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こてつ物語10  作者: 貫雪
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「も、物を振んじゃ駄目だ。し、仕掛けが増えているらしい」

 ハルオが言う。二人はぎょっとして足元を見つめる。


 ここは地下の食品売り場。所々に火を使うための調理スペースも見える。ウインドウ越しに調理をしながら、出来たてを販売するテナントも結構入っているのだ。場合によっては危険物に引火するかもしれない。


「ゆっくり動くしかないな……」三人は足元を確かめながら、爆発物を探し始める。すると、


「ね、これ、怪しくない?」香が床に不自然に這う紐を指差した。


 十分に怪しい。全員の視線が紐の先に向かう。小さな段ボール箱が置いてある。

 幸い周りに危険物はなさそうだ。ガスの臭いなどもしない。あの爆発で、安全装置が働いたのかもしれない。それでも周りの可燃物を取り除く。そして、


「た、棚の影に、か、隠れて」ハルオがそう言って、床に散乱している商品を手に取ると、段ボールの小箱に向かって投げつけた。


 バン! と軽い破裂音と共に、四方に釘が飛び散った。良平からのメール通りだ。


「結構飛ぶんだな」そういいながら智が箱の方へと足を延ばす。


「バカ! 油断して!」香がそう叫んで智の腕をつかみ、自分の方へと引きもどす。すると、


 パン! と、さらに軽い音と共にもう一度釘が飛び出してきた。間一髪、智の目の前を釘が飛んだ。


「適当に火薬を詰めた代物よ。どんな破裂をするか分からないじゃない。足引っ張るような真似するんじゃないわよ!」香は智につかみかかったままそう言ったが、智はそれにカッとなった。


「さっきっから俺に突っかかってんじゃねえよ」

 そういいながら香の利き手をつかみ、首を腕で抱え込んでがっちり押さえつけてしまう。


 それを見てハルオが智に向かおうとすると、智は手にナイフを握り、香の顔に近づけた。ハルオの動きが思わず止まる。


「ぐだぐだ小言言ってると、この傷跡、もっと深くしてやるぞ」ドスの効いた声で香を脅す。


 だが、ハルオは素早い。智が香を脅すのに気を取られるうちに、ハルオは智のナイフを持つ手をねじあげた。智から逃れた香は、以前の恐怖を思い出したのか、青い顔で座り込んでいた。

 ハルオは怒り心頭で、「香!」と叫んで、手のひらを伸ばす。

 香はハルオのドスを預かっている。だからその手の意味を察しはしたが、しまってある懐あたりに手をあてたまま、首を横に振った。

 ハルオは歯ぎしりをして、力任せに智のナイフを奪い取り、智を突き飛ばした。


 智は床に転がされた。起き上がったものの、ふてくされた顔でその場に座り込んでいる。ハルオは香に寄り添って「だ、大丈夫?」と聞いた。


「うん」

 香はそう返事をしたが、どう見たって大丈夫な訳がない。落ち着かせてやりたいと思いながらも、ハルオ自身も智への怒りが先立ってしまい、うまく言葉が出なかった。


 それでも黙って香の背中をなでていると、香の顔色も少しは良くなってきた。


「か、香。ほ、他の仕掛けを探してくれ。お、俺、コイツに話がある」

一人にするのは心配だが、今は智の近くにいさせたくなかった。


「でも……」


「お、俺達なら、だ、大丈夫、だから」


 そう言われた香も大丈夫とは思えない。でも、ハルオの言い方には、珍しく、有無を言わさぬものがあった。私がついてきたのは間違いだったんだろうか? そう思いながら仕方なく香はその場を離れた。





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