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深淵の魔術師  作者: 鎖
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深淵の魔術師 2



驚愕と恐怖に震える兵士の口が動いた。


「し、深淵の……魔術師……」


その時、後ろにいたもう1人の兵士が

腰に差してある剣を抜刀し、僕の体を払うが

当りはしない。


震える兵士の影の中に姿を消し、今度はその抜刀した兵士の

後ろへと移動する。

僕を見失った兵士達は辺りを見回した。

その肩を掴みこちら側に顔を引き寄せると

その左目の中に指ごと魔力符を突っ込む。


魔力符は呪文の書かれた紙だ。

微量の魔力を流し込む事で効果を発揮する。

体に負担はかからない。


そして兵士の左目に入れたのは

爆裂符。

強力な火炎系と風系の合成符だ。


「ぎゃぁぁ……」


痛みに叫ぶ彼に、僕は躊躇する事なく

それを発動させた。


小さな閃光が起こり

彼の頭は爆裂し、残された首から血が噴出す。


「んっん――!!」


その光景に魔族の母子も声にならない声を漏らす。

残った兵士は這い蹲るように小屋の外へと逃げようとした。


逃がしはしない。


僕は先程殺した兵士の剣を拾う。


「許してくれぇ! 俺達は頼まれただけなんだ!」


必死に僕に助けを懇願する。でも残念だ。


「僕は人間が嫌いなんだ……」


這う兵士の背中に剣を突き立てた。

何度か痙攣したその体はやがて動かなくなった。


そう。


僕は人間が嫌いだ。

嫌いで嫌いで嫌いで嫌いだ。


そして……


「魔族はもっと、嫌いだ」


僕は魔族の母子にゆっくりと近づくと、

それを殺した。


なんと醜い事か。

魔族は人間を襲い、殺す。

人間は魔族を捕らえ、犯す。


繰り返される罪の螺旋。


魔族は人間に復讐を

人間は魔族に復讐を


それは裁かれるべき罪だ。

しかし裁かれる事の無い罪だ。



この世界は僕が裁く。



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