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自称好意  作者: しのみや
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本文

【登場人物】

アキラ 男 15


ユキ 女 15



【本文】


 夕方のバス停。

1人の男が座っている。

下手から出てくる少女。


アキラ「よっ。お前も帰りか」

ユキ 「そりゃあ学校が終わったんだから帰るよ。普通なこと聞かないで」 

アキラ「普通のことかどうかなんて確認しなきゃわかんないだろ」

ユキ 「屁理屈ばっかり」


 つまらなそうに携帯端末を眺めるアキラ。

無言で携帯をつついていたユキだったが気になり質問する。


ユキ 「なにをそんなに熱心に見てるの?」

アキラ「普通なものを見てる」

ユキ 「私アキラのそう言うところ嫌いだなあ」

アキラ「俺は自分のこういうところ好きだよ」

アキラ「あ、質問の答えはこれね。SNSに投稿された女子大生のリストカット写真」

ユキ 「うわっ……。趣味悪……」

アキラ「どこにでもありふれてる普通の写真だよ」

ユキ 「だとしたらおかしいのはそんな写真をじっくりと眺めてるアキラの方だね」

アキラ「鋭い指摘だ。でもさ、これって作り物だと思うんだよ」

ユキ 「よく見たら絵具とかそんな感じなの? 見せなくていい! 見たくないから!」

アキラ「作り物でも?」

ユキ 「偽物でも怪我とか傷とか見るのは嫌でしょ。なんでそんなものを熱心に見たがるんだか」

アキラ「でも誰かがしっかりと見ないと本物かどうかもわからないじゃん。この人だって人を不快にさせるためだけにこんな写真をアップロードしたんじゃないと思うよ」

ユキ 「……じゃあなんのためなの」

アキラ「見てほしかったんだろうさ。自分を、認めてほしかったんだ。自分が傷ついていると嘘をついてでも」

ユキ 「……」

アキラ「今、そんなことのためにって思ったでしょ? でもこれって誰でも持ってるものだと思うよ? 誰だって自分がここにいるって主張したいもんじゃん」

アキラ「それにこれってある種の選別だと思うよ。こんな自分でも見てくれる人だけフォローしたままで!ってやつ」

ユキ 「どんな自分でも受け入れてくれる人を探してるってこと?」

アキラ「そういうこと。こういうタイプの人間は自分を否定してくる人間のことは大嫌いだと思うしね」

ユキ 「どんな人でも自分のことを否定してくる人は少なからず苦手だよ」

アキラ「……」


 しばしの沈黙。

耐えきれなくなったユキがアキラの前髪を上げる。


アキラ「うわっ、なにすんだよ」

ユキ 「大分治ってきたね、怪我」

アキラ「怪我見るの苦手なんじゃなかったのかよ」

ユキ 「まあ、あれからもう半年も経つもんね」

アキラ「ユキ」

ユキ 「私を庇ったせいでこんな怪我しちゃってごめんね? 怪我だけじゃないか……」

アキラ「ユキ! もうその話は良いだろ」

ユキ 「良くないよ! 私のせいでこんな消えない傷を負っちゃって! その上転校まですることになっちゃうんだもん……。よくないよ……」

アキラ「俺が自分で選んでこうした。後悔はしてないよ」

ユキ 「私が! するんだよ! アキラだけに全部辛い目押し付けて……。最低だよ……」

アキラ「押し付けられたつもりはねえよ! 俺が勝手に背負っただけだ」

アキラ「お前が辛そうな顔してると俺も辛くなるんだよ。俺はお前よりも強いんだ。だから笑ってられる。だからお前も辛くならなくて済むだろ?」

ユキ 「でも……」

アキラ「でもじゃねえ! 俺があの日自分の名誉を傷つけてでも! お前を守るために叫んだ言葉に後悔はねえよ」

ユキ 「……っぷ。ぷっはっは!」

アキラ「真面目な話の途中で笑いだすなよ」

ユキ 「いや、だって思い出したら笑っちゃって……。ぷぷ……」

アキラ「そんな面白おかしいこと言ったっけか……」

ユキ 「だって……『うるせーぞブス。それ以上騒いだらお前らの尻と胸順番に揉むぞ』って……。もっとマシなこと思いつかないのかな……ぷぷ……」

アキラ「俺なりに場を和ませながら思った言葉だったの! 突然だったから思ったことそのまま言っただけってのもあるけど……」

ユキ 「ほう、みんなのお尻と胸を揉みたかった」

アキラ「……それは言葉の綾と言いますか」

ユキ 「まあ、いいんじゃないでしょうかね」

アキラ「敬語はやめよ?」

ユキ 「私のなら自由に揉ませてあげたのに……」

アキラ「え!? マジで!?」

ユキ 「嘘だよ」

アキラ「本当に揉むぞお前」

ユキ 「いいよ。次に会った時にね」

アキラ「…………揉みてえなあ」

ユキ 「揉みに来てよ」

アキラ「考えとくよ」


 バスが到着した音。

アキラが立ち上がる。


アキラ「じゃあ行くわ。ばいばい」

ユキ 「ねえ! また会えるんだよね!? 大丈夫だよね!?」

アキラ「会えなきゃ探してくれよ。SNSに写真でもあげてればその手で気づくさ」

ユキ 「なにそれ……リストカットするの前提? それより私があんたを探してあげるわよ! だってアキラの怪我の方がわかりやすいもの!」

アキラ「そう……だな。こんな傷がある人間早々いないしな」

ユキ 「だから……また……会ってよ……」

アキラ「最後に俺が言いたかったセリフを当てたらな」

アキラ「じゃあな」


 閉まるバスの扉。


ユキ 「わかってるに……決まってるじゃない……。私にも言わせてよ……」


暗転。


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