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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 女の子は自分の容姿を気にするもの。それは確かにそうなのだけど、ずっと容姿を気に留めているだけに、逆に割り切りも利いてしまうところがある。

 ルックスが良ければ、色目で見られるし、そこを利用する事も憶えてしまう。でも、悪ければ悪いで、人の目なんてそんなもんだ。損はするけど仕方がないって思ってしまう。


 傷の事で同情を買いたくない。そんなものでハルオの気を引きとめたくない。ハルオの気持ちが同情だけなら、屈辱も同然。そう考えていた。

 だけど、どうやらこの手の事は、男の方が気になってしまうものらしい。そういう目で見られる事を、自分はそんなに気にしないようにしても、ハルオは悔しがっている。


 この傷の事で本当に傷ついているのは、私より、ハルオの方かもしれない。


 そんなことにも気付かずに、傷をさらして歩いてしまっていた。今までどれほどハルオを傷つけていたんだろう?

 香は足を止めた。ハルオも慌てて止まって、香を振り返る。


「ごめん。私、ハルオがそんなに気に病んでるなんて、思ってなかった。傷で同情受けたくないって、ずっと意地張ってた。……ハルオの気も、知らないで」

 香はうつむきぎみになって、そう言った。今、正面からハルオを見るのは、何だか違う気がする。


 今度はハルオの方が驚いた。嫉妬と悔しさから余計な事を言ったのは自分の方で、香が謝ってくるとは思っていなかった。


「ど、同情受けて、い、いいんだよ。そ、それだけの目に、あ、あったんだから。そ、それに、原因作ったのは、お、俺なんだ。ほ、本当なら、か、香に嫌われてる」


 嫉妬どころじゃない。俺、女の子相手に、なんて話を持ち出したんだ。同情受けたくないって事は、それだけ意識してる裏返しじゃないか。


「そんな事じゃ、嫌いにならないよ。ハルオの気持ちがただの同情だけだったら許さないけど。違うでしょ? ハルオこそ、私が傷をさらして歩くの本当は苦しかったんだね。こんな私と一緒にいると、つらいんじゃないの?」


 香は顔を上げないまま言う。俺もバカだな。智を笑えない。俺が香に傷を気にさせてどうする? 香は俺がどんなに大事に思っているか、ちゃんと知ってくれているのに。


「つ、つらくなんかない。お、怒らずに、き、聞いてくれ。お、俺、この傷のおかげで、す、少し安心なんだ。他の奴に、か、香を意識、させたくない」


 ハルオの慌てた言い方に、香は「プッ」と噴き出した。


「怒った方が好みのくせに。しかも、やっぱり、やきもち妬きだわ」ようやく香が顔をあげて笑った。


「も、もうひとつ。か、香の好きなところがある。この傷が、俺、大好きだ」

 そう言ってハルオが香の傷跡に、そっと唇を寄せる。


「怒り顔がいいとか、傷が好きとか。ホント、変わってるんだから」香はつい、そんな言葉が出た。


 やっぱり、傷を隠さなくていいや。ハルオがここまで言ってるんだもん。

 でも、こんなことしてる場合じゃ、ないはずなんだけどなー。






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