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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 バカな事を言いあううちに組長室の前に着いてしまった。ぐずぐずしていても仕方がない。早く詫びるのが一番だろう。

 香は勢いに任せて思いっきり扉を開いた。


「礼似さん! ご心配おかけし……」


 言いかけて香がそのまま固まった。ハルオもあんぐりと口を開けてしまう。


 礼似は一樹の腹部のアザを確認しようと、ベルトを引っ張り、思いっきりシャツをめくり上げたところだった。一樹はそれに抵抗して片手は礼似の肩を抑え込もうと、もう一方の手はシャツを戻し損ねて、ズボンのあらぬあたりに引っ掛っていた。

 こちらも二人揃って振り返ったまま固まってしまう。


「し、失礼! しました!」


 ハルオだけでなく、香まで仲良くどもって乱暴に扉が閉まる。バタバタと派手な足音を立てて二人はそこから離れたようだ。


「これは……誤解を招いたかしら?」礼似の方まで唖然としている。


「これの、どこが誤解なんだ?」

 シャツをつかまれ、半裸のまま一樹はうんざり顔をした。これじゃ、俺の方が襲われたように見える。いや? 襲われたのか?


「一樹が素直に見せないからじゃないの」


「急に男のシャツをめくる、お前の方がどうかしてる」


「いいじゃない。どうせ一樹なんだし」


「どうせとは何だ、どうせとは」


 礼似は一樹の言葉を聞いてはおらず、腹部に視線を落とした。


「あー! やっぱりアザになってる。しかもこぶし型にくっきり!」

 礼似は嬉しそうな声を上げた。


「人にアザ作っておいて、そんなに嬉々とした声を出すな。この調子じゃ、すぐ、俺もお前に落とされたクチにされる。俺の面子はどうなるんだ!」


「あら、覚悟はできてるんでしょ? 私の相手をしようってんなら、面子なんて真っ先に立たなくなるに決まってんじゃない。ヤワな事言ってないで、人の噂も受けて立ってもらわなくっちゃ」


 そんなところまで、まだ、覚悟してないぞ! 


「でも、一応誤解は解いておくわ。二人とも、まだ組の中にいるかしら?」

 そう言って礼似は部屋を出ようとしたが、一樹は扉の前に立ちふさがった。


「何?」礼似はそう聞いたが、こっちだって、もうヤケだ。


「どうせ誤解を解いたって、すぐ噂になるだろう。だったらこのまま、誤解じゃ無くせばいいだろう?」

 そう言って、礼似を誘う。


 ただし、心の中で、これで俺の「男」の価値は、かなり暴落するんだろうな、と思うと、一樹は色気のない方のため息をついてしまった。


                                                                                     完


おかげさまで完結出来ました。ご愛読、本当にありがとうございました。

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