エルザ 1
僕は王都に来ていた。
目的は殺しだ。
ハイランド王国の大臣、ドーンを殺すためだ。
理由なんてどうでもいい。とにかく殺す。
転移魔法で暗殺すれば早いが、
できるだけ体に負担はかけたくない。
廃墟暮らしが長いせいか
人ごみは苦手だ。幼い頃は王都に住んでいたが
今思うと、よくこんな場所で生きていけたものだ。
こんなに人がたくさんいたら
体が疼いてしまう……。
城下街は迷路のように入り組んでいて
城への道が分からない。
誰かに聞く必要がある。
ふと気付くと野良猫に餌を与えている修道女を見つけた。
金髪で若い女だった。
しゃがんで猫をなでながら餌を与えている。
彼女ならば快く教えてくれるだろう。
今はなるべく目立ちたくないのだ。
だが不思議と僕の口から出たのは別の言葉だった。
「そんな事しても猫は幸福にはならない。一時的なお前の自己満足だ」
修道女は驚きもせず僕を見上げた。
「この子を最初見つけた時も、誰かに同じ事を言われました」
あれからもう5年も経ちます。そう言って微笑みながら猫を撫でる。
「ちっ」
僕は舌うちをした。
宗教というのはこういうおめでたい奴を増やす
洗脳集団か。
「この猫も親を亡くした憐れな子なのです」
「そいつはっ!! 憐れんで欲しいわけじゃないっ!!」
思わず叫んだ。
それに驚いたのは彼女だけじゃない。
僕もだ。
何でこんな事を言ってしまったのか分からなかった。
彼女はスッと立ち上がって僕を真直ぐ見つめた。
「あなたも迷える憐れな子羊なのですね」
……嫌いだ。
僕の中に殺意と狂気が膨らむのを感じる。
その真直ぐ僕を見つめる瞳が嫌いだ。
屁理屈と綺麗事を並べるその唇が嫌いだ。
天使のようなその微笑みが嫌いだ。
その慈愛に満ちた顔を引き裂いてやりたかった。
その口から呪いの言葉を吐かせてやりたかった。
絶望と懺悔に泣き叫んで欲しかった。
何もかもをめちゃくちゃにしてやりたい。
捕え、犯し、殺し、その亡骸に言ってやりたい。
これがお前の信じる神の作った現実なんだ。と。
「……教会への、道を、教えて、欲しい」
僕は目を逸らして言った。