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5  弟子時代

 アシュレイは無事に崖から降りると、最初の目的である薬草を探しに、イルマが教えてくれた山へ向かった。


「前より、目がよく見えるみたいだ。

 薬草がある場所がわかるよ」


 冬なので、薬草は枯れてしまっていたが、アシュレイが地面に手を置いて、生えろ! と念じると、雪の間から薬草は緑の星形の葉っぱを繁らせる。


「これだけあったら、お祖母ちゃんもなおるよね」


 竜の卵の上にどっさりと薬草を摘んで入れると、アシュレイは急いで山を降りる。


 途中で振り返ると、リュリューがいた崖のある切り立った山を見つめる。


 お祖母ちゃんが編んでくれた毛糸の帽子を脱ぐと、自分に卵を託し、膨大な魔力を与えてくれた竜に、ぺこり頭を下げた。


『リュリュー! 卵をどうにかして、孵すからね!』


 と叫んだものの、アシュレイはどうやって孵したら良いのかサッパリわからなかった。




 家に帰ると、急いでイルマに薬草を渡す。


「ああ、これだよ! 冬なのに、よくこれだけあったねぇ」


 寒い中、山に薬草を探しに行ったアシュレイは、鼻も手も寒さで真っ赤だった。


 薬草の代わりに、温かいショウガ湯を祖母に飲ませていたイルマは、アシュレイに身体が暖まるよとカップに入れて与える。


 アシュレイはイルマが薬草を煎じるのを眺めながら、冷え切った手で温かいカップを持って、ハチミツ入りのショウガ湯をすすると、お腹の中からぽかぽかしてきた。


「こんなに、生えていたのかい?」


 イルマは薬草を煎じながら、アシュレイに質問する。


「ちょこっと魔力を使ったんだ」


 アシュレイが疲れて見えるのは、寒い山に薬草を採りに行っただけじゃなさそうだとイルマは心配になった。


「アシュレイは、魔法使いの修行をきちんとした方が良いね。

 魔力を使い過ぎたら、身体に負担がかかるんだよ」


 年寄りのもぐりの治療師だが、イルマは心が優しかった。


 アシュレイはリュリューとの約束を果たす為には、誰か魔法使いについて修行しなくてはいけないと考えたが、年老いた祖父母を置いては行けないと首を横に振る。


「イルマの弟子にしてよ。この村にも、隣村にも、治療師は必要だもの」


 イルマは煎じ薬を冷ましながら、アシュレイを見つめなおした。


『この子は、きっと偉大な魔法使いになる。

 私みたいな田舎の治療師の弟子には、もったいないよ』


 魔力で育てられた薬草は香りも高く、効能も高かった。


 イルマは薬草を一さじ飲むごとに、祖母の頬に赤みがさしていくのに安堵の溜め息をついた。


「これを、1日に三度飲めばなおるよ」


 すっかり元気になったお祖母ちゃんを、ベッドで寝ているように説得するのはイルマにも無理だった。


 お祖母ちゃんがいれた温かいお茶を飲みながら、祖父もアシュレイを弟子にして下さいとイルマに頼む。


「アシュレイは私の弟子になるより、首都サリヴァンで王様に仕えている魔法使いの弟子になるべきだよ」


 祖父もそうかもしれないと感じていたが、アシュレイは拒否する。


「俺はサリヴァンなんかに行きたくないよ! イルマの弟子にして下さい」


 イルマも自分が死んだ後は、治療師がいなくなるのを心配していたので、いずれはアシュレイの魔力の強さは首都にも広まるだろうとは思ったが、弟子にしてみようと頷いた。




 それからはアシュレイは畑仕事や学校の合間にイルマの家で、治療や薬草のことを学んだ。


「お前さんがいてくれて、助かるよ」


 年をとったイルマは薬草集めがしんどくなっていたので、楽になったのはありがたいとは思ったが、問題はアシュレイの魔力の強さだ。


 基本はイルマが治療するのだが、病が重い場合はアシュレイの方が上手くできるので任せてしまう。


 アシュレイが優れた治療師だという噂が近隣の村に広がる頃には、はじめからイルマではなく弟子の往診を頼むことが多くなった。


「アシュレイ、これじゃあ商売はあがったりだよ。

 悪いけど、あんたを弟子にしておけない」


 気の良いイルマだが、年老いて畑仕事もできないので、治療師としての収入がないと困るのだ。


 アシュレイも、冬の間ずっと竜の卵を温めてみたが、孵るようすも無いので悩んでいた。


「首都サリヴァンまで行かなくても、近くに魔法使いはいないのかな?」


 イルマは自分の失敗でこりていた。


「近くにも魔法使いはいるけど、同じことの繰り返しになるよ。

 お前さんの師匠に相応しい魔法使いは、サリヴァンにしかいないよ」


 イルマの言葉はもっともなのだが、アシュレイはどうしても家を離れる決心がつかなかった。


 イルマは祖父母のことを思いやるアシュレイの優しさにはほだされたが、治療師の弟子はキッパリとクビにした。



 

 アシュレイはリュリューに託された卵を孵す為にも、魔法使いの弟子にならなくてはいけなかった。


「学校では字の読み書きと、計算しか教えてくれないし……」


 農作業の合間に通っている学校では、竜の卵の孵し方など教えてくれない。


 お祖父ちゃんに相談して、近くの町の魔法使いベケットの弟子にしてもらった。


 しかし、田舎町の魔法使いは竜の卵の孵し方など知らない。


「アシュレイ、お前はサリヴァンへ行かなきゃいけないよ」


 祖父は田舎の魔法使いでは、孫の師匠は勤まらないと心配する。


「ベケット師匠は熱心に教えてくれるよ。

 まだ、竜の卵の孵し方は解らないけど、師匠と本を読んで研究しているんだ」


 アシュレイは穏やかなベケット師匠で満足していたが、次第に田舎町に凄い魔力を持った少年がいると噂になっていった。


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