1 職業:無職①
「はぁ……、また、落ちたな。」
安売りパンという夕食入りのレジ袋片手にアパートへと帰る道中、昨日受けた不採用通知をふと思い出し、俺、黒田虎鉄はため息を吐いた。
一応、これまで真面目に生きたつもりだ。……まぁ、二次元文化は好きだし、我ながら少々中二病の気があるけれども。ただ少なくとも周りに迷惑をかけない程度の分別はあるつもりだ。
特に問題を起こすこともなく義務教育を終え、高校だってちゃんと卒業した。成績だって無難な部類だったと思う。
しかし、いざ就職しようってときに母親が倒れ――父親が仕事場で簡単に辞められない地位にいたのもあって――俺は彼女の介護と家事全般を請け負うことになった。
そして親父と二人三脚の生活を続けて1年、俺が19になったとき、母親はあっさり逝ってしまった。
特に珍しい病じゃない。がんだった。
親父はその日に何か吹っ切れたのか妻の死を受け止めきれなかったのか、それまで以上に仕事に没頭し、翌々年、母親と全く同じ日に過労死した。
俺としては、ずっと養って貰っていた事もあり、両親には安眠してほしいと心から願っている。
ただ、誕生日と両親の命日が被ったのはなかなか複雑な気分だった。まぁ見方を変えればロマンチックと取れるのかもしれん。
何にせよ、それから俺は生活のために改めて仕事探しを始め、しかし、受けた就職試験や面接の尽くで落とされた。
一年間もの間、母親の介護にかまけてバイトもしていなかったことがネックになっている。
それが二年も続けばさすがにキツい。両親の残した貯金や生命保険も今年一年で尽きる目算だ。
養うべき弟や妹のいないことが唯一の救いかもしれない。
「はぁ、諦めてバイトでも探すかね。」
またため息をひとつ。ぐだぐだ考えてる内に今夜の予定を決めたところで帰り道の最後の信号、割と大きな交差点についた。
「それでね!あの……」
その歩行者用信号機の真下で、近所の高校の制服を着た男女三人が横一列に並んで仲良く笑いあっているのが見える。
……高校にさしたる思い出はない。
俺は背が周りよりも少し高かった、それだけだ。創作物でいうところのモブAいや、Bぐらいの立ち位置だっただろうと思う。
まぁ創作物のような展開を目にする事が無かったから、そのモブの枠組みにすら入れていなかったのかもしれん。
高校生達の数歩後ろに立ち、向かいの赤信号を眺めていると、何とはなしに彼らへ視線が移った。
仕方ないだろう、何せ並ぶ三人のうち左右の二人はかなりの綺麗所だ。
右の子は背が女性にしては少し高めで、長い髪を1つに束ねており、後ろからチラと見えた横顔は見る人をハッとさせる程には整っている。
一方で左の子は対照的に背が低く、髪は短く切られていて、その容姿には可愛いという表現が合う気がする。また、三人の中では最も活発なようで、ほとんど彼女が話していて、他はそれに相槌を打っているだけのようにも見える。
さて、最後の真ん中のヤツは男だ。身長は中くらい、少し頼りがいがない気がする。顔は中性的で覇気がなく、なんの取り柄もなさそうだ。
……流石に言い過ぎたかね?はっきり言おう、そいつが羨ましいのだ。
本人は何事もなさそうにしているものの、傍目から見ているとわかる、美少女たちはこいつが好きだ。
特に混雑してない、それどころか周りに俺しかいないってのに二人ともが真ん中の男に肩を寄せあっているし、短髪の方は手を繋ごうか繋ぐまいか迷っているのが後ろから分かる。
ああ、青春してるなぁ。
ついニヤニヤしてしまい、真顔に戻そうと口角を擦る。
変な男が高校生を見て下卑た笑いを浮かべていたなどと通報されたら職業難をさらに抉らせてしまう。
しかし結局ニヤニヤ笑いを止められず、俺は仕方がないので下を向いた。
まぁこれはこれで危ない構図だろうな。
「危ない!避けろォォォ!」
内心で皮肉気に笑っていると、いきなり前方遠くから大声が上がった。
驚いてそちらを見れば、向かい側から猛スピードで走ってきていた大型のトラックが、信号の灯す赤色を無視し、真っ直ぐ爆走して来ていた。
すぐ左を通る太い道路ではなく、文字通りこちらへ、だ。
あまりの事態に体が一瞬固まったものの、俺は何とか、不格好ながらも右へと大きく跳び込んだ。
右腰を強打。
「イデッ!?」
……あ、あの羨ま、けしからん三人は!?
腰を押さえて地面に転がったまま、潤んだ視界の中、高校生達を探せば、三人がその場から一歩も動いていないのが見えた。
いや、違うか。
男が二人を突き飛ばそうとして、他の二人は慌てて男を引っぱろうとし、もみ合いになってしまっている。互いの優しさが仇になったよう。
助けたいとは思う。でも身体が動かない。……腰が痛い。
そして、俺は目を逸らした。
悲鳴。鈍い音。最後に高めの耳障りな音が響き、熱したゴムの臭いが辺りを漂う。
学生達。衝突。急ブレーキ。
視界に入れなくとも、それぞれが何による物かなのかは容易に想像できた。
動けなかった自分が情けない。言い訳までしていたのが嫌になる。俺なんかよりあの高校生達の方が人もできていたし、たぶん社会にも貢献できたはずだ。
そして何より、彼らには悲しむ家族がいただろうに。
「はぁ……つくづく駄目だな、俺は。」
あの三人の分まで全力で生きようとか、そういう感情が込み上げて来ればまだ救いようはあったろう。
自己嫌悪に陥りつつ、せめてトラックの運転手は警察に引き渡そうと腰を抑えたまま立ち上がり、タイヤの後ろに黒い跡を数メートル残したトラックへ近づくと、バッとドアが勢い良く開き、焦った様子で運転手が飛び出てきた。
帽子を深く被っていて顔は分からないものの、なかなか立派な髭を貯えているのが分かる。
彼はトラックの前をチラと見て、自分が轢いたモノを確認した途端、ピシリとその場で固まった。
「お、おい落ち着け、逃げるんじゃないぞ?どうせ逃げられやしない。大人しく捕まるんだ。罪は償えるさ。」
抑揚を無くし、淡々と適当な文言でその背中に呼び掛ける。
するとそいつはロボットのような動きで俺を見、急に走ってきたかと思うと、いつの間にやら握っていた剣を俺に向かって振り回した。
「へ!?のわっ!」
鉄の塊が再び尻餅をついた俺の股下の地面につき刺さる。
石の欠片が頬を掠り、遅れて体が震え出す。
混乱した頭を整理しないまま横に転がり、俺は相手が構え直す隙にもと来た道を逃げ出した。
嘘だろ、まさか口封じに殺そうってか!?誰か警察を呼んでくれよ!さっき危ないって叫んでくれた奴はどこにいるんだ!?ていうかそもそもどうして剣がある!この現代社会じゃあまだ銃の方が現実味あるぞ馬鹿野郎!
頭の中でそこまで喚き立て、ふと気付いた。何故か俺の視界には人っ子一人いやしない。
走りながらチラと後ろを見るも、運転手の姿は無し。
振り切ったか?いや、直線にしか走ってないからそれはない……まさかね。
前を見るとやはりというか何というか、そこには剣の切っ先があった。
「ギャッ!」
思わず変な声が出た。ただ、今はそんなことどうでもいい。
それよりも切っ先を避けようとして体勢を崩し、地面に倒れてしまったのが問題だ。
再び腰に激痛が走る。
これでは逃げようがない。
「面倒くさいのう、スパッとやってやるからじっとしておれ。」
剣を振りかぶる運転手。
……俺の人生はここで終わるのか?
剣が降り下ろされる。俺の脳天をかち割るまでそう時間は残ってない。
くそ、冗談じゃないぞ、親父は死ぬまで働いて支えてくれたんだ。ここで死んでしまったら、あの世で顔向けできん!
身をよじる。
左肩から剣が切り入り、そのまま左腕が切り飛ばされた。
それでも、病院に行けば生きてはいける……筈だ。
「ガァァッ!」
叫んで痛みを誤魔化し、運転手に飛びかかる。すると突然彼の顔から剣が生え、俺に向かって伸びてきた。
運転手の後ろに、彼と全く同じ背格好と制服そして全く同じ髭を生やした男が見えた。
そいつの持つ剣の切っ先はそのまま俺の顔に刺さり、貫く。
「「全く、手間をかけさせおって。」」
突き刺されたまま、最後にそんな言葉を、両方の運転手の口から聞いた気がした。
気がついたら、何もない真っ白な部屋に寝そべっていた。
起き上がる。
は!顔!
咄嗟に両手を顔に当て、ペたぺた触り、なんともないことにまずは安堵した。ていうか左腕があることも驚きだけれども、やはり顔よりもその衝撃は低い。
手術成功?そろそろ看護師さんが「先生、起きました!」というところだと思うけれども、何にもない。
……ここ、病院じゃないな。
いくら何でも患者を床に寝かせる病院なんてある訳ない。いや、案外布団式の病院って可能性も……ないな。
「ようこそ、勇者よ。」
色々頭を回していると、後ろからやけに響く声が聞こえた。振り向けば見覚えのある長い髭を生やしたお爺さんが少し離れた位置に立っていた。
「召喚に応えてくれたこと、感謝する。」
厳かな声が続けて響く。
召喚?ていうか、中空をみるばかりでこっちを頑なに見ないなあの爺さん。
見ないようにしてるのか?
「お主は前の世界で息絶えた。だがこれから勇者として生き返り、別の世界へと行ってもらう。そこで技能を二つ与えよう。完全鑑定と超魔力。必ずや役立つであろう。」
あ、何でこっち見ないのか分かったぞ。
あの野郎、うやむやのうちに全部済ませようとしてやがるな。
「おい!」
「それでは健闘を祈る!」
叫んだ途端、爺さんはいきなり早口で捲し立て始める。罪の自覚はあったらしい。
「祈る前にまずは謝罪からだろうが!」
「知ったことではないわい!ではさらば……」
『テミスコードが発令しました。』
そして俺の要請に対して身勝手過ぎる返答吐かれた瞬間、どこからか女性の声が響いた。
「ぎゃぁぁ!」
直後、青ざめた顔でその場に崩れ落ちるクソジジイ。
……なんなんだ?
「それで?まずはちゃんとした説明を頼めるか?」
正座している爺さんの前で胡座をかき、頬杖をついたまま尋ねる。
あのテミスコードというのは裁きの神であるテミスが作った神様用の裁判機能で、何らかの揉め事になると発動し、空間内の両者が納得するまで、神の力を含め、あらゆる暴力行為が一時的に使用できなくなるものだそう。
実際俺自身、身体に上手く力が入らない。
そして当然この場合だと、揉め事の解決のため、俺が納得の行く説明を爺さんがしないといけない訳だ。
「うむ、まず、大前提として。とある世界の者が助けを求め、他の世界から特殊な力を持つ者、つまりお主やあの若者三人を呼び寄せたのじゃ。」
「特殊な力?」
ンなもん持ってないぞ。
あと、俺がどうして若者枠に入らなかったのか非常に気になる。
「先程わしが与えたと言うた技能じゃよ。なに、感謝はせんでも良い。少々無理矢理世界渡りをさせる駄賃代わりじゃ。」
「感謝なんて微塵もないからな。」
軽く睨んで言うも、相手はそれをそっくり無視して話し続けた。
「この召喚は具体的には召喚者と同じ種族の者を4人喚び寄せるようわしら神に乞い願う物でな、それに応えるべく、人間のおる世界を適当に見ておったら、お主ら四人だけが丁度良く一所に固まっておるのを見つけたからの、まとめて轢き殺し、魂を回収しようとしたのじゃ。しかしお主が避けたせいで三人し分しか魂が揃わず、儂は慌ててお主を直接殺した訳じゃ。焦ったトラック運転手の悲しい事故としてな。うむ。」
何がちょうど良く、だこの野郎。
「じゃあ、あそこに人が一人もいなかったのは……?」
「生物避けの結界じゃな。思えば先にあれを用いておればお主に避けられる事も、こうして正座される事も無かったわい……迂闊。」
なにが迂闊だこの野郎。
「へぇ、ちなみにあのまま逃げていたらどうなったんだ?」
「それは無理な話じゃ。まぁ、そのまま逃がしてあとで突然死させるというのも良かったかもしれぬの。」
「じゃあ逃がせばよかっただろうが。」
左肩、痛かったんだぞ。顔も。
「いや、あのときはとにかく焦ってての。」
「そしてわざわざ俺に無駄な苦労をさせたわけだ。どっちみっち死ぬんだからな。」
「うぐ……それはすまなかった。詫びになにか一つだけ「一つ?」ふ、二つ技能を追加で与えよう。「二つ?」図々しいわ!二つじゃ二つ!……それで、どうじゃ?」
「二言はないな。」
「ないわい。」
「そうだな……いや待て。そもそも元の世界に帰れないのか?」
「ふむ、この際じゃから勝手に力を用いても咎めはないじゃろうし……帰れる、じゃろうな。」
「なら「ただし、そうなるとあの三人の若者の魂はお主の代わりが見つかるまで凍結されたままじゃな。それで後遺症が残るかどうかは知らぬが……安心せい、どちらにせよそれをあの三人が知ることはないわい。もちろん、お主の代わりとなる者に、お主が辞退したせいでそなたは死んだ、などとは伝えないと約束しよう。」……自分が嫌にならないか?」
「さぁの、どうする?」
選択肢は無いに等しいだろうが。ただでさえ三人も見殺しにしたって負い目もあるのに。
「はぁ……分かったよ。で、技能を三つ「二つじゃ!」チッ、二つか、そうだなぁ……。」
何でも二つとか言ったからなぁ、勇者とか言ってたから戦闘とかもあるかもしれないし、
「人外じみた身体能力で。」
「お主が今から行くところは人間以外の種族もおるし、魔法というものもある。そんなもの持っていたところで大した意味はないぞ。」
「へぇ、魔法ね。ていうか、なんか親切だな、爺さん。」
「わしはこれでも神なんじゃ。一度決めたことにはケチなことはせん。」
「何かおすすめはあるか?」
「わしのおすすめのう。……成長率50倍ぐらいが妥当ではないか。」
「それ、常人より50倍早く老化が進行して死ぬとか言う落ちじゃないよな。それに俺はもう成長期は過ぎたぞ?こっからマイナスにドンドン成長した見ていられねぇよ。」
「そこらの調整ぐらいはしてあるわ!」
ならまあ、一つ目はそれで良いか。
二つ目は……閃いた。
「じゃあ、それでいいや。それで、もう一つはいつ、どこでも俺の都合でおまえと念話できるようにしてくれ。」
「うぐっ、いいじゃろう。……これでよいな?」
爺さんに頷き返すと、またあの女声が白い部屋に響き渡った。
『テミスコードが解除されました。問題の解決、おめでとうございます。』
「はぁ……、やれやれじゃわい。ふぅ、では気を取り直して」
爺さんが両腕を広げ、俺の体が透け始める。
「さらばじゃ!」
まぁ、念話で世話にはなるけどな。
俺の意識は白濁していった。
再び気が付けば、大理石できたような白い部屋の中、俺は円形の濃い紫の絨毯の上に立っていた。
周りを見回せば、天井に巨大な金のシャンデリアが吊るされているのが見え、所々に金のあしらわれたソファや大きな鏡などの調度品が目に入る。
前方には見上げる程に大きな両開きの門があり、そのまま視線を少し下げると、きらびやかなドレスを着た、絨毯に倒れ伏した少女の姿が足元にあった。
……え?
「生きてる!?」
あんまりな事態に俺が固まっていると、いつの間にか右に立って男子高校生が驚きの声を上げ、自身の体をペタペタ触り出した。
言わずもがな、交差点で俺が見殺しにした三人のうち一人だ。
「カイト!?私達、生きてるよ!」
「アオバ君!ほっ、どうやらトラックに跳ねられずに助かったようね。本当に、良かった。」
そのさらに右から他二人の高校生達も声を上げ、――話を聞くに――アオバカイトに抱きつき喜びあった。
あ、でもあんたら本当に殺されたからな?
これって言うべきかね?犯人も分かっていることだし。
『やめてくれい、後生じゃぁ。』
おっと、そういえば爺さんと念話できるんだった。ついに精神異常で神の声が聞こえたかと『神じゃ!』そうだった。
ん?ていうか、どうしてあの三人は俺みたいに死んで、違う、“殺されて”からここに来るまでの記憶がないんだ?
『普通はお主のように反論することなく、寝ぼけ眼のままそちらに送られるんじゃよ。』
事前説明もなしに?徹頭徹尾碌でもないなおい。
とりあえず、目の前の少女のそばに屈み込み、彼女を助け起こす。
「おい、大丈夫か?」
「うぅ……。」
良かった、生きてる。
「貴様!王女様に軽々しく触れるでない!」
途端、後ろから怒鳴られた。
ビクッと肩を跳ねさせ振り向けば、左手に大盾、右手に抜身の剣を持った鎧甲冑がいた。
しかしそうして肩が跳ねた拍子に俺は彼女を取り落としてしまい、彼女の頭が床とゴン、となかなかいい音を立てた。
「あいたっ!」
その衝撃でついに少女が目覚めた。過程は酷いものの、良しとしよう。
「貴様ぁ!」
さっきの怒鳴り声が再び浴びせられる。お前のせいだと叫び返したい。
……というより、相手が武器を持ってなければそうしただろう。
「ドレイク、やめなさい!」
と、頭を打って意識を取り戻した少女が怒れる騎士――ドレイクを制してくれた。
そんな頼もしい彼女の影に隠れなかった俺は褒められても良いと思う。
「っ!しかし!」
「あなたは勇者様無しでも良いとでも言うのですか!?」
「も、申し訳、ありません。」
少女の一喝に、騎士ドレイクは俺を悔しそうに見て頭を下げ、もとの位置に戻っていく。
いいぞ王女様。
「あたた……。」
しかし打った頭はやはり痛むらしく、王女様が後頭部を抑えて小さく呻く。
申し訳ないったらない。
「あの、大丈夫ですか?」
するとカイトが俺の前に出て、彼女に心配そうに声をかけた。
「え、ええ。問題ありません。心配してくださりありがとうございます。」
「そんな、感謝されるようなことはしてないよ。それで、ここはどこなのか教えてくれないかな?」
「もちろんです。ここはスレイン王国、その首都、ティファニアです。私は第一王女、ティファニーと言います。勇者様方を召喚させていただいたのも私です。」
「あ、オレはカイトって言います。よろしく。」
「はい、私からもよろしくお願いします。」
「それでその、勇者って……?」
「ああ、そうでした。具体的な説明はこれより私の父、国王ヘイロンがされますので勇者様方は私に付いてきてください。」
「分かりました。そういやオレ、一国の王女様になんて初めて会いました。というか、こんな豪華な部屋も初めてかも。」
「ふふ、そうでしたか、ありがとうございます。でも、この先の大広間はもっと豪華ですよ?」
「そう言われると楽しみになってくるね。」
「はい、私も、カイト様がどんな反応をなさるのか、見るのが楽しみになって来ました。」
短時間ですっかり打ち解けた様子でカイトとティファニーが巨大な両開きの門へ歩いていく。
……コミュ力の化け物かな?
そう感心している内に、慌てたように女子高生二人が彼らを追い掛け、俺はドレイクに睨まれながらそそくさとその後を追った。
扉を開いた先の部屋には、いかにも王様だって言う感じの男がいた。まぁ、間違いないだろう。
さっきの部屋が便所だと思える程だだっ広く豪勢な部屋で、左右に眩しいくらい派手な配色の服を着た人々が立っている中、一人だけ奥の、段差を数段上がった位置にある椅子の上でふんぞり返っているのだから。
王女様は彼の前まで伸びる赤い絨毯を進んで跪き、勝手の分からない俺達四人はアヒルの子供の如くそれに倣う。
「ようこそ!勇者よ!」
すると王様、ヘイロンだったか?がそう言って立ち上がった。
ん?デジャヴ?
『だまっとれい ああいうのはロマンなんじゃよ。』
そうかい。
そして、ヘイロンはだらだらと長い挨拶の口上を垂れ、
「……我が国、スレイン王国はこの世界にある3つの主要大国の1つなのだ。数年後、お互いの領土を奪い合う戦争が始まる。召喚して早々申し訳ないのだが、我が国のため、力を貸していただけまいか。」
最後にそう締めくくって、立ったままこちらの様子を伺い始めた。
「カイト様、お願いします。」
するとティファニーがカイトの両手を取り、その潤んだ碧眼を彼の目に合わせる。
カイトもまんざらではないようだ。
おいカイト、お前は目の前に天使を見い出してるかもしれないけどな、すぐ後ろに天使から悪魔に堕ちた奴等が二人いるぞ。
「分かりました。いえ、是非協力させてください。」
「さっすがカイト。」
「ええ、立派だわ。」
そう言って、カイトをティファニーから引き離す高校生二人。
「おお、感謝しますぞ勇者様。」
快い返事に王様は満足そうに頷いた。
にしてもとんとん拍子に話が進んでいくな。
まぁだからと言って何かしようとは思わない。長い物には巻かれろと言うし、このまま流れに乗ろう。
何か貰えるかもしれないし。
「ではまず、各々方の能力を教えてもらいたい。勇者であれば、ステータスと念じると己の能力を確認できる筈だ。」
能力って、爺さんの言ってた技能のことかね?
ステータス。
「うぉっ!?」
念じた途端、半透明の板が目の前に現れた。……いや、目を閉じても見えるから、そんな風に見えるだけか?
「わ!?」
「え?」
「なに、これ?」
と、高校生達も声を上げて同じように少し仰け反った。しかし、彼らの前に半透明の板なんて物は見当たらない。
『お主らそれぞれの目に映っておるだけじゃ。さっさと読まんか。』
name:コテツ
job:勇者 職業補正:聖武具使用可
skill:完全鑑定 超魔力 成長率50倍
magic coller:黒 無
なんだこれ。
『フォッフォッ、便利じゃろ?召喚された者の体は特別に作られておるからの。これはその機能の一つじゃ。』
……俺はロボットになったのか?
『なに、大元は人と変わらんわい。血は通っておるし、糞尿も出る。』
人の判断基準はそこなのかよ。
で、神との念話はスキルじゃないのか?
『うむ、お主がわしを強制的に念話させられるのはスキルではなく、権利じゃからな。』
にしても勇者か、やだな。さっきの王様の説明によると無理矢理戦わされるんだろ?
嫌になったら辞められないものかね?
職業が変わりました。
そう、脳内に声が響いた。
へ?ス、ステータス
name:コテツ
job:無職
skill:完全鑑定 超魔力 成長限界突破
magic coller:黒 無
すみませんでしたぁぁ!もうどんな職業でも文句を言わないから戻してくれぇぇ。
無職だけは、無職だけはもう勘弁してくれ!
返事しろよちくしょぉぉぉぉぉ!