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祭りの後始末(9月第3週)

あけましておめでとうございます


今年もよろしくお願いいたします!

文化祭の後、三鷹先輩は約束通り、例の先輩たちに厳重注意をしてくれた。だけど、事実確認のために、千鳥先輩や羽田さん、有志をしていたクラスメートたちに話を聞いたらしく、気づいたらあちこちに話が広まっていた。


結果として、話を聞いたクラスメートや有志の仲間はだいぶ心配してくれて、なんだかいろんな人に謝られた。

羽田さんも、連雀くんと天羽さんに付き添われてうちのクラスまでやって来て、一方的に怒鳴ったりひどいことを言ったりした、と謝った。あと、あの先輩たちには、悔しくて泣いてたところを見られて事情は話したけど、やり返してくれなんて言ってないって弁解された。まあ、羽田さんは他力本願なタイプじゃなさそうだから、そんなことだろうと思ったけど。


それだけでも結構な騒ぎだったんだけど、とどめは千鳥先輩だった。

ある意味、騒ぎに着火した本人な訳だし、わたしを呼び出しに来たのも、先輩のいる剣道部の男子だったし、先輩が謝ろうと思ったのも当然といえば当然なんだけども。

だけど、朝の生徒玄関で待ち構えられて、土下座する勢いで謝られたのには本当に参った。他の生徒も登校してくる時間帯に、部活の実力と容姿で有名な3年の先輩が、なんのことはない後輩に頭を下げてごらんよ。千鳥先輩に土下座させるなんて、あの子どういうつもり? なんて、また次の騒動に繋がってしまう。たまたま登校してきた三鷹先輩が止めてくれて本当によかった。


そんな風に、身近だと心配してくれた人が当然多かったんだけど、やっぱり野次馬や悪感情を待つ人もいないわけではなく。あれ以降、特進科以外のフロアを通るときは、やけにじろじろ見られるようになった。前みたいに聞こえよがしになんか言ってくる人はいないけど、相変わらず女子生徒には睨まれることが多い。男子は、よくわからないけど、前より見られている気がする。


正直、羽田さんから直接謝ってもらえて、一応和解したらしいことが唯一よかったことだけど、それ以外はなんだか面倒が増えたと思う。

愚痴をこぼすと、むっちゃんから苦笑いが返ってきた。


「なんか今度は違う噂がたってるしね」

「また? なんなの、みんな暇なの?」


文化祭の次の週末。わたしは、久々の休日を自宅でのんびり過ごしていた。そこにおばさんのおつかいでやって来たむっちゃんと、今はお昼を食べている。母さんはさっさと自分の分のお昼を済ませて出掛けていったので、今はわたしたちしかいない。


「やっぱりひーちゃんは知らないんだ」

「なに、もうそんなに広まってるの? 今度はなに?」

「主に普通科の中でだけど。ひーちゃんに手を出すと、イケメンたちに目をつけられるって言われてるよ」

「なにそれ」

「今回のことで、三鷹先輩とか千鳥先輩とか、結構動いたじゃん? それでみたいだよ」


ちなみに、オレはもちろん、鴇村くんも、連雀も含まれてる、とむっちゃんは肩をすくめた。

ちょっと待て。なんでわたしが逆ハーレム築いてるみたいになるかな。それは天羽さんのポジションだと思うんだけど、彼女はなんの被害も無さそうなのはなんで。わたしなんかよりずっと交遊関係が広いから、目立たないのかも知れないけど、天羽さんは、わたしよりよっぽどあの人たちと親しいんだからね! 全く頭が痛いことだ。


「もう、最悪」

「そう? この前の先輩たちみたいな人が減るなら、いいんじゃないの?」


オムライスを頬張りながら、むっちゃんは首をかしげる。むっちゃんは、何だかんだで、女子の世界の恐ろしさを知らないからなあ。


「なんない。手は出されなくても、なんであんなのが特別扱い? ってなるでしょ。だからあんなに女子の目線がキツいのか……」


下手をしたら、わたしが男好きだとか変な噂まで流されそうだ。まさか、もう流れてるから、あんなに男子からも見られてるわけ? そう考えたら、思わず眉間にシワがよる。


「ふうん。……じゃあ、もしかしたらそれだけじゃないかも」

「は? なんで?」


他になにか原因があるわけ? わたし、なにかしたっけ。全然覚えがないんだけど。


「実はさ、もう1つ噂っていうか、話題になってることがあるんだよね」

「それ、わたしに関係ある?」

「うん。てか、まんまひーちゃんのことだな」


なにそれ。嫌な予感しかしない。すでに、羽鳥弘夢悪女説でも広まってるのか。


「最近、ひーちゃんのファンらしき人が増えてるんだよ」

「…………はい?」


なに言ってるんだ、むっちゃん。意味がわからない、というか理解できない。ファンって、君らみたいなイケメンを見て周りできゃあきゃあ言ったり、偶然を装って待ち伏せしたり、どさくさ紛れに触ったり、隠し撮り写真をやり取りしてる人たちのことじゃないの?


「夏休み前くらいから、コンタクトで学校行くこと増えただろ? そのころから、男子の中で実は結構かわいいんじゃないか、って言うヤツが出てきてさ」


正直、どうコメントしていいかわからないむっちゃんの話に、わたしは沈黙した。意味がわからないし、わかりたくもない、気がする。


「で、文化祭のドラマ見て、あれは全然アリだって。ミス研が校内ネットワークに動画アップしてるから、余計に増えたみたいなんだよね。ついでに、性格も噂ほど悪くないんじゃないかって話も出ててさ。オレも、ひーちゃんのこと聞かれたもん」


思わず、こめかみをぐりぐりと押した。なにそれ、頭痛いわ。人間やっぱり見た目か。てか、ドラマはメイクしてるんだから、ある程度化けられて当然じゃん。ついこの前まで、人のことさんざん言ってたくせになんなんだ、この手のひら返しは。

しかも、見た目が変わったら性格まで変わったとでも錯覚してるんだろうか? 漫画じゃあるまいし、眼鏡とったくらいで性格が変わるわけがない。


「そういうわけで、男子にはひーちゃんをかばう人が増えてるんだけど、やっぱりそういうのも、女子的にはダメだったりするの?」


ダメに決まってる……! 悪い意味で予想以上の現実に、わたしは思わず無言で頭を抱えた。

てか、本人の知らないところでそういうこちらの被害を拡大するようなことするの、やめてくれないかな。そりゃ、誰に言ったらやめてくれるのかはわかりませんが。でも、勘弁してほしい。どうしよう、本格的にわたし悪女説が広まったら。学校行くの怖いんですけど。


「……もう、学校でコンタクトしない」


やっぱり、目立つことはしないほうがよかったんだ。今度から地味もとに戻そう。そして、様子見も終了だ。申し訳ないけど、先輩たちにも、もうほっといてくださいって言っとこう。今はまだ実害はないけど、いつ不満が爆発するかわからないし、おかしな噂のせいで抑圧されている分、反動も大きそうだ。イメチェン計画だとか張り切ってた天羽さんも止めなくちゃ。

こんなことでせっかく仲良くやってた人たちと離れてしまうのは、バカらしいし、わたしだって悲しい。だけど、それで理不尽な攻撃を受け続けて、耐え続けるのも辛いのだ。もちろん、そんなことしたら、今度はひどい女だとか言われるだろうけど、彼らに近づいてほしくない人たちからの攻撃は、いずれ収まるだろう。

ため息混じりにぼそりと言ったら、むっちゃんはポカンとした顔をした。


「えっ、なんで?」

「明日から地味になるから。てわけで、むっちゃん、学校で会っても無視するからよろしく。あと、わたしのことは人に話さないで」

「ええっ、ちょっと、そんな極端な!」

「もういいの。わたしは縮こまって生きるから、もうほっといて」


わたしは、平和な学校生活を望んでたのだ。普通に友達と遊んで、行事も楽しんで、もちろん勉強もちゃんとして。それなのに、一番避けたかったタイプのいざこざに巻き込まれようとしているなんて、どうしてこうなったの。


「まだ、なにかされたわけじゃないんだろ?」

「だからって、このままじゃこないだより大変なことになる予感しかしないもん」


中学の時は、三鷹先輩とむっちゃんと2人だけだったけど、今回は千鳥先輩や鴇村くん、連雀くんのファンまでいるのだ。お弁当事件もあったから、目白くんのファンも敵にまわしてる可能性もある。だとしたら、あんなものじゃすまないのはわかりきってる。


「もうちょっと周りを信用してよ。オレだって、こんなことでひーちゃんと話せなくなるのは嫌だし、たぶん三鷹先輩たちだって同じだよ」

「わたしだって、バカなこと言ってるとは思うけど、危険は回避したいの」


今まではなんとかやり過ごせてたけど、正直、今度は厳しいと思う。わたしの身を守るためにも、周りに迷惑をかけないためにも、これが一番だろう。


「それはこっちも協力するから、だからそういうこと言わないでよ。それに、オレは嬉しかったんだよ」

「……どういう意味?」

「オレのせいで、ひーちゃんのこと悪く言うヤツが増えちゃったじゃん? ひーちゃんはそんなんじゃないって、オレがいくら言っても信じてくれる人が少なくて、悔しかったんだ」


声のトーンを落として、むっちゃんは顔を歪めた。あれは、わたしの態度もあまりよくなかったから、ちょっと仕方ないところもあったのに。なんだかんだ、人のいいむっちゃんからしたら、嫌だったのだろう。


「わたし、別に、知らない人に何言われても気にしないよ」

「気にしないようにしてるだけじゃん。あんなひどい顔しておいて、気にしてないとか、傷ついてないとか嘘だよ」


そう言われて、言葉に詰まった。むっちゃんの言う通り、傷つかなかったわけじゃない。でも、それより悔しくて、わたしのことを知らないくせに、って心の中で言い返して、なんとかいろいろ押さえ込んでいたのだ。流石に、長い付き合いのむっちゃんにはバレていたらしい。


「だけど、今回のことで、ひーちゃんのことをちゃんと見てくれる人が増えそうなんだ。見た目が変わったくらいで、って思うのはわかる。けど、人の印象って、結局見た目の影響がでかいんだよ」


中身は一緒なのに、前世はオタクな容姿で全然モテなかったというむっちゃんの言葉なだけあって、確かに一理ある。わたしだって見た目、と言っても、顔の造形だけじゃなく、髪型や服装、雰囲気全体で、この人とは合いそうとか、いい人そうとか、判断してしまうもの。


「だから、全部なかったことにしようとしないでよ。見た目がきっかけでも、ちゃんとひーちゃんを知ったら、味方になってくれる人も増えると思うんだ。ね?」

「けど……」


それって賭けじゃない? だいたい、わたしなんかが今から見た目に気を使ったところで、なに急に頑張っちゃってるの? って言われるのが落ちじゃないかな。


「大丈夫だよ、化粧で大分ごまかしてる女子より、ベースはひーちゃんのほうがよっぽどかわいいんだから。みんなびっくりするよ」

「そんなこと、ないんじゃない?」


自信満々に言い切るむっちゃんに、わたしは苦笑した。わたしがかわいいなんて、完全に身内の欲目だ。


「本当だって! ひーちゃんは、美歌ちゃんのライバルキャラだって言ったろ? ライバルって大抵ヒロインとは違う系統の美少女なの。当然、攻略対象と並んでも、文句なんて言われないレベルのね」

「うーん……」


確かに、そんな設定もあったけどさ。そして天羽さんもなんか言ってたけど。急にそういわれたって、素直に受け入れられない。


「ひーちゃんだって、悔しかったでしょ? あんな風に、悪口言われてさ」

「それは、まあ……」


自意識過剰なつもりはないけど、いきなりブスって言われたらさすがにカチンと来るし、話したこともない人に性格悪い、なんて言われてお前のほうが悪いわ! とか思ったりしてた。だけど、言い返したところで、状況は悪化するだけだから、と思ってずっと我慢してたのだ。


「じゃあ、頑張って見返してやろうよ。まずは、こっちが下に見られないように見た目からね。化粧と服は、女の鎧だってオレの姉ちゃんが言ってたし」


わたしのことなのに、ここまでやる気になっているむっちゃんに、一度決めたはずの気持ちがぐらついた。だって、想像してみてよ。根拠もなくわたしを悪く言ってた人たちを、ぎゃふんといわせられたら、そんなに気持ちいいことってないじゃない。


「ひーちゃん、休みの日は普通にかわいい格好するんだから簡単だよ。これでひーちゃんの悪口いうヤツがいなくなると思うとスッキリするよ」


ねっ、と笑うむっちゃんに、わたしはつられるように、うんとうなずいた。


自分ばっかり我慢するのは、嫌だって言いつつ、特になにか自分からはなにもしてこなかった。でも、もしわたしが変わることで、最悪の状況を避けられるのなら、努力してみるのもありかもしれない。



ちなみに、弘夢のファンというのは、メガネ萌え、ツンデレ萌え、もしくは弘夢に叱られたいというM属性の人、という若干特殊な人のため、六実も詳しいことは言えません。

言ったら最後、また弘夢が殻に閉じ籠りそうなので。

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