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こてつ物語10  作者: 貫雪
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「悪いが誰か地下の駐車場に行ってくれ。止めてある車の中に、こてつがいるらしい。迎えに行ってやらないと。これほどマスコミが押しかける中、私がうろうろする訳にも行くまい」


 会長が苦々しげに言った。確かに周囲はテレビカメラや、取材をしている人間たちでいっぱいだ。


「そうですね。私、行ってきます」そう、礼似は言ったが、


「ちょっと待て、お前も組長だろうが。お前もうろつくんじゃない」と、一樹に止められる。


「私、行きます。車のキー、貸して下さい」すかさず香が言った。


「香が行ってくれるなら、ハルオ、一緒に行ってそのまま建物の中に潜り込んでいてくれないか? 御子さんから連絡があった時、中に人がいた方が次の動きがとりやすいかもしれない。ハルオはこういう事が得意だし」一樹が考えながらそう言うと、ハルオもすんなり了承した。


「ハルオだけじゃ心配だわ。潜り込むんなら私も一緒に」礼似はそう言ったが、


「それはダメだと言ってるだろう。一樹の言うとおりだ。礼似に下手に動かれては困る。俺の舎弟の若いのを行かせよう」大谷もそう言って礼似を止める。


「だって、中に御子達が閉じ込められているのに!」

 礼似が大谷に喰ってかかろうとしたその時、アツシと智に連れられて、土間が顔を出した。


「礼似、あんたは引っ込みなさい。もう、こういう時に前に出ていい立場じゃないでしょ? ハルオには智を付けるわ。智、ハルオを手伝って」土間はそう言って智に命じる。


「何で俺が!」智は怒鳴るが、


「あんた、組に入りたいんでしょう? こういう時に組長の言う事聞けないで、組員になれると思う?」

 そう言われると智は反論できない。


「土間さん、コイツじゃ駄目よ。コイツ、ハルオを目の敵にしてるんだから。ハルオの手伝いなら私がするわ。あんたはこてつを連れ帰ってくれればいいから」

 香はそう言ったが、今度はハルオが黙っていなかった。


「か、香。だ、駄目だ! な、中はどうなってるか分からないし、い、いつ、爆発するかも分からない。ぜ、絶対、駄目!」


「危ないのはハルオも一緒でしょ。コイツじゃ信用できないもの」香は智をぎろりとにらみつける。


「智、あんた、奥様達を助けられなかったら、組をすぐに出てもらうわよ。華風はこてつ組の傘下なんだから。どうする? ハルオを手伝う? それとも出ていく?」


「……行きます」智はぶすっとしたまま答えた。


「香、智は大丈夫よ。自分の立場を分かってる。ここはハルオと智に任せましょう。礼似、あんたもいいわね?」

 土間にここまで言われると、誰も反論できなかった。


「じゃ、三人とも頼んだわよ」そう言って土間は三人を送り出す。香が一番不満そうな顔をしていた。



 爆発があったその時、こてつは由美が帰って来るのを待って、いつもの助手席に伏せて待っていた。

 時折人の歩く音や、エンジンのかかる音が駐車場に響いたが、こてつが由美の足音を間違えることは無い。いつもの由美の、こてつを心配して速足になって歩いてくる足音が聞こえるのを、こてつは今か今かと待ちわびていた。身体は伏せているものの、全神経は耳に集中し、由美の足音を聞きもらすまいとしていたのだ。


 すると突然、今まで耳にした事のない、大きな音が襲いかかった。異常な音と、異様な雰囲気。人の叫び声や、エンジンのかかる音。車の走行音。あたりはいっぺんに騒がしくなった。

 それでもしばらくすると、その場は急に静まり返る。人の気配が無くなってしまった。こてつは不安に襲われたようだ。




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