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通常運転ですがなにか?  作者: 名城ゆうき
第零章:プロローグと彼らが家族になるまでのダイジェスト
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ホテルに行きます


 まぁそもそもちょっとおかしいとは思ったんだよな。


 最近やけに母が若々しくなってきてると思ってん。こう言ってなんやけど、あんまフレッシュでキラキラの若さ溢れる人とおると、軽く気疲れするんよ私。お母さんくらいの落ち着いた年齢の方が私は落ち着く。だから時々職場のお姉さま方のキラキラオーラを見ると、なんだか眩しくて萎れてしまった気分になることもある私だ。まぁ中にはキラキラすぎるパートのおばちゃんに対しても萎れることもあるけど。


 なのに、なんか母がちょっと私に年齢が近づいた気配がした。


 なんだかお母さんが可愛く見える度合いが増した。


 と言うか。


 『今日の夜、いい所に食べに行くから、ちょっとドレス着てオシャレしなさい』って言われた時点で、もうちょっと気づいてもよかったのかも知れない。


 だってその時の参加者が私、一実――――に加えて偶々休みで日本に帰ってきていた兄ちゃんと香也かやお姉ちゃんだったんだよ。

 しかも私が普段99%はかないスカートの着用を強くしつこく要求された。ちなみに1%は結婚式に参加する時。仕事の制服のスカートはカウントしない。キュロットかスカート選べるしね。断然私はキュロット派だ。

 話を戻して、そんなスカートをはかないといけない『いい所』に食べに行くと聞いて、一実と私も驚いたけど……。


「ねぇ、兄ちゃんこれってなんかあんの?」

「いや? 俺は聞いてない。香也もないやんな?」

「お義母さんからはなにも聞いてないけど……なんかの記念日? ちょうどここの家に着ていけそうなものがあるからよかったけど」

「急に高級料理が食べたくなったとかちゃうよなぁ」

知種ちぐさじゃあるまいし。でもたまにはいいかもね。常葉ちゃんコーディネイトしてみたいし、うふふ」


 なにやらお兄ちゃんもお姉ちゃんも聞いてなかった話のようだった。

 それよりも気になる点、いいっすか。


「お姉ちゃん」

「なぁに常葉ちゃん」

「スカート嫌。パンツスタイル絶賛推奨中」

「たまにはいてみてもいいんじゃないの? 常葉ちゃんに似合うの見つくろうから。お義姉ちゃんすっごく楽しみ!」

一実かずみ。あんたもこの姉の生足なんざ見たかぁねぇよな」

「え、この機会に似合うスカート見つけてきたら? 姉ちゃんのスカート姿も似合うと思うよ」

「なんでこんな時にそんな言葉出すんだよ!! 貶すなら今やろ! 今なら許すから!」

「なんでやねん。スカートべつにいいじゃん?」

「嫌や!」

「ま、香也も乗り気やし? この機会にスカートに慣れろや! お兄ちゃんも一緒に選んだるから」

「あ、オレも一緒に行く」

「決まりやねー。常葉ちゃんのスカートデビューに協力できて嬉しいわぁ」

「う、うがああああああああああああ!!!」



 そして私は泣く泣くスカートを着ることになった。

 ついでにお兄ちゃんに別のスカートも買ってもらった。嬉しいけどいらん。……確かに私の許容範囲で似合ってたけどちくしょう。

 お姉ちゃんは髪留めを買ってくれた。お返しに同じメーカーの別の髪飾りをプレゼントした。似たデザインで色違いだったからちょっとしたお揃い気分。……萌えた。

 一実は何もくれなくて、私がアイスクリームをおごってやった。そしてお互いちょっとずつ味見しあった。……なんでや。




 そうこうしているうちに、夜。

 ちょっと私は浮足立っていた。や、だってねぇ。


「常葉ちゃんすっっごく可愛い!!」

「くっ」

「髪の毛いじっちゃったけど、いい感じじゃない知種?!」

「おー、ええやん。あと香也のメイクもええ感じに常葉を可愛くしてるし」

「でしょでしょー!? 私にかかればこんなもんよ」


 なんでしょう、両脇から言葉攻めとか。私はふるふると震えながらうつむいた。


「……可愛いて言わんといて」


 くそう。顔覆いたいけどメイクが崩れるから触れねぇよコンチキショウ!!

 こんな辱めに遭うなんて!!

 と、キィィイイイイイイ!と頭を掻き毟りたくなる衝動(残念ながら頭もセットしてもらっているので触れない)を耐えていると、後ろからニヤニヤしながら一実が近づいてきた。


「姉ちゃん『可愛い』より『カッコいい』って言われたいタイプやもんねぇ」

「おい」

「うん、でも可愛いと思うよオレも」

「おいコラ」

「あと靴はけば完璧やね」

「おい一実、いい加減頭撫でんなや、調子のんなよコラ」


 ちょっと低い声で言うと、にこにこしながらもちょっと体を引かれた。ちょっと怒っただけなのにヘタレめ。

 しかしセットが崩れないように触るとか要らんところで器用なヤツめっ。


「常葉ちゃんかーわいー」


 お姉ちゃんの抱擁に免じてちょっとだけ許す。けど、なんだこれ『可愛い』で恥死させる気かこの人ら。恥死量過多だ。恥ずかしさを誤魔化す為に口を開く。


「……お姉ちゃんの方が可愛いくて綺麗です」

「そりゃあな」


 兄ちゃん事実でもむかつくのでその合いの手いらない。


「あと兄ちゃんもカッコいい」

「だろ?」

「うん」


 これは事実だけど良い方なので素直に頷く。


「お、オレは?」

「似合ってるよ」

「それだけ!?」


 若干期待はずれの落ち込んだ表情を見せた弟に、少しめんどくさくなった。褒めて欲しいのかお前は。おしゃれしてきて、彼氏に聞くような質問すんな。けどまぁ……。


「……はぁ」


 私は息をつくと、ぽんと一実の胸を叩いた。


「普段よりイケメンだね」

「う、うんありがと」


 ……恥じらうな。お前ほんと女として生まれたらよかったのに。


 などとじゃれあっていると、母が出てきた。


「準備できたの? 髪の毛のセットは? 常葉、あんたちゃんと化粧したん?」


 が、なんだろう。矢継ぎ早で私や一実やお兄ちゃん達の身だしなみをチェックしだした。心なしかテンションも高い。

 私はちらりと、兄ちゃんを見た。すると視線が合う。うなづく。


「なんやおかん、やけに興奮してない?」

「なんやろね、なんか落ち着かないね」

「あーっ!! ちょっと一実! あのカフスどうしたのよ! アレよ、あのカフス!! 今つけないでいつつけるの?!」

「……そしてうるさい」

「な」

「そんなこと言うたりなよ。でも確かになんかお義母さん、テンション高いね」


 お姉ちゃんの言葉にうなづきながらいじられる一実を三人で傍観していたが、そろそろいい感じに出立の時間がやってきていたので、私達は各自出る準備をした。


 と、ここでも違和感が出てくることが発生した。


 なぜか、車ではなくタクシーを母は呼んだらしい。

 私、お兄ちゃん、お姉ちゃん、一実と母……となると、5人だ。普通のタクシーなら5人乗り(運転手込)なので全員乗るのは不可能である。しかし私達は全員乗れた。

 つまるところ、あの黒光りする長い車が来たのだ。……高級感が溢れているどころか黒なのに眩しすぎて目が霞む、痛い。つかもはやこれってタクシーじゃなくね?


「ねぇ、姉ちゃん」

「なに一実」

「……なんか変だね」

「うん、なにが始まるんだろうね」

「ちょ、その言い方怖いんだけど。オレ不安になってきたわ」

「んー心配せんでも私もやわ」

「常葉ちゃんは全然そんな風に見えないよね」

「変に腰が座ってるからな、常葉は」

「変てなんよ」


 などと会話しながらも車に乗りながら、ふと私はあることに気づく。

 母が、会話に参加してない。運転手の隣の席にいる母をちらりと見ると、なんだか緊張した表情だ。……おおう、話しかけづらい。視線をずらすとお姉ちゃんと目が合う。彼女は苦笑しながら私の頭を撫でてきた。彼女も母の様子が気になるようだが話しかけづらそうだ。

 そんな中、一実と兄ちゃんは気にせずしゃべっているようだった。けど不意に兄の顔を見て違和感がした。

 普通にしてるようだけど……。

 私は兄の顔から視線をすっと下にずらした。

 膝。指が時々ポンポンと上を弾いていた。

 ……イライラしている時の癖が出ている。

 うわ、顔に出してないだけに怖いぜ兄さん。


「はい、着きましたよ」


 そうこうしているうちに会場に着いたようだった。案の定……


「……うわ、オレこんないいホテルで食事したことないし」


 一実の言葉にうなづく。

 目の前には某三ツ星ホテル。

 そりゃそうだよな、ホテルやろな、ドレスって言われたし。しかしずいぶんとランクが高い。


「たまにはいいでしょ! 皆で集まって食事って言うのもなかなか難しいだろうし、この機会にお母さん予約したの。……突然で申し訳なかったけど」


 そう告げる母はちょっと目を反らし気味だったが、とりあえずうなづく。

 ……うん、とりあえずお母さんの話に突っ込むのは後回しにして、成り行きを見守ろう。

 今はこの場にいることを楽しもう。


 ウェイターに案内させるままに、私たちは歩きだした。


「一実、写真持ってきたらよかったね。夜景奇麗やで」

「……そ、だね」

「個室? に、行くのかな。なかなか味わえないVIP気分やな」

「……ん」


 ん? なんでなんだか歯切れの悪い様子?

 話しかけても反応が悪い一実を見上げると、なんだか顔が強張っている。首を傾げて、不意になんか静かなことに違和感がした。

 ……そう言えばいつも結構おしゃべりな兄が静かだ。後ろを振り返る――いや振り返ろうとした。

 しかしできなかったんだ。一実に拒まれたから。服の裾を掴まれたんだ。不思議に思いながら再び一実を見ると、顔をわずかに横に振っていた。

 なぜそんなことをしているのか、わかった。

 振り返った一瞬。

 兄の目を見たから。

 久しぶりに見る鋭い、鬼のような目。

 そんな彼にお姉ちゃんは黙ってついていっていた。少し驚いた表情で。

 けれど視線は二人とも同じ方向。


 そこで私は気づいた。

 いつの間にか私達は足を止めていて、すでに個室のドアの前にいた。


 そして中には母。

 ――――――――と。


「知種、常葉、一実。そして香也さん」


 母がとても申し訳なさそうな、緊張した顔で私達を見ていた。


「あ、あのね。お母さんこのじんが――――ぅぐああもうっ、ごめんなさい! この人と再婚することにしました!! ということでよろしく!!!」


 とても美麗な年齢不詳のイケメンに母が肩を抱かれていた。


「ほんとに急にごめんなさい! ついでにもうぶっちゃけるとあなた達に兄弟が4人出来るわ」

 

 ほんまもうぶっちゃけ人生って奴はパネェよ。


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