表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正妃様の憂鬱  作者: roon
9/11

9. 来訪

 数日後、ナディアは再びテミスリートの訪れを受けた。


「こんにちは、ナディア様」

「テミス様、お待ちしておりましたわ」


 相変わらずフードを被ってお菓子持参の訪れである。今日はショートケーキらしく、机の上に乗せられたクリームで飾り付けされたケーキの上には、動物の形を模した飴細工が2つちょこんと飾られていた。


「あら、可愛らしいですわね。これもご自分で?」

「はい。ちょっとしたお祝いに」

「お祝い・・・?」


 笑顔でさらりと言われた一言に、ナディアは首を傾げた。テミスリートは軽く苦笑したが、それ以上何かを口にすることは無かった。


「今日は茶葉も持ってきたのです。淹れて頂いても構いませんか?」

「え、ええ」


 ケーキだけでなく、茶葉も持参らしい。特に問題も無いので、侍女に渡して淹れてもらうことにした。今日は準備が整っていたのか、瞬く間にお茶の準備ができ、侍女は退出して行った。ナディアは目の前に切って置かれたケーキとすっきりとした香りのする紅茶を交互に見やった。


「どちらも、美味しそう・・・」

「さ、どうぞお召し上がりください」


 満面笑顔のテミスリートの言葉につられるように、ナディアはケーキを口にする。あまりしつこくない、それでいて淡白でない甘みが口に広がり、ナディアは思わず表情を緩ませた。


「美味しい!」

「ありがとうございます。」


 純粋な賛辞にテミスリートは顔を赤らめた。


「この間のパイも美味しかったですし、本当にお上手ですのね」

「小さい頃から母と一緒に作っていたので、慣れているだけです。宮廷料理は作れませんし・・・」


 気持ちを落ち着かせるように紅茶を口にするテミスリートに内心苦笑し、ナディアも紅茶に口をつける。香り同様すっきりとした苦味がケーキの甘さを消し去り、爽やかな余韻だけを残す。


「この紅茶も、初めて頂きますが、美味しいですわ。どちらから取り寄せていらっしゃいますの?」

「取り寄せているわけではないのですが・・・。もし気に入られたのでしたら、お分けしましょうか?」

「ええ、ぜひ」

「では、今度持ってまいります」


 少しばかり歯切れ悪そうに返答するテミスリートに気付かないほど、ナディアはご機嫌にケーキとお茶を堪能している。その様子にテミスリートは内心苦笑した。


「・・・・・・!」

「? どうかなさいましたか?」


 突然、紅茶のカップを持ったまま硬直したナディアにテミスリートは不思議そうな顔を向けた。表情が驚きから焦りに変わり、顔を赤らめるナディアに目を丸くする。


「な、何か変なものでも入ってましたか?」

「そ、そういうわけじゃなくて―――」


 そのまま顔を真っ赤にして俯いてしまったナディアに、テミスリートはオロオロとうろたえた。


「誰か呼んできますか?」

「だ、大丈夫です。すぐ治りますから・・・!」


 ナディアはほんのり涙目でそれだけ口にすると、両手で顔を隠した。


「(私ったら・・・! 用件も聞かずに何和んでいるのよ!)」


 本来なら、もっと早くに尋ねているはずなのである。なのに、あんまりお茶とケーキが美味しくて、用件を聞くのも忘れていた自分をナディアは深く嫌悪した。


「(穴があったら入りたいわ・・・)」


 貴族の女性にあるまじき失態に、ナディアはうろたえる。特に、今目の前にいるのは好きな人の弟で、自分よりずっと貴婦人らしい男性であるのだから、恥ずかしさは尚更だった。テミスリートがそれを咎めたりすることはないだろうが、自分としては恥ずかしい。

 何度か大きく息を吸って気持ちを落ち着けると、ナディアはまだ少し赤い顔を上げた。


「・・・落ち着かれましたか?」

「ええ。・・・・・・見苦しいところをお見せしてしまい、失礼いたしましたわ」


 再び赤く染まっていきそうな顔のナディアをテミスリートは心配そうに見やる。

 と、部屋にノックの音が響いた。ナディアの身体が驚きにビクっと跳ねる。


「・・・いらっしゃったようですね」

「え、え?」


 テミスリートの視線を追って扉に目を向けたナディアは、開けられた扉から入ってくる人物に目を見開いた。


「(お、王・・・?)」



読んでくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ