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こてつ物語10  作者: 貫雪
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2

 結局良平と御子の娘には「真見」と言う名がつけられた。


 組長は最後まで両親どちらかの字を入れる事を望んだが、

「自分の力の良さを信じて、受け入れる事のできる子に育ってほしい」と良平に言われれば、実の親のそういう願いを無視して押し通すわけにもいかず、とうとう折れた。


「女の子の名前には華やぎを」と言っていた御子だが、いざ、名前を付けてしまえば呼びやすく、耳になじみやすい名前は感じがいいと考えが変わったらしい。

「今となっては『真見』意外に考えられないわ」などと まだ名前を付けてから三週間ほどしかたっていないのに都合のいい事を言っている。


 何だかプレッシャーも与えそうな命名だが、真見が千里眼であることは確定的なので、これ以上この子を現している名前もない事だし、いっそ、名前ごと自分の個性(?)を受け入れてくれた方がいい。ようは真見に、自分の力と名前への誇りを持たせてやれればいい。

 良平と御子は、自分達にその覚悟を促す事も含めて、その名を付けたようだ。


 そうはいっても、真見はまだ生まれたての赤ん坊で、思考も感情もまだまだ未発達。何処にでもいる乳飲み子とそうは変わらない。育てる御子や良平だって新米の両親だ。

 ちょっと違う点と言えば、御子は真見が泣きだす前に、どうして欲しいのか察しがついてしまう事。これを警戒して良平は御子に

「赤ん坊が泣くのは当たり前。真見がはっきりと泣き声を上げるまでは手を出すな」ときつく言ってある。


 どんな人間でも自分の事を察してくれると真見が勘違いしないように……と、本人は言っているが、半分くらいは真見に対する御子への嫉妬が混じっているんじゃないかと御子は思っている。

 男親はどうしたって母子のつながりにはかなわない。それだけでも寂しいのに御子と真見は共に感情を共有できる有利さを持っている。


 それでも娘可愛さのあまり、良平としては真見への愛情が御子に負けていない事を、愛娘になんとか伝えたいらしい。真見に関しては躍起になって機嫌を取ろうと奮闘している。

 つまり、心配事はまだ先の話。夫婦そろって、娘の愛情の取り合いに夢中になっているのだ。


 組員達も真見には夢中になっている。

 ただ、こちらの方は子育ての義務も責任もない。生まれたての赤ん坊なんて、めったに身近に見る事のない彼らだ。

 真見がなにをしても、どんな表情をしても、珍しく、面白くて仕方がないらしい。絶好のおもちゃだ。

 彼らが興味シンシンであやそうとしたり、突っついて見たりしたがるのは、遊んであげているのではなく、彼らの方が真見で遊びたがっている。そんな事は誰の目にも明らかなので、良平は必死で睨みを聞かせている。殆んどそれが良平の子育ての義務だと思っているらしい。


 どうせなら、おむつ替えや、着替えなんかを率先してくれればいいのに……と、御子は思うが、なかなかそう、都合良くはいかないようだ。


 それに真見の遊び相手なら、誰にも譲らない人がいる。組長だ。

 この時期の赤ん坊なんてほとんど寝てばかりだと言うのに、ちらとでも目を覚ましはしないかと組長はじりじりと真見の目覚めを待っている。こうなると真見の睡眠を守ろうとする良平とのにらみ合いだ。


 なんだかんだ言っても、今、真柴は平和なようである。



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