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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 救助隊のドリルはようやく一点、壁の向こう側に到達した。小さな穴から隊員たちの姿が垣間見える。


「結構、ここの壁は丈夫だな。だが、これでは時間がかかり過ぎる。思い切って軽く爆破させた方がいいかもしれない」


 ドリルの音が止んだところで、リーダー格らしい隊員の一人がそう言った。


「すいません。この壁を、ほんの少しだけ爆破して、穴を広げます。決して危険なやり方はしません。こちらを信頼して、発破をかけさせてもらってもいいでしょうか?」


 隊員は、穏やかに、諭すような口調で良平達に話かけた。これまでに爆破の危機と恐怖を味わっている事を考慮して、余計な心配をさせないようにしているのだろう。さすがはプロだ。


「勿論です。あなた方に助けていただくしか、方法がないんですから。信頼しています。皆さんのいいやり方でお願いします」


 店員はすぐに即答した。この人も客商売としてはプロだった。こんな事態にもかかわらず、何よりも客の安全を優先して、いま、ここに残っているのだ。


「それでいいですよね?」店員が良平にも同意を求める。良平は深くうなずいた。


「じゃあ、この壁からなるべく離れて下さい。振動がありますので、周りや頭上にも注意して下さい」


 二人がその場から離れ、商品棚に身を隠すようにすると、隊員たちは手ぎわよく作業を勧めた。


「では、爆破します。頭を守って、身をかがめて下さい」

 そう、声がかかると間もなく、


「爆破!」と声がして、爆発音と軽い振動が伝わった。


 壁を見てみると綺麗に人一人が楽に通れる大きさの穴があいている。さすがは計算されて爆破しただけの事はあった。

 残った鉄筋も、隊員たちの手によって手ぎわよく外されていく。良平と店員がそこを通って出て来ると、互いに笑顔が広がった。


「建物の状態は安定しています。慌てる必要はありません。ただし瓦礫も多いし、足元も悪い。注意して進みましょう」


 ホッとしている間にも隊員たちは素早く使っていた道具をまとめ上げて、良平達を促すように、階段へと向かって行った。

 階段は薄暗くはあるが、意外に歩きやすかった。先に通った人たちによって、まるでけもの道のように通りやすい道筋が出来ている。これならきっと無事に脱出できたに違いない。そう思っていると、


「先に出た人たちは外に出られたようです。全員無事です」

 と、無線を握っている隊員が教えてくれた。そうか。御子達は無事か。良平の安堵の表情に、他の隊員や店員も、微笑みかけてくれた。


「私達も早く出ましょう」

 そう言って隊員の歩調が少しだけ早くなる。



 デパートの前では警察やマスコミでごった返す中、無事を喜び合う人たちで温かい空気が流れていた。警官がマスコミを遠ざけようとはしているが、カメラやレポーター達も、簡単にはあとにひかない。

 中にはとうとうテレビレポーターに捕まって、我が子の手を握り締めたままインタビューに答えさせられている人もいる。興奮して喋り出す子もいれば、戸惑う子供を親がかばっている姿もあった。


 その輪の中から少し離れた場所で、御子は良平達が出て来るのを待っていた。

 テレビカメラは大多数の人と、子供たちの無事を伝えれば、それで事件の大きなヤマは終わった扱いをしている。残っているのはプロの救助隊員と、大の男二人だけなのだから。

 だが、御子にしてみれば、肝心の良平の姿が見えなければ安心はできない。あの店員の家族や、救助隊員の家族だって同じだろう。マスコミなんて適当なものだわ。



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