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こてつ物語10  作者: 貫雪
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「良平さん、まだかしらね」気がつくと御子の隣にこてつを連れた由美が立っていた。


「もうすぐ出て来ると思うんですけどね。あの、厚い壁を砕いていたのだから、時間がかかってるんだと思います」


「真見ちゃんは?」由美は御子が真見を抱いていないのに気がついた。


「車の中でお義父さんが抱いてます。今日は特別。お義父さんにもたっぷり抱かせてあげなくっちゃ」


「真柴さんにも心配かけたんですものね」


「ホント。真見も初めての外出でこんな事に巻き込まれるんじゃ、先が思いやられるわ。お宮参りの時には、しっかりお払いしてもらわないと」


 あそこの神主は私にいい感情持ってないからなー。真見まで千里眼だと知れたら、どんな顔するやら。どこか、他の神社に場所を変えようかしら?

 御子はそんな事を考えていたのだが、


「あら、こんなに大きな出来事の中で、沢山の人に助けられて無事だった子ですもの。きっと、すごい強運の持ち主になるわ。それに、こんなに大きな厄落としってないんじゃないかしら? お参りなんて必要ないくらいかも」由美はそう言って笑う。


 それを聞いた御子は、お宮参りの場所なんて何処でもいいような気がして来た。

 確かにあの神主は自分を嫌っているけれど、真見は犯人の悪感情にも負けず、沢山の人に助けられた。厄落としと言えば、これ以上の事は無いだろう。

 あの神社は子供の私が育った特別な場所。神主で神様の中身(?)が変わるわけでもないだろうし。

 やっぱりあそこにお参りするのが一番だろう。


 そのうち由美の足元でこてつが眠たそうにすり寄り、由美に甘えてきた。


「あらあら。こてつったらオネムなのね。ちょっとだけ我慢してね。もうすぐ父さんが車で迎えに来てくれますからね」そう言って軽くもないこてつを抱き上げる。由美にかかっちゃ、こてつは幼児も同然だ。


 由美がそんな事をしているうちに、その、会長が由美と御子の前に現れた。


「良かった。本当に無事だったんだな」


 由美とこてつの姿を見て、安堵のあまり顔じゅうが崩れたような表情をしている。

 こてつの方でも由美の腕から飛び降りて、眠たげな身体ではあるが会長の傍によって、愛想のいいい笑顔を見せていた。


「勿論よ。だって、こてつが大活躍してくれたんだもの。そのこてつがとっても眠そうなの。良平さんが出て来たら早く帰りましょう」こんな時でも由美の基準はこてつが中心になるようだ。


「そうだな、早く帰ろう」


 会長も周りのカメラの動きを気にして落ち着かない。さっさとここから離れたいのが本音だろう。


「良平ならもうすぐ出て来るわ。……あ、噂をすれば」


 ついに良平や救助隊達もデパートから出て来た。良平はレポーター達に捕まらないようにコソコソしていたが、彼らのお目当ては最後まで残った従業員の、あの店員の方だったようだ。気の毒に店員はあっという間にカメラに囲まれ、良平はそのあいだをそそくさと逃げ出してきた。

 最後まで使命を果たした救助隊には、カメラもレポーターも見向きもしなかった。そんなものか。


「ご心配おかけしました」良平も会長に気付いて、頭を下げる。


「いや、こっちこそ由美とこてつが世話になった。ひどい事に巻き込まれて災難だったな。無事で何よりだ」


「いいえ、こちらこそ……」良平がさらに何か言おうとしたが、会長がそれを制した。


「ここはマスコミが多くて落ちつけない。真柴も心配している事だろう。早く顔を見せた方がいい。私達は失礼するよ」


 そう言って会長は由美と眠たげにふらふらしているこてつを連れて、車の中に姿を消した。



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