第九話:愛すべき人のために……。
五年もの歳月を経てウルフとギジルここに敵対する。
それでは続きをお楽しみください。
「いくぞぉ!!」
ギジルはそう言い放ち、ウルフの方へ向かって行った。ユーマはウルフの前に出てギジルを止めようとしたが、彼の身体は瞬時に分散しいつの間にかユーマの後ろにいた。ユーマは振り向く事も出来ずその場に倒れる。一瞬の出来事だった。ウルフは、いや、おそらくは彼女自身も何が起きたのか分かってはいないであろう。ウルフはギジルに銃口を向ける。しかしギジルはその銃口をじっと見つめ、逃げようとはせずむしろ撃ってみろとでも言っているかのようだった。ウルフは引き金に手をかけ乱射し鉛玉を浴びせた。こんなに近距離で乱射すれば当たるどころでは済まない。身体に大きな無数の穴が開くだろうと思われたのだが、彼の身体には発砲する前と全く変わりはなかった。無数の鉛玉は後ろの木々に深く埋め込まれている。それにも関わらず手前のギジルは何事もなかったかのように立っている。ウルフはまた引き金に手をかけて発砲する。するとほんのわずかながらギジルの身体が歪んだのをウルフは見た。そして歪んだ所からは後ろの景色がよく見えた。透明になっていたのだ。さらによく見ると細かい粒子のようなものが周りに漂っていることに気付く。ウルフがそれを手ではたくと粒子は手につき、その手を湿らせた。ウルフは勘付く。しかしその時にはギジルの回し蹴りによって後方へ吹き飛ばされていた。ユーマは目でそれを追い、立ち上がり手を炎で燃え盛らせようとしたが、その炎は現れなかった。ユーマはも一度炎をイメージし手に力を集中させるがしかし、それは現れずプスッと音が切れただけだった。ギジルはそんな彼女に近づき、手をかざした。
「これからマジックを見せてやる。よーく見ていろ」
ギジルはそうウルフに告げると、かざした手を大きく開きそして閉じた。その拳を斜め上へと振りあげユーマの顔面めがけて振り下ろす。彼女は恐れからかその場から動く事が出来ずに立ち尽くしていた。そこに巨大な拳が振り下ろされる。しかしその拳は彼女に当たるわけでもなく鼻先5cmほどでピタッと止まった。するとどういうことだろうか、ユーマの身体が凍りつき始めた。ユーマは吃驚した表情を浮かべウルフに助けを求める。ウルフは走って彼女の元へと向かい手を握った。だがギジルにもう片方の手で再び後方へ吹っ飛ばされる。とうとう彼女はそのまま氷漬けになってしまった。
ウルフはまたユーマの元へと向かう。ギジルはその道を開けるかのように後方へ下がった。ウルフはユーマの頬に触れる。冷たく、息もしていなかった。ウルフは鋭い目でギジルを睨みつける。ギジルはニヤリと口元を緩めた。ウルフはこの時、体内のどこかで熱く込み上げてくるものを感じた。それは怒りだけでは表せないような、憎しみと激怒だった。ウルフは思う。アーシェを殺したのは彼なのだろうか、と――――。
再度ウルフはユーマの頬を撫ぜるとギジルの方へ向き直り身体に力を込める。すると身体全体から赤いオーラが出始めた。それはウルフの身体にまとわりつき風が吹けばそちらへと靡いた。よくよく見るとウルフの髪が長くなっている。これもまた風に靡いた。ギジルは彼の方へ走りだす。そしてウルフもまた走って向かっていく。お互い右拳を突き上げほぼ同時に前へ突き出す拳同士が正面衝突し激しい空気の波“波動”が生まれた。波動は周りのものを吹き飛ばしそこを平野へとしてしまった。ウルフの腕が凍りついてくる。ウルフはそれでも突き出した拳を更にギジルの方へ押しやる。氷は更にウルフの身体の方へと侵食していく。ギジルはそれを見ると後方へ下がりまた拳を突き出す。ウルフの腹にそれは命中し、凍りついていく。ウルフは痛みに悶えたが、それはすぐに和らぎ身体の自由が奪われていった。ウルフは凍りついてしまったのだった。
「ウルフ、この苦しみ。お前には分からぬだろう。愛すべき人をなくしてしまったこの気持ちが」
ギジルはそう言うと身を翻しその場を後にした。
今回はちょっと短いです。
ギジルは心からアーシェの事を愛していたのですね。
凍らされてしまったウルフ。この後ウルフはどうなるのか。
次回、Strange Hit Man 火炎の狼 お楽しみに!!