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通常運転ですがなにか?  作者: 名城ゆうき
第零章:プロローグと彼らが家族になるまでのダイジェスト
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発言


 その後、粛々と料理が出てはワインを注がれ、今は最後のデザートとなっている。

 正直に言おう。

 めっっっちゃおいしかったわ!!! なにこれテーブルマナーとかよくわからんけどそんなんどうでもようなるほどうまかったわ!

 高見澤さんが主立って話して、一実が一言言って、お姉ちゃんに超うまいね!とコメントしながら一実が横から要らなかったら食べるよ、とか言ったりしてちょっとだけ分けてやったり。

 うん、そんな感じで時間が過ぎた。


 と言いますか。


 ……どうしてこの四兄弟はしゃべらないかな?


 自己紹介の時に会釈はしたけどそれだけ。誰の声も聞いてない。ただ、静かにご飯を食べているだけ。それを言うなら、うちの兄ちゃんもそうだけど……。四兄弟全員しゃべらない、とか、ないだろ。

 少々、いや、多分私にしたらかなり怒っていたかもしれない。

 おいしいデザートを食べているのに、妙に頭が冴えていた、というか、心の中が冷たくなっていくような気がした。

 いつもおしゃべりな兄ちゃんがしゃべらない。なら、ここは私が言うべきなんだろう。

 そう、私が決意した時。


「高見澤さん」


 お兄ちゃんの低い声が響いた。

 久しぶりに聞いた気がしたその声に、怒りとかそういったものはなかったし、落ち着いていたと思う。だから安心した。けれど、なにか釈然としない変な感じがした。


「なんでしょう? 知種君」

「お母さんとの結婚を取りやめるつもりはないんですね?」


 空気がピリッと緊迫する。

 見詰め合う高見澤さんとお兄ちゃん。ただ、見守りながら沈黙を続ける四兄弟達。戸惑う隣の一実と真剣な表情で二人を見るお姉ちゃん。お母さんは息をのんでいる。

 あぁ、なんだかな。

 私は冷えた目でそんな彼らを見てしまっていた。


「もちろん、ない」


 極上の笑みを浮かべながらお母さんを引き寄せる高見澤さん。


「ちょっと、高見澤さんっ」

「子どもの前だから恥ずかしいですか、真咲?」


 私は赤面するお母さんと目を細めて彼女を見る高見澤さんを見た。

 ……ふぅん。


「真咲は必ず幸せにする。その上で、君達にも認めてもらいたいんです。今すぐに、とは言いません。何せ今日顔合わせもしたばかりですから」


 そう言って、高見澤さんは四兄弟と私たちを見た。


「実は息子達には、私から真咲のことを前から話していたんですよ。だから彼らには了承を得てもらっている。ただ……真咲は君達に話していなかったでしょう?」


 ふうっと息を吐くと、隣でお母さんが口をぱくぱくして何か言いたげにしていたけど、結局口をつぐんだ。


「私としては、義理とは言え、知種君、香也さん、常葉ちゃん、そして一実君の父親になるのだから真咲さんを含めた『家族』を大切にしたい」


 一息つくと、高見澤さんは私達を見た。お兄ちゃんは黙ってそれを聞いている。


「だからいずれ、認めてほしい」


 その言葉でその場に沈黙が下りる。

 ふと下を見ると途中で食べかけていたケーキをフォークに刺したまま、食べてなかった。私はそれを口に入れるとフォークを置いて、紅茶を飲んだ。


「……俺は構いませんよ」


 お兄ちゃんの言葉に私は顔を上げた。無表情に近い、けれど、いくらか諦めの入った表情だった。


「俺達はもう大人です。一実はまだ学生だけど、成人しています。自分のことは自分でできる歳です。それにお母さんには、誰かが必要だと前から思っていましたから。それが誰だろうと、お母さんが認めた相手で、お母さんを大切にしてくれる存在なら文句はありません」

「そう……それは、嬉しいな」

「ただ、俺も結婚までしたいい大人です。例え義理の父になろうと、俺は『河内こうち』の姓でいます」

「それはもちろん構わないよ」


 とても嬉しそうに微笑む高見澤さん。一見緊迫感が解け、穏やかに話しているようだった。

 でも、私はなんだか違和感しかしない。


「……知種がいいなら、私も特に言うことはありません」


「オレも……お母さんが幸せならいいよ。あ、でもってことは……オレの場合、名前が『河内』じゃなくて、『高見澤』になっちゃうのか」


 私が黙っているうちになんだか皆さん、納得している流れになっている。なんだかな、このままでいいのかな。私はもやもやする気持ちを抱えながら考えた。

 ……確かに私だってお母さんが幸せになるんなら結婚するのはいい。お互い想いあっていて、幸せにしてくれるんなら、私達はお母さんの子だけど、もう小さい子どもじゃないし。大人となった今、問題ない。ちょっと関係するのは、一実が学生であること。

 高見澤さんとお母さんが夫婦になること。それ自体にはなんら文句はないんだ。

 けど……。


「常葉ちゃんは、どう思う?」


 その言葉で意識が浮上する。

 周りが皆、私に注目している。

 私は、一度目を瞑った。そして深呼吸をすると、言った。


「私も、反対はしない。お母さんが望んで、幸せになるなら」

「常葉ちゃん……」

「―――――――ただし、条件があります」


 その言葉に、一度気が緩んだ空気がざわめいた。

 見ると、高見澤さんは少し驚いているようだった。けれど頬を緩めると、納得したような表情を浮かべた。


「もしかして、私の息子達のことかい?」

「…………」

「確かに、年頃の君にとって他人同然の男が、しかも、四人も共同生活するとなると心配だろうね。安心してくれていいよ。凌は寮生活になるし、他3人は別居しているようなものだ。無理して一緒に住むことはない……」

「――――それです」

「……はい?」

「ソレ、止めてください」


 私の言うことがよくわからないようで、少し戸惑いを見せる高見澤さん。四兄弟も少し興味を持ったのか、こちらに注意を向けている。


「『ソレ』……とは?」

「私、さっきも言ったとおり、高見澤さんとお母さんが夫婦になること自体は構わないんです。ただ……貴方は『家族』になるんですよね? 私達にとっても」

「そのつもりです」

「なら、貴方の息子達も『家族』、つまり私達の『兄』や『弟』になるってことですよね? 義理でも」

「……そうだね」


 私に話の続きを促すように黙って聞く高見澤さん。


 ……。

 要点だけ言おう。決して熱くなりすぎたらダメだ。『私、こうやって人形みたいに黙っている人を『家族』や『兄弟』だなんて思えません。……本気で『家族』になる気ありますか?』なんて、言いそうになったけど。我慢だ。……それにしても高見澤應さん、だけでなく、そこの、人を空気みたいに扱っている四人にも聞いてるんだけど。こっちは相変わらずだんまりか。……ムカつく。けど落ち着け私。


 息を吐いて視線を斜め前に向けると、四人と目が合うけれど、構わずそのまま話を続けて高見澤さんを見据えた。


「……条件を言います。『家族』なら、この兄弟四人も同居させて下さい」


 空気みたいに扱う奴らに義理でも書面上でも兄弟を名乗ることを認めへんわ!






 うん、この時、私はとてつもなく怒っていたんだと思う。

 人見知りする私が、ちっとも怖くなかったんだから。



 ……正直、ちょっとミスったと思う。

 取り消しはしないけど。




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