第四話:炎の乱舞
第四話です。乱舞というとシドの新曲を思い出してしまうのですが、時期がたまたまかぶっただけです、曲の題名とサブタイトルとは全く関係ありません(笑)それでは、ごゆっくりお楽しみください。
ウルフは外に出ていた。太陽の光を浴びて軽く伸びをすると歩き出した。裏道は薄暗いためか、滅多に人は通らない。通るとしてもせいぜいヤバい仕事に就いている奴らだ。今は周りに誰一人いない。彼は欠伸をしながら道なりに歩いて行く。そしてある程度進んだあたりから大通りの方へと出て行った。ヨルゲスから奪った緑色の帽子で頭をすっぽりと隠す。こうすることで赤いウルフカットは見えずに済み、顔もある程度までは隠せる。服装もコートは腰に巻きバイクスーツでいるため、すれ違う人が分かるほどでもない。ただ変な人だなくらいにしか見えていないのだろう。最もそれで気づく人はいるかもしれないが、幸いそんな勘のいい人はいなかった。塔の方に向けてどんどん歩いて行く。少し広い噴水広場で人だかりができていた。悲鳴も聞こえる。ウルフは何事かと様子を見に行った。すると白髪のお爺さんが黒服の奴らに囲まれ怯えていた。黒服の奴らはお爺さんを殴る、蹴るなどの暴力をしている。警察は手を出せずおろおろしていた。ウルフは気にせずその場を立ち去ろうとする。そこを通り過ぎようとした時、白いものが見えた気がした。いや、正確には見えていたのだ。思わずそちらを向く。何人かいる黒服集団の中に一人だけ片目に包帯を巻いている奴がいた。ウルフは歩みを止めてそちらへ向かう。
「おい、なにしてんだ。ヤクザごっこか?」
ウルフは問いかける。
「あぁ? なんだぁ、てめぇは~?」
「ごっこ遊びならよそでやりな。邪魔だ」
ウルフの言葉にブチギレたスキンヘッド男が急に殴りかかってくる。ウルフはそれをヒラリとかわす。他の奴らも殴りかかってきた。だがウルフは一人の襟首を掴んで後方へと投げ捨てた。それを見た奴らは動きを止めて時を待ち、後ろの奴が最初に飛び出した。だがウルフはそれを上半身の動きだけでかわし、首を掴んで背負い投げるような形にその男を投げ飛ばした。正面にいた黒服黒帽の奴に命中し二人は伸びた。先ほどのスキンヘッド男が戻ってきて再度殴りかかろうとしたその時、片目を包帯で隠した男が手をたたく。
「あぁ、お前はもしかして変な殺し屋のウルフか?」
「だったら、なんだってんだ?」
二人の会話を聞いた人々は逃げ出す始末。警察も手を出そうか出すまいか戸惑っている。それほどこの二人の間にこの世界のものとは思えない異様な空気が漂っているのだ。警察は一時撤退した。残されたウルフと黒服の軍団はお互い身構えていた。だが、包帯の男は他の奴らが邪魔だったらしく手を激しく燃え盛らせて仲間を一掃した。
「仲間を殺るなんてひでぇ奴だな、お前」
「フッ、こいつらは所詮私の荷物にすぎない。“邪魔だから捨てた”それだけのことだ」
「ますますひでぇ野郎だってことが分かったぜ」
ウルフは腰に付けていた銃を構える。それよりも早く包帯の男の方は両手を燃え盛らせ、ウルフの腹にそれをえぐり込ませる。ウルフは吹っ飛ばされ屋台に激突する。包帯の男がそれを追うように走ってきた。ウルフは横に転がりバック転それをかわすが、包帯の男のが追いつくのが早くまた燃え盛る手を顔に命中させる。また吹っ飛ぶ。だが、今度は包帯の男が来る前に銃を乱射し足止めをする。包帯の男はその場で止まり、ウルフの方はゆっくりと立ち上がった。口と頭から血が流れ出てくる。それが目に入りそうになりウルフは片目を閉じた。
「やるじゃねぇか、こんな奴に出会ったのはお前が初めてだぜ」
「そりゃあ、どうも」
ウルフはふらふらしながら辛うじて立っている状態だった。包帯の男は両手をさらに燃え盛らせ、反時計回りに回転し始める。すると、どういうわけか炎でできた龍が姿を現す。その龍は空を舞いウルフを誘っているかのようだった。それも同じコースを舞うのではなくあちらこちらに炎をふりまき、乱れ舞っている状態だった。
「それは俺を挑発してんのか?」
ウルフは問いかけるが包帯の男は何も言わない。ウルフは小さく息を漏らすと銃口を龍に向けて連射した。龍のいたるところに弾は当たるがどれも貫通しているようだった。空を舞っていた龍がウルフに向かって大きな口を開け突進してくる。ウルフはそれを避けた、ように見えたが炎がウルフの体を包み込む。包帯の男はその炎の中を通ってウルフのもとへと飛んできた。
「同じ手はそう何度も通用しないもんだぜ?」
ウルフはそうつぶやくと素手で包帯の男の腕を掴んだ。そのまま包帯の男を壁に叩きつけ噴水の方へと投げ飛ばす。包帯の男は噴水の水の中に突っ込んだ。
「ぐわぁぁぁ!!」
「炎は水に弱い、基本だぜ?」
包帯の男は水の中から這い出てきてそのまま倒れている。ウルフはそいつの頭に銃口を向ける。すると、包帯の男は顔を上げたので丁度眉間のあたりに銃口が来る形になる。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「くッ……。ユーマだ」
ユーマと名乗った男はあきらめたようにそのままの姿勢になり、反撃してこなかった。だが、鋭く青い目をして睨んでいた。ふとその目の少し上、まつ毛が長い事に気づく。
「そうか、お前女だな」
「ッ……!?」
ユーマは目を大きく見開き、そして顔を少しだけ赤らめた。
「だったら、何だと言うんだ」
「おかしいと思っていたんだ、依頼にあった写真の人物と似てはいたが詳細にお前の能力に“炎をまとう”とは書かれていなかった」
ユーマはキッと睨みつけ小さくため息をついた。
「詳細にないかもしれないじゃないか」
「いや、依頼書には確実な情報がないと承諾はできねぇ。そういうもんなんだよ、この仕事はな」
ウルフは銃を腰におさめてくるりと方向転換した。ユーマは面喰っていた。殺されると思っていたからだ。
「私を、殺さないのか?」
「俺は殺しも好まない。さぁ、もうどっか行きな。二度とこんなマネはするなよ?」
ユーマはゆっくりと立ち上がり両手を炎で燃え盛らせる。そのままウルフの方へと走っていく。だがウルフはそれを避けなかった。先ほどよりもはるかにスピードが劣っている彼女、ユーマの攻撃なら避けられたはずだ。しかしこの男、ウルフは避けようともせず攻撃を受け入れた。
「な、なぜ避けない。お前なら避けられたはずだ」
「だから、戦いは好まないって言ったろ? 女なら尚更だ」
「そう、甘いのね……」
ウルフは振り返りユーマの両手を軽く握る。そして微笑んで見せた。ユーマは顔を少し赤らめ、そっぽを向いた。ユーマは手をゆっくりと下げてそのまま立ちつくした。ウルフは彼女の肩に手を置く。ユーマはその手に手を重ねる。ユーマの目には涙が浮かんでいた。
どうだったでしょうか? 炎の乱舞とか言っておきながらあまりそのシーンがありませんでしたね(汗)ユーマはウルフの請けた依頼の写真に写っていた包帯の男ではなかったんですね。なんかややこしいことになってしまい申し訳ありません。これで二人目の女性キャラが登場しました。
次回の予告を少々。
ウルフはひたすら塔へと向かって、歩いていく。その少し後ろをついて歩くユーマ。ウルフはユーマに話しかけると、ユーマは自分の事について語りだした。
次回 Strange Hit Man ユーマの過去 乞うご期待!!