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通常運転ですがなにか?  作者: 名城ゆうき
第零章:プロローグと彼らが家族になるまでのダイジェスト
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自己紹介

 結果を言おう。

 兄ちゃんの気配はアイカワラズでした。

 怖くて見てないから知らない。声音も変わらない、顔も多分特にしかめていたとかではないんでしょう。けど、気配は、分かる。長年伊達に兄ちゃんの妹やってない。一実も然り。なので、ちょっと横で若干ブルってた。


「お待たせして申し訳ございません。ちょっと迷いかけてしまって」

「いや、気にしないでいいよ。……二人とも落ち着けたようでよかったよ」

「は、はい」


 答える一実に視線を送ってからこちらを見ると、男の人はふっと笑った。

 ……おっさんこぇえ! 全く怒ってないし、咎めているわけでもないけど、そのなんでも見透かしてます的な底知れない目付きが怖いんだってばよ。一実トイレ行ってて良かったな、相槌うったけどちびりそうな勢いだ。

 などと気を紛らわすことを考えながら空いた席に座ろうとした、ら、ウエイターの人がさっと椅子を引いた。


「どうぞ」

「……ありがとうございます」


 …………。

 居たんだこの人。


 と言うかここ、個室だけどよく見たらウエイター他にも控えている感じがするし、なんてこと。私の『便所』発言がフルサウンドで大公開だよ。流石私の脳、自分の精神安定のためなら他人がいても景色と同化させていないように補正させるなんて。流石だ。おまけに良く見ると、テーブルにガラスの器に花と蝋燭を浮かべた置物がいくつかあって、淡い火の光がなんともアンティークでいい雰囲気。窓からは夜景が見えて満天のトワイライト。椅子も調度品も品がある優しくて温かみのある、やっぱりアンティーク。うっは、私雰囲気ぶっちこわしぃい!やったね!

 とこんな馬鹿なことを考えている。でも、それは余裕があるからじゃない。

 何を隠そう、私は憎いくらい、チキンだ。ものすごく人見知りをする。場合によったら、しゃべる相手に呂律が回らなくなりかけるほど。

 本来一実に言えないんだよねー。同属嫌悪的なアレなんだよねー。ヤツほどヘタレではないけどねー。まぁ内弁慶なんだよね。アハハハハハ。

 ダレカタスケテー。

 でも、しゃあないんだよなー、どうしようもないんだよなー。

 自己逃避をしている間、グラスにワインを注がれた。


「さて、皆さん」


 男の人が声をあげる。

 見ると、皆が彼に注目した。


「全員揃ったことだし――――乾杯」


チン……


 ああ、戦いのゴングが鳴ったな。


 一口ワインを飲むと、私は意を決して『周りの景色』をちゃんと見ることにした。


 席に座っているのは私含め十人。壁に控えているウエイターは二人。

 ……私の脳は幸い、自分の都合のいいように麻痺させてくれる。でもそれは時と場合と使い様、だ。

 だから、私は意を決した。

 デェエエイ!!


 ぐびっぐびっ!


「うっわぁ! このお酒ものすんごくおいしい!」

「と、常葉ちゃん?」


 注がれたワインを一気飲みしてやった。

 いや、もちろんこれはマナー違反というか、上品じゃないね? 全く。そりゃ香也姉ちゃんもびっくりだよ。だけどこれは必要なこと。チキンな私にはとても。おまけにお酒に強い私だからこそ必要なこと。つまり、素面でやってられっか、だ。


「あはは、常葉ちゃん、すごい飲みっぷりだね。そんなに慌てなくてもまだ始まったばかりだよ?」

「おいしすぎて、思わず飲んじゃいました。ところで……」


 声をかけてきたイケメンに私は一間を置いてにっこり笑った。


「まだ、お互い自己紹介していませんでしたよね。もしかしたら、私と一実が席を外している間にもう済ませたかもしれませんが……。よろしければ、もう一度お願いしてもいいでしょうか」


 長文がするりと私の口から零れる。初対面で、年上の、物腰柔らかだけど目の奥に何か言い知れないものが見え隠れする、男の人相手に。

 私はお酒に強い。けれど、意識が無くなるとか、そんな症状ではないけれど――――酔わないわけじゃない。

 空きっ腹にお酒。このくらいで丁度いいくらい私は饒舌になれる。……まだ少し足りないくらいだけど。


「もちろん。まだちゃんとした挨拶も出来ていなかったから丁度いいよ。……では、私から」


 そう言うと、彼は艶然と微笑んだ。


「私の名前は高見澤たかみざわあたる。君達のお母さん――真咲まさきさんとは以前から交際させて頂いていて、結婚することになりました」


 うん、だから。

 このイケメン大人オーラたっぷりの私たちよりは年上なんだろうけどお母さんと同い年とも見えないような若々しいような年齢不詳の美男さん目に痛てえよ。


 早くも私のチキン魂が枯れた悲鳴を上げています。男性経験ないあたしゃあ食中りが来そうだ。

 ……いや、まだ早い。この人、高見澤さんがイケメンなら他の四人の息子もアレなはずだ。うん、その他四人の息子さん、忘れてたわけじゃないんすよ。


「そしてこちらが右から長男のゆずる、次男のおさむ、三男のたすくそして四男のしのぐです」


 そう言って高見澤さんは彼らに視線を向けた。

 ここで私達の位置関係を説明しよう。テーブルは長方形で端の方に並んでお母さんと高見澤さんが座っている。高見澤さん寄りの長い横列に四兄弟。そしてお母さん側の横列に右からお兄ちゃん、お姉ちゃん、私そして一実が四兄弟に向かい合って座っている状態だ。

 つまり、私はほぼ真ん中。

 よく、とてもよく、皆様方のお顔が見えます。

 思わず私は口を押さえて下へ視線を逸らした。

 心配そうな顔で私を見ながら一実がそっと囁いた。


「姉ちゃんどうしたの」

「げっぷ出そうやわ」

「我慢して! もう必死で! 死ぬ覚悟で!」

「一実知ってるか。音を出さずにげっぷを出すもしくは空気を抜かす方法。私は今必死でそれを試みている」

「なんでもいいから頑張れよ!」


 ちょっとどうでもいい会話に和んで固唾を呑む。

 だってさ。

 ちらりと見ると、正面に座っていた高見澤祐と目が合った。……なんだか眼力が強い。少しなんというか、人に威圧感とか見下してる感というか……なんか馬鹿を見るような目で嗤われた気がする。別に馬鹿を隠しているつもりはないですがなにか? 私は視線を横に少しずらした。隣は高見澤修、次男さん。……なんだか逆に萎縮しているような気弱なお兄さんな感じだ。あまり見たら可哀想な気がする。視線を横にずらす――と、なぜだか眩しい。ものすごく微笑みを浮かべた高見澤の長男譲さん。これは無理。即行で最後の高見澤凌……ちょっと眠そうな少年。すごいな、精神図太いと言うかマイペースと言うか。……そういう意味では友達になれそうだ。

 しかしなぁ……。目線をテーブルの上の飾りに下ろすとため息をかみ殺した。

 やっぱり四兄弟もイケメン揃いなんですよ。すごいね、遺伝子って。

 ……胃もたれしてきたぜ。


「譲は32歳、修は30歳でサラリーマン。祐は22歳で大学生。修は高校生で17歳だな」


 わお、盛りだくさんですな。そして私はここでもまたど真ん中の位置になるのか。天性の狭間っ子だな。

 そして一実、良かったな、お前は晴れてお兄ちゃんだぞ。


「じゃあ、今度は私の方やね」


 お母さんの声がして振り返った。

 最初に言った台詞以外でこの部屋に入って初めて声を聞いた。なんだか疲れたような声を出しているのは気のせいか。それにしても……。

 ふと私は思った。なんかとりあえず皆無言すぎるよな。兄ちゃんは言わずもないが。……なんか、自己紹介するまでは発言しないって取り決めでもしてるのか。


「長男の知種29歳と奥さんの香也さん、娘の常葉25歳と次男の一実、21歳だから祐君とは一つ下ね」


 高見澤さんと同じように紹介したお母さん。最後はなんかなげやりで、諦めた感が強い気がするのは気のせいですか。

 とりあえず、これでひとまずの自己紹介は終わったのか。

 そう思ったところで料理がタイミングよく出された。

 ……とりあえず食うもんは食うか。腹が減っては戦は出来ぬと言うし。


 ぐぎゅうううううううううう


 ……マジ、腹減ったし。




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