第七話:行く手を阻むモノ
ウルフとユーマはゆっくりながらも確実に塔へと向かって歩いて行きます。
それでは、続きをお楽しみください。
しばらく進むと道はなくなり、いよいよ草と木だけの本格的な森へと足を踏み入れた。今まで通ってきた所は森といえども砂利が道を作っていたため通りやすかったのだが、今となっては草が邪魔して歩きづらく木も太陽を覆っているので薄暗いのである。一歩間違えれば踏み外し、下まで落ちてしまいそうだ。しかし何人か通ったのか、草が踏み分けられて道のようになっていることに気づく。ウルフはそれに沿って歩いて行くことにした。
ウルフはユーマを気遣いながら、前後左右と足元を確認する。足元では蟻が行列を作っていた。蟻の行列を目で追っていくと、どうやら上の方から来ているらしかった。どこかに巣でもあるのだろうか。と思いながら歩いているとウルフはポッカリとあいた穴に足を踏みこんでしまった。それによりウルフがよろけ、ユーマもまたバランスを崩す。倒れたのが前だったので幸い崖の方へ落ちて大怪我などということにはならずに済んだ。ウルフは足を穴から出そうとしたが、その足に何かが引っ掛かっているらしく持ち上がらない。とても重く足が取れてしまいそうなほどだった。引っ張られて痛いのを我慢し、足に力を入れて一気に引き上げる。というよりも、蹴り上げると言った方がよいかもしれない。穴を少し大きくして引っ張り出した感じだ。するとここら一帯に一気に腐臭が漂った。ウルフは自分の足を見てぎょっとする。そしてユーマの視界を瞬時に遮る。それはユーマを気遣っての行動だったが、あまりにも急だったためにユーマはウルフを押しのけた。ウルフは派手に倒れる。そしてユーマは見てしまったのだった。ウルフの足に引っ掛かっていたものを。それは、人間の腐敗した死体だった。ユーマは尻もちをつき目を伏せている。ウルフはその死体に目をやり、もう一方の足を死体の顔にあてがい、引っ掛かっている方の足から引き離した。死体は転がり、そのまま下に転落する。ドサッと音が鳴って静かになったが、未だ腐臭がそこら辺を漂っている。ウルフは鼻をつまみユーマの方へと近寄る。ユーマはまだ目を閉じていた。
「もういないぜ」
ウルフがそうつぶやくと、彼女はそっと目を開けて上目遣いでウルフを見る。そして鼻をつまみ嫌な顔をした。ウルフは開いている方の手でユーマを起き上らせ、また一緒にゆっくりと歩き出す。彼女は強かった。並大抵ならこのショックで気絶する人もいるであろうに、彼女は一歩、また一歩とその歩みを止めることはなかった。むしろ幾分か早く歩けるようになっていた。それは早くこの場から逃れたいという思いからの行動なのか、単に歩けるようになったのかは少なくともウルフには分からなかった。しかし、それはすぐに分かった。
しばらく行くとユーマはウルフの手をほどき、一人で歩くと言いだした。確実に回復していたのだった。ウルフはふと足元に目をやる。するとまた蟻が下へ向かい行列を作っていた。いつの間にかさっきの場所の真上へ来ていたのだ。それを考えるとこの森はソフトクリームの表面ような螺旋状に草が踏み分けられた道と言えない通路が上へ向かってあるようだ。蟻を踏まないよう行列をまたぎ踏み分けられた草なりに進んでいく。一種の山越えのような感じで足に負担がかかる。それでもゆっくり登っていくと開けた場所に出た。どうやらここが頂上のようだ。と言いつつも下に見える町は、はるか下の方でもなかった。少し下ればすぐに着く場所だ。ユーマはペタンと地面に座る。ウルフはそれを見て隣に座った。
「疲れたな」
「少し坂になっていたのだから、無理ないわ」
ユーマは空を見上げてそうつぶやく。ウルフはその横顔を見て同じように空を見上げた。いつの間にか夕方になっていたようだ。前を向くと夕日が沈みかけようとしている。ウルフとユーマはそれを見ているだけでお互いに何も話そうとしなかった。ユーマの方に目をやると、夕日に照らされて彼女の顔が少し輝いて見えた。そう見えたのはウルフだけではなく、おそらくその場にいれば誰もが彼女の美しさに気付くであろう。その姿、まるで女神のようだと。
「どうしたの?」
不意にユーマがウルフの方へ振り返り問いかけた。ウルフは無言のままそこに寝転んだ。ユーマは少しイジワルっぽく笑い、彼の横へ寝転んだ。夕日はあっという間に海へ吸い込まれていき、辺りは暗くなった。無数の星が空一面に広がっている。都会では見れなかった無数の星と月の神秘的なコラボレーションにユーマは目を輝かせた。ウルフは誰かがくべたとみられる木にジッポで火を付けた。彼は別にタバコを吸うわけでもないが、ジッポは持ち歩いている。彼曰く大切な人にもらったものらしい。ユーマが火に当たりに来た。
「火をつけるなら私に言えばいいのに」
彼女は少しさびしそうにつぶやいた。ウルフは何も言わず火を見ている。その姿に何を思ったのか、ユーマはウルフの背中からぶら下がる形でおぶさった。ウルフは急なことに少し驚いたがそのまま何も言わず動きもしなかった。ユーマがウルフの耳元で鼻歌を歌いだす。すると彼はその鼻歌を頭に記憶させるように目を閉じて前後にゆっくりと揺れる。彼女の静かな鼻歌と、燃え盛る火の音だけが二人を包む。
ずっと目を閉じていたウルフが急に目を開けた。そして周囲を見回す。ユーマもウルフの行動に気付いたのか彼から離れて身構える。ウルフも立ち上がったのだが、その異様な気配は音もなく消え去ってしまった。ウルフはまた腰かける。ユーマもウルフの隣に腰かけ火を見つめる。そしていつしか二人は夢の中へ入っていったのだった。
翌朝。といってもまだ薄暗く、時間で言うなら五時くらいだろうという頃にウルフは目を覚ました。隣ではユーマが寝ている。ウルフは大きなあくびをすると腰につけている二丁のピストルをサックから取り出し構えた。手をクロスしカッコつける。次に派手に動き回りながら脇の下や腰のあたりで銃口をのぞかせる。次に二丁のピストルを指で軽く回しサックにおさめた。彼の朝はいつもこの動きから始まる。何か銃に異常があればこの動作をすると全て分かるらしいのだが、この動作をやってみて異常が分かると言う人はそうそういないであろう。こういった点では銃の扱いにおいて一流とも言えるかもしれない。後ろで拍手の音が聞こえる。いつの間にかユーマが目を覚ましていた。彼女は拍手をやめると先へと歩き出した。ウルフはそれを見て少し慌てた様子で彼女のあとを追う。と、また異様な気配が二人を包む。そしてゆっくりとそれは地面から姿を現した。
ここで第七話終了です。いいところで止める、それがいやらしいですね~(笑)しかしこれ以上書くとダラダラと続いていってしまうのでいったん区切りです。ご了承ください。
<Strange Hit Man プチ>
ウルフ「この間変なもん見たんだけどよ」
ペティ「なぁに? 亡霊かしら」
ウルフ「そ、それを言うなよ」
ペティ「あら、怖いのかしら?」
ウルフ「いや、そう言うわけじゃあ……」
ユーマ「ちょっと、二人で何話してんの」
ウルフ「ユーマお前も見たよな、な?」
ユーマ「亡霊?」
ウルフ「言うなよ……。バーテン!! いつもの頼む」
ウルフは本当に亡霊が苦手らしいです。そんな可愛い一面を持つウルフですが、時には恐ろしい一面も持ち合わせているんです。それはまた他の機会で。
次回の予告を少々。
行く手を阻むモノ、それは地面からでてきた。ウルフはその顔に見覚えがあるようだが……。
次回、Strange Hit Man 亡者との再会 乞うご期待!!