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パーティーへようこそ!(12月第4週)

すみません、遅刻しました!


急ぎ書き上げたので、そのうち微修正したいです。

そして、季節感をまるっと無視しているのは、ご愛嬌ということでひとつ……。

「羽鳥さん、お待たせ」

「ううん、お疲れさま。鴇村くん」


予備校の前でスマホをいじりながら立っていると、中から出てきた鴇村くんに肩を叩かれた。クリスマスイブではあるが、今日は2学期最終日で、予備校の冬期講習の初日なのである。講習の方はほぼオリエンテーションのみだけどね。


「じゃあ、行こうか」

「ああ。すまないな」

「いいよー、行き先一緒なんだから」


予備校終わりに待ち合わせて2人並んで向かう先は、むっちゃんの家である。今日は天羽さんのお誘いで、クリスマスパーティーをすることになっているのだ。メンバーは、天羽さん、むっちゃん、羽田さん、連雀くん、鴇村くん、わたしの6人。いつか連雀くんが逃げ出してきた勉強会を彷彿とさせるメンバーだけど、まあその後和解をしたらしいので、いきなりパーティーの雰囲気が険悪になることはなさそうだ。

わたしが参加するのは、単純に、今この人たちの関係がどうなっていて、天羽さんが一体どういうつもりなのかを知りたいからだ。それ以外の意図はない。……いや、待って。ちょっとくらいは楽しみたいかも。さすがに、せっかくのパーティーだし。


「羽鳥さんは、鳩谷くんの家にはよく行くのか?」

「うん。歩いて5分くらいだし、親同士も仲いいしね。むっちゃんがうちに来る方が多いけど」


でも、両家そろって晩御飯とかするときは、もっぱら鳩谷家行くことが多い。たまにはこっちのキッチンも使わなきゃって理屈と、あとはやっぱり戸建てだからって言うのが大きい。大勢でどたばた歩いても下に響くとか気にしなくていいからね。


「そうなのか。家族ぐるみで仲がいいのか」

「もともと母親同士が親戚だからね。鴇村くんは、羽田さんと仲直りしたの?」


会話に混ぜて、気になっていたことをさらりと聞いてみると、鴇村くんは、うっと言葉をつまらせる。


「ん、どしたの?」

「たぶん、前よりは話せるようになったと思うんだが……」


いまいち歯切れの悪い鴇村くんに、少し突っ込んで聞いてみることにした。話したくなかったら、鴇村くんは、すっぱり拒否するタイプなので、答えてくれるってことは、話を聞いてほしいってことなんだろう。


「ずいぶん曖昧ね?」

「勉強会以外では、ほとんど話すことはないから」

「えっと、それは勉強しか話題がないってこと? それとも……」

「それ以外で、会う機会がないんだ」

「それは、……困ったね」


よりちゃんの助言通り、勉強会はしてるらしいけど、それ以上のお誘いはできていないのか。鴇村くんのことだから、理由もないのに誘えないとか思ってるんだろうな。真面目なのはいいところだと思うけど、考えすぎなんじゃないかな。


「あれ、じゃあ、羽田さんと勉強以外で会うのって今日が初めて?」

「ああ、どうしたらいいだろうか?」

「どうしたらって、別に、普通にしてたらいいのでは?」


普通に友達と遊ぶときみたいに、楽しめばいいと思うよ。普段よりは話しやすいんじゃないかな。なんせ、パーティーだし。


「といっても、友達とパーティーなんて初めてで……」

「おおう、そうかあ……」


真剣な顔で言う鴇村くんに、軽い気持ちで返したら、まさかの返事がきて焦った。

でも、そういう人もいてもおかしくないよね。だって、普通お誕生日会とかやるのは、小学校くらいまでだもん。

中学高校くらいになると、友達に1人でもそういうのが好きな人がいればやるだろうけど、そうじゃない人だっているわけだし。そうしたら、イベント事に縁がない人だっていてもおかしくない。わたしだって、いかにもなパーティーはほとんどしたことないもんね。


「やっぱり、もうちょっとちゃんとした格好で、……ああ、なにか手土産でも持っていくべきだろうか」


鴇村くんが落ち着かない様子で、上着の胸やポケットの辺りをパタパタ叩くので、わたしは思わず笑いそうになった。


「服装は問題ないと思うよ。でも、そうだね。わたしたち以外は先に集まって準備してくれてるらしいから、なにかお土産買っていこうか?」

「そ、そうか。そうだな」


まだなんとなく強ばった顔の鴇村くんを引っ張るようにして、わたしはむっちゃんの家まで急ぐことにした。




「おじゃましまーす」

「こんばんは。お邪魔します」

「2人とも予備校お疲れー」


チャイムを鳴らすと、むっちゃんが鍵を開けてくれた。既に楽しそうな笑顔で、かなり機嫌はよさそうだ。


「外寒いよー」

「乾杯の前に、温かいの飲む?」

「うん。鴇村くんもいるよね? コーヒーでいい?」

「いいのか?」

「もちろん」


まだどこか緊張気味の鴇村くんを、むっちゃんと2人でぐいぐい廊下を押していく。

リビングに入ると、部屋の暖かさにホッと息が漏れる。真っ先にこちらに気づいた天羽さんが、パタパタと駆け寄ってきた。


「ひろちゃん、鴇村くんもお疲れさま! もうちょっとで準備完了だよ〜」

「そうなんだ。ごめんね、お任せしちゃって」

「ううん。忙しいのわかってて誘ったんだもん、来てくれるだけで嬉しいよ」


にこっと笑う天羽さんは、クリスマスらしいオフホワイトのニットに赤いタータンチェックのプリーツスカート、それに足首にビーズのワンポイントがあるタイツだ。可愛い系女子のクリスマスのお手本みたい。


「美歌ちゃん、運ぶの手伝ってくれる?」


そこにキッチンから羽田さんが現れた。オレンジのインナーが透けるチャコールグレーのニットに、黒のショートパンツにラメ入り暗色のニーハイと天羽さんとは全く違う路線の服だ。いや、似合ってるけど、太もも寒そう……。


「うん。あ、美味しそう〜。舞ちゃんお料理上手よね」

「え、羽田さんが作ったの?」


羽田さんが持っているのは、湯気のあがるカルボナーラと、シーフードがたっぷりのマリネサラダ。カウンターにはフライドポテトとオニオンリング、チキンとカナッペらしいものまで載っている。

思わず聞いたら、目を眇られてしまった。


「なによ、悪い?」

「ううん、てっきりテイクアウトものばっかりになるかと思ってたから」

「キッチン借りれるって言うなら、作った方が安いじゃん」


なるほど、確かにその通り。別に、たまにはテイクアウトも美味しいんだけど、手作りできたてってさらに美味しいよね。羽田さん、女子力高いわ。

しかし、せっかく話しかけるチャンスなのに、斜め後ろの鴇村くんがただ突っ立ってこっちを見ている気配がする。しかたない、話を振ってあげるか。


「ごもっともです。できたてご飯で嬉しいよ。ね、鴇村くん!」

「えっ、ああ、そうだな」

「そっ、そう?」


ああ、はいはい。そうなっちゃうんですね。そろって照れくさそうに視線をあっちこっちに向かわせて、それでも相手の前からは動けない。すごいわ、少女漫画みたい。ほっといても大丈夫かな。


「ひーちゃん、鴇村くん、コーヒーお待たせー!」

「あ、ありがと」


そっとその場を離れようとしたら、むっちゃんが両手にカップを持って現れた。タイミングがいいんだか、悪いんだか。我に返ったのか、羽田さんはお料理をテーブルに運ぶ作業にもどり、鴇村くんはおとなしくむっちゃんからコーヒーのカップを受け取った。


「あれ、そういえば、連雀くんは?」

「今、予約してたケーキ取りに行ってくれてるよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」

「ふーん、そうなんだ」


この寒いのに大変だなあ、と思っていたら、玄関のチャイムが鳴る。どうやら、連雀くんが帰ってきたらしい。むっちゃんが玄関に向かうと、ドアを開ける音に続いてバタバタと廊下を歩く音が聞こえた。


「ううう、寒い……」

「連雀くん、お帰りー」


ケーキの箱を持ったむっちゃんが続いて、ダウンコートを着こんで首をすくめた状態の連雀くんが、リビングに入ってくる。


「ああ、羽鳥サン。予備校終わったんすか」

「うん。温かいお茶とか、ココアとか飲む?」

「んじゃ、ココアで!」


コートを脱ぎながら元気に答える連雀くんに笑顔でうなずいて、わたしはキッチンへ入った。

ふと顔をあげると、リビングでは天羽さんと羽田さんが、料理の載ったお皿とカトラリー、飲み物のグラスを並べている。鴇村くんはソファーに座って2人を眺めていて、連雀くんはエアコンの前に立って温風を浴びている。


「なんか、変な光景だよね」


わたしに続いてキッチンに来たむっちゃんは、冷蔵庫にケーキをしまいながら、呟いた。


「確かにね。まあ、楽しそうだしいいんじゃない?」

「そうだね」


ゲームのヒロインとライバルと複数の攻略対象が、同じリビングで楽しげにしてるなんて、なんだか異様だ。普通なら、ヒロインを取り合ってギスギスしたりしそうなのに。

もしもゲームのシナリオがなかったら、きっと知り合うことのなかったメンバーだろう。でも、不思議だなあとは思うけど、そんなに嫌な感じはしない。たぶん、みんな結構いい人だってなんとなくわかったからだろう。


「準備できたよー」

「じゃあそろそろ始めるか」


天羽さんの声に、わたしとむっちゃんもキッチンからリビングに移動する。連雀くんにココアを手渡して、テーブルにつくと、さっそくグラスが配られた。


「シャンメリー買ってきたんだ。乾杯はこれでいいよね?」


そう言いながら、むっちゃんは既にシャンメリーの封を切っている。それぞれのグラスにピンク色の炭酸飲料が注がれ、グラスを手に取る。それを確かめてから、発起人の天羽さんが声をあげた。


「じゃあ、メリークリスマス! かんぱーい!」




******




初めは、お互いに遠慮していた感じがありつつも、話上手な天羽さんがいい感じで話題をふってくれたり、絶妙に空気は読まないむっちゃんが、いきなりゲームしようとか言い出して、1時間もしないうちに、すっかり打ち解けていた。

羽田さんの料理は美味しいし、鴇村くんがシューティングゲームでぶっちぎりの高得点を叩き出すし、逆に連雀くんとわたしは下手すぎて笑われ、カラオケではむっちゃんと天羽さんが某アイドルソングを完璧な振り付きで披露するし、なんだかすごく楽しかった。まさか、このメンバーでこんなに楽しいパーティーができるとは思っていなかった。

これでもかってほど、騒いで笑って、ふっと息をついた瞬間、わたしは存在を忘れかけていたお土産のことを思い出した。


「あっ、鴇村くん。お土産!」

「ああ。忘れるところだった。今、出そうか」


ここに来る途中で買った、ちょっと懐かしいお土産。鴇村くんが紙袋から取り出して、テーブルの上に置いた。


「わあ、可愛い」

「懐かしいね。なんだっけ、これ、何て言うの?」


目を輝かせたのは、案の定、女子2人。

予備校の最寄り駅にあるパティスリーで買ってきたのは、真っ赤なブーツにお菓子を詰めた、クリスマス定番のプレゼント。2人で相談して、クリスマスっぽくて、出来たら消え物で、日持ちのするもの、ということでこれを買ってきた。


「幼稚園とか小学校の頃とか、よくもらったわ」

「おお、中身が駄菓子じゃない」


男子2人もなかなかいい反応で、わたしと鴇村くんは顔を見合わせて笑った。


「準備は全部任せてしまったからな。お礼をかねて、1人1つ、ということで」


どうぞ、と鴇村くんが進めると、準備してくれた4人は、1つずつ手に取る。お礼を言われるたび、ちょっと困ったように笑いながら相づちを返す鴇村くんが、なんだかほほえましくてこっちも表情が緩む。今年の始めの頃に比べたら、ずいぶんと目に見えて表情が変化するようになった気がする。

それって、天羽さんがやってきたからかな。もしくは、羽田さんと再会したから。そういえば、むっちゃんもなんだか今年になってから、だんだんしっかりしてきた気がするし、三鷹先輩だって前よりも感情を出すようになった気がする。去年まで交流のなかった人はどうなのかわからないけれど、少なくとも、みんなが変わったのは、天羽さんが転校してきてからだ。だとしたら、やっぱりゲームのシナリオの影響は否定できない。

天羽さんは今日も通常営業で、みんなに平等だ。むっちゃんにも鴇村くんにめ連雀くんにも、そして羽田さんやわたしにも、同じように接している。それが、ちょっと不自然なような、そうでもないような。

少なくとも、今日ここにいる3人の攻略対象の誰かが本命、って感じはしない。だとしたら残りの4人の誰かが本命なのか、それか、本当に誰も攻略するつもりはないのか。……ううん、わからないな。

小さなブーツを大事そうに持ち、ふんわりとほほえんでいる天羽さんは、裏があるようにも、悪い人にも見えないのに。どこか信用しきれない自分がいて、心にもやもやがたまっていく。どうしても余計なことを考えてしまう自分に辟易する。

うーん、せっかく楽しい時間だったのに、こんな余計なことを考えてしまうなんて、このパーティーに参加したのは失敗だったのかもしれない。



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