5. 興味
本当は6話でひと段落つけたかったのですが、少し伸びるかもしれません。
ナディアがエルディックに丁重にお帰り頂いた日から、3日が経過した。その間、エルディックは彼女の部屋を訪れることはなかった。そのことにほっとするような、悲しいような気持ちで、ナディアは日々ため息を連発していた。
「(どうすれば良いっていうのよ・・・)」
好きになってはもらえないが、残ってほしいと言ってもらえた。望まれるのは嬉しいが、そこにナディアが求めていた気持ちは含まれていない。だからと言って、自分から突っぱねて出て行くのは心が痛い。エルディックから拒絶されれば吹っ切れたのだが・・・。
仏頂面でうじうじと一人悩んでいるナディアを、側に控えていた侍女ははらはらと眺めている。本当は声をかけたいのだが、マイナス思考が駄々漏れのナディアに声をかける度胸は彼女にはないため、見ているだけで精一杯だ。
と、部屋のドアがノックされた。ほっとしたようにドアに近づき、侍女は部屋の外へと出て行く。程なくして、侍女は一つの手紙を持ち、部屋へと帰ってきた。
「ナディア様・・・」
「―――――-え?」
どっぷり思考の波に浸っていたナディアは、侍女の声にぼんやりと返事を返した。
「お手紙が届いておりますが・・・」
「そう・・・・・・てがみ?」
そのまま流そうとした言葉の中に引っかかるものを感じ、ナディアは意識を浮上させた。もう一度言われたことを反芻する。
「手紙!?」
「はい。差出人は・・・テミスリート・オルビス様、となっておりますが。」
「オルビス・・・聞いたことのない姓だわ。」
姓があるということは、少なくとも貴族であろう。しかし、教養としてほとんどの貴族の姓名を習ったナディアにも聞き覚えのない姓だ。名も、聞きおぼえはない。それに、手紙が届くということは、使用人でもない。使用人の中にもあまり爵位の高くない貴族は存在するが、その場合は何かしら用を作って直接部屋まで訪れるためである。手紙を送ってくる相手は、この後宮では側室だけなのだ。そのはずなのに、自分が名前の一つも知らないのはおかしい。ナディアは首をかしげた。
「一体何かしら・・・?」
侍女に封を切ってもらい、ナディアは手紙を受け取ると、そっと開いた。女性にしては少し力強く、それでいて柔らかい丁寧な字が目に映る。
「(なになに・・・)」
手紙にはこう書かれていた。
拝啓 ナディア・エルヴァラント 様
突然のお手紙、失礼致します。
少しお話したいことがございますので、お時間を頂けないでしょうか?
テミスリート・オルビス
「(誰か分からないけど・・・気になるわね)」
後宮で噂話に花を咲かせる側室達が名を知らない側室は純粋に興味がある。気分転換にはなるかもしれない。嫌味を言われたりする可能性もなくはないが、部屋で解決策のないことを考えているよりはずっと心が楽な気がする。
「・・・どうかなさいましたか?」
「いいえ。・・・返事を書くわ」
手紙を机に置き、席に着くとすぐ侍女が紙とペンを運んでくる。ナディアは早速了承と午後に時間を設ける旨をしたためた。
読んでくださり、ありがとうございました。