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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 ハルオに言われて、やむなく階下のフロアに向かった智は、それでも慎重に階段を下っていた。

 口で不満は言ってはいるが、確かにケンカでテンションをあげた状態での度胸と、こういう時の注意力や、判断力を伴う度胸では質が違うと言う事が、ハルオ達とここまで来るうちに智にも体感として飲みこめるようになっていた。


 だが、それで言われっぱなしでいられるかと言えば、それは別だ。

まして、自分と同じくらいの年周りの女、香に言われては、どうしたって腹ただしくなる。

 初めはあいつがハルオの女だから、何を言っても気に入らなく聞こえた。はっきり言えば、何も言わなくったって、あの、ハルオの味方だと思うだけで最初から気に入らなかった。

 おまけに俺は、あいつの喧嘩の相手にさえなれない。あのすばしっこさにはかなわないのを、嫌ってほど思い知らされてしまった。これで腹ただしくない訳がなかった。


 フロアに出て、爆発物に注意しながら、スポーツ用品売り場を探す。こてつ組の助っ人らしい数人と落ちあって、爆発物の内容を知らせ、手分けして爆弾を探す。

 ひょっとしたら犯人と出会うかもしれない。そんな緊張感が走る。余計な緊張で爆発物を見落としたら危険だ。


 気持ちを落ちつけようと、考えを犯人から逸らそうとすると、香に最初にやられた事を思い出した。

 最初に香にあしらわれた時。もしも、香にではなく、直接ハルオを襲ってあしらわれたのなら、どんなにコテンパンにされたとしても、何度でも自力で立ち向かおうと思ったんじゃないだろうか?

 ところが運悪く、俺はあいつに先にあしらわれてしまった。ハルオにたどり着く事さえできない内に、あいつとの差を先に思い知らされてしまった。しかもあいつはハルオの女なのに。


 こんなに悔しい事があるもんか。


 だから、どんなに癪に障っても、俺は華風組の門をたたかずにはいられなかったんだ。

 あいつに「こんな程度で、よく、ハルオを狙う気になったもんだわ」と言われて、本当に納得してしまった。今のままじゃ、絶対ハルオにも、あいつにも敵わない。あいつの言葉には何故だか、いちいち説得力がある。


 さっきだって、「絶望なんて、へ理屈」と言われて、カチンときた。別に、俺に向かって言われた訳じゃないし、他の奴なら、お幸せなこった、と思ってやり過ごせるが、あいつが言うと、こっちの考えの方が甘いように思えて来る。


 俺は親父に死なれた事に絶望した。俺が越えるべき目標だった上、恨みの対象でもあった親父が、あっけなく刺殺された事を、俺は認めたくなんかなかった。

 その現実から逃げかけた。だが、それじゃ終われない。だからハルオを新しい目標にした……はずだった。


 あの、香って女。あいつも多分、何か絶望を味わった事があるんだろう。そして俺のように、新しい目標を見つけ出したに違いない。

 だが、あいつは何か、俺よりも上回っているものがある。癪に障るが、何かをもっている。どうしてもそんな気にさせられる。だから、言い返さずにはいられなくなるのだ。

 スリの腕や、すばしっこさに、自信があるからだろうか? それともハルオがそばにいるからだろうか? 


 畜生。俺だって、もっと強くなってやる。何かを手に入れてやる。


 いつの間にか、智の当座の目標は、ハルオより先に、香に変わってしまっていた。



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