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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 こてつが息苦しくないようにと、由美がわずかに開けていった窓から、うっすらときな臭いにおいが漂う。こてつはその窓に向かって爪を立てる。

 ワンワンと大きな声で鳴いて見るが、人が近くに来るようすは無い。今度はピスピスと甲高い悲しげな声を上げる。しかし誰かが車のドアを開きに来る気配は無かった。


 思い切って窓に体当たりしてみる。窓はびくともしない。今度は運転席の端ギリギリまで下がり、勢いを付けて窓の隙間目がけてぶつかって行く。

 バン! と、跳ね返されてしまうが、その瞬間に、わずかに「ミシッ」と、音がした。

 こてつはかまわず体当たりを繰り返した。身体は跳ね返されるが、その都度窓に軋むような音が走る。そしてついに、


 ガシャーン!


 大きな音と共にガラスが砕け散り、こてつは車の外に飛び出した。

 そして床にわずかに残った由美の匂いをたどり、こてつは建物の中へと姿を消して行った。



 御子は必死に集中していた。犯人の感情ははっきりと漂ってきていた。それを追うのは簡単だ。ただ、まとまった考えを読み解くのはやすやすとはいかない。犯人の次の行動を探るべく、御子はその感情のありようから、犯人の心の声を聞き取ろうとしていた。


(おいおい、ビルの崩れたところばっかり映すなよ。もっと面白いところがあるだろう?出入り口とか、非常口のあたりとか。救助隊の動きを見せてくれよ。おんなじ映像しか映さないなら、わざわざヘリ飛ばしてる意味、ないじゃないか)

 そんな声と、嘲笑うようなイメージが感じ取れる。


「犯人、近くにいる訳じゃないわ。テレビの映像で救助の動きを確認しようとしているみたい」

 御子が目をきつくつむりながら言う。


「テレビか。高みの見物とは嫌な奴だな。これだけの事件になれば、カメラもかなり回っているんだろう。厄介だな。奥様、携帯にワンセグ、付いていませんか?」


「そうだわ。付いてた。あんまり使う事、ないんだけど」

 そう言って由美は携帯をワンセグ画面に切り替える。電池を食うのは惜しいが、犯人の視点を知りたい。


 すると御子の携帯が鳴った。メールの着信だ。良平が開いて見る。


 『救助隊の動きは止めた。ハルオと華風の若い奴を、地下の駐車場から潜り込ませる』


 メールにはそれだけ書かれていた。地下駐車場か。そこにカメラが回っていなければいいが。各局を回して、画面を確かめる。


「地下の映像は無いようだな。これならハルオ達の事は気づかれてはいないだろう」良平はホッとした。


 そして御子の携帯で、犯人はテレビ画面で状況確認をしている事を返信する。これで会長達もカメラの動きには慎重になってくれるだろう。

 そのうち、御子の頭にさらに声が聞こえて来た。


(中にいる客の様子も分かれば面白いのに。まあいいか。仕掛けもあるし)


 仕掛け? 一体なんだろう? 一層深く集中する。犯人の過去の記憶がかすかに見える。わずかな火薬、電線にスイッチ。大量の細かな釘や、鋲……。


(爆発力は知れてても、これだけの釘が刺されば、致命傷にはなる。誰かがうまく持ちあげると面白いな)

 そんな声も聞こえて来る。


「大きな爆弾だけじゃないわ。誰かが不用意に触ったら、釘や鋲が大量に人に刺さる仕掛けもあちこちにしてある。致命傷になるって」

 御子は唖然としながらそう言った。




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