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こてつ物語10  作者: 貫雪
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6

「たしかに、弱虫ね」


「だろ? そんなもんなのさ。お前もあんまりハルオをいじめるな。相手がお前じゃ、ちょっとキツそうだ」


「香の邪魔はしないわよ。……確かに寂しいけど。でも香のためだわ。この間のノートの一件みたいな事もあるしね」そう言って礼似は軽くため息をつく、が、声を一転させて、


「あー、でもあのノート。華風の上納金がらみの情報は、ちょっともったいなかったなー」

と、未練ありげに嘆いた。


「お、そう言うんなら、いるか? あのノート」


「え?」


「あのノートなら、俺が持ってる」


「ええ? だってあの時始末してって……」


「だから始末したのさ。俺の部屋の中に。お前、どういうふうに始末しろとは言わなかっただろ?」


 一樹は何でもない顔をして答えた。


「なに危なっかしい事してんのよ。あんなものが情報屋の手のうちにあるって華風の連中に知られたら、すぐにつけ狙われるわよ」


「情報屋だから、ああいうものには敏感でね。それに、物を始末したってもう遅い。俺、頭の中に叩き込んだ」


「うっ……」素早いと言うか、はしっこいと言うか。


「それにどうせ、お前もあらかた頭に入れてあるんだろ? 何かの形でバックアップも取ってあるだろう。お前の方が立場を考えたらよっぽど危ないじゃないか。こうなったら一緒に抱えてやるよ」


「誰もそんな事頼んでないのに」


「なあに。どうせお前とはここで一蓮托生だ。ちょっとおまけが増えるくらいかまわない。お前こそ女組長なんて目立つんだ。抱えるのは組員だけにして、こういう事はこっちに回せよ」


「急に女だった事思い出したように言わないでくれる?」


「急じゃないさ。誰が野郎のためなんかに、ここまで体張るもんか。会長にも恩は返したしな。なあ、香を真柴に預けたら、お前、俺のところにこないか?」


「は?」礼似が目を丸める。


「もう、一人暮らしもつまらないだろ? それとも、まだ、俺が親の敵にしか見えないか?」


「……その持って行き方は、そうとうズルいと思うんだけど」


 礼似は昔、一樹に両親を殺されている。が、もう恨みは無い。大体礼似の両親だって、一樹の両親を一樹の目の前で殺している。一樹は親の仇を打ったにすぎない。恨むのは筋違いってものだろう。それなのにこの質問の仕方では否定しにくくなってしまう。


「ズルくて結構だ。こういう時は口説き落とした方が勝ちさ」


「何が悲しくて今更あんたに口説かれなきゃならない訳?」


「ミも、フタも無い言い方するなよ。それにさっきも言ったぞ、つまらない意地を張るな。見当はついてるだろう? 香を手放したら、オトコを手放す時より堪えるって」


「一樹でその埋め合わせをしろって言うの?」


「今の俺なら昔より少しはマシだと思うが? ようは気がまぎれりゃいいんだよ。組長なんて、なればそれだけで孤独になるんだから」

 そう言いながら一樹が礼似に寄り添った。


「もともと一人だったんだもの。そのうち慣れるわよ」


「まあ、黙ってろって……」そう言って礼似の唇に指を触れ、顔を近づけていったが……



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