エルザ 3
「……人間に信頼し、肉を自分の腕とし――!」
神経魔法で男の腕を止めた。
本当は時間魔法が良かったが、
手元に魔法水薬がない。
「な、なんだ!? 動かねぇ!?」
男は異常に気付き、腕を見つめる。
僕は部屋の中に飛び込み懐に隠してあった短剣を
男の背中に突き立てた。
「ぎゃっ!」
短い悲鳴を上げ、必死の形相で僕の方へ振り向く。
すかさず背中の短剣を引き抜き、
彼の目を狙って横に一閃する。
視界を奪われた上に、背中からはおびただしい程に
出血している。
放っておいても、間もなくこの男は死ぬだろう。
だが、僕はちゃんと殺す。
間違いなく殺す。
何度でも殺す。
何度も殺す。
何度も
何度も
何度も
「た、旅人さん……!」
気付けば僕は、男に馬乗りになって、
何度も胸に短剣を突き立てていた。
エルザはその間に割って入ったのだ。
……はぁ……はぁ……。
何だ?
なぜ僕はこんなにも錯乱している?
僕の体に何が起こっている?
魔法水薬を飲まずに闇の魔法を使った影響か?
突然の運動で動悸したか?
それとも……
エルザが心配そうな目で僕を覗き込む。
この女のせいか。
「おまっ、えっ、は!!」
僕はエルザの肩を掴んで激しく揺らした。
「なぜロケットの場所を言わない!? 死ぬところだったんだぞ!?」
「こ、孤児達がおりますから」
「ならば戦え! 剣をとれ! なぜ抵抗しない!?」
「彼にもお金が必要だったのでしょう」
「だから……!」
だから、お前は、死を選ぶ。と言うのか。
なんだそれは!
「旅人さんは魔術師なのですね……」
目のない死体に視線を向けた。
そう。
僕は魔術師だ。深淵の魔術師。
誰もが忌み嫌う呪われた魔術師だ。
人を殺し、魔族を殺す。血の復讐に踊る
……憐れな怪物だ。
僕は男に刺さっていた短剣を引き抜くと
エルザの喉元に当てた。
「僕は深淵の魔術師だ。今から、お前は死ぬ
間違いなく死ぬ。この短剣は無常にも
お前の喉を切り裂き、血を噴出しながらお前は死ぬ。
誰も助けになど来ない。奇跡など起こりはしない。神などいない」
エルザは震えた。
これだ。と僕は思った。
僕はこの恐怖が欲しかった。
さぁ。命を乞え。そして絶望するんだ。
エルザは震えた。震えながら
目を閉じた。
「いいのか? 今、まさに、この瞬間、お前は死ぬんだ」
ゆっくり、頷いた。
やめろ。
やめてくれ。
人間の本質は悪だ。
こんなの認めない!
僕は間違っていない!
「それで、あなたの気が晴れるのなら……」
「ふざけるな!!」
僕は叫んだ。
「僕の呪いはお前の命などで消えはしない!」
「人間と魔族が生んだ血の連鎖は終わらない!」
「母さんは2度と戻らない!!」
「僕の人生は2度と戻らない!!」
「もう戻れないんだ! 帰れないんだよ!!」
「さあ! 泣いて、叫んで、絶望して、僕を満たせ!」
僕の目から涙が零れた。
「僕を……」
「憐れむな……!」
エルザはそっと僕の手からナイフを抜き取ると、
僕の血に濡れた手をぎゅっと握って、顔を寄せた。
「やはり、あなたは迷える子羊なのですね」
その言葉と同時に、突然胸が痛み
僕は血を吐いてエルザの胸へと倒れた。




