結末 2
「げふぅぇ……」
口から血を吹き出し、呼吸ができない。肺をやられたのだ。
ガクガクと膝が折れる。
顔を上げると断頭台の上にはいつの間にか、
何人もの弓兵が立っていて僕を狙っていた。
次々と矢が放たれる。
僕は震える左手で風符を発動させた。
風が巻き起こり、僕の左手を切り裂きながら、
飛んでくる矢を逸らした。
満身創痍。いや、もはやアンデットだ。
右腕を失い、左手は裂け、胸には矢が刺さっているのだ。
誰が見ても、生きているのが不思議だろう。
それでも僕は震える足で前に進んだ。
エルザを助けるために。
「ち、近寄らせるでないっ!!」
国王の声に、怖気づいていた警備兵がハッとして
手に剣を盾を持って押し迫る。
「……灰は、は、灰に……げふっ、塵は塵にいぃぃ!!」
僕は血を吐きながらそれを唱える。
深淵の魔術師の、最後の闇の魔法だ。
もう魔力符も使えないほどに、何も残っていないが、
それを搾り出す。
無数の黒い槍が飛び、断頭台までの道を作る。
「エルザ……!!」
僕は走った。
全力で走った。
今までで一番全力で走った。
それでも、今までで、一番遅かった。
断頭台はもうすぐだ。
待っていてくれ!
必ず君を、必ず君をたすけ――……。
目の前を何本もの矢が降ってくる。
僕にはもう魔力は残っていない。
風の魔力符の効果もとっくに切れている。
僕は踊る人形のように矢を全身に浴び、
血の海に倒れた。
「魔術師……!!」
エルザの声が聞こえた。
……ダメだな。僕は。
やはり助けられなかったよ。
結局、僕は何もできないんだ。
助けるだなんて柄にも無い事をいようとした結果がコレだ。
「魔術師……懺悔は、悔いは、後悔は、ありますか?」
エルザ。死に行く僕に今更それを問うのか。
後悔なら、あるさ……。
後悔のない選択なんてなかった。
僕はずっと後悔しながら、生きていた。
王都に住めば良かったと後悔した。
母さんと喧嘩しなければ良かったと後悔した。
復讐の渦に飲まれた事を後悔した。
……けれど、エルザ。
君を助けて死ぬ事に後悔はない。
「……命は……糧に勝り……体は、衣に勝るならずや……」
回復魔法。
僕は死に行く自分の体を修復した。
だが、魔力の枯渇した僕の体は、
その魔法の力に耐えられるはずもなく、
破壊と再生を繰り返した。
腕が、足が、体が作られては弾ける。
もう少しなんだ。もう少しなんだよ。
後少しでいいから僕に命をくれ!
「エルザ!」
僕は断頭台の彼女に手を伸ばした。




