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こてつ物語10  作者: 貫雪
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「誰だって死ぬのは怖いもんね」香もうなずく。


「たとえ死を覚悟していても、最後の瞬間への恐怖は逃れられないはず。最後の爆発を目的にしながらも、その瞬間は考えたくない。だから爆弾のイメージだけが霧にかすんで見えなくなるのかも」

 御子は考えながらも、この推測は外れていないと思った。


「そ、そんな事なら、ば、爆死なんて、か、考えなきゃいいんだ」ハルオはそう言ったが、


「絶望は理屈じゃない。続く絶望より、死の恐怖の方がマシだろうし、そんなこと考えるより、世の中を呪う方がもっとマシなんだろ。あんたらみたいな人間には分からないさ」と、智が言い返した。


 すると、「分かるわよ。少しは」

 と、香が言った。智以外の全員が目を見かわす。香の生い立ちなら、世の中を相当恨んだ経験もあったに違いない。智だけが怪訝な顔をした。


「でも、その考えは間違ってる。絶望なんてただのへ理屈。命さえあれば心の持ちようでいくらでも希望に変える事が出来るんだから。望みを捨てるなんて、ただのあきらめと、逃げだわ」

 香は吐き捨てるように言った。


「逃げなきゃやってられない奴も、世の中ごまんといるぜ」

 香の言葉に智が突っかかった。どうしても智は香に突っかからずにはいられないようだ。


「別に逃げたっていいのよ。あきらめさえ、しなけりゃね」

 香は智をしっかり見据えて言った。ハルオは二人のやり取りに憮然とする。


「まあ、そう言う事は犯人に直接言ってやろう。とにかく犯人を捜し出すのが一番なようだ。御子の能力にも限界がある事も分かったんだし」


 三人の様子が険悪になって来たのを察した良平が、そう言って話を打ち切った。今は内輪もめや、人生観を論じている場合じゃない。


「そうね。犯人、このフロアの人間ごと、吹っ飛ぶつもりでいるんだから。早く探さないと」

 御子がフロアに残った人たちの方を振り返りながら言った。


「もうすぐ会長が送ったこてつ組からの助っ人も来るはずだ。頭数は増えるんだから、しらみつぶしに探してくれ。何か分かればメールすればいいから」良平もそう言うと、三人を見送った。


 ハルオは早速智に命じた。

「お、俺と、香で、お、屋上を探す。さ、智は下の階を探せ。む、無茶、するんじゃないぞ」


 ハルオにそう言われて智は思わず、

「命令すんなよ」と言ったが、


「お、お前、ど、土間さんに、な、なんて言われた?」と、聞き返される。


「……あんたの、手伝いをしろ」


「わ、分かってんじゃないか。た、頼んだぞ」

 ハルオはそう言って香と共に、屋上に向かって階段を上る。


「あいつ、大丈夫かな」

 慎重に階段を上りながら、香が聞いた。まだ、何処に仕掛けがあってもおかしくないからだ。


「こ、こてつ組の助っ人も来るんだ。だ、大丈夫だろう」


「ね、ハルオ。怒ってる?」


「べ、別に。な、何で?」


「ううん、何でもない。ただ、ハルオが命令口調でものを言うって、珍しかったから」


「お、怒ってないよ」

 表情が一致しないまま、ハルオはそう言った。



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