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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 車に四人で乗り込んだはいいが、土間もハルオもなかなか口を開かない。香も何から話せばいいのか分からずにいる。奇妙な緊張感を運転している智一人が不思議がっていた。

 どうしてこの母子は……じゃなかった。ああ、ややこしい。「父」と子は、こうも素直じゃないんだろう? いや。父と息子なんてこんなものなのだろうか? 香はため息とともに頭を抱えてしまう。


「あの、組長。こんな事聞くの変なんすけど、どうして急に俺と杯をかわす気になってくれたんすか?」


 口を開いたのは智だった。聞きたいのも確かだろうが、変な緊張に耐えかねたのかもしれない。


「あんた、自分より弱い者の命を大切に扱ったでしょ? しかもその場で最も冷静な判断をした。その場の情で動いただけじゃない。自分が必要とされている事を理解していた。これはウチに必要な資質なの。ましてこれから人を傷つける道具をもつ以上は、堅気の命を決して軽んじちゃいけない。あんたは子供たちの命を守った。だから合格点をやっていいと思ったのよ」


「組長の言いつけを破ったのに、ですか?」


「誰に何を言われても、最善を尽くさなきゃならない時があるの。特に、人の命が関わっている時にはね。あんたはたとえ良い感情ではなくとも、人の命の重さを知ってる。そういう人間じゃなきゃ、ウチは刃物を握らせないの」


「じゃあ……」智は期待に目を輝かせる。


「明日から稽古をつけるわ。私は容赦しないわよ。ハルオも良く、知ってるわよね?」


「は、はい」


 返事をしながらハルオは悔しさをかみしめる。智はこれから土間さんに直接あの稽古を受けるんだ。もう土間さんの稽古はいらないと断ったのは自分なのに。


 少し間をおいて、土間はハルオに語りかけた。


「ハルオ、あの稽古はあんたを随分傷つけたでしょう?」


「い、いえ」ハルオは否定しようとしたが、土間はそのまま続ける。


「あのやり方があんたに合っていたのか、今でも分からないの。でも私、他に方法を知らないのよ。私の師匠だった人なら、別のやり方を考えられたかもしれないけど、私にはあれしかなかった。私は指導者には向いていないの。だけど」


 ちらりと智の方を見る。


「向いていようがいまいが、私は智を何とかしなきゃならなかった。智の中に、華風に見合う気質があるか見極めたかった。それをハルオ、あんたは智から導き出してくれたわ」


「お、俺、な、何も」


「意識しては、何もしていないんでしょうね。でも、あんたは私が出来ない事をやってくれた。母親の血、かもしれない」


 母親の血。


 この言葉は土間さんにしか、俺に言えない言葉だ。俺を生んでくれた人を、この人は誰よりも知っている。俺は、間違いなく、この人の息子なんだ。


「ありがとう。ハルオ」土間が一言、礼を言う。


「い、いいえ」


 礼を言いたいのは俺の方だ。土間さんは俺に刃物を持つ心を教えてくれた。自分の弱さに気づく大切さも教えてくれた。それは同じ刃物を持つ者としての心だろう。でも、俺の気質を気遣って、母親の事を思い出してくれるのは、この人が俺の父親だからだ。


「早く私を超えなさい。その時はきっと、智があんたに追いついているわ」

 そうかもしれない。そして智の存在が、俺を強くあり続けようと思わせてくれるに違いない。





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