいる全員を支え続ける自身は俺には無い。

 しかし、再び考え始めようとしたところでフェリルが声を発した。

 「それなら僕達に任せてよ。溶岩は冷やせば固まる。そうすれば火口の中に入れるさ。」

 「そもそもどうやって挑発するんだよ。ボルカニカがこっちを見てるのかどうか分からなねぇし、音で誘き出すとしても、溶岩の下じゃ届きにくいだろ。」

 するとまた別の冒険者が声を上げ、それには俺がほぼ思い付きで答えた。

 「確実に届かせるには通信用のイヤリングを使えば良いんじゃないか?」

 「それで出てくる保証は?」

 「俺に任せてくれれば十中八九出てくるさ。」

 さらに聞き返されたのに胸を叩いて答えてやる。

 あのボルカニカのことだ。罵詈雑言を並べ立てれば簡単に出てくるだろう。

 「どうやってやるんだ?」

 「あーすまん、それは秘密だ。でもまぁ効果は保証するさ。」

 至極最もな疑問は軽く笑って流させて貰い、集まった他の冒険者達を改めて見回して口を開く。

 「……それで、誰かイヤリングを一対持ってないか?俺のは片方しかなくてな。」

 「俺の予備があるぜ。」

 「助かる。」

 放り投げられた二つのイヤリングを宙で掴み取る。

 最後に全員を見渡して反対意見がないことを確認。フェリルへと目を向ける。

 「よし、じゃあ僕がシーラ達に伝えに行くよ。待っててね、ジルちゃ……あ。」

 「どうし……おう。」

 走っていこうとしたフェリルが急に間抜けな声を出し、訝しんで彼の視線の先を見た俺は同じような声を漏らした。

 他の冒険者達もそれを見てポカンとしている。

 遠距離担当の冒険者達は既に動き出しており、火口の溶岩を固められている真っ最中だった。

 「そういえば向こうも作戦会議をしていたんだったな……。ま、話が早くて助かるな。さて、じゃあ行ってくる。お前ら、頼むから遅れないでくれよ?」

 溶岩まみれの巨大爬虫類と一対一なんて冗談じゃない。

 「いや、何であんたが行くんだ。その獣人はあんたのだろ?そいつに行かせろよ。あんたがこのレイドの攻撃の起点になってんだから。囮役はさせられん。」

 早速俺が飛び降りようとすると、背後からそう制止された。

 「いや、俺なら……「ご主人様はここにいて。私が行くわ。」……おい、ルナ!」

 一方的に言い、さっさか下りていくルナ。

 「馬鹿野郎っ!」

 「おい、あんたは……」

 まだ俺を止めようとする男にイヤリングを二対見せる。

 「あいつ、イヤリングを忘れたんだよ。」

 元から渡すつもりも無かったけどな。

 男はそれを見て押し黙り、俺はルナを追った。


 「じゃあ行ってくる。」

 「ご主人様!放し、て!」

 軽い調子で手を振ると、ワイヤーでぐるぐる巻きにされ、凝固した溶岩の縁に拘束されたルナが悲痛な声で叫んだ。

 「イヤリングを忘れるほど冷静になれて無いやつにこんな役目は務まらないだろ?」

 「私は、ただ、ご主人様の役に立とうって……。」

 相変わらずの文句で反論するルナ。

 思わずため息が漏れた。

 「はぁ……、やめてくれ。何度も言ってるだろ?俺はお前を奴隷扱いしない。お前が望んでいようと望んでいなかろうと、だ。」

 「それなら私に行かせて。私がご主人様の役に立ちたいの。」

 「そりゃ嬉しい限りだけどな。俺はこれでもフェミニストなんだよ。それも結構面食いの。お前に囮なんかさせた日には罪悪感で夜も眠れなくなる。」

 「駄目、万が一死んだら……。」

 「はは、何言ってんだ。ルナ、お前は心配しすぎだよ。ボルカニカの動きは今も気配察知で把握しているか……ら。」

 ルナの拘束を解く。

 「ハァッ!」

 瞬間、ルナが俺からイヤリングを取ろうと飛び掛かり、そんな彼女をしっかりと受け止め肩に抱え、俺は固まった溶岩の上を走り出した。

 「え、え!?」

 「あんまり動かないでくれよ!?」

 状況を把握して切れていないルナに焦りながら声を掛けた瞬間、俺達がさっきまでいた場所が破裂し、溶岩を吹き上げた。

 ボルカニカ再登場である。

 あいつの短気を甘く見ていた。まさか傷の回復なんかそっちのけで、ずっと俺達に襲い掛かろうと潜んでいたとは。

 ったく、火口の上からじゃボルカニカのいる方向しか分からなかったからなぁ。……もっと訓練しないと。

 「今度こそ殺してやラァ!」

 荒々しい吠え声を背中に聞きながら、全速力で駆け続ける。

 「待……はガァ!?」

 そして突然ボルカニカが上げた呻き声に振り返ると、いくつもの巨大な氷塊がボルカニカを殴打しているところだった。

 肩から声。

 「ご主人様、下ろして。」

 「そしたらお前、ボルカニカに突っ込むだろ?」

 まーた俺の役に立ちたいとか言って。

 「じゃあ突っ込まないから。」

 じゃあ、て……。

 「はぁ、信じるぞ?ほらよっと。」

 「……それで、どうする?」

 氷塊の魔法で怯み、その隙に近接系冒険者達に攻撃されているボルカニカを見ながら聞いてくるルナ。

 嬉しいことにボルカニカの固い鱗は砕けたり剥がされたりされたままらしく、冒険者達がやたらめったらに持っている武器を打ち付けているのが見える。

 纏った溶岩も既に冷やされているよう。

 「俺達もあれに参加しよう。ルナ、俺の側を離れるなよ。」

 「ええ。」

 「よし、じゃあ……待て、構えろ。」

 ルナの返事に首肯を返してボルカニカへ踏み出そうとしたとき、ボルカニカの足元から火柱が吹き上がった。

 吹き飛ばされる冒険者達。

 即座にボルカニカへ魔法が殺到するも、空いた穴から見える溶岩を波立たせるだけに終わる。

 「ボルカニカの狙いは俺だ。ルナ、俺から離れないんなら魔眼を使って警戒しろ。」

 「分かったわ。」

 「良いか、ボルカニカが出てくるときに気を付けないといけないのは溶岩と自前の長い牙だ。回避優先、あわよくば攻撃、これを念頭に置いておけ。」

 こちらに近付いてくる気配に気を配りながら指示を出す。

 「あとは……」

 「ブレスと熱風ね。ふふ、心配してくれてありがとう。」

 「当然だろ?……来るぞ、見失うなよ!」

 気配察知に意識を傾けながら、どこから出てきても対応できるように、俺は膝を少し曲げてトットッと軽く足踏みをする。

 そして、ボルカニカは俺の真後ろから飛び出してきた。

 同時に俺は浮かせていた左足を素早く下ろして地を蹴り、真後ろ、ボルカニカの真正面へと背中から跳んだ。

 溶岩の飛沫が落ちる前に右足を踏みこみ、それを軸に体を時計回りに回転させて黒龍を真一文字に薙ぐ。

 手応えあり。

 結果は確認せず、遠心力を乗せた左足で再び地を蹴って即座に大きく距離をとると、遅れて俺のいた場所に半固形の赤黒い雨が降り注いだ。

 「くっ、この程度ぉ!「ルナ!」……ぐっ!」

 勢い良く飛び出てきた煉獄竜は鼻先を斬られたことでさらに怒りを滾らせて俺を睨み、その隙に脇腹辺りを魔刀不死鳥に切り裂かれた。

 噴き出た鮮やかな血で、最初より攻撃が通りやすくなっているのが分かる。

 「許さねぇ、ぶっ殺す!」

 しかしボルカニカは動きを止めてくれず、溶岩で濡れた(?)巨体は俺へ真っ直ぐに突進してきた。

 龍眼を使って前みたいにカウンターアタックを決めたいところ、溶岩が滴っているために流石に近付けない。

 仕方がないので横へ大きく飛び込んで溶岩滴る竜を躱し、立ち上がるなり背後からボルカニカに襲い掛かるも、そこで相手の長い尻尾が、これまた溶岩を撒き散らしながら迫ってきた。

 すぐに右足の裏に板を作り上げ、自分の体を魔力で押し上げながらそれを強く蹴飛ばして天高く飛び上がる。

 そして振るわれた尻尾を眼下に見ながら、俺はワイヤーをボルカニカの首に引っ付けた。

 「くそっ、ちょこまかと!」

 怒り狂った相貌がこちらを向き、俺はワイヤーを強く引っ張って急接近。

 そんな俺を噛み砕こうとボルカニカが大顎を開け、しかし残念ながらワイヤーは彼の頭の上を伝って首に繋がっているため、それは俺を加速させただけ。

 そして俺の全体重をボルカニカは額で受け止めた。

 「ぐぅっ?」

 そうして竜が怯んだ隙にその首の裏へと回り、俺は鱗の剥げた赤い肉に、逆手に持った両竜を根本まで突き立てた。

 「こいつでどうだ!」

 「ぐぁぁぁ!?くそがぁぁぁぁッ!」

 ボルカニカの体内で光が輝く。熱風の予兆だ。

 「ご主人様!」

 「分かってる!」

 剣を放して即座に飛び降り、そこにいたルナと共に飛び退くと、遅れて熱風に吹き付けられた。

 思わず目を背ける。

 「くそっ、厄介だなおい!」

 「ご主人様、光が!」

 ルナの警鐘。すぐに視線を前へ向けると、さっきよりも強い光がボルカニカの首もとに見てとれた。

 「ふぅぅ、龍の威を……キャッ!」

 おそらく対抗しようとしたのであろうルナを乱暴ながら真横へ蹴飛ばす。

 「ルナ!あいつの狙いは俺だ!この隙を突いてやれ!」

 「駄目!」

 「良いから行け!」

 指示を出し、ボルカニカに接近。

 「ガァァァ!」

 そして火炎が吐き出された瞬間、足元に足場を作り上げ、自らを魔力で押し上げながら天高く跳躍した。

 真下を走る紅蓮を見ながら両手に双龍を作り上げる。

 「ガァァァァァァ!」

 ボルカニカは仰け反ることで炎の柱に俺を追い掛けさせ、対する俺はボルカニカの背中の後ろの方にワイヤーを張り付け、強く引っ張ることで逃げる。

 ここでズン、と遠距離系冒険者達からの援護射撃がボルカニカの側面を襲った。

 「ガァ!?」

 痛みに竜の巨体が大きくくねる。しかし執念で俺を焼こうと、ボルカニカは首を捻った。

 そしてその体の急な動きに振り回され、俺はワイヤーを引っ張っていたのもあって地面に叩き付けられてしまった。

 「がはぁ!?」

 肺から空気が押し出されている俺を見てボルカニカは目で笑い、しかし一切の容赦なく、吐き続けているブレスを俺に向かって振り下ろす。

 「はぁはぁ、黒、銀!」

 直前、毒竜のブレスや古代魔法を防いだという小さな希望にすがり、俺は体を硬化させた。

 ブレスが当たる。必死で魔素を体に込め続けて耐える。

 「ハァッ!赤銅!」

 しかし幸い、炎の柱は数秒後には明後日の方向に逸れていった。

 見ると、ルナが拳を握り、ボルカニカの顔を仰け反らせていた。

 「ルナ、タスカッ……ウシロダ!」

 ボルカニカが姿勢を戻し、ルナに噛み付こうとするのが見えて慌てた俺の声は、いつかと同じように声帯を固めてしまったらしく、くぐもっていた。

 「ご主人様、伏せて!」

 すぐに立ち上がろうとしたところでルナに言われ、俺は再び地面に倒れ込む。

 一拍遅れてルナも前に、俺のへ向けて飛び込んだ。

 ボルカニカがルナに噛み付こうとその口をさらに開く。

 「ルナ!」

 「大丈夫!」

 「へ、アブッ!?」

 黒龍をその口の中に突っ込もうと思って立ち上がろうとするも、ルナに両腕で抱き付かれ、押さえ込まれ、俺は銀髪顔からルナの背中に突っ込む形となった。

 そして、ボルカニカの大きく開けられた口に、大量の水が突っ込んだ。その勢いの凄まじさはボルカニカの巨体を数メートル後退させるほど。

 「ごぶっ、ゴブァ!?」

 しかもあまりの水量にボルカニカは口を閉じられなくなっていた。

 「なんで、こんな、目に……ブォォ!」

 今までの威勢はどこへやら、ボルカニカはただ悲痛な叫びを上げるのみ。

 そして、水の勢いがほんの少しだけ弱まったかと思うと、光でできた矢が一本、水を注ぎ込まれている口の中に入り込んだのが見えた。

 怪訝に思って思わず体を起こしかけていたのか、ルナにさらに強い力で抱き付かれ、抑えられる。

 視界が銀で一杯になった。

 「俺が何をし……ブァァァ!グ、ブォ……」

 くぐもった悲鳴、力ない呻き、ドサッという重い音。それ以降、煉獄竜の立てる音は聞こえなくなった。

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