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Strange Hit Man ! !  作者: 赤神裕
第1章:変な殺し屋
2/15

第二話:殺し屋の集い~前編~

Strange Hit Man 第二話です。今回は一話の前日のストーリーとその後のストーリーが混じっているので、前後編で分けたいと思います。それでは一話の前日を描いた前編をごゆっくりお楽しみください。

 

 男はバーを出た後、昨日のことについて考えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 この町には男の行きつけのバーがある。裏通りにありひっそりとしているので客は少ない。その割にはさまざまな種類のお酒が並んでいる。ここに人が集うのは夜、それも真夜中のことだ。その時間になると店の中ではたくさんの殺し屋たちが酒や遊び、時には依頼に応じたりして楽しんでいる。そのほとんどがこの男の仲間だ。

 

 だが、時にこの風景の見方を変えると彼一人だけ孤立しているようにも見える。彼は一番奥の席で誰とも会話せずジンジャーエールを見つめていた。バーテンダーは接客。他の仲間はポーカーをして盛り上がっているため、彼の様子に気づいているものはおそらくいないであろう。しばらくジンジャーエールを見つめていた彼がふと顔を上げるとバーテンダーを呼んだ。バーテンダーは話を中断し目の前までやってくる。


「なにか注文かい? ウルフ」

「あぁ、いつものを頼む」

 

 バーテンダーはしぶしぶ店の奥へ入っていきしばらくしてから手に赤いものを持って戻ってきた。それがウルフと呼ばれた男の前に置かれる。リンゴだった。そしてすりおろし機も目の前に置かれた。


「これこれ、こいつがないとさみしいな」

 

 ウルフはリンゴをすりおろしてそれをジンジャーエールの中に入れた。バーテンダーは不思議そうにそれを見る。一杯飲み終わったところでお代わりを注文し、バーテンダーはまた店の奥へと消える。その時だった。勢いよくドアが開けられ、バイクのヘルメットをかぶった黒いバイクスーツの女が中へと入ってくる。ただ一人、ウルフを除いて皆が一斉にその女の方を向きそのまま硬直した。バーテンダーが戻ってくる。吃驚した様子で持っていたリンゴとジンジャーエールを落とす。


「あ~あ、勿体ねぇな」

 

 そんなウルフの声も誰一人として聞いていなかった。バーテンダーは慌てて女に近寄る。


「ちょっと困るな~、そんな恰好で入ってきちゃあ」

「あら、ごめんなさいね。取るのをすっかり忘れちゃって」

 

 そう言って女はバイクヘルメットを取った。途端に金色の長い髪が揺れて、甘い香りが店内に漂った。鼻はすらっとしていて目は温かく包みこんでくれそうな、それでいて少しつり目なところも魅力的な美人の女性だった。皆はまだ硬直状態から戻っていない。女は気にせずスタスタとカウンターの方へ歩いてゆきウルフの隣の席へついた。そしてタバコをふかし始める。ウルフはそのタバコのにおいが嫌だったのか手で仰ぐ。そして苦笑いしながら女の方を向いた。


「そんな香りつけときながらタバコなんて吸われちゃあ鼻が曲がっちまうよ、ペティ」

 

 ペティと呼ばれた女はウルフの方に顔を向け、わざとタバコの煙を吹きかけた。ウルフは席を立ちあがり大きな咳を6・7回し、それからまた席に座り苦笑いをする。するとペティはにこやかに笑ってタバコを手でもみ消した。不思議なことにタバコは彼女の手から姿を消した。今度はウルフも含め皆がそれに驚く。そして拍手の連鎖が起こり中には立ちあがって興奮している奴もいた。ウルフは冷静にただただ驚いているだけだったが、後になり無意識に拍手をしていた。ペティはウルフの手を握り拍手を止めさせた。ウルフは我に返る。すると周りから今度はブーイングが飛んだ。


「おい、ウルフ。そのねーちゃんと知り合いかよ」

「抜駆けは許さねぇぞ」

 

 さまざまな声が上がりさらに盛り上がる。とうとう席を立ちあがりウルフに勝負を仕掛ける奴までいた。だがそいつはあっけなく吹き飛ばされて酒樽に突っ込み、酒の滝を浴びることとなった。そのあとはベロンベロンに酔ってしまい挙句の果てには眠りにおちた。


 ようやく落ち着いたところでペティが口を開く。


「あなたまだウルフって呼ばれてたのね。いい加減そのウルフカットやめたら?」


 そう、彼の本当の名はウルフではない。ここらではスキンヘッドやオールバックなど短髪系が多かったために、少し長いウルフカットにしていた彼はそう呼び名がついたのである。


「しょうがないだろ? それにやめたくはない」

「そぉ、なら一生ウルフでいなさい」

「ひでぇ」


 ウルフはそうつぶやく。ペティはセカンドバッグの中から一枚の紙と写真を取り出した。写真には、包帯のようなもので顔を覆った男が写っていた。と言っても実際には片目を覆っているだけで、顔の半分以上はむき出し状態だ。ペティはその紙と写真をウルフに渡す。ウルフはそれを受け取ると隅から隅まで目を通し机の上に放り投げた。ペティはそれを見ると顔をしかめタバコをふかすと、ウルフはまた手でその煙を払いながら咳をし、放り投げた紙を再度手にとってまた見始めた。ペティが横からその紙を覗き込むように頭を突き出してきた。ほのかな甘い香りが漂ってくる。


「ちょっと待て、この金額はなんだ? 桁を間違えてるだろ」


 賞金の欄には『5,000000$』と書いてあった。点の数が違うために500万ドルが5ドルになっていたのだ。ペティは目を丸くして、そのあと『あは』と声を漏らした。


「『あは』じゃねぇよ、これじゃあ5ドルじゃねぇか。間違えるにもほどがある『5,000,000$』だろ?」


 ウルフがぶつぶつ言っているとペティはウルフの左人差し指にしゃぶりついた。ウルフはそれを見ると急いで手を引っこめようとする。その時、コリッと音がしてウルフはビクついた。そのあと猛烈な痛みがウルフの左人差し指を襲う。


「痛ぇな!! 何しやがるんだ」


 ペティが口を指からはなすとドロっと血があふれ出た。その指を紙のsealいんかんと書かれたところに押しつける。ウルフの指紋が浮かび上がった。ペティはまた口に指を含むとセカンドバッグから絆創膏ばんそうこうを取り出し傷口に貼る。周りにいた仲間たちはそれをにらみつけるような目で見ていた。


「これで、契約完了ね。宜しく頼むわ」

「強引な女だ」


 ペティは満面の笑みでその場を出て行った。残されたウルフは深いため息をつく。今までの出来事とこれから起こることを想定しての深い沈んだため息だった。その後ウルフの思っていた通りケンカになったのは、言うまでもない。

前編終了です。いやぁ、ほんとはぱぱっと終わらせたかったんですが、長いもんで結局わけることにしました。少しでも読みやすくなっていればよいのですが……。


 説明をちょっと。

ジンジャーエールは生姜などの香りと味をつけてカラメルで着色した、ノンアルコールの炭酸飲料です。日本でも自販機などでよく目にしますが、本物は砂糖が入っていないため生姜独特の辛味があります。ウルフは辛すぎるのが嫌なのでリンゴで辛味を誤魔化しているようですが、本当のことを言うと生姜独特の辛味とリンゴの甘味が混ざってその味にハマったという設定になっています。辛いの苦手なら飲まなきゃいいのにね(笑)


 次回の予告を少々。

中で暴れたバーをでると彼は塔へ向かって歩き出す。だが、塔に向かっていたはずが彼が向かったのはまたしてもバー。彼は一体何を考えているのだろうか。


 次回 Strange Hit Man 殺し屋の集い~後編~ 乞うご期待!!

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