第五話:ユーマの過去
今回はユーマがメインのストーリーです。過去のことが彼女の口から話されます。それでは、どうぞ。
彼女、ユーマの涙目にうつっていたのは目の前にいるウルフだった。ウルフは彼女の肩に手を置いたまましばらく目をつむっていた。ユーマはそれを見続ける。しばらく後、ウルフは目をそっと開いた。
「俺には人を癒す効果があるんだぜ?」
「ば、バカなッ」
ユーマがそう言いかけるとウルフはユーマの唇に人差し指を添えて言葉をさえぎった。ユーマはそれに従い何も言わなかった。ただただユーマはウルフの事を見つめている。
「なんてな、冗談だ」
ユーマは大きく目を見開きウルフを睨みつけた。ウルフは笑いながら方向転換し塔の方へと向かう。ユーマはしばらくそこに立ち尽くしていたがウルフが行ってしまうとわかると走ってウルフの後を追いかけた。ウルフは振り向く。そしてそのままキョトンとし、走ってくるユーマを見る。ユーマはウルフの顔を見るとどこか恥ずかしそうな仕草を見せた。
「なんでついてくるんだ?」
「わ、私を置いて行かないでよウルフ」
「ふーん、訳ありってとこか? まぁいいさ、好きにしな」
ウルフはユーマをあっさりと受け入れる。ユーマはうなずき、何を思ったのか自分の過去を話しだした。
「私は、この世界に生まれてからすぐに捨てられた」
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ユーマが言うには、生まれたときからこの能力を身につけていたらしい。父も母も人間であるのに、このユーマだけは能力持ちで生まれてきたために7年育てて捨てられた。だから親の温かみもあまり感じることができず途方に暮れていたところ、黒服の男に拾われた。顔は仮面をかぶっており確認できなかったが、男は彼女を大切に育ててくれたのだと言う。ある時、野生の生き方を、その男からこの能力を使って生きる術を学んだ。彼女は能力で色々な人を殺し、金を奪い、食料を奪ってここまで生きながらえてきたのだと言う。そのころから男はだんだん厳しくなってゆき彼女をさらなる悪へと導いた。まず初めに行ったのは親への復讐。この世界に生んでくれた両親の元へと行き、跡形も残らず排除した。彼女はその時精神的にも不安定で両親を殺したという感覚は一切なかったそうだ。
そして次に行ったのは、殺し屋の排除。裏社会に生きる者どもが急に姿を消したという事件が起こっており、犯人は見つからず迷宮入りしたことがあった。それをやったのは彼女、ユーマだったのだと言う。しかしユーマが13歳になった頃、仮面の男はさらに野生の生き方を学ばせようとしたので嫌になってそこから逃げ出した。それからその仮面の男には会っていないそうだ。
だが、彼女は裏社会に身を置いた人物。到底普通の社会に戻れるはずもなく、殺し屋として働くことを決めたのだそうだ。そして、今回のターゲットとなったのはウルフその人であった。依頼人の姿は分からないが、名前の欄には“ガイア(大地)”と書いてあったそうだ。
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「私は、変われそうな気がするんだ。いや、変わりたい。もうこれ以上、無意味に人を傷つけるのは……嫌」
「そうかい、んじゃあ俺と同じだな。俺はこいつを追ってるんだが、ユーマ知らないか?」
「知ってる。その人にこの依頼を紹介され、私は命令を受けたからその格好をしていたのよ。でも聞いたのは命令だけ、詳細までは知らないわ」
ユーマはうつむいた。命令されて咄嗟に行動に移ってしまった事を申し訳ないという気持ちからの行動に見て取れた。ウルフはその頭に手をおくと軽く撫でた。
「別にユーマを責めているわけじゃあない。それじゃあ、そいつがガイアではないのか?」
「いいえ、それは違う。“ベルモンド”と言っていたわ。」
ベルモンド、その言葉にウルフは反応する。どこかで聞いたことのある名前。だがそれ以上を思い出すことはできなかった。とりあえずその名前の事は置いておき塔へと再度歩みを進める。ユーマもそのあとについて行った。
しばらく歩いて行くとユーマは歩みを止める。ウルフはそれに気づき、ユーマの方へと歩み寄る。ユーマの頬には冷や汗が流れた。ユーマは胸の前で手を組んで動こうとしなかった。何かに脅えているような、そんな風に見えた。よく見ると震えている。今度はユーマの頬に涙が伝う。
「パパ、ママ、ごめんね。ごめんなさい」
ユーマはそれだけつぶやくとその場に倒れた。意識はまだあるが、息が荒かった。ウルフは突然の事に驚きユーマを抱えあげてすぐに来た道を引き返した。彼が向かおうとしているのは、そう。先ほどでてきた行きつけのバーだ。そこに行けばベッドと氷くらいはある。そう踏んでの行動だった。彼はもう他の行きかう人々の事など気にしてはいなかった。ただ『ユーマを助けたい』その一心でバーまで大通りを走って向かったのだった。
バーに入るなりバーテンダーを呼びつける。バーテンダーはすぐにベッドを用意してくれた。バーの中には丁度誰もおらず、バーテンダーの手が空いていたので対応はすぐにされた。
「氷を持ってきてくれ、オーバーヒートだろ」
ウルフはそう言ってバーテンダーを焦らせる。一方でバーテンダーは彼の言ったことがよく理解できていないようで、氷を持ってくるまでに時間がかかりウルフを苛々(いらいら)させていた。
「この子は誰なんだい? ウルフ」
バーテンダーがそう言ったのは、騒動を終えた後のことだった。あまり女とは縁がないウルフが女を連れ込んだ事に興味があるのか、バーテンダーは少し身を乗り出していた。ウルフはいつもの指定席、一番奥のカウンター席に腰をおろしてジンジャーエールを飲んでいた。
「ん、ちと色々あってな。同志みたいなもんだ」
「それじゃあ答えになっていない。どこの誰かと聞いているんだ」
「どこなのかは知らないが、ユーマという名前だ。親に捨てられたところを仮面の男に拾われ、嫌気がさした彼女は逃げ出し、ガイアという男から俺を殺せと命ぜられ、その後、包帯の男“ベルモンド”から変装して殺せと命ぜられたそうだ。少なくともガイアとベルモンドは繋がってるな」
バーテンダーは目を丸くしていた。話についていけてないらしい。ウルフは手をヒラヒラさせて話をそこで切った。
いかがだったでしょうか? 話がどんどんややこしくなっていますがついていけてますか?
ウルフは、よっぽどバーが好きなようです。バーに行きすぎてる感がありますが、次回からはしっかりと先へ進むのでしばらくバーは出てきません。ということで、今回の話について少し説明させていただきます。
・ガイアという男(?)はウルフを殺すよう依頼を出しました。
・ベルモンドという包帯の男は自分の姿に変装してウルフを殺すようユーマに命じました。
・ユーマはその依頼を承諾し包帯男に変装してウルフを襲いましたが、彼の温かみに触れて仲間になりました。
・ベルモンドは情報屋であり依頼を殺し屋に提供する人物で、殺し屋そのものではありません。注意してください。
と言ったところです。
まぁ、今わかりづらくとも後に分かってくると思います。
次回の予告を少々。
熱は下がったユーマだが、まだ歩ける様子ではない。ウルフはユーマの回復を待ってから塔に向かう予定だったが、ユーマはそれを拒否する。そのわけとは!?
次回、Strange Hit Man 呪われた塔 乞うご期待!!