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それぞれの休日(6月第2週)

なんだか、知らないうちにお気に入りや評価が増えててビックリです。どうもありがとうございます!

中間試験とその追試も終わると、新しいクラスにもいい加減慣れて、学校全体が落ち着いてくる。となると、要領もつかめてきたし、高校生活楽しもう、となって、今度は遊びにせいを出すようになる。中弛みの2年生、とはよくいったものだ。

金曜の夜に我が家に泊まって、その翌日。例に漏れず朝から遊びに行きたがるむっちゃんを捕まえて、わたしは問い詰めた。


「それで、今どうなってるの?」

「どうって言われても。あ、名前わかんなかった攻略対象とライバル、だれだかわかったよ!」


そう言って、むっちゃんはドヤ顔で1枚のレポート用紙を取り出した。

そこに書いてあったのは、天羽さんのゲームに関わる主な校内の人物の名前と簡単なプロフィールだった。




【ヒロイン】

天羽美歌あもうみか

普通科2年3組。ゲームヒロイン。ピンクブラウンのセミロングに薄茶の円い目。全体に色素は薄目で華奢。控えめな性格。


【攻略対象キャラ】

鳩谷六実はとやむつみ

普段科2年3組。ヒロインのクラスメート。赤茶の髪に、焦げ茶のややつりぎみの目。明るく元気なムードメーカータイプ。


三鷹健吾みたかけんご

普通科3年1組。生徒会長。青みがかった黒髪に、同色のやや垂れぎみの目。礼儀正しく、物腰柔らかな常識人。ただし怒ると大変なことになる。


鴇村修成ときむらしゅうせい

特進科2年A組。緑がかった黒髪に、焦げ茶の目。学年トップの理系男子。シルバーフレームの眼鏡がトレードマーク。表情があまり変わらない。


連雀守れんじゃくまもる

普通科1年2組。金に近い茶髪にやや細い茶色の目。口が悪く、なかなか素直になれない天の邪鬼タイプ。背が低いのを気にしている。


千鳥隆之ちどりたかゆき

スポーツ科3年1組。漆黒の髪と同色の三白眼ぎみの目。剣道部主将。実力は国体出場レベル。寡黙で不言実行の男。小さい生き物に弱い。


目白望めじろのぞむ

芸能科1年1組。薄茶の髪に、茶色の目。歌って踊れる若手俳優。映画と舞台中心に活動中。爽やかで活発なイメージで売っている。


鷲巣祐太郎わしずゆうたろう

英語科教師。25歳。灰茶の髪に、黒い目。普通科2年と特進科2年の土曜クラスを担当。ホスト風の容貌だが、授業は丁寧で分かりやすい。


【サポートキャラ・ライバルキャラ】

赤羽文乃あかばねふみの

普通科2年3組。ゲームヒロインのサポートキャラ。焦げ茶のボブに黒い目。赤いセルフレームの眼鏡をかけている。噂好きの女子。


羽田舞子はねだまいこ

普通科1年2組。ゲームヒロインのライバルキャラ。胸まである明るい茶髪に茶色の目。お化粧バッチリのややギャルだが、割としっかりもの。


羽鳥弘夢はとりひろむ

特進科2年B組。ゲームヒロインのライバルキャラ。胸まである焦げ茶の髪に、同じ色のややつりぎみの目。学校とそれ以外でのギャップが激しい。




うーん、この前東庭で会った芸能科の1年生、この目白くんって人っぽいなあ。見た目の特徴は合ってるし。

渡された用紙を一通り読んで顔をあげると、まだドヤ顔をしているむっちゃんは、自慢げに話し出した。


「すごいだろ。ちゃんと調べたんだぜ!」

「うん。それで天羽さんは、誰か特定の人を攻略してる感じ?」

「いや、全体的に、まんべんなくって感じかな」

「そう……まあまだ1学期だし、誰かを1人を好きになるっていうには早いか」

「たぶんね。でも、接触が多いのはクラスメートのオレと、あと連雀は向こうから来る感じかな」


今ある情報からは、天羽さんが何らかの意図を持って攻略しようとしているのか、それともただの偶然か、まだ判断がつかない。

一目惚れでもない限り、少しずつ相手を知っていって好きになるんだと思うから、不審なところはないと言っていいだろう。天羽さんがなにかしているせいで、わたしの身にイベント的なものが起こっているんだったらいいのに、と思ったけど、それの因果関係も不明というわけだ。


「ふうん。……ねえ、本当にわたしはむっちゃんと三鷹先輩ルートのライバルなんだよね?」

「え、なんで?」

「先月、たぶんこの目白くんと会った」

「マジで? 美歌ちゃんは先週初めて会ったって言ってたけど」


レポート用紙の名前をトンとついてそう言うと、むっちゃんは難しい顔をした。てか、いつの間に天羽さんを美歌ちゃんて呼ぶようになったよ。


「それから先週末、ライブで鷲巣先生に会った。今週は生徒会室で三鷹先輩に頭撫でられたり、鷲巣先生の資料作りを手伝わされたり、鴇村くんと2人で帰るはめになったりした」

「えっ、なにその遭遇率?」


むっちゃんは興味津々の様子で食いついてきた。その目に、明らかに面白いことを期待する色が見えて、腹が立つ。


「だから聞いてるんじゃない! ゲームって、ヒロインが発生させなかったイベントをライバルキャラが拾うことあるって聞いたんだけど」

「ああ、この前も言ってたよね。でも、そんなに多くないと思うよ?」

「じゃあっ! わたしの周りで起こってるのはいったいなんなの? どこまでゲームなのよ!」


この世界がゲームの世界だっていったって、わたしにとってはあくまで現実世界。そんなゲームに巻き込まないで頂きたい。これは、わたしの人生なのに、他人の道楽に巻き込まれているかもしれないなんて、冗談じゃない。


だけど、先週土曜日のライブで鷲巣先生に遭遇してから、どうにもおかしい。

今まで、普通にしていればわたしがゲームの内容に関わることもない、と思って、いつも通りに過ごし、ときには傍観に徹してきた。これまで、天羽さんの姿を見たら、その場を立ち去るか、こちらに気づかれないようにして、関わらないようにもした。

それなのに、である。5月にあった英語科教官室での転倒事件以降、いやに攻略対象、なかでも鷲巣先生との接触が多いのだ。


興奮するわたしに、むっちゃんは、記憶がそんなにはっきりしてないからわからないかもしれないけど、もうちょっとくわしく話してみてよ、と言うから、目白くんとの遭遇以降、覚えていることを洗いざらいしゃべった。

しかし、それを聞いたむっちゃんの回答は、実に頼りないものだった。


「んー、そんなイベントもあったような……?」

「もうっ、なんでそんな曖昧なの?!」


こっちは死活問題にも等しいんですけど! わたしはね、学校に勉強しに行ってるんだよ。別に、恋をするつもりが全くないかと言われると違うんだけどさ。

だけど、敢えて面倒な人にいく気はないのよ。名前があがっている人たちは、カッコいいので有名で、ファンが多い人たちなの。1年の連雀くんは会ったことないからわからないけど、乙女ゲーの攻略対象なんだから、直接会って確かめるまでもない。

わたしの知ってる限り、彼らにファンクラブのようなものはおおっぴらには存在していない。でも、隠し撮り写メが売買されているし、誕生日とかクリスマスとかバレンタインとか、毎年大変なことになっているのだ。そんな人たちに恋しようなんて無謀すぎでしょ?

そんな中でも、鷲巣先生なんてトップクラスに無理がある。先生相手とか、ありえない! 他の人が先生と恋愛するのは止めないけど、自分がするつもりはさらさらありません。


「でも、ひーちゃんはオレと三鷹先輩ルートのライバルだから、なんかあるならオレか三鷹先輩じゃないの?」

「けどっ! 絶対におかしいもん。わたし、鷲巣先生の授業は土曜日しか受けてないんだよ? それなのに、こんなに接触があるなんて絶対に変だよ!」


もう、思い出すだけで恥ずかしい。いたたまれない気分になる。

別に、放課後に資料作りを頼まれたり、授業で使う教材運びを手伝わされたりはいいのよ。だって同じ学校の向こうは教師、こっちは生徒なんだしさ。

だけど、その時にちょいちょいボディタッチ的なものがあるのはなんでだと声を大にして言いたい。頭撫でられるとか、肩をポンとたたかれるのは、まあギリギリ許容範囲としよう。けど、まつげついてるって言って顔に触れたり、偶然重なった手を撫でるようにして外すのはアウトじゃないの?

仮にセーフとしても、わたしは鷲巣先生みたいな軽そうなタイプは苦手だから、あんまり嬉しくない。今まで授業くらいしか接点がなかったのに、なんでなんだろう。

それに一番許せないのは、先週末のライブでの件だ。帰り際のあの台詞と表情は絶対にアウトだよね。生徒相手に吐く台詞じゃないでしょ?! せめて、とっさに「やっだー、先生ってば冗談ばっかり!」くらい返せる相手に言うべきでしょ。

あの時は、なんにも言い返せずに逃げるようにして帰ってきたけど、今思えば、あそこで怒ってもよかったんじゃないかな。いい大人のくせに、恋愛経験値の少ない人間をからかうんじゃないよ!


「ひーちゃん、大丈夫? 顔真っ赤だよ?」

「……思い出したら腹立ってきた」

「ああ、鷲巣先生のルートって確か一番きわどかったしね」

「マジで?」

「うん。もしひーちゃんが本当に鷲巣先生ルートに入ってたら、最終的には貞操の危機だと思う」

「嘘でしょ?! 無理無理、そんなの絶対回避!」


冗談じゃない。わたしの目標のためには、そういう刺激はいらないのだ。勉強ばっかりの高校生活なんて、って言う人もいるけど、将来のためにはそういう期間が必要なときもあると思うのよ。恋愛もバイトも大学入ってからでもできるし、そっちのほうか自由度高くて楽しそうだし。

だから、高校では地味で目立たず、真面目な優等生をしていようと思ったのに。それなのに、先生と恋愛とか冗談じゃないよ。そんなスリルはノーサンキュー! それに、好みでいったら三鷹先輩の方が断然いいし! 年上は好きだけど、意地悪な人嫌いなんですう!


「ていうか、なんでむっちゃんじゃなくてわたしがこんな目に?!」

「まあ、よく考えたら、オレと美歌ちゃんがイベント起こすってことは、オレの好感度がそれなりに高いってことだから、別に問題ないんだよね」


そう言って、えへへ、と笑うむっちゃんに、ものすごくイラッとした。くそう、幸せそうな顔しやがって! いいわねえ、平和な恋愛っぽくて。めっちゃはたきたい!


「そりゃよかったわね! こっちは大変なのよ。あーあ、せめてこれがゲームがらみかどうかでもわかったらなあ」

「なんで?」

「ゲームがらみだったら、むっちゃん巻き込んで徹底回避作戦を練るし、そうじゃなかったらとにかく避けまくって、最悪セクハラで担任に相談するって脅す」


だって、人間我が身がかわいいし、鷲巣先生だってそうなはず。さすがにセクハラされたって他の先生に言うって脅せば、自重するでしょうよ。

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