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こてつ物語10  作者: 貫雪
3/58

3

 香が毎日真柴に足を運べるのには、もう一つ理由があった。

 礼似が忙し過ぎて部屋にほとんど帰らないのだ。


 あの幹部会の後、礼似は正式に組員達に披露され、こてつ組の組長に就任した。

 就任したと言っても、どの派閥にも属さない礼似の事、体制を整えるだけでもひと仕事。礼似自身だって付け焼刃の知識で幹部達とのやり取りが続く。いくら大谷と一樹がいると言っても、任せっぱなしと言うわけにもいかないのだろう。

 たまに帰って来たって、コンビニの弁当をかきこんでシャワーを浴びるとベッドにもぐりこんでしまう。


 心配して声をかけても、

「悪いけど今は睡眠の方が大事。あんたにかまう余裕はないの。ハルオのところにでも行ってて」

 そう言ってすぐに眠りこんでしまう。こっちはすれ違いなんてレベルではなく、全くとりつく暇がない。


 会長の奥様も、会長の就任直後はこんな気分だったのかなあ? あの奥様の事だから仕事の内容を知らないながらも、律儀に会長を待って面倒をみていたんだろうな。

 香はそんな事を考えて感心したりはするのだが、別に礼似が自分の夫と言う訳ではないので、いつ帰って、いつ、口を利くか分からない相手を、ご丁寧に待つ気はさらさらなかった。


 それに礼似にはこの間いいようにからかわれていた。

 先日ハルオに少し時間が出来て、久しぶりに部屋まで送ってもらったのだが、その時礼似から電話があった。部屋でハルオと一緒だと言うと、


「それはいいけどさあ、その部屋、私がいないと思ってホテル代わりに使うんじゃないわよ」

 と、大声で言われてしまった。


 ハルオにさえも聞こえてしまい、

「だ、大丈夫です! す、すぐ帰ります!」と、ハルオは叫びながら飛びあがり、慌てて部屋を出て行ったのだ。

 勿論、ハルオがそんなことのできるタイプじゃない事を百も承知でからかっている。ハルオの叫びも向こうに届いたようで、礼似が笑い転げる声が電話から聞こえていた。

 多少は香に対して釘を刺すつもりもあったのだろうが……香もそれは分かったのだが、


 そこまでするか? 普通。


礼似さんにフツーを求めてもしょうがないか。死ぬほど疲れるような日が続いても、イタズラ心だけはどうやら健在らしい。無駄に心配し過ぎても損だ。

礼似さんが前に帰ってからもう、三日ほど経つから、そろそろまたもどるのかもしれないが、殆んど眠りに帰るだけになるのだろう。

いいや。部屋には戻らずに、このまま真っ直ぐ出勤しよう。

こんな調子で香の方も、部屋には身体を休めに帰る程度で、頻繁に真柴組に顔を出す日々が続いていたのだ。



「おはようございます」

 香はいつものように挨拶をして、更衣室に向かう。和服に着替えて化粧をチェックする。

 普段、香はわざと化粧をしなかった。顔の傷を堂々とさらして歩いている。この傷は香にとっては勲章だから。

 しかし客商売の料亭で、そんな姿で仕事をする訳にもいかないので、仕事中はカバー力の強い、少し濃いめのメイクをしている。和服なら多少濃くても違和感はなく、傷はほとんど目立たなくなるのだ。



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