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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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3/3

遺体発見現場巡り

 奈良県G市のT橋上

 女性が心肺停止状態で倒れているのを

 近くに住む男性が発見。

 所持品より身元判明

 大阪市K区在住Aさん(34才:フリーター)

 事件、事故の両面で……


 翌日夜、ネットの地域ニュースに短い記事。


「これだよ」

 聖はマユに昨夜の話をする。


「まあ、大変だったのね。昨夜は随分楽しそうに騒いでいたのに」

 橋で一旦離れた後、予定通りここで宴会。

 薫も悠斗も<女の死体>の話はしなかった。

 

 死因や遺棄の理由がなんであれ、

 悠斗は危うく轢くところだった。

 

 薫も、たまたま生前の目撃者なった。 

 面倒に巻き込まれてしまった。

 

 話題にもしたくない。

 無かった事にしたいと、聖は思っていた。


「それより、こっち見てよ」

 黒い猪の画像を見せる。


「まあ、この子を剝製にするのね。とっても綺麗」

 マユは嫌な顔はしなかった。


「真っ黒だけど……地獄から来たんじゃ無いよね?」

 冗談っぽく聞いてみた。

 邪悪な存在では無いと、太鼓判を押して欲しい。

(猪を連れてきた日に、橋に死体。こころのどこかで関連を恐れていた)


「障害を持って産まれてきた可哀想な猪じゃない?……外見の異常だけでは無さそう」

「……うん」

 臓器の一部に著しい肥大を見た。


「撃たれなくても、長くは生きられなかっただろうな」

「可哀想だけど運命ね。美しい剝製の姿で、この世に長く留まるのも運命なのよ」

「そうだね。俺、きっとメチャ綺麗で格好良く出来ると思う」


 翌日から3日雨が続いた。

 聖は昼間、作業室に籠もりっぱなし。

 夜はマユとアニメを見た。

 

 シロも外へ行けないので工房に居た。

 薫から何も連絡は無い。


 橋の上の遺体について、どうなったか興味も無かった。

 ニュースをチェックもしなかった。

 

11月15日

 朝に雨が止み、午後から晴天。

 シロは、外に出たがった。


「今からトラのとこに行く?……じゃあ、リード付けるよ」

 午後2時。

 山田動物霊園の営業時間内。

 客が居るかも知れないから。 


 山道を徒歩で霊園事務所へ。

 いつもなら気配を感じて吠えるトラなのに、なぜか静か。

 トラが居ない?

 なんで?


 妙だと足を速める。

 霊園事務所前の駐車場に、

 鈴森の、軽トラックが停まっている。

 鈴森は悠斗と、大きな柵の側。

 そして柵の中には、ちゃんとトラが居る。


 トラだけじゃない、誰かがトラの側にしゃがんでいる。

 モスグリーンの作業服を着た……白髪おかっぱ頭の老人。

 まるっこい身体にまるっこい大きな頭。


 まるでフクロウみたい、と思った。


 「セイさん、トラちゃんの予防接種と健康診断、ですねん」

 鈴森が笑顔を向ける。


 トラは、お座りして口の中を診て貰っている。

 嬉しそうな目をして、ゆっくり尻尾も動いている。

 まるで仔犬のよう。


(この爺さん、すごいや。名医だな)

 聖は近づくほどに獣医のオーラを感じる。

 いや、臭いというべきか。

 類い希な体臭。

 肉食動物と、草食動物と、インコ臭が混ざったような……複雑怪奇な臭いだ。

 シロは鼻をひくひくさせている。

 未知の臭いを必死で分析してるのか。賢い顔して。


「セイさん、トラが暴れないんですよ。自分が押さえ付けなきゃ、注射なんか無理と思ってたのに」

 悠斗は嬉しそう。


 トラを遠い動物病院に連れて行くのは大仕事。

 鈴森が懇意の獣医に往診を頼んだらしい。


「いい子やったなあ。また春に、来るからな」

 言いながら獣医は柵から出た。

 同時に事務所内から鈴子が出てきた。


 今日はパープルのパンツシーツ。大きなトパーズのネックレス。

 髪は、群青色。

 鈴子登場の瞬間、獣医の肩がピックと上がった。


 派手さに驚いたか。

 鈴子にしては地味だけど。


「センセイ、有り難うございました。鈴森さん、ええセンセイ紹介してくれはって、おおきに」

 鈴子は、札入りらしき封筒を鈴森に手渡した。


「社長、ありがとうございます。ほな、これで失礼します。センセ、お疲れさんでした」

 鈴森は獣医のために助手席のドアを開ける。

 獣医は軽トラックの方へ。


 途中、シロの頭を撫でる。


(やばい)聖は身構える。

 見た目は、全身真っ白で艶のある黒豆のような鼻と目。

 推定年齢3歳前後の純血紀州犬。

 しかし実際は年齢不詳。

 ……生身の犬じゃないかも。


 普通の人が感じない<おかしさ>を

 名医は見過ごさないのでは。


「ほほーっ。これは、これは。あんさん(貴方)には医者は用なし、ですな」

 獣医はシロと目を合わせて呟いた。

 

 聖は(健康そうで医者いらず)と月並みな解釈でいいかと、

 言葉の裏まで考えない、ことにした。


「にいちゃん、橋の上のアレ、殺人事件やったな」

 鈴森のトラックを見送りながら鈴子が言った。

「あ、そうなんですか……」

 聖は何と言えば良いかと考える。


「あのネエちゃんな、『遺体発見現場巡り』して、SNSに投稿してたんやて。おもろい(面白い)子やってんな」

「なんか、それ……悪趣味ですね」

「フォロワーは、まあまあ、おったらしいで。フアンもアンチも」

 鈴子の口調は軽い。 


「セイさん、これです。『不気味な看板』って。失礼ですよね」

 悠斗が、

 携帯電話で画像を見せる。

 森を背に、シロヒョウ柄のジャケットの女。

 手を添えているのは<神流剝製工房>の看板だった。

 県道沿い、楠本酒店の反対側。

 楠本酒店から800メートル東。


 看板は、錆びて蔦が絡みついている。


「ユウトさん、これ、あの日に撮ったんですか」

 酒屋でトイレを借りた後か?


「午後2時30分ですよ」

「そんなに早い時間なんだ」

 

「『今夜、生首現場に向かいます』ってありますよ」

「な、生首現場?…なんだ、それ」


「続きがあります『お近くのか誰かさん、車で来てくれたら嬉しいです』って」 

「じゃあ、その呼びかけに応じた奴に、殺られちゃったの?」


「せんでええ(しなくていい)ことして……死ぬ運命や無かったのに」

 鈴子が画像を覗き込んで呟いた。

 <死の影>は、無いのだ。

 午後2時30分には、死ぬ運命に無かったのだ。

 

「にいちゃん、ワイドショーでも、『犯人は投稿を見て被害者と接触』言うてた」

 橋が撮影予定場所の<生首現場>と推測。

 遺体を運んだのは偽装工作だ。

 朝まで発見されまいと考えた。

 発見が遅れるほど死亡推定時間に幅が出来る。

 別の場所で殺されたと分からない。

 車が轢いてしまえば死因解明にも影響を及ぼす。


 橋の先に山田動物霊園しかないのはナビで分かる。

 霊園の開業時間は携帯ですぐに調べられる。

 が、常駐スタッフの存在は分からなかった。


「被害者の携帯電話調べれば、犯人に辿り着けそうですね。ユウトさん、嫌な思いしたけど、事件解決に貢献していますよ」

 去り際に労いの言葉をかけた。


「そんな、たまたまですから」

 悠斗は小さな溜息のあと

「可哀想ですよね……帽子を喉に突っ込まれたなんて」

 憂いを含んだ眼差しで言った。 

 残虐な殺害方法を聞いても、聖は感情を動かされなかった。

 

 鈴子も悠斗も、

 刑事が聴取に来たとは言わなかった。

 怪しい人物の目撃情報など、既に不要な段階か。


 過去の陰惨な事件との関連はあった。

 被害者が『遺体発見現場巡り』していたのだ。


 鈴子は<おもろい子>と言っていた。

 聖ほどに(今度の事件に)不快感はなさそうだった。


 聖は一件落着、と受け取った。


 だがマユは違った。





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