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彼女は幼馴染み(鳩谷六実視点)

六実視点のお話。

時系列的には少し遡ります。


六実が自己嫌悪中なので、ややネガティブです。

ごめんなさい。

ひーちゃん、羽鳥弘夢という女の子は、一言で言えばオレの幼馴染みである。生まれたその年に初めて会ってから幼稚園から高校まで、すべて一緒という筋金入りだ。おまけに母親同士がいとこで、家も近所。お互いの家にしょっちゅう出入りするのは当たり前。うちの両親が小さいながらも事務所を持っていたせいで、幼いオレが彼女の家に預けられるのも日常茶飯事だった。幼馴染みといいつつ、半ば家族のようなものである。


オレは、生まれたときから前世の記憶を持っていた。と言っても、とんでもなくしんどい思いをしたこととか、メチャクチャ嬉しかったこととか、……あとは自分が死んだときのこととか、強烈な出来事だけを断片的に覚えている程度だった。それでも、あまり出来のよくないオレの脳みそを混乱させるには十分で、5歳くらいまでは、急に泣き出したり、怒り出したりと、不安定な子どもだったようだ。

小学校に上がって記憶を整理できるようになると、だいぶ落ち着いた。でも、なんかの拍子に忘れていた記憶を思い出すことがあって、自分が自分でないような感覚に時々すごく苦しくなって、遂にある日、オレはひーちゃんにその事を相談してしまった。それは、小学校四年の夏休みだったと思う。

小さいときから、大人しくて頭のいい子だったひーちゃんは、非現実的なことは信じない質だったから、話し終えたあとに、あり得ない、とばっさり切り捨てられることも覚悟した。

それなのに、である。


「ふうん? じゃあむっちゃんは、人生2回目なの?」


彼女は、あっさりそうの言ったのである。全否定して拒絶するでもなく、根掘り葉掘り聞かれるでもなく、すんなりと受け入れてくれたのだ。

親に言っても苦笑いで返されたし、学校の友達に言っても、バカにされていたから、きっとひーちゃんも信じてくれないと思っていたオレは、拍子抜けした。

信じるのか、と聞いたら、むっちゃんがそんな壮大な嘘をつけるはずがないじゃん、というなんとも微妙な答えが返ってきたけど、それでもオレは、そのとき救われたような気持ちになったのだ。それ以来、時々ひーちゃんに記憶のことを相談するようになった。ひーちゃんはほとんど聞き流すだけなんだけど、それでもだいぶ楽になった。

おかげで、色々前向きになれた。だから彼女はオレの恩人で、大事な人だ。


そのはずだったのに、オレは、いったいどこで間違ったんだろう。


「あの、ひーちゃん」

「何」


冷たい答えだ。いや、自業自得だとは思うけど、なんだかんだオレに甘いひーちゃんに、初めてそっけなくされて、結構凹んだ。

もしかしたら、もう許してくれていて、またいつもみたいに笑ってくれるかもと思って、昨日の今日で当たり前のように羽鳥家に来た自分が甘かった。うちの母に頼まれているからか、オレの分の食事を用意してはくれたけど、ほとんどこっちを見ないし、話さない。


当然だ。オレは、本当にひどいことをした。オレたちがはとこで、家族付き合いをしてなかったら、即刻縁を切られてもおかしくない。


「本当に、ごめん」

「なんのこと」


うう、疑問系ですらない応対に、ひーちゃんの本気がうかがえる。知ってはいたけど、静かに怒るタイプなんだよな。絶対零度って感じ。


「お弁当の、こと」

「安心して。うちの母さんには言ってないから」

「う、……ごめん」

「悪いと思うなら、なんでしたの?」

「ごめん、忘れたことにする、のが……」


我ながら卑怯過ぎて、最後まで言えなかった。おばさんに、正直に友達と食べる約束があるから、って言えばよかった。そうしたら、おばさんも許してくれただろうし、ひーちゃんに迷惑をかけることもなかった。あんな風に目立つ必要も、周囲にひそひそ言われる必要もなかったのに。


「どうせ、忘れたことにして、家においていければ一番角が立たないとか思ったんでしょ」

「うっ……」

「ホント、考えが浅いよね」


そうだ。ひーちゃんの言う通り。さすが、付き合いが長いだけあって、オレの考えることは筒抜けだ。自分のバカさ加減が、嫌になる。


「ま、根っこが臆病なむっちゃんらしいけど。でも、世の中そんなに甘くないよ」

「うん。わかってる……」


前世のオレは、断片的な記憶のなかでも十分わかるくらい、情けない男だった。高校三年の冬に死んだオレは、オタクで厨ニで卑屈なバカだった。

勉強も運動も普通だったけど、平凡な顔の作りで、平均的な体格をしていたから、頑張れば雰囲気イケメンくらいは目指せたと思うけど、ゲームとマンガとアニメにハマっていたオレは、完全に世の中を斜めに見ていた。周りと馴染む努力をほとんど放棄していたのだ。

ところが今生のオレはどうだ。顔の作りはいい方で、背も平均より高いし、運動神経だって悪くない。頭は前世とそこまで変わらないが、他がいいとここまで違うか、っていうほど周りが優しい。自分で頑張らなくても、周りが話しかけてくる。今のオレは違う、勝ち組だ! なんて思った。だけどときどき、やっぱり人間見た目なのか、って重たい気持ちにもなる。ここでオレが、前世の記憶があって、実はオタクで、なんて言ったらどうなるんだろう。もともとの趣味を全面に出したらどうなるんだろう。きっと周りは引くんだろうな。そう思ったら、叫びだしたい気分になる。

そんなだから、結局のところ人に嫌われるのが怖い臆病者で、自分に自信がないくせにカッコつけたい見栄っ張りなんだ。なんて最悪なんだ。


「もう、嫌いになった、よね?」

「もうって言うか、そういう、逃げてごまかそうとするとこは前から嫌い」

「えっ……」


どこかでそんなことないよ的な答えを期待していたオレは、頭をガツンと殴れたような衝撃を受けた。今回のことで、嫌われても仕方ないとは思っていたけど、前からって、じゃあオレずっと嫌われてた? それなのに、ずっと気づかずにひーちゃんに甘えてた? なんてことだ。オレって、本当に最低だ。


「ちょっと、なに泣きそうになってんの?」

「いや、うん。オレ、ホントにバカだなって、思って……」

「あのね、知ってる? この人のここが嫌いっていう心理は、それが自分の嫌なとこを見ているようだからなんだよ?」

「うん。……うん?」


どういう意味だ。ひーちゃんは時々難しいことをいう。


「わたしだって、人に嫌われたくないし、幻滅されたくない。だから、失敗はどうにかごまかせないかって考える」

「うん」

「でもね、それじゃダメなの。少なくともわたしはそう思う」

「……うん」


こくりとうなずいて、今回のことをしみじみ思い返した。誤魔化してうまくいくこともあるけど、そうじゃないことだってある。確かに、ひーちゃんの言う通りだ。


「それなのに、なんでも逃げてごまかせばいいと思ってる、むっちゃんの考えなしなとこが嫌いなの」

「……うっ」


なんにも返せずに、身を縮めるしかなかった。小さい頃に、ケンカの流れで大っ嫌い! って言われたことはあるけど、あんなのより、今みたいに真顔で言われる方がよっぽどダメージがでかい。オレはますます小さくなって、うつむいた。もう、自主的に羽鳥家出入り禁止にしようかな。ひーちゃんに不快な思いをさせるのは申し訳ないし。


「まあ、だからって顔も見たくないってほどではないけど」

「……え? でも、オレのこと、嫌い、なんじゃ」


ひーちゃんのため息混じりのせりふに、そろそろと顔をあげる。困ったような納得いかないような顔をしたひーちゃんがこっちを見ていた。


「すぐにごまかすとこはね。でも、いいところもあるし、関わりたくないってほどではないかな」

「ほんと?」

「だって、生まれたときからの付き合いなんだよ? ずっと一緒にいて、うまくやってた相手だし、そう簡単には嫌いにはならないみたい」

「でも、オレ、結構ひどいこと……」

「自覚あるんだ」


目をすがめるひーちゃんに、思わず謝った。謝ってすむことじゃないのはわかってるけど、オレには謝ることしかできない。


「……マジでごめん」

「済んだことは仕方ないし、もういい。でも、今度やったらもう口きかないから」

「うん、気を付ける」


まっすぐひーちゃんの方を見て答えたら、苦笑が返ってきた。




*****




結局、オレはひーちゃんとこのおばさんにも美歌ちゃんにも、ちゃんと事情を説明して謝って、お弁当を作ってもらうのはやめた。オレもひーちゃんも美歌ちゃんも、それで今回のことは蒸し返さないと納得した。それで解決したのだ。


だけど、問題だったのはそのあとだ。なんにも知らない周りは、ひーちゃんのことを好き勝手に悪く言っていて、普通科の中には、ひーちゃんがとんでもなく性格の悪い女子だと思い込んでる人までいる始末だ。今回のことは、オレが全面的に悪かった。だから、ひーちゃんたちがなんだかんだ言われる筋合いはない。それなのに、そういう人たちにはオレが何を言っても無駄で、簡単に聞き流されてしまう。ひーちゃん本人に大丈夫かと聞いても、放っておいてと言われるだけ。

夏休み直前くらいから少しずつ元気になって、夏休みに入ったら前より忙しそうで楽しそうな表情をするようになった。文化祭の有志に参加するんだ、って聞いて、そのときはすごく安心した。


でも、オレはやっぱり、日に日に疲れた暗い顔になるひーちゃんに、なにもできなかった自分が情けなくて、なんにも相談されなかったことが悔しかった。


それで初めて気がついた。オレが今まで、どれだけひーちゃんに甘えて、頼りきりにしてきたのか。ひーちゃんはオレにもいいところがある、みたいなことを言ってくれたけど、こんなんじゃ、頼りなくて相談なんてできなかっただろう。自分自身に失望した。

ひーちゃんは自分で自分のことを、人目を気にする事無かれ主義で臆病なだけ、と言うけど、裏を返せば、周りのことをよく見ていて慎重で我慢強いってことだと思う。だから、辛いことも、嫌なことも溜め込んで我慢してしまう。特に、今年に入ってからはいつにもましてストレスがかかっている気がする。いや、その原因の1つであるオレが言うのもなんだけど。

それだから、溜め込んだものがいつか爆発しないか最近心配になるのだ。かといって、それをオレがフォローできるかといったら、正直、今の自分のレベルでは無理なんだけどさ。

もし、ひーちゃんに特別に大切な人ができるとしたら、大人で包容力のある人がいいと思う。ひーちゃんが気楽に寄りかかっていける人。そんな人が早く現れたらいいのに。


付き合いの長い自分が頼りにされないのはちょっと悲しいけど、ひーちゃんにはオレじゃ似合わないことくらいわかってる。でも、せめてもう少しだけ頼られて、愚痴くらいは聞かせてもらえるような相手にはなりたいと思う。



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