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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第二章:一攫千金な職業
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11 職業:冒険者⑤

 ゴブリンが全て出て来た。

 生臭い山が目の前に築き上がったというのに、ネルは嫌な顔をするでもなく、素直に感心の声をもらしている。

 アリシアも動じていないし、慣れって奴なのだろうか?

 「作戦勝ちだとしても、これだけのゴブリンを殺せる魔法が使えるなんて、アリシアはすごいよ。大方コテツはゴブリンを見つけてからはアリシアの警護に回ったんでしょ。」

 「いえ、そんなことは……」

 アリシアが申し訳なさそうにこちらを見る。

 「あはは、謙遜しなくて良いよ。」

 「俺が魔法を使うって発想はないのか。」

 「君は絶対に武芸者でしょ?ボクの蹴りをかわしたときの動きは本当に最小限のものだったし。少しは魔素が使えるのかもしれないけど物理攻撃が専門じゃないの?そういえば君の魔色は何か聞いても良い?」

 「黒と無色だ。」

 「あ……えっと、ゴメンね?」

 端的に答えると、ネルは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

 「別に良いさ。お前の魔色はなんなんだ?」

 「黄色と茶色。それにしても君は良い相方を見つけたね。武芸しかできない君とこれ以上にないくらい相性のいい仲間だ。」

 “しかできない”は余計だ。

 「で、そんなパーティーに入る気は?」

 「もっと実力を見せてくれたら考えてあげる。」

 よっしゃ。

 「言ったな?アリシア、例の三体を。」

 「ふふ、はい。」

 見るとアリシアも口角が上がっていた。

 ドサッ、ドサッ、ドサッ。

 宙から緑の巨人が三体転がり出てきた。

 「トロル!これも魔法で倒したの!?」

 「よく見てみろ。ほら、首の辺りだ。」

 「首?これって、刀傷!?それに火傷の跡が全くない……まさか、君が!?」

 「どうよ。」

 ドヤ!

 「ま、まあ、君が強いのは分かったよ。でもトロルはCランクの魔物だからね。Bランク程度の腕があれば三体くらいいけるよ。」

 「へぇ?ならお前をパーティーに入れるにはどれくらいの腕があればいいんだ?」

 まだ取っておきがあるからな。

 ここらでネル自身に逃げ道を塞がせよう。

 「Sランクって言いたいところだけど、私がAだしね。君達は将来有望そうだし、それぐらいあれば入ってあげるよ。だから頑張ってね。」

 「だってよ、アリシア。」

 「うふふ、はい!これからよろしくお願いしますね。ネルさん。」

 アリシアはもう完全に笑っている。

 「へ?」

 ドスン!

 ゴブリンキングが出てきた。

 「はわわ!」

 同時にネルな顎が落ちた。

 「じゃあネル、これからのパーティーメンバーに解体の仕方を教えてくれ。」

 「ふぇ?」

 「あれ?ゴブリンキングってトロルよりランクが高いと思うんだけどなぁ?」

 「うぅ、騙されたぁ。」

 「で、入るんだよな。」

 「も、もしかしたらこのゴブリンキングやトロル達は調子が悪かったのかもしれない!だから今度ボクと勝負して勝ったらで!」

 どんな調子だよ。

 ていうか軽い冗談のつもりだったのに、案外本当に応じてくれるのか!?あんな口約束で!?

 ……意外と律儀なやつなのかもしれない。

 「ま、まぁその話は後で解体しながら話そう。」

 適当に笑い飛ばして無かったことにされるだろうと確信していた俺は、非常に戸惑いつつもそう言った。

 「え、あ、うん。」

 それから俺とアリシアはネルに解体の手解きを受け、代わりに俺達の目標を教えた。

 ちなみに服が汚れるのでアリシアには黒魔法製のエプロンみたいな物を作ってやった。

 ネルが良いなぁとか羨ましがっていたが、流石に懐からエプロン2枚を取り出すのは違和感があり過ぎると思い、俺は思い止まった。

 「ファーレンかぁ。ボクも行ってみたいなぁ。」

 慣れた手付きで解体しながらネルが言う。

 「パーティーに入れば連れていくぞ。」

 「それは勝負でボクが負けたらの話だよ。」

 「他の結果を思い付かないなぁ。」

 からかうと、ネルは唇を尖らせた。

 「絶対に見返してやるからね!」

 「絶対に仲間にしてやるからね!」

 「真似するなぁ!」

 「ははは、じゃあ目標金額はサバ読んで大体100ゴールドだな?」

 キリが良い数字だし、入学料を払ったら1文無しなんてことにはなりたくない。

 「はい!」

 「100ゴールドかぁ。先は長いね。」

 ネルのやつ、もう入る気満々じゃないか。言ったらまた怒るから言わないでおこう。

 解体作業はその後三時間ほど続いた。



 解体作業がやっと終わった。

 初めは俺が一番へたくそだったものの、成長率50倍のおかげか、今ではネルと同じレベルだにまでなれた。

 ネルは意地を張ってそれを認めなかったけれども。

 一仕事を終え、休憩がてらネルに気になっていたことを聞いてみる。

 「なあ、なんで外の冒険者達はあんなに慌ててたんだ?」

 「ああ、あれね。ドラゴンが出たって報告があったんだ。」

 ネルの答えに、アリシアと顔を見合わせる。予想が当たったのか?

 「昨日の朝、門の前で依頼をこなしに行こうとしたランクB冒険者の報告なんだけど……なんか、上空を黒い影がゴブリンの森に向けて飛んでいったのを目撃したんだって。その黒い影は森の上で旋回し出して、光る粉を振り撒いたと思ったら、次の瞬間、森が一気に燃え上がったって、そんな報告してきたんだよ。ギルドとしては見間違いだろうと思ったけど、森で火の手が上がったのは他の冒険者も見たって報告があったから、原因究明のために今朝は調査隊を編成してたんだ。あ、ちなみに調査隊員は皆こういう腕章を付けるんだ。」

 ネルが懐から出したメモ用紙みたいな物にさらっと絵を描きながら説明してくれた。

 もう一度アリシアと目を合わせる。完全に俺らのせいじゃねえか。

 「ん?どうしたの?それにしても本当にすごい量のゴブリンだよ。よほどの火の魔法を使ったんだ、ね……」

 ネルが駆け出す。

 俺は全速力で追いかけ、彼女を羽交い締めにした。

 「放して!ボクにはギルド職員として報告の義務が!」

 ネルの喚く声が扉の外の冒険者達に聞こえないよう、彼女を後ろへ引き摺りながら、俺はその耳元に顔を寄せた。

 「まあ落ち着け。考えてみろ、お前が報告した場合、このパーティーは確実に質問攻めされて、場合によっては他の冒険者に疎まれるようになるかもしれない。お前はそんなパーティーに入りたいか?」

 「ボ、ボクが入らなければいいだけじゃないか!」

 「報告をしなかった場合を考えろ、俺達の実力はお前も理解しているだろう?俺達は確実にSランクに上がる。俺が保証してやる。」

 「で、でも。」

 「そして上がり始めるのはいつだ?お前が入ってきたときからだ。つまりお前が立役者となる可能性は大。お前は一躍有名人になれるかもしれないんだぞ?」

 「そ、それがどうしたっていうんだ!」

 「お前の婿探しも簡単に終わる。強いパーティーは他の強い冒険者との交流ができるのは当然だろう?そしてそんな奴らは絶対にお前に擦り寄って来る。お前はただ、その中から好きなやつを選べばいい。そして年を取ったら、そいつと冒険者の仕事で稼いだ沢山の金で、子供でもつくって、ゆっくり暮らせばいい。どうだ?最高の人生プランだろう?」

 今思いついた出鱈目な考えながら、考えてみればなかなか良い案かもしれない。

 「そ、そんなこと言ったって、その保証はどこにもないじゃないか。ア、アリシアだっているし。」

 おっ、随分言葉がぐらついてきたな。かなり適当に作った話が現実とそこまでかけ離れてはいなかったらしい。

 それにしてもこいつ、本心では冒険者をもう一度したいとか思ってたのだろうか?

 「なんだ、あれだけ自分でいっているくせに実際は自分の容姿に自信がないのか?美人さん?」

 「ぐぅ、はぁ、分かったよ。で、でも勝負はするからね!ボクがパーティーに入るかどうかはそれ次第だから!」

 「おう。」

 ゆっくりと拘束を解く。ネルは真っ赤な顔のまま、「着替えてくる。」と一言だけ言って、修練場を出ていった。

 あの様子なら話したりしないだろう。

 ……たぶん。


 しばらくして戻ってきたネルは大きな袋をいくつか持って帰ってきた。ゴブリンの爪等の部位をそれぞれ分けて入れるための物らしい。

 不安だったので調査隊に言ったのかどうか確認すると、小さく首を横に振ってと答えてくれた。



 はてさて、ゴブリン達はいくらになるんだろうか。

 解体を終え、血で濡れたロングコートを着替え直した俺と、エプロンのおかげで手を洗っただけで血生臭くなくなったアリシアは、無人のネルの机の前で、今回の依頼の成果を待っている。

 しばらくするとネルが来た。少し休んだら落ち着いたようで、もう平常営業だ。

 「えっと、まずはランク昇格おめでとう。君達はFランクになったよ。」

 「まだ2つしか依頼をこなしていないぞ?いいのか?」

 「この二つの依頼はね、いわばふるい落としなんだよ。薬草採取は地道な努力を、ゴブリン退治は生き物を殺す覚悟を身に付けさせるためのものなんだ。もちろんGランクの依頼もあるんだけど、ボクとしてはまず、あの2つで冒険者を続けるかどうか見極めて欲しかったんだよ。」

 へえ、色々と考えてくれてたんだな。

 薬草採取はしてなかったのは置いておく。

 「お前は俺達のパーティーに入る場合、ギルド職員をやめられるのか?」

 「ああ、うん、大丈夫。ギルドの受け付けって結構志願者が多いから。」

 「そりゃよかった。それで、勝負はいつにする?」

 「明後日だね。なんたって誰かさんのせいで調査報告を整理しないといけないし。」

 「本当に迷惑なやつだな。」

 笑い、言うと、ネルの額に青筋が浮いた。

 「こんの……!本当に明後日は覚悟しときなよ!」

 「へいへい。それで?あの素材やらなんやらはいくらになったんだ?」

 「あの量で、しかも殆どが、多少焼けてはいても完全に近い形だったからねぇ。それにトロル三体もあったけど、なんといってもあのゴブリンキング。……あれね、実はゴブリンキングメイジっていう、希少種だったんだよ!」

 そういえば魔法を使ってきたな。拳で粉砕してしまったけれども。

 「そしてなんと!獲得金額は45ゴールドと500シルバー!」

 ドン!と一抱えもある袋を取り出す。

 「で、そのうちギルドはいくら取ったんだ?」

 騙されないぞ、と暗に言うも、ネルは笑顔のまま口を開いた。

 「もう差し引いてあるよ。」

 「いや、多すぎるだろ。」

 目標金額をほぼ半分達成してしまってるじゃないか。

 「あのねえ、普通、ゴブリンの群れ討伐はランクDからCの冒険者が百人近くで行う大規模な物なんだよ?しかもトロル三体とゴブリンキングの希少種付きなんてAランクを10人、場合によってはSランクを引っ張ってくるときもあるんだ。ゴブリンキングの武器は良いものだったしね。それをたった二人で成し遂げたんだから、このくらいの金にはなるよ。……ふふ、ボクの仲間になるならそうでなくちゃね。」

 何度も言う、仲間になる気漫々だよなぁ!?

 「……なぁ、さっきお前はトロル三体はまだまだとか言ってなかったか?」

 「う、うるさい!どうでも良いでしょそんなこと。」

 「まぁ、良いか。結果は同じだし。なあ、このせか……街に銀行ってないのか?」

 さすがにこれだけの量のお金を素手でそれも剥き出しで持っていたくない。

 「まあ、ギルドが冒険者の銀行の役目も果たしているけど、アリシアがいるから良いんじゃない?」

 あ、そうか。

 「アリシア、爺さ……いや、神の所に置いといてくれ。」

 そう言ってお金入りの袋をアリシアに渡す。

 「はい、分かりました。あと少しですね。」

 「おう。」

 爺さん、これは賽銭じゃないからな。盗るなよ。

 『盗るか!ったく、わしがこれを使ってなにができる。お主の世界の神のことはしらんが、わしには使う機会がないわ。』

 ふーん。(疑)。

 『わしとの念話ではお主の感情も伝わってくるんじゃからな!』

 はいはい。

 「じゃ、明後日な。せいぜい悪あがきでもしてみせろよ。」

 「この!一瞬で終わらせてやるからね!首を洗ってまっててよ!」

 後ろ手にヒラヒラと手を振って、俺とアリシアはギルドを後にした。



 満腹亭に入ると、この前のようなドンチャン騒ぎはなく、空いていた。

 おっさん(本人が教えてくれるまで名を呼ぶ気はない。)はたんたんと料理の下ごしらえをしていて、ローズは暇なのかおっさんの真ん前のカウンターで突っ伏している。

 厨房に近より、おっさんに声をかける。

 「なあ、昼飯を頼めるか?」

 「問題ない。ああ、そいつは起こしておいてくれ。客の前で寝るのは、な。」

 それならば、とローズにくすぐりの刑をしかけようとすると、ローズが寝言を言った。

 「ムニャムニャ、お父さん、だいすきー。」

 おっさんを見る。

 「やっぱり寝かしてやってくれ。」

 「にやけてるぞ、おっさん。」

 「見逃せ。昼飯は半額にしてやるから。」

 俺もつられてにやにやしながらいつもの席に座った。いくら空いていてもいつもの席に向かってしまうのは何故だろうか?

 そんなどうでもいいことを考えながら手近な椅子に座る。

 「ほら、水だ。これもまけておいてやる。」

 おっさんが水を持ってきてくれた。

 「ありがとな。」

 無言で頷いたおっさんが厨房に戻っていき、俺は水をあおる。

 ん?味がついている?

 レモンを彷彿とさせる爽やかな味がほんのりとした。

 「美味しいですね。」

 アリシアもご満悦のよう。

 「そうだな。疲れがとれる。」

 おっさん、機嫌が良いんだろうな。間違いない。

 水のお代わりを頼むかどうか迷いながら、俺はきっとまた絶品であるだろう昼飯を待った。

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