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深淵の魔術師  作者: 鎖
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エルザ 2


裏通りにその古びた教会があった。

人気の少ない教会は参拝者も少なく、

よく取り壊されず残っているな。と不思議に思う。

更にこの教会はたくさんの孤児を養っているらしいが、

こんな教会のどこにそんな金があるのだ。


参拝者に声をかけられた時、エルザと呼ばれていた。

おそらくそれが彼女の名前なのだろう。


「古参の信者はここから離れないのです」


神の石造を見つめながら彼女は言う。


違う。


それはお前達が勝手に作った神の偶像だ。


この世に神などありはしない。

僕はこの身で体験しているのだ。

この世は地獄だ。この世に神がいるなら

それは地獄の神、魔王だ。


「あなたは王都の人ではないのですね。旅の方?」

「……そう。是非、一度、参拝させてもうおうと……」


やめてくれ。


僕を見ないでくれ。

我慢できなくなる。

本当は今すぐにでも殺してしまいたいのだ。


「それでは宿にもお困りでしょう。部屋を用意致します」


と。彼女は優しく言った。



  ――・――



眠れない。


僕は教会のベットの上にいた。

エルザが瞼の裏から離れないのだ。


夜の闇が僕を駆り立てる。

あの偽善をぶち壊し絶望させ、

泣きながら許しを乞う彼女に、


――ほら見ろ。


と。現実を見せ付けるのだ。


でないと狂気に狂ってしまいそうだ。

いや、もう狂っているんだ。

僕は。


ゆっくりと体を起こし、部屋のドアを開けた。

修道女相手に魔法なんて使う必要もない。

僕はローブの懐に短剣を忍ばせ、

エルザの部屋に向かった。



様子を窺うようにドアに耳を当てると、

意外にも声が聞こえた。

どうやら起きていたらしい。


丁度良かった。


と僕は歪んだ笑みを浮かべた。


寝ている彼女を殺したところで

今の僕は満足できない。

彼女は、彼女だけは、絶望の淵で死んでもらうのだ。


僅かにドアを開け隙間から中を窺う。


(?)


男だ。男がエルザに馬乗りになっている。

そういう状況かと一瞬思ったが、違う。

その男の手にはナイフが握られてあるのだ。


「どこにあるんだ?」


男の問いにエルザは顔を背ける。


「ど、どこに隠してるんだ!?」


語尾が強まっていく。

相当大事な物をエルザは隠しているらしい。


「どうしても言わないなら、お前を殺してその後ゆっくり探す」


ナイフがエルザの頬につき付けられた。

だがエルザは怯む事はなかった。


「それでも言えません」


バカな女だ。と思った。

何を隠しているか知らないが、

殺されてしまっては意味がない。

どうしようかと思ったが、僕には彼女を助ける理由がない。


「あのロケットがあれば、異教崇拝の証拠になる」


なるほど、男はその摘発による賞金が欲しいのだな。


「そんな事をすればこの教会にいる憐れな孤児達は行き場を無くします」


絶対に言えません。と口をきつく結ぶ。


「くそっ! じゃ死ね!」


ナイフが彼女の首に近づいていく。



……本当にバカな女だ。

他人を心配して自らが死ぬのだ。

今、彼女の中では葛藤しているだろう。


自己満足と自己犠牲の美学。

死にゆく恐怖と絶望に。


さぁ。

意地を張らず許しを乞うんだ。


「私が悪かった」

「偽善面していました」

「殺さないで下さい」


そして孤児達を犠牲にして生きながらえるのだ。

絶望と懺悔にまみれながら……!


ナイフの先端が彼女の首に触れる。


早く。

言うんだ。

命乞いするんだ。


なぜ言わない。

死なないと思っているのか?


早く。

死んで後悔するつもりか?


死ぬ。間違いなく

お前はナイフで首を裂かれ、

ベットを血で濡らし、死ぬ。


早く。


男はナイフを振り下ろした。


エルザは抵抗する事なく

胸で手を組み呟く。


「あの子達が強く生きて行けますよう……」


バカな女だ。


死ぬ瞬間まで子供達を心配するなんて。


それじゃまるで……!



「……あぁぁぁぁぁ!!!」


それは僕の声だった。






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