怪しい占い師
「ねぇ、涼子!今日暇?」
「暇だけど…どうしたの?」
私、鈴原涼子は授業が終わった途端、駆け寄ってきた親友、真鍋百合の問い掛けに答えながら、帰宅の準備を進めていた。
「ケーキ食べに行かない?」
「行く!あの駅前に出来たケーキ屋さんでしょ?」
「そうそう!評判いいみたいだしどうかなって」
百合は小学校からの親友だ。
さすがと言うべきか、私のツボを心得ている。
ケーキというより、甘いものが大好物な私はすぐさまその提案に乗った。
「よし!行こう!」
「ははっ!涼子は本当に甘いものに目がないよねぇ…」
何とでも言うがいい!
甘味こそ至高!そこは譲れないのだ。
あきれたような百合の手をとって半ば引きずるように教室をあとにした。
「おかしいなぁ…この辺なんだけど…」
「道、間違えたんじゃないの?」
戸惑いを隠せない様子の百合にそんな言葉を返しながら、私は考えていた。
(おかしい…さっきから同じ道を歩いてる気がする…)
駅に着いたところまでは普通だった。
駅前のケーキ屋さんなのだから、迷う要素すらない。
因みに、私と百合は方向音痴ではない。
なのにお目当てのケーキ屋さんに辿り着けないとはどういうことなのか…。
この不思議現象にうすら寒いものを感じた私は、駅に戻ろうと百合に声を掛けようとした。
「ねぇ、百合…」
「あー!ねぇ涼子!あそこ見て!なんか占い師の人が居るよ!あの人に聞いてみよう!ね?」
「あ、ちょっと!」
私の制止も聞かず走っていってしまった百合の後を仕方なく追いかける。
なぜなら…怪しすぎるのだ。占い師が。
遠目から見てもわかるほどに。
夏なのに暑苦しいローブのようなものを羽織り、フードで顔を隠している。
道端には不釣り合いな豪華なテーブルの上には大きな水晶玉が鎮座しているが、それがなければ不審者にしか見えない。
なぜそんな怪しい人に普通に走りよっていけるのか、百合の行動が甚だ疑問である。
「あのー、最近出来たケーキ屋さんに行きたいんですけど…場所知りませんか?迷ってしまって」
能天気な百合の声をききながら、私は目の前の占い師の行動を観察した。
もしかしたら本当に不審者かもしれないし、百合に手を出すつもりなら私が返り討ちにしてやるぐらいの勢いで。
これでも護身術と少しの体術くらいは使える。
ブルース・リーが大好きなお陰で…。
そんなことを考えていた私は占い師が発した声と言葉に驚きを隠せなかった。
「お嬢さん達、迷ったのね。残念ながらケーキ屋さんとやらは知らないわ。御免なさいね。それにこのままじゃここからは出られないわよ?」
「…若い女の人?っ、それよりここから出られないってどういうこと!」
「涼子落ち着きなよ。あの、お姉さん、駅までの道を教えてもらえませんか?」
落ち着いてなんていられない。
だって…占い師から赤色の光が出ているのだ。
オーラのように。
(まさか百合には見えてないの?!)
「困ったわねぇ。駅っていうのもわからないわ。それよりあなた!」
占い師がこちらを向いた。
そして言ったのだ。
「私の魔力が見えているわね」と。
やばいやばい!頭が警鐘を鳴らす。早くここから離れないと!そう思ってるのに脚が地面に縫い付けられたかのように動いてくれない。
冷や汗が吹き出す。
「あらあら、怯えさせてしまったかしら。御免なさいね。つい嬉しくて!あなたにはこれをあげるわ。受け取ってくれるわよね?」
占い師は楽しそうに言葉を紡ぐ。
そして一枚の紙を私に差し出した。
私の感情とは裏腹に、手が勝手に動く。
(なにこれ…逆らえない…これは護符?)
その紙を受け取った途端、私の意識は途切れた。